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番外編
余波(本編:準備(3)のあと)
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夜のオフィスは静かで、ブラインド越しに街の灯りが滲んでいる。
リアムは椅子に腰掛け、頬杖をついてスマートフォンを手にしていた。
画面に映る自分の顔を一度だけ確認して、すぐ伏せる。
(……よし、)
意味もなく深呼吸をひとつ。
それから、通話ボタンを押した。
数秒のコール音が、やけに長く感じられる。
『もしもし?』
落ち着いた声、少し疲れが滲んでそうだが嬉しそうな声。
直哉だった。
「Hi,ナオヤ!」
『……ふふ、テンション高いですね』
「あのさ~、聞いてほしいことがあるんだよ」
スマホを持ったまま、天井を見つめる。
照明の縁が、ぼんやりと視界に入る。
「ユーマ、結婚するんだ」
少しの沈黙が流れる。
『……ユーマ?』
「うん。ほら、俺がナオヤと出会ったときに言ってた、」
『ああ……』
直哉は、少し間を置いてから、わざとらしく言った。
『俺の弟ね?』
「イエス!」
リアムは思わず上体を起こす。
「キュートでね?!いや、ナオヤも俺は可愛いと思ってるんだけどさ?!」
『必死ですね、』
電話越しでも分かる、微かな笑い。
リアムは、はたと動きを止め少し照れくさそうに目を逸らした。
「俺、嘘は言ってないけど?」
言いながら、ペン立てに入っていたペンを意味もなく取る。
話が逸れてしまいそうだったので戻すことにした。
「相手は、モデルの蓮だよ」
『……ああ…え?!須磨蓮とユーマ、くん?!』
今度は、すぐに理解した声だった。
『なんかイギリスに行ったっていうところまではネットとかでもかいてましたよね…!』
「そうそう、今はコイビトのユーマがマネージャーでね?」
『モデルも、マネージャー、同性で結婚…すごいですね…!あ。もちろんいい意味です、』
「うん」
リアムは短く答える。
「お似合いなんだ、」
直哉は、すぐには返事をしなかった。
その沈黙が、不思議と心地いい。
『……へぇ、詳しくは知らないのに嬉しいです、』
「ははっ、…だろ?」
リアムは天井を見つめたまま、言葉を続ける。
「人が人生を選ぶ瞬間ってさ、空気が変わるんだなって思った」
言葉にして、初めて自分でも納得する。
『……リアムさん』
「ん?」
『少し羨ましそうな顔です』
一瞬、言葉に詰まる。
「……俺の顔?まさか…!」
でも、否定はできなかった。
「まぁ、芽が出る前って感じ?
俺のは、まだ、ほら…」
『芽、出てると思いますけど』
直哉は少し顔を赤らめながら答える。
それを画面越しに見て、リアムは小さく笑った。
(やばっ…目の前にいたらこのままキスして帰したくないな、)
誤魔化すように少しだけ間を置いて続けた。
「じゃあさ」
声のトーンをわざと軽くする。
「今度会ったら、確かめさせてよ」
電話の向こうで、直哉が息を吐く。
『はい、約束です』
「ん。俺、結構しつこいよ?」
『知ってます、』
少し他愛もない話を続けて、通話が切れた。
リアムはしばらく、暗くなった画面を見つめてから、スマホをデスクに伏せた。
(……ほんと、人生って動くな)
他人事じゃなく、そう思った。
――
一方、カフェ"エーテル"。
エーテルの中休み。
シャッターは半分下りていて、外の音が柔らかく遮られている。
店内は先程の通話の余韻が残っていた。
「ちょっとほんと…」
腕を組んだハルが言う。
「おめでたいじゃない?!?!」
「ね~!いよいよって感じ、」
ユキは頷きながら微笑み、アキは椅子を揺らしながら言った。
「だーーー!あの蓮が?!?!結婚!!!
10年前の俺に今すぐ伝えたい!誰も信じねぇわ!蓮も多分『は?』とか言いそう!やば!」
「ふふっ、それは否定しないわ」
ハルは頷く。
陸は、少し離れた位置で黙っていた。
カウンターに置いた手を見つめてから、ぽつりと口を開く。
「……優真も、幸せそうだった、」
玲央は机に突っ伏したまま、少し照れたように言った。
「なんか……俺まで幸せで…」
「わ、後輩にまで波及してる!!」
アキが笑う。からかう訳ではなく、自分にも思い当たるかのように、顎に手を置く。
「でもさ~、俺とユキは、まぁほら、スポンサー絡みで一生結婚はねぇけど…
こういう話聞くと、自分の生活、ちゃんと整えないとなって思うよな!?」
ユキが静かに頷いた。
「うん。
年齢的にも、きっと…ちゃんと考える時期なんだろうね」
ハルは、その会話を聞きながら、陸を見る。
「…だそうよ?、」
陸は一瞬視線を逸らし、それから頷いた。
「…問題ない、考えてる」
短い言葉。
でも、逃げていない声。
ハルは、ふっと笑った。
「やっぱりそういうところ、好きよ」
店の外を誰かが通り過ぎ、夕暮れの気配がガラス越しに滲む。
そんな中、それぞれが少しだけ未来を意識していた。
「いやまぁ…」
アキが手を叩く。
「式、楽しみだな!!」
「ふふ、だよね」
ユキが笑い、玲央も頷く。
「ちゃんと、見届けたいっす」
陸は、静かに言った。
「……おめでとう、だな」
ハルは、その言葉を聞いて、満足そうに微笑んだ。
それぞれの場所で、それぞれの速度で。
同じ知らせが、ちゃんと心に届いていた。
リアムは椅子に腰掛け、頬杖をついてスマートフォンを手にしていた。
画面に映る自分の顔を一度だけ確認して、すぐ伏せる。
(……よし、)
意味もなく深呼吸をひとつ。
それから、通話ボタンを押した。
数秒のコール音が、やけに長く感じられる。
『もしもし?』
落ち着いた声、少し疲れが滲んでそうだが嬉しそうな声。
直哉だった。
「Hi,ナオヤ!」
『……ふふ、テンション高いですね』
「あのさ~、聞いてほしいことがあるんだよ」
スマホを持ったまま、天井を見つめる。
照明の縁が、ぼんやりと視界に入る。
「ユーマ、結婚するんだ」
少しの沈黙が流れる。
『……ユーマ?』
「うん。ほら、俺がナオヤと出会ったときに言ってた、」
『ああ……』
直哉は、少し間を置いてから、わざとらしく言った。
『俺の弟ね?』
「イエス!」
リアムは思わず上体を起こす。
「キュートでね?!いや、ナオヤも俺は可愛いと思ってるんだけどさ?!」
『必死ですね、』
電話越しでも分かる、微かな笑い。
リアムは、はたと動きを止め少し照れくさそうに目を逸らした。
「俺、嘘は言ってないけど?」
言いながら、ペン立てに入っていたペンを意味もなく取る。
話が逸れてしまいそうだったので戻すことにした。
「相手は、モデルの蓮だよ」
『……ああ…え?!須磨蓮とユーマ、くん?!』
今度は、すぐに理解した声だった。
『なんかイギリスに行ったっていうところまではネットとかでもかいてましたよね…!』
「そうそう、今はコイビトのユーマがマネージャーでね?」
『モデルも、マネージャー、同性で結婚…すごいですね…!あ。もちろんいい意味です、』
「うん」
リアムは短く答える。
「お似合いなんだ、」
直哉は、すぐには返事をしなかった。
その沈黙が、不思議と心地いい。
『……へぇ、詳しくは知らないのに嬉しいです、』
「ははっ、…だろ?」
リアムは天井を見つめたまま、言葉を続ける。
「人が人生を選ぶ瞬間ってさ、空気が変わるんだなって思った」
言葉にして、初めて自分でも納得する。
『……リアムさん』
「ん?」
『少し羨ましそうな顔です』
一瞬、言葉に詰まる。
「……俺の顔?まさか…!」
でも、否定はできなかった。
「まぁ、芽が出る前って感じ?
俺のは、まだ、ほら…」
『芽、出てると思いますけど』
直哉は少し顔を赤らめながら答える。
それを画面越しに見て、リアムは小さく笑った。
(やばっ…目の前にいたらこのままキスして帰したくないな、)
誤魔化すように少しだけ間を置いて続けた。
「じゃあさ」
声のトーンをわざと軽くする。
「今度会ったら、確かめさせてよ」
電話の向こうで、直哉が息を吐く。
『はい、約束です』
「ん。俺、結構しつこいよ?」
『知ってます、』
少し他愛もない話を続けて、通話が切れた。
リアムはしばらく、暗くなった画面を見つめてから、スマホをデスクに伏せた。
(……ほんと、人生って動くな)
他人事じゃなく、そう思った。
――
一方、カフェ"エーテル"。
エーテルの中休み。
シャッターは半分下りていて、外の音が柔らかく遮られている。
店内は先程の通話の余韻が残っていた。
「ちょっとほんと…」
腕を組んだハルが言う。
「おめでたいじゃない?!?!」
「ね~!いよいよって感じ、」
ユキは頷きながら微笑み、アキは椅子を揺らしながら言った。
「だーーー!あの蓮が?!?!結婚!!!
10年前の俺に今すぐ伝えたい!誰も信じねぇわ!蓮も多分『は?』とか言いそう!やば!」
「ふふっ、それは否定しないわ」
ハルは頷く。
陸は、少し離れた位置で黙っていた。
カウンターに置いた手を見つめてから、ぽつりと口を開く。
「……優真も、幸せそうだった、」
玲央は机に突っ伏したまま、少し照れたように言った。
「なんか……俺まで幸せで…」
「わ、後輩にまで波及してる!!」
アキが笑う。からかう訳ではなく、自分にも思い当たるかのように、顎に手を置く。
「でもさ~、俺とユキは、まぁほら、スポンサー絡みで一生結婚はねぇけど…
こういう話聞くと、自分の生活、ちゃんと整えないとなって思うよな!?」
ユキが静かに頷いた。
「うん。
年齢的にも、きっと…ちゃんと考える時期なんだろうね」
ハルは、その会話を聞きながら、陸を見る。
「…だそうよ?、」
陸は一瞬視線を逸らし、それから頷いた。
「…問題ない、考えてる」
短い言葉。
でも、逃げていない声。
ハルは、ふっと笑った。
「やっぱりそういうところ、好きよ」
店の外を誰かが通り過ぎ、夕暮れの気配がガラス越しに滲む。
そんな中、それぞれが少しだけ未来を意識していた。
「いやまぁ…」
アキが手を叩く。
「式、楽しみだな!!」
「ふふ、だよね」
ユキが笑い、玲央も頷く。
「ちゃんと、見届けたいっす」
陸は、静かに言った。
「……おめでとう、だな」
ハルは、その言葉を聞いて、満足そうに微笑んだ。
それぞれの場所で、それぞれの速度で。
同じ知らせが、ちゃんと心に届いていた。
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