【完結】愛を刻んで

さか様

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番外編

練習(本編:愛を刻んでのあと)

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数年後――

カフェ"エーテル"は、相変わらずだった。

中休み、店内は少しだけ気が抜けた空気に包まれている。

カウンターの向こうではハルがグラスを磨いていて、
その前の席には、いつもの顔ぶれが揃っていた。

陸は静かにコーヒーを飲み、アキは椅子を斜めに使って足をぶらぶらさせ、
ユキはスマホを伏せて、店内をゆっくり見渡している。
玲央は端の席で、メニュー表を意味もなく眺めていた。

「……でさ」

アキが言う。

「蓮とゆーまくん、いつ帰ってくるんだっけ?」

「さあ?」

ハルは肩をすくめる。

「“そのうち”って言われただけよ。あの人、予告する気ないもの」

陸が短く言った。

「……いつものことだ」

その言葉が終わった瞬間だった。

カラン、と控えめなベルの音。

ドアが開いて、冷たい外気が一瞬だけ流れ込む。

「おじゃまー」

聞き慣れすぎた声。

全員の視線が、同時に入口へ向いた。

「……は?」

アキが固まる。

「え?」

玲央が立ち上がりかける。

「ちょ、待って、」

ユキが瞬きをした。

そこに立っていたのは、蓮と優真だった。
コートを脱ぎながら、何でもない顔で。

「……やっぱ連絡した方がよかったんじゃないですか?」

優真が、小声で蓮に言う。

「だって、どうせいるだろ。ただいま~お土産あんぞ~」

蓮は悪びれもせず返す。

次の瞬間。

「うわーーーっ!!」
「マジで来た!!」
「聞いてない!!」

一気に空気が弾けた。

アキが真っ先に立ち上がり、蓮の肩を叩く。

「相変わらずだなお前ら!!急に現れるのやめろ!」

「今言ったな、」

蓮は悪びれずに笑う。

「そういう問題じゃねぇ!だー、蓮のくせに!」

玲央は目を輝かせて言った。

「蓮さん!優真先輩!会いたかったっす…」

「さっき着いたところ、なんですけど…」

優真は少し申し訳なさそうに笑う。

「……ほんとに、連絡しようとは思ったんですよ?!」

「思っただけ、ね」

ハルがくすっと笑う。

「でも、元気そうで何よりだわ」

陸は立ち上がらず、でも視線だけで二人を迎えた。

「……おかえりなさい」

「ん、陸ただいま」

蓮が短く返す。

席が自然と詰められて、いつの間にか全員が同じテーブルを囲んでいた。

「で?」

アキが身を乗り出す。

「相変わらずラブラブか?」

「うざっ」

蓮は即答する。

「でも否定はしないんだ?」

ユキが穏やかに言う。

優真は、ちょっと困った顔で笑った。

「……まあ、」

その瞬間、アキがにやっとする。

「ほら出た」

「出たわね」

ハルも同調する。

優真は、そこでふと姿勢を正した。

(……今だ)

内心で気合を入れて、蓮の方を見る。

「……れ、」

一瞬、言葉が詰まる。

「……れん、」

空気が止まった。

「……」

蓮が、ゆっくり振り向く。

「ん?」

優真の喉が鳴る。

「……れ、蓮」

ようやく言えた。勢いが大切なのは分かっている。
ただ二人きりだとどうにも難しかった。

「……あら?」

ハルが目を細める。

「今、聞こえた?」

アキが吹き出す。

「え?!今のガチじゃん!」

玲央は目を丸くした。

「呼び捨て……!」

優真は耳まで赤くなっている。

「ち、違……練習中で……」

「練習、ねぇ?」

蓮は、わざとゆっくり首を傾げる。

「ふーん、じゃあここで沢山練習しなきゃな?」

余裕たっぷりの声。

「え」

優真は言葉を失う。

(…言うまで終わらないやつ、)

「……れ、」

声が震える。

「……れん」

小さく、でも確かに。
蓮の口元が、わずかに上がった。

「はい、合格」

「おい!!」

アキが机を叩く。

「何その空気?!公共の場!!イチャイチャずるい!」

「うるせぇ」

蓮はそう言いながら優真の耳を塞いだ。

――

とりとめのない話が続き、何気なく話題が移る。

「そういえばさ、そっちはどうなの?」

ユキが言う。

「……陸とハルさんですか?」

優真が聞き返す。
ユキは、陸とハルを見る。

「うん、そうそう」

一瞬の沈黙。
陸が、少しだけ視線を落としてから言った。

「……もう、出した。パートナーシップ制度」

「お、」

蓮の顔がほころび、玲央が声を裏返す。

「え、ちょ、いつの間にっすか?!」

ハルはカウンターの向こうで肩をすくめた。

「言うタイミング逃しただけよ」

「逃しすぎだろ!!」

アキが即ツッコむ。

優真は、驚いたままふたりを見る。

「……わぁ、おめでとうございます!!」

少し遅れて、でも心から。
付き合ってると言われた数年前の日を思い出した。

ハルは柔らかく笑った。

「ありがとう」

陸は短く頷く。

「……ありがとう」

選び続けてきた人たちが、それぞれの形で、同じ場所に立っている。

「いや~……」

アキが深く息を吐く。

「人生、動くなぁ。え、パーティーやる?!このままバーに代わったあと!」

「いいね、」

ユキが頷く。
玲央は、少し考えてから言った。

「……俺も、ちゃんと考えよ。あ、パーティーやりたいっす!」

蓮は、そんな光景を眺めながら、優真の肩に自然と手を置いた。

「めでてぇな~ほんとに」

「はい!」

優真は、少しだけ考えてから言う。

「帰ってきて、よかったです!」

蓮は笑った。

カフェ《エーテル》に、いつものざわめきが戻る。

笑い声が重なり、カップが鳴る。

何も特別なことは起きていない。
それでも、この時間は確かに続いている。

愛は、派手なものじゃない。
選び続けることで、静かに刻まれていく。

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