【完結】愛を刻んで

さか様

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社会人編

冬の光

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窓の外は、新年の凛とした空気。
薄く透けたカーテン越しに、淡い陽の光が部屋に差し込んだ。

キッチンの奥から「やばっ」と小さな声がした。
蓮がトースターを覗き込んで、慌てて餅を引き上げている。

「あーー焦げる焦げる!」

「ふふっ、やけどしないでくださいね?!」

優真が笑いながら、丼に出汁を注ぐ。
湯気がゆるく立ちのぼり、鰹と昆布の香りが部屋に広がった。

「今年はこたつ布団洗わなくてよかったから、手伝おうと思ったのに…餅、むずくない?!」

蓮はなんの気なしに言う。
こたつ布団、その言葉に優真は顔を赤らめた。

「そんなことも…ありましたね」

「優真いつも料理、ありがとな」

蓮が微笑みながら箸を持つ。

テーブルの上には、二人分の雑煮。
テレビからは新年特有のお笑い番組が流れていた。

「……いえいえ!おれにできることなら全然。
でも、去年もいろいろありましたね」

いただきます、とふたりで手を合わせて雑煮に箸をつける。

「うん。怒涛だったけど、いい年だったねぇ…ん、餅が香ばしいな…」

「ふふ、アクセントですね!今年もいい年にしたいです!」

「ん、優真となら絶対大丈夫、」

その言葉に、優真の手が一瞬止まる。
湯気の向こう、蓮の笑顔がふわりと揺れていた。

「……はい。今年も、よろしくお願いします!」

「ははっ、こちらこそ」

蓮が笑うと、窓の外の光が二人の影を柔らかく重ねた。

――

昼過ぎ、吐く息が白い。
お揃いのマフラーを巻いて並んで歩く二人の手は、隠れることなくつながっている。

「人、多いなぁ…さーむっ、」

蓮は身をすくめながらあたりを見回す。

「正月ですもん、蓮さん一応サングラスかけてくださいね?変装です!」

優真は恋人を心配しながらも、なんだか誇らしそうだった。

神社の鳥居をくぐると、線香と甘酒の匂いが混じって鼻をくすぐった。

境内の向こう、人波の中で手を振っている影が見える。

「蓮さーん!優真せんぱーいっ!」

玲央だった。
マフラーに顔を埋めながら、にこにこ元気に走ってくる。

「あけましておめでとうございますっ!」

「おめでとう。……それ、甘酒?」

蓮はマフラーを少しずらし湯気を吸い込んだ。
冷たい空気と温かい甘酒の匂いにふっと微笑む。

「あ、飲みます?これまだ俺飲んでないんで!
温まりますよ!」

玲央が差し出す紙コップを受け取って、蓮が小さく笑う。

「ありがとな」

「新年早々推しに甘酒を渡す俺…見てる?大学4年の頃の俺……」

玲央は空いた手を合わせて拝むポーズをしながら喜びを噛み締めた。

「玲央がまたなんか言ってんぞ…優真も飲む?」

蓮が一口飲んだ甘酒を渡しながら呆れたように笑った。

「わ、ありがとうございます!…ん、おいしーです!
玲央くんはいつも通りですよ?蓮さん」

「そうです、俺はいつもどおり!」

優真の受け流しに笑い声が上がって、境内の冬空に溶けていった。

三人で列に並び、賽銭箱の前に立つ。
優真は目を閉じ、手を合わせた。

(どうか、みんなが笑って過ごせますように。どこにいても、変わらずに)

隣で蓮がそっと息を吐く。

(……優真と、どこにいてもちゃんと生きていけますように)

玲央は薄目を開け、隣を見て願い事が吹っ飛んだ。

(…えっ、尊い……じゃなかった、ふたりがどこにいても幸せでありますように!あと俺にも春が来ますように……蓮さんみたいな…かっこよくて…)

ぎゅっと、目を閉じて念じてる玲央に、蓮は置いてくぞと肩を叩いたのだった。

――



蓮がエーテルのドアを開けると、いつもの和やかな空気が出迎えた。

優真の後ろに立つ玲央は少し背筋が伸びている。

「おっそーい!もう始まってるぞ!あ、例の後輩がいる!!」

アキが大声で手を振る。
ハルはカウンターの中でエプロン姿、ユキはカウンターでグラスを揺らしながら笑っていた。

奥ではユキと陸とマスターが静かに杯を交わしている。

「正月限定メニューってことでおせち作ってみたの!」

ハルがウィンクしてカウンターに重箱を並べていく。

「バーにおせちかよ」

蓮がくつくつ笑いながら黒豆をつまみ食いした。

「あっ、ちょっと蓮箸使いなさいよ!」

ハルが箸を差し出すと、優真が代わりに受け取った。

「ハルさんあけましておめでとうございます!」

「ふふ、あけおめ、優真!」

玲央が目を輝かせて「うわ、本物だ…!」と呟く。

アキが隣で「モデルが集まるバーやべぇだろ?」と笑った。

「やば……蓮さんの周りって、ほんとすごい人ばっかりっすね」

アキを指差し、見たことあるし、と玲央がうわ言のように呟いた。

「後輩めっちゃ指さすじゃん!!!」

アキの笑い声にみんなもつられて笑い、そこにグラスの氷の音が混ざる。

マスターが「今年もよろしく!」と声を上げると、全員がグラスを掲げた。

カチン、と澄んだ音。

「……今年も、一緒にがんばろーね!」

蓮が優真の方を見て言う。

「はい。今年もよろしくお願いします」

その瞬間、玲央が隣で小声で呟いた。

「ガチ夫婦……」

――

アキとユキが玲央を挟んでひそひそと話す。
いつの間にか距離を縮め、仲良くなっていた。

「なぁ、玲央はコイビトいねぇの?」

「俺は蓮さんと優真先輩で今は満腹なんで!」

誇らしい顔で玲央が胸を張るとユキがくすくすと笑った。

「あのふたり、見てるとなんかこっちまで癒やされるよね~」

それを見たハルが笑いながら言った。

「みんなにとっていい年になるわね、きっと」

ユキが頷き、陸はグラスを持ったまま「……だな」と静かに微笑んだ。

――

外に出ると、夜風が頬を撫でた。
街灯が路面に反射して、冷たく光っている。

「……春になったら、ですよね。その頃にはもう、ここにはいないんですね、」

優真の声は穏やかで、ポケットに入れた手が少しだけ震えていた。

「ん。でも向こうでも変わらないよ」

蓮は優真のポケットの中に手を入れ、優真の手を握る。

「ふふ…蓮さんがそう言うなら、おれ、安心です!」

街灯の下で、ふたりの指輪がかすかに光る。
冬の風が吹き抜けても、その光だけは静かに揺らめき続けていた。

そしてその先には、まだ見ぬ春の光が待っている。
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