新卒社畜、SS級ランカー御用達の娼館で肉体労働します。〜毎日俺を買う勇者たちが絶倫すぎる〜

さか様

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翌朝。

目を開けた瞬間、世界が一拍遅れてやってきた。
光、音、重力。
どれもが、やけに丸く、やけに柔らかい。

天井の輪郭がぼやけて、
焦点が合うまでに少し時間がかかる。

……あれ。

体が、重い。
重いのに、嫌な感じじゃない。
筋肉痛とも違う、芯の奥が温い感じ。

そして、左右から聞こえる規則正しい寝息と、布団がわずかに引っ張られている感覚。

……嫌な予感。

そっと、首だけ動かす。

でかい。
そしてとにかく、狭い。

視界の左に、ガルド。
右に、アルベルト。

どっちも俺のベッドに収まっていて、というか、収まっていなくて、いや、はみ出しているのに。
なぜか安らぎ切った顔で眠っている。

……なんで?

思考が、つるっと滑る。
状況を整理しようとすると、昨夜の記憶の断片がシャボン玉みたいに浮かんでは割れる。

笑い声。
廊下。
引きずられた感覚。
その先。

長かった。
とにかく、長かった。
それだけは、確かだ。

目を閉じると、勝手に再生が始まる。
編集点が雑で順番も前後しているのに、感覚だけは、やけに鮮明だった。

低い声と近い距離。
重なった呼吸。

最初は、ちゃんと話していた気がする。
順番とか、無理しないとか、そんな“建前”を。

……でも、どこで溶けた?

気づいたら、距離がなくて、言葉より先に体温があって。

重さと包まれる感じ。
息が合わさる瞬間の、あの一拍。

ぱちん。

視界が、上と下で入れ替わる。
天井を見ていたはずが、いつの間にか、壁の模様を数えている。

「大丈夫か」
「無理はしない」

そんな声が、交互に来る。
やさしいのに、逃げ道がない。

……ずるい。

ぱちん。

次は、感覚だけ。

熱がゆっくり、でも確実に身体の中に詰められる感じ。

頭が追いつく前に、体が“知ってる”反応を返している。…俺、こんなに素直だったっけ?

ぱちん。

甘い余韻。
じんわり残る、あの感覚。

触れられたところが、しばらく“主張”をやめないやつ。

これ、昨日の夜からずっと続いてる気がする。

……もしかして、寝てる間も?

ぱちん。

誰かの笑い声。
低くて、喉の奥で鳴るやつ。

「順応が早いな、回復も早い」

……その評価、やめてほしい。

ぱちん。

喘ぐ自分の声。

え?
俺、こんな声、出してた?

後から思い出すと、恥ずかしさがすごい。穴があったら入りたい…マンホールは勘弁してほしいけど。

ぱちん。

最後は、やけに静か。

体が重くて、でも、不思議と安心していて。

視界の端に、でかい影が二つ。

気づいたら、守られてるみたいな配置で、そのまま眠りに落ちていた。

……あ。それで、今か。
そりゃ、体がとろとろなわけだ。

現実に戻る。

とりあえず、起こさないようにミリ単位で体をずらす。

布団の端。
そこに腰を下ろした瞬間、ふくらはぎが、ぴくっと笑った。

……はい。

生きてる。俺、ちゃんと、生きてる。

床に足をつけて、ゆっくり深呼吸。
肺に空気が入って、ちゃんと出ていく。

布団の中では、でかい二人が同時に寝返りを打った。
ベッドが、ぎしっと低く鳴る。

……耐荷重は?

ほんとによく耐えてるな、このベッド。
なんかでかい犬二匹に見えてきた。

妙な感心をしながら、そっと扉に手を伸ばす。

廊下に出るために、
できるだけ音を立てないように、ゆっくり、ゆっくり。

その瞬間。

通りかかったスタッフが、ぴたりと動きを止めた。

視線が、俺 → 背後 → 俺と、忙しく往復する。

……あ。見えたな。
そこに寝てる大型犬、もといSS級ランカーふたりが。

「……」

数秒の沈黙。
空気が、きしっと固まる。

「……あの、あちら様は…寝て、ます……?」

声が、明らかに震えている。

「……はい」

自分の声が、やけに落ち着いていて、
その温度差が可笑しくて、危うく笑いそうになる。

別のスタッフが、恐る恐る近づいてくる。

「……マ、昴くん、生きて、ます?」

「……たぶん」

たぶん、って何だよ俺。
しかも今またマンホールって言いかけなかったか?

次の瞬間から、空気が一気に変わった。

「わ、お、おはようございます!」
「こちら、どうぞ!」
「無理に立たなくていいです!」

気づけば、上着を肩に掛けられ、
椅子に座らされ、湯気の立つ飲み物が手に渡っていた。

……手厚い。
厚遇される社畜、なんだそれ。

周囲では、ひそひそ声が途切れない。

「……本当だったんだ」
「あの噂」
「三日、四日?連続で、しかも……」

誰かが、ちらっと部屋の中を覗く。

「……よく、生きてるよ」
「信じられない」

俺、なにした人?

ふらふら立ち上がって、人波を抜けてリーネを探す。

いた。
スタッフに紛れてた。なにやってんのこの人…。

「……リーネ」

呼びかけると、一瞬だけ、目が合う。
そして、すっと、視線を逸らされた。

……あ。確信犯だろもう。

「ちょっと…説明、聞いてないんですけど」

声が、自然と大きくなる。
周囲の耳が、さりげなく集まる。

リーネは、ため息ひとつ。

「何が知りたい?」

「全部です」

即答。

視線で、俺の部屋の方向を示す。

「……あれとか、この扱いとか」

リーネは、ほんの少しだけ歯切れが悪くなった。

「……新入りは知らないもんな。
ガルドもアルベルトも昔、ここのスタッフを壊してる」

……は?

「快楽依存」
「セックス依存症」
「スライム依存症」

淡々と。
まるで業務報告。いや、最後の何?スライムって依存性あったっけ?

「体から出れなくなったスライムが体内で暴れる感覚から抜けられなくなって、現場復帰できなくなった人が多数」

“戻れなくなった”。

その言葉が、一拍遅れて胸に落ちる。
いや、しれった怖いこと言ってるよ。

「……じゃあ、なんで俺は…」

ここに、立ってる?と最後まで続けられない。

リーネは、一瞬だけ視線を泳がせてから、観念したように口を開いた。

「初日にね、呑み込みがよかったし、あの、棒の…」

……そこ?

「社畜だったらしいし?
何日か相手しても、壊れなさそうだなって」

軽い。判断が軽い。

「体力、ありそうだったし。で、実際、タフだし」

軽い。

「……尻も、壊れてなさそうだったし」

そこ、見るとこ?なんか尻広げられて念入りにみられてたよな、確かに見てたよ。

俺は、両手で顔を覆った。

「……そんな…そんな軽いノリで」

声が、半分笑いになる。

「俺は、処女を…スライムにも捧げてしまったんですか?童貞なのに?」

言い切った瞬間、自分でも可笑しくなって、肩が小さく揺れた。
童貞で処女喪失、いや女じゃないわ。違うけどなにほんと…ステータス異常になりそう。

周囲のスタッフが、一斉に目を逸らす。

「あー……」
「リーネにそういうこと言う人、初めて見た」

……やめて。

リーネは、ほんの一瞬だけ、申し訳なさそうな顔をした。

「結果的に、壊れてない、よね?」

……それが否定できないのが、一番悔しい。
はい。なんならもう気持ちいいとか思っててすみません。

背後で、またベッドが軋む。
寝息が二つ重なる。

スタッフが、揃って息を呑む。

「……信じられない」
「本当に、伝説級のテクニックでは?」

やめて、伝説にしないで。

俺は、手渡された飲み物を飲み干して、深く息を吐いた。

拝啓、俺。

ちゃんと、生きてます。
ベッドには、でかい男が二人います。

扱いは、なぜか英雄です。

女の子には、なってません。
……たぶん。今のところは。

異世界って難易度、高すぎませんか。

とひとりで脳内手紙をしたためながら。

とろとろの頭で、このでかい犬たちをどう起こそうか頭を悩ませる俺だった。
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