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しばらくして、ガルドとアルベルトが目を覚ました。
先に目を開けたのはガルドだった。
寝起き特有の鈍さが一切なく、視線が一瞬で焦点を結び、状況を把握する。
俺、ベッド、室内。
必要な情報だけを拾って、静かに体を起こす。
その動きに気づいたのか、数拍遅れてアルベルトが目を覚ました。
こちらは一瞬だけ瞬きをしてから、穏やかに息を吐く。
二人とも、妙に落ち着いている。
……俺だけが、落ち着いていない。
心臓は平常運転を装っているが、頭の中は「なぜこうなった」の反省会が続いている。
しかも、反省しても何も戻らないタイプのやつ。
ほどなくして、「話し合いの場」が設けられた。
丸テーブル。
椅子が四つ。
リーネ。
ガルド。
アルベルト。
そして、俺。
自然に配置されたようでいて、
逃げ道のない座り方。
この配置で、俺の意思はどこに置くんだろうな。
沈黙を切ったのは、ガルドだった。
「昴を、専属にしたい」
声は低く、端的で、揺れがない。
思いつきじゃないと分かる言い方。
アルベルトも、同じ結論を別の言葉で重ねる。
「同行を前提に、欲を管理できる関係が望ましい」
……専属。
昨夜の酒席で、誰かが笑いながら言っていた記憶を引っ張り出す。
勇者に同行して、夜ごと、慰みものになる仕事。
大金と引き換えに、大抵は壊れる。
背中が、ひゅっと冷える。
笑い話だと思っていた単語が、今、目の前に置かれた現実になる感覚。
リーネは、即座に首を振った。
「却下」
速い。
間髪入れず。
「店に金が入らなくなるから。
それに、あなた達は前例が悪すぎる」
……理由が、経営。
俺の人生、経営判断の中に収納されてる。
「専属にしたら回収できない。
それに――」
リーネは、俺を見る。
「研修期間、終わってない」
……あ。
「新人を、いきなり連れ出すなんて論外」
ガルドが、わずかに眉をひそめる。
「守る」
短い一言。でも、重い。
アルベルトが、静かに言い添える。
「適材適所です」
リーネは、深く息を吐いた。
「SS級はすべての欲、力が桁外れなのに、異世界から来たまだ右も左もわからない存在を渡すのはなぁ…」
その言葉で、場が少し静かになる。
――ここで。
俺、突入。
「あ、待ってください」
声が出た瞬間、全員の視線が俺に集まる。
この瞬間、前の職場だったら喉が詰まって何も言えなかった。
でも、今はしっかりと声が出た。
「……俺、全然、そこらへん聞いてないです」
間。
「えっと、有給って、俺ももらえますか?」
間。
「というか、シフトはどうなってるんですか?」
間。
「今日こそ、休みですか?」
自分でも驚くくらい、言葉が止まらない。
止めようと思っても、止まらない。
「あっ、給料は?!日払い? 月給?残業代、出ます?」
完全に、前世の恨みが噴き出している。
「前の職場、こういうの聞いたら空気悪くなったんですけど」
肩をすくめる。
「ここ、ズケズケ言えるなぁ……不思議です、」
沈黙。
ガルドとアルベルトは、会話の半分も理解できていない顔をしている。
有給?
シフト?
給料?
……勇者にはない、未知の概念。
でも。
ガルドの俺を見る目が、少し変わった。気がする。
「……前の世界では、そんなに厳しかったのか」
アルベルトも、眉をわずかに寄せる。
「連続稼働?休息も取らずに?…合理的とは言えません」
……そこ、ちゃんと引っかかるんだ。
リーネが、咳払いをする。
「そこは後で。とにかく、専属はなし。指名頻度も、調整する」
ガルドが短く頷く。
「……分かった」
アルベルトも、少し考えてから。
「連続指名記録は、更新しない方向で」
……連続指名記録。
俺、なんの記録保持者?
「昴は、今日は休み」
リーネが言う。
「研修は続行。専属の話は、本人の意思が固まってから」
……本人の意思。
やっと、ちゃんとここに置かれた。
俺は、深く息を吐く。
「…ありがとうございます」
自然に言えた。
感謝が、ちゃんと感謝として口から出た。
ガルドとアルベルトは、まだよく分からない顔のまま。
でも、少しだけ微笑んだ。
たぶん、俺が前の世界でどれだけ大変そうだったか、少しは伝わったんだと思う。
「……無理は、させない」
ガルドが言う。
「必要以上の指名は、控えます」
アルベルトも続ける。
「回復曲線を見ながら」
……曲線。
俺は、苦笑した。
「そのへん、ちゃんと相談しながらでお願いします」
言えた。ちゃんと。
前の職場では、一度も言えなかった言葉。
会議は、いったん解散。
廊下に出て、俺は大きく伸びをした。
専属。
同行。
異世界。
怖い。
正直、めちゃくちゃ怖い。
でも。
休みと給料の話ができる場所なら、悪くない。
……連続指名記録、ほんとに止まるといいな。
そう思いながら、今日の休みをどう使うか考え始めている俺。
やっぱりまだまだ社畜だな、と少しだけ笑った。
先に目を開けたのはガルドだった。
寝起き特有の鈍さが一切なく、視線が一瞬で焦点を結び、状況を把握する。
俺、ベッド、室内。
必要な情報だけを拾って、静かに体を起こす。
その動きに気づいたのか、数拍遅れてアルベルトが目を覚ました。
こちらは一瞬だけ瞬きをしてから、穏やかに息を吐く。
二人とも、妙に落ち着いている。
……俺だけが、落ち着いていない。
心臓は平常運転を装っているが、頭の中は「なぜこうなった」の反省会が続いている。
しかも、反省しても何も戻らないタイプのやつ。
ほどなくして、「話し合いの場」が設けられた。
丸テーブル。
椅子が四つ。
リーネ。
ガルド。
アルベルト。
そして、俺。
自然に配置されたようでいて、
逃げ道のない座り方。
この配置で、俺の意思はどこに置くんだろうな。
沈黙を切ったのは、ガルドだった。
「昴を、専属にしたい」
声は低く、端的で、揺れがない。
思いつきじゃないと分かる言い方。
アルベルトも、同じ結論を別の言葉で重ねる。
「同行を前提に、欲を管理できる関係が望ましい」
……専属。
昨夜の酒席で、誰かが笑いながら言っていた記憶を引っ張り出す。
勇者に同行して、夜ごと、慰みものになる仕事。
大金と引き換えに、大抵は壊れる。
背中が、ひゅっと冷える。
笑い話だと思っていた単語が、今、目の前に置かれた現実になる感覚。
リーネは、即座に首を振った。
「却下」
速い。
間髪入れず。
「店に金が入らなくなるから。
それに、あなた達は前例が悪すぎる」
……理由が、経営。
俺の人生、経営判断の中に収納されてる。
「専属にしたら回収できない。
それに――」
リーネは、俺を見る。
「研修期間、終わってない」
……あ。
「新人を、いきなり連れ出すなんて論外」
ガルドが、わずかに眉をひそめる。
「守る」
短い一言。でも、重い。
アルベルトが、静かに言い添える。
「適材適所です」
リーネは、深く息を吐いた。
「SS級はすべての欲、力が桁外れなのに、異世界から来たまだ右も左もわからない存在を渡すのはなぁ…」
その言葉で、場が少し静かになる。
――ここで。
俺、突入。
「あ、待ってください」
声が出た瞬間、全員の視線が俺に集まる。
この瞬間、前の職場だったら喉が詰まって何も言えなかった。
でも、今はしっかりと声が出た。
「……俺、全然、そこらへん聞いてないです」
間。
「えっと、有給って、俺ももらえますか?」
間。
「というか、シフトはどうなってるんですか?」
間。
「今日こそ、休みですか?」
自分でも驚くくらい、言葉が止まらない。
止めようと思っても、止まらない。
「あっ、給料は?!日払い? 月給?残業代、出ます?」
完全に、前世の恨みが噴き出している。
「前の職場、こういうの聞いたら空気悪くなったんですけど」
肩をすくめる。
「ここ、ズケズケ言えるなぁ……不思議です、」
沈黙。
ガルドとアルベルトは、会話の半分も理解できていない顔をしている。
有給?
シフト?
給料?
……勇者にはない、未知の概念。
でも。
ガルドの俺を見る目が、少し変わった。気がする。
「……前の世界では、そんなに厳しかったのか」
アルベルトも、眉をわずかに寄せる。
「連続稼働?休息も取らずに?…合理的とは言えません」
……そこ、ちゃんと引っかかるんだ。
リーネが、咳払いをする。
「そこは後で。とにかく、専属はなし。指名頻度も、調整する」
ガルドが短く頷く。
「……分かった」
アルベルトも、少し考えてから。
「連続指名記録は、更新しない方向で」
……連続指名記録。
俺、なんの記録保持者?
「昴は、今日は休み」
リーネが言う。
「研修は続行。専属の話は、本人の意思が固まってから」
……本人の意思。
やっと、ちゃんとここに置かれた。
俺は、深く息を吐く。
「…ありがとうございます」
自然に言えた。
感謝が、ちゃんと感謝として口から出た。
ガルドとアルベルトは、まだよく分からない顔のまま。
でも、少しだけ微笑んだ。
たぶん、俺が前の世界でどれだけ大変そうだったか、少しは伝わったんだと思う。
「……無理は、させない」
ガルドが言う。
「必要以上の指名は、控えます」
アルベルトも続ける。
「回復曲線を見ながら」
……曲線。
俺は、苦笑した。
「そのへん、ちゃんと相談しながらでお願いします」
言えた。ちゃんと。
前の職場では、一度も言えなかった言葉。
会議は、いったん解散。
廊下に出て、俺は大きく伸びをした。
専属。
同行。
異世界。
怖い。
正直、めちゃくちゃ怖い。
でも。
休みと給料の話ができる場所なら、悪くない。
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やっぱりまだまだ社畜だな、と少しだけ笑った。
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