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何回目かの休日だった。
本当に、本当に。
今日は何もしないと決めていた日だ。
ただ街を歩いて、腹が減ったら屋台に寄って、日が暮れたら帰る。
それだけ。
……それだけ、のはずだった。
夕方の通りは人が多くて、声も匂いもごちゃ混ぜだ。
焼き肉の煙、甘い果実酒、鍋を叩く音。
俺は屋台でドラゴンの尻尾の串を買って、串を片手にぼんやりしていた。
脂がのってて、ちょっと固くて、うまい。
これ好きなんだよな。
ここに来て俺の好物、ドラゴンしか勝たん。本物は見たことないが。
その横で。
「明日は俺が指名だ」
ガルドが、何でもないことみたいに言った。
――ぴたり。
アルベルトの動きが止まる。
「……は?」
一拍遅れて、眉が上がる。
「それ、こないだも聞きましたけど。
二日連続でしたよね?」
声が低い。
完全に詰めに来てる。
…そう、当たり前のようにくっついてきているでかい男二名。
「討伐帰りだった」
さっきの言い合いの続き。
ガルドは平然としている。
「理由になってません、僕だって遠征帰りでした」
アルベルトが即座に返す。
……あ、始まったな。
ま、いつものことか。俺は黙って尻尾を齧る。
あ、脂が垂れた。これがまたうまい。
しかし言い合いは止む気配もなく。
「…ちょっと待ってください」
口をもぐもぐさせながら、間に入る。
「今日は休みですよ?
明日の指名の話、今する必要あります?」
二人とも、まったく聞いてない。
「昴は俺の調子を把握している」
「え?把握してるのは僕のほうですが?」
一歩。
また一歩。
距離が近い。
俺は串を持った手を上げた。
「もー、いい年して、やめてくださいよ」
……その瞬間。
二人が、同時に俺を見る。
「……いい年?」
ガルドが首を傾げた。
「というと?」
アルベルトも、明らかに想定外という顔で瞬きをする。
俺は串を持ったまま言った。
「いや、え?年上では?」
少しの間。
「俺は二十だ」
……?
「……は?」
完全に素で声が出た。
「二十?その見た目で?」
「僕は二十一です」
アルベルトがさらっと続ける。
俺は一歩下がる。
「……待ってください、二人とも、年下?」
二人とも、同時に首を傾げた。
さっきから本気で不思議そうなのが、逆に腹立つ。
「逆に訊きますけど、俺、何歳に見えてました?」
俺は言った。
あ、なんかこれ何歳に見えます?っておばさんみたいだな。
アルベルトが、じっと俺を見る。
上から下まで、査定するように。
「……十代後半、百歩譲ったとしても社会人には見えないです」
少し考えてから。
十代後半…。
いや、百歩譲るなよ。
「理由もありますよ」
アルベルトは淡々と続ける。
「表情があどけない」
「人の話に入れない」
「ノーが言えない」
やめろ。
「あと、色々と小さいです」
にこっと笑って。
「それ悪口ですよね?」
ガルドが、短く補足する。
「素直すぎるところもだ」
刺さる。
「待ってください。俺、二十二ですから」
言い切る。キマったか…?
事実だし、年上の威厳を見せてやる。
「……え?」
今度は二人が同時に固まった。
「二十二?それは僕達の知ってる、二十二ですか?」
アルベルトが声を上げる。
「…そうですけど?!」
おいおい、他にどんな二十二があるんだよ?
沈黙。
ガルドが、少しだけ眉を寄せた。
「……俺より、年上…だったのか」
「そうなりますね」
アルベルトは、まだ信じきれない顔で言う。
「こんなにすぐ引き受けて、空気読んでばっかで…?」
「それ全部、社会で揉まれた結果です」
言い返すと、アルベルトが口を閉じた。
いや、言い返したはいいけど別に年齢関係ない気もするけど。
ガルドは心配そうな顔で、言う。
「……それは、楽ではなかっただろうな」
いや、どういう感情?
でも、なんかそう言われると…前の世界の俺が報われる気がする。
「…なにやってんだ、ここで」
背後から、聞き慣れた声。
振り向くと、リーネがいた。
腕を組んで、呆れた顔。
「休日に屋台で揉め事とは、元気だな」
アルベルトが即座に口を開く。
「お、三十路が来ましたね」
この世界でも三十路って言うんだ…。
――次の瞬間。
ごん。
乾いた音。
アルベルトの頭に、リーネの拳が落ちた。
「っ!?…なにするんですか?!」
「年齢いじり禁止。もう一回言うなら、もう一発」
にこやかな顔で、拳を握り直す。
アルベルトは即沈黙した。
こんなやり取りしてるところ、初めて見た。
リーネ強すぎる。
ガルドは視線を逸らした。
こちらは学習している。
「で?なにこれ」
リーネが俺を見る。
「指名の話で揉めて…からの、年齢発表会です。
三人の中で、俺が一番下に見られてて…」
リーネは一瞬考えてから、ため息をついた。
「あー……まぁ、納得」
なにがだ、失礼だな。
リーネは気にする様子もなく、そのままのトーンで付け足す。
「ちなみに、エステバンは四十六」
「でしょうね」
反射で返した。いやあれは、どう見ても四十六だ。
ガルドがぽつりと言う。
「……昴、年上だったんだな」
「時空歪んでますか?」
アルベルトも、まだ信じきれてない顔。
それは言いすぎだろ。
「……なんか、距離感、間違ってたり…?」
それ、今さら?
俺はドラゴンの尻尾を最後まで食べて、串を捨てた。
「とりあえず、喧嘩しないでくださいね?
今日は休みです」
三人、素直に頷く。
いや、リーネは頷かなくていいだろ。
休日だから、えっちはしない。
でも、年齢という爆弾は、きれいに落とした気がする。
「……年齢って」
俺はぼそっと言う。
「ほんと、あてにならないですね」
誰も否定しなかった。
その沈黙が、妙におかしくて。
俺は、少しだけ笑った。
本当に、本当に。
今日は何もしないと決めていた日だ。
ただ街を歩いて、腹が減ったら屋台に寄って、日が暮れたら帰る。
それだけ。
……それだけ、のはずだった。
夕方の通りは人が多くて、声も匂いもごちゃ混ぜだ。
焼き肉の煙、甘い果実酒、鍋を叩く音。
俺は屋台でドラゴンの尻尾の串を買って、串を片手にぼんやりしていた。
脂がのってて、ちょっと固くて、うまい。
これ好きなんだよな。
ここに来て俺の好物、ドラゴンしか勝たん。本物は見たことないが。
その横で。
「明日は俺が指名だ」
ガルドが、何でもないことみたいに言った。
――ぴたり。
アルベルトの動きが止まる。
「……は?」
一拍遅れて、眉が上がる。
「それ、こないだも聞きましたけど。
二日連続でしたよね?」
声が低い。
完全に詰めに来てる。
…そう、当たり前のようにくっついてきているでかい男二名。
「討伐帰りだった」
さっきの言い合いの続き。
ガルドは平然としている。
「理由になってません、僕だって遠征帰りでした」
アルベルトが即座に返す。
……あ、始まったな。
ま、いつものことか。俺は黙って尻尾を齧る。
あ、脂が垂れた。これがまたうまい。
しかし言い合いは止む気配もなく。
「…ちょっと待ってください」
口をもぐもぐさせながら、間に入る。
「今日は休みですよ?
明日の指名の話、今する必要あります?」
二人とも、まったく聞いてない。
「昴は俺の調子を把握している」
「え?把握してるのは僕のほうですが?」
一歩。
また一歩。
距離が近い。
俺は串を持った手を上げた。
「もー、いい年して、やめてくださいよ」
……その瞬間。
二人が、同時に俺を見る。
「……いい年?」
ガルドが首を傾げた。
「というと?」
アルベルトも、明らかに想定外という顔で瞬きをする。
俺は串を持ったまま言った。
「いや、え?年上では?」
少しの間。
「俺は二十だ」
……?
「……は?」
完全に素で声が出た。
「二十?その見た目で?」
「僕は二十一です」
アルベルトがさらっと続ける。
俺は一歩下がる。
「……待ってください、二人とも、年下?」
二人とも、同時に首を傾げた。
さっきから本気で不思議そうなのが、逆に腹立つ。
「逆に訊きますけど、俺、何歳に見えてました?」
俺は言った。
あ、なんかこれ何歳に見えます?っておばさんみたいだな。
アルベルトが、じっと俺を見る。
上から下まで、査定するように。
「……十代後半、百歩譲ったとしても社会人には見えないです」
少し考えてから。
十代後半…。
いや、百歩譲るなよ。
「理由もありますよ」
アルベルトは淡々と続ける。
「表情があどけない」
「人の話に入れない」
「ノーが言えない」
やめろ。
「あと、色々と小さいです」
にこっと笑って。
「それ悪口ですよね?」
ガルドが、短く補足する。
「素直すぎるところもだ」
刺さる。
「待ってください。俺、二十二ですから」
言い切る。キマったか…?
事実だし、年上の威厳を見せてやる。
「……え?」
今度は二人が同時に固まった。
「二十二?それは僕達の知ってる、二十二ですか?」
アルベルトが声を上げる。
「…そうですけど?!」
おいおい、他にどんな二十二があるんだよ?
沈黙。
ガルドが、少しだけ眉を寄せた。
「……俺より、年上…だったのか」
「そうなりますね」
アルベルトは、まだ信じきれない顔で言う。
「こんなにすぐ引き受けて、空気読んでばっかで…?」
「それ全部、社会で揉まれた結果です」
言い返すと、アルベルトが口を閉じた。
いや、言い返したはいいけど別に年齢関係ない気もするけど。
ガルドは心配そうな顔で、言う。
「……それは、楽ではなかっただろうな」
いや、どういう感情?
でも、なんかそう言われると…前の世界の俺が報われる気がする。
「…なにやってんだ、ここで」
背後から、聞き慣れた声。
振り向くと、リーネがいた。
腕を組んで、呆れた顔。
「休日に屋台で揉め事とは、元気だな」
アルベルトが即座に口を開く。
「お、三十路が来ましたね」
この世界でも三十路って言うんだ…。
――次の瞬間。
ごん。
乾いた音。
アルベルトの頭に、リーネの拳が落ちた。
「っ!?…なにするんですか?!」
「年齢いじり禁止。もう一回言うなら、もう一発」
にこやかな顔で、拳を握り直す。
アルベルトは即沈黙した。
こんなやり取りしてるところ、初めて見た。
リーネ強すぎる。
ガルドは視線を逸らした。
こちらは学習している。
「で?なにこれ」
リーネが俺を見る。
「指名の話で揉めて…からの、年齢発表会です。
三人の中で、俺が一番下に見られてて…」
リーネは一瞬考えてから、ため息をついた。
「あー……まぁ、納得」
なにがだ、失礼だな。
リーネは気にする様子もなく、そのままのトーンで付け足す。
「ちなみに、エステバンは四十六」
「でしょうね」
反射で返した。いやあれは、どう見ても四十六だ。
ガルドがぽつりと言う。
「……昴、年上だったんだな」
「時空歪んでますか?」
アルベルトも、まだ信じきれてない顔。
それは言いすぎだろ。
「……なんか、距離感、間違ってたり…?」
それ、今さら?
俺はドラゴンの尻尾を最後まで食べて、串を捨てた。
「とりあえず、喧嘩しないでくださいね?
今日は休みです」
三人、素直に頷く。
いや、リーネは頷かなくていいだろ。
休日だから、えっちはしない。
でも、年齢という爆弾は、きれいに落とした気がする。
「……年齢って」
俺はぼそっと言う。
「ほんと、あてにならないですね」
誰も否定しなかった。
その沈黙が、妙におかしくて。
俺は、少しだけ笑った。
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