新卒社畜、SS級ランカー御用達の娼館で肉体労働します。〜毎日俺を買う勇者たちが絶倫すぎる〜

さか様

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体感で、たぶん一ヶ月くらい経った。

正確な日付は…この世界に来てから、暦をきちんと確認する習慣がなくなってしまったのもある。

ただ、感覚としてはそれくらい。

休みは七日あった。
丸一日休みの日もあれば、午前中だけ休んで午後から出る日もある。

……前の世界の俺からしたら、かなりの好待遇だ。

朝に目覚ましをかけなくていい日があり、昼まで寝ていい日がある。
「今日は無理です」と言っても、誰も怒鳴らない。

社畜基準で考えると、なかなか良い時間の使い方ができていると思う。

指名も、ぽつぽつ入るようになった。

SS級ばかりじゃない。
A級やB級のランカー、一般の冒険者。

えっちをする日もあれば、しない日もある。

話すだけ。
相談に乗るだけ。
疲れた体を預けられて、膝枕をするだけ。

指名したものの疲れから何も起こらず、ただ眠って帰る人もいた。

人の数だけ、求めるものが違う。

(……プレイ、って言っていいのかこれ?)

そんなことを考えながら、相槌を打ったり、頭を撫でたり、黙って話を聞いたりしている自分がいる。

前の世界では、「話を聞く」なんて業務に評価はなかった。

ここでは、ちゃんと仕事になるのが不思議だ。

そして、ついに。
初めての給料日が来た。

「はい、昴。ボーナス含む」

リーネから、ずしっと重い袋を渡される。

価値も相場も、正直よく分からない。
ボーナスが初任給に含まれる…、とは?

わかったこと。
袋を持った瞬間、あ、ちゃんと働いたんだな、俺ということだけ。

ふと、前の世界の初任給を思い出す。

残業も頑張って、誰よりも働いて、でも。
期待していたより、ずっと少なくて。
計算していた額より、さらに引かれていて。

口座を見ながら、なんだか悲しくなった記憶。

……あれは、きつかったな。

袋を開ける。
中には、金貨がざくざく。
…表現、ざくざくで合ってる?

「わ……」

思わず声が出た。
思考が、いきなり庶民的になる。

(…ドラゴンの尻尾の串、何本買える?)

この前、市場で冷凍の尻尾を見た。
まとめ買いできそうだった。

(…と、その前に…冷凍庫、必要だな)

生活の方向に考えが向く自分に、少し笑う。
それから、ふと思う。

(うーん、ほかは…)

初任給。

じゃあ――
ガルドとアルベルトに、なんか買ってやる、か…?

別に理由はない。
深い意味もない。

毎日顔を合わせて、勝手に騒がれて、勝手に心配されて。

……まあ、世話になっているのは事実だ。

問題は、何を買うか。
袋を抱えたまま、少し考える。

この世界に落ちて、流されて、働かされて。

でも。

ちゃんと給料をもらって、生活して、悩んでる。

社畜だった頃より、今のほうが、自分の人生を生きてるかな。

……皮肉な話だ。

袋の口を、きゅっと閉じる。

「さて、何から買おうかな」

小さく呟く。

そう考えながら歩き出す自分が、少しだけ、前より軽くなっている気がした。

一ヶ月、悪くない。

――

(初任給、だしなぁ)

もととも、前の世界でも、「自分のために全部使おう」なんて発想はなかった。

家賃と光熱費と、よく分からない引き落としで気づいたら消えてたし。

そして、「誰かに何か買う」が、真っ先に浮かぶ。

ガルドとアルベルト。

……あの二人、何が欲しいんだろ。

剣?
いや、装備は自前だし。
酒?
ガルドはともかく、アルベルトは呑むのか?

スライム用の器具?
却下。なんで俺が…。

考えれば考えるほど、分からない。

(……直接、聞くか)

シンプルな結論。

俺は袋を抱え直して、廊下を歩き出した。

ちょうど向こうから、ガルドとアルベルトが並んで来る。

……あ、いる。仕事は?

「ちょっといいですか」

声をかけると、二人とも同時に止まる。

「どうした」
「何かありました?」

並んで首を傾げるの、やめてほしい。
俺は、袋を軽く持ち上げた。

「給料、出たんですよ」

二人の視線が、袋に集中する。

ガルドが、ゆっくり頷いた。

「そうか、お疲れ様」

アルベルトは、なぜか自分のことみたいに嬉しそうだ。

「おめでとうございます!」

……ありがとう。

俺は少しだけ間を置いてから言った。

「で、初任給で、お二人に何か買おうと思って。
何、欲しいです?」

沈黙。
ガルドが、珍しく言葉に詰まる。

「……俺に、か?」

「はい」

アルベルトが、ぱちぱち瞬きをしてから言った。

「……え、僕も?」

「まとめて、です」

二人同時に、視線を逸らした。

ガルドは腕を組み、アルベルトは顎に手を当てる。

「……欲しいもの、か」

「急に言われると……」

本気で悩み始めている。

(……かわいいな、この人たち)

口には出さないけど。

「んー、」

歩きながら、ガルドは珍しく黙っていた。
腕を組んで、考え込む横顔。

アルベルトも、いつもの軽さがない。
顎に手を当てて、真剣に天井を見ている。

(あれ?)

俺は少しだけ不思議に思う。
この二人、普段は欲望に忠実なのに。

剣だとか、酒だとか、もっと分かりやすい答えが出てくると思っていた。

「……正直に言うと」

アルベルトが、ぽつりと口を開いた。

「欲しいものって、思いつかないんですよね」

「だな、」

ガルドも頷く。

アルベルトは苦笑する。

「今まで、誰かに“何か買ってもらう”って経験が、あまりなくて」

あぁ、なるほど。

「俺もだ。必要なものは自分で揃えてきた」

討伐で稼いで、装備を整えて、次の戦いに備える。
合間に娼館に来てもこんなふうにはならなかったんだろうし。

「……でも」

ガルドは、ちらりと俺を見る。

「昴が、初任給で何かを買うと言ってくれる。
それは……」

言葉を探している。

「軽く扱っていい話じゃない、気がする」

アルベルトも、ゆっくり頷いた。

「そうですね。ちゃんと考えないと、失礼な気がします」

……真面目か。

俺は、思わず笑いそうになるのを堪えた。

(この二人、ほんとに不器用だな)

「全然。すぐに決めなくてもいいんですよ、」

俺は軽く言う。

「いや」

ガルドは、即座に否定した。

「決める」

即答だった。

アルベルトも、少し遅れて。

「……強いて言うなら、昴のためになるもの、がいいです」

その言葉に、足が一瞬止まりそうになる。

「俺の?」

「はい」

アルベルトは真っ直ぐ言う。

「昴は、ここに来てから、ずっと与える側じゃないですか」

相談を聞いて、体を預けられて、欲も感情も受け止めて。

「だから…せめて、形のあるもので」

ガルドが、低く続ける。

「僕達が持ってることで、昴の役に立つもの……安心できるものを選べたら、」

俺は、少しだけ考える。

……俺が二人に持っていてもらって安心できるもの…お守り…?この世界にお守りってあるかな。

「いい案だな、俺もそれで考える」

ガルドもうーん、と頭を悩ませながら。
なんだか二人とも、似た表情をしている。

SS級ランカー。
怪物みたいに強くて、
自分本位で、欲に忠実で。

でも。

「……大事に、したほうがいいですから、」

アルベルトが、独り言みたいに言った。

「昴のこと」

ガルドは、短く頷いた。

「同意する」

俺は、なんて返せばいいか分からなくて、
とりあえず肩をすくめた。

「……ありがとうございます、重いですけど」

「重いですか?」

「ちょっと」

でも、嫌じゃない。

(なんだよ。初任給で、こんな空気になって…)

歩きながら、俺は袋の重さを、もう一度確かめる。

金貨の音が、軽く鳴った。
何を買うかは、まだ分からない。

でも。

「考えといてくださいね」

そう言うと、二人とも、珍しく同時に頷いた。

たぶんこの人たち、すごく悩む。

その悩み方が、少しだけ優しい方向に向いているのを感じて、俺は、胸の奥が少し温かくなるのを黙ってやり過ごした。

……悪くない。

ほんとに、悪くない。
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