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責任
黎明 (本編:愛を刻んで「黎明」の陸ハルSide)
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ネオンに照らされた歩道を並んで歩きながら、ハルはちらりと隣の陸を見上げた。
「ねぇ……ほんとに、今日言うつもり?」
少し笑っているけれど、その奥の声色にはわずかに緊張が混じっている。
「あぁ、言う」
陸の答えは短く、迷いがなかった。
「……そう、」
(アキとユキにはこの間愚痴っちゃったけど、色々片付けてからにしておくべきだったかしら…?)
「ふふ、やっぱり真面目ね」
小さく吐息をもらしながら笑って、黒髪を耳にかけた。
「ハルは、俺の大切な人だから」
その言葉にハルの歩調が一瞬止まり、胸の奥がくすぐったく熱くなる。
けれど。
カランコロン
「やっほー!陸、ハル!会いたかったーーー!」
「みんな待ってるよー」
バー"エーテル"のドアを開けると店の中から双子の明るい声が響いてきて、その瞬間に誤魔化すように歩き出した。
「ハル、久しぶりだな!そっちは…初めて見る顔だ」
バーのマスターがグラスを並べながら人懐こく笑う。
「マスター久しぶりね。元気だったかしら?こちらは陸よ、これから常連になるかもね」
「どうも、篠原 陸です。」
ハルはふふ、と笑うと椅子を引いて陸に座るように促した。
「お、来たな」
隣に腰掛ける蓮が不敵に笑う。先日の飲み会の翌朝と同じ顔。
「陸、ハルさん!こんばんは!」
蓮の隣では優真が先に頼んでいたスナックを摘んでいた。
「ねーマスターカシオレにコーラ入れてくんない?!」
「おまっ…アキ、酒を冒涜すんな!作んねーよそんなの!」
「ほらアキ、椅子座ろう?コーラなら僕のあげるからさ~」
反対隣ではアキがマスターに絡み、ユキがいつものごとく窘める。
陸は少し緊張しながらも、席についた。
――
低いライトが照らすテーブルの上で、ハルの指がグラスを弄び、氷がカラカラと回る。
その横顔に陸はどうしようもなく惹かれてしまう。
(恋人…か)
一息置いて、陸は口を開く。
「……俺と、ハルは付き合ってます」
言い切った自分の声に、隣の優真が飛び上がる。
「っ……え、ええぇ!?!?」
パニックで蓮のシャツの袖を掴む姿に、陸は苦笑しそうになりつつも視線を逸らさない。
蓮は煙草を咥えたまま、不敵に笑った。
「……まぁ、俺は知ってたけどな。初めて一緒に飲んだ日の翌日、陸のスマホ拾ったときにさ。ハルから通知入ってんの見えたから」
「嫌ね、盗み見なんて趣味が悪いわ!」
ハルは蓮に向かって少し照れたように言う。
蓮は蓮で、わざとらしくハルを見てからにやりと笑う。
「昔々のかわいーハルチャンは俺のこと好き好き~言ってたのに、随分趣味変わったんだねぇ?ん?」
優真は蓮の袖を掴んだまま苦笑いする。
「やめて蓮!ほんとそういうとこ性格悪い!」
珍しく耳まで真っ赤にして反論するハル。
双子が「きゃはは!」「ハル、必死~!」と声を上げて茶化す。
(……こんな顔、初めて見る)
ハルがいつもの調子を崩し、必死に声を荒げる姿に、陸の胸が熱くなる。
「もー、蓮さん、やめてください!」
優真が真っ赤な顔で慌てて止めるが、陸はまっすぐ蓮を見て言葉を続けた。
「俺は本気です。だから蓮さんでも、ハルは渡しません」
一瞬、喧噪が凍り付く。
ハルの胸がドクンと鳴った。
蓮の「へぇ……言うねぇ」という低い声が響く。
「安心してよ、俺とハルはそんなんじゃない」
煙がゆっくりと昇る中、ハルは顔を逸らしながら、熱くなる頬を両手で抑えた。
(過去のことは思い出しちゃだめよ、私…あれは事故なんだから!)
「いやー!春ですな!ハルだけに!」
「アキ、オヤジ臭いよ…」
アキとユキは、一足先に知ってはいたがそれでも随分と嬉しそうだった。
――
ひとしきり騒いだあと。
解散してバーを出ると、夜風が頬を撫でた。
酔いの残る体に、少し冷たい風が心地いい。
「……はぁー、散々茶化されたわね」
ハルが大きく伸びをして、ため息混じりに言う。
けれどその表情は、いつもの挑発的な笑みよりも少し柔らかかった。
「はは、でもちゃんと伝えられてよかった」
陸は真っ直ぐに言う。
「…ほんと真面目よね、陸って。そういうとこ、嫌いじゃないけど……」
ハルは視線を逸らして、歩道のネオンを見上げる。
数歩歩いたあと、不意に口をついて出てしまった。
「……1回だけね、昔。蓮と寝たことがあるわ。ウリを始めたころ、トラブルに巻き込まれたの。事故みたいなもんよ。今思えば、若かったわ」
自分でもなぜそんなことを言ったのか分からなかった。酔いのせいか、陸を試したくなったのか。
ぽろっと出てしまった秘密に、ハルは「しまった」と口を噤む。
だが陸は立ち止まると、ハルを振り返った。
「……1回だけ、か」
黒目がちな瞳にじっと見つめられて、胸の奥がかき乱される。
「…か、過去のことだしもう忘れたわ!陸も忘れてよ!…やだ私、なんでこんなこと…」
「忘れない」
低く落ち着いた声で告げると、陸はすっとハルの手を取った。
「過去のハルがいて、今のハルがいる。全部含めて俺が大好きなハルだから、俺は忘れない」
言葉は淡々としているのに、握る手の力は強い。
過去や蓮さんとのことは妬けてしまうが、とばつが悪そうに呟く。
ハルは思わず笑い出す。
「ねぇ、そうやって詰めてくるの、分かっててやってる?!ずるいわよ!いつもどストレートに愛の言葉で殴ってくるのやめて頂戴!」
「殴ってないし、ハルのことに関してならずるくてもいい」
真っ直ぐな言葉が胸を打ち抜く。
(本当、そういうところ…こんなにたくさん受け取っていいのかしら)
歩道の角に差しかかると、煌びやかなホテルの灯りが見えてくる。
一瞬目を伏せて、それから陸を見上げた。
「……ねぇ陸」
「ん?」
「陸だけがいいの、忘れさせてくれる?」
挑発のようで、どこか縋るような声。
陸は一瞬目を見開いたが、ハルが望むならと頷き、腰を引き寄せた。
(俺は、どんなハルでも守りたい)
ネオンに照らされながら、二人の影は重なり合い、そのままホテルの灯りの中へと消えていった。
「ねぇ……ほんとに、今日言うつもり?」
少し笑っているけれど、その奥の声色にはわずかに緊張が混じっている。
「あぁ、言う」
陸の答えは短く、迷いがなかった。
「……そう、」
(アキとユキにはこの間愚痴っちゃったけど、色々片付けてからにしておくべきだったかしら…?)
「ふふ、やっぱり真面目ね」
小さく吐息をもらしながら笑って、黒髪を耳にかけた。
「ハルは、俺の大切な人だから」
その言葉にハルの歩調が一瞬止まり、胸の奥がくすぐったく熱くなる。
けれど。
カランコロン
「やっほー!陸、ハル!会いたかったーーー!」
「みんな待ってるよー」
バー"エーテル"のドアを開けると店の中から双子の明るい声が響いてきて、その瞬間に誤魔化すように歩き出した。
「ハル、久しぶりだな!そっちは…初めて見る顔だ」
バーのマスターがグラスを並べながら人懐こく笑う。
「マスター久しぶりね。元気だったかしら?こちらは陸よ、これから常連になるかもね」
「どうも、篠原 陸です。」
ハルはふふ、と笑うと椅子を引いて陸に座るように促した。
「お、来たな」
隣に腰掛ける蓮が不敵に笑う。先日の飲み会の翌朝と同じ顔。
「陸、ハルさん!こんばんは!」
蓮の隣では優真が先に頼んでいたスナックを摘んでいた。
「ねーマスターカシオレにコーラ入れてくんない?!」
「おまっ…アキ、酒を冒涜すんな!作んねーよそんなの!」
「ほらアキ、椅子座ろう?コーラなら僕のあげるからさ~」
反対隣ではアキがマスターに絡み、ユキがいつものごとく窘める。
陸は少し緊張しながらも、席についた。
――
低いライトが照らすテーブルの上で、ハルの指がグラスを弄び、氷がカラカラと回る。
その横顔に陸はどうしようもなく惹かれてしまう。
(恋人…か)
一息置いて、陸は口を開く。
「……俺と、ハルは付き合ってます」
言い切った自分の声に、隣の優真が飛び上がる。
「っ……え、ええぇ!?!?」
パニックで蓮のシャツの袖を掴む姿に、陸は苦笑しそうになりつつも視線を逸らさない。
蓮は煙草を咥えたまま、不敵に笑った。
「……まぁ、俺は知ってたけどな。初めて一緒に飲んだ日の翌日、陸のスマホ拾ったときにさ。ハルから通知入ってんの見えたから」
「嫌ね、盗み見なんて趣味が悪いわ!」
ハルは蓮に向かって少し照れたように言う。
蓮は蓮で、わざとらしくハルを見てからにやりと笑う。
「昔々のかわいーハルチャンは俺のこと好き好き~言ってたのに、随分趣味変わったんだねぇ?ん?」
優真は蓮の袖を掴んだまま苦笑いする。
「やめて蓮!ほんとそういうとこ性格悪い!」
珍しく耳まで真っ赤にして反論するハル。
双子が「きゃはは!」「ハル、必死~!」と声を上げて茶化す。
(……こんな顔、初めて見る)
ハルがいつもの調子を崩し、必死に声を荒げる姿に、陸の胸が熱くなる。
「もー、蓮さん、やめてください!」
優真が真っ赤な顔で慌てて止めるが、陸はまっすぐ蓮を見て言葉を続けた。
「俺は本気です。だから蓮さんでも、ハルは渡しません」
一瞬、喧噪が凍り付く。
ハルの胸がドクンと鳴った。
蓮の「へぇ……言うねぇ」という低い声が響く。
「安心してよ、俺とハルはそんなんじゃない」
煙がゆっくりと昇る中、ハルは顔を逸らしながら、熱くなる頬を両手で抑えた。
(過去のことは思い出しちゃだめよ、私…あれは事故なんだから!)
「いやー!春ですな!ハルだけに!」
「アキ、オヤジ臭いよ…」
アキとユキは、一足先に知ってはいたがそれでも随分と嬉しそうだった。
――
ひとしきり騒いだあと。
解散してバーを出ると、夜風が頬を撫でた。
酔いの残る体に、少し冷たい風が心地いい。
「……はぁー、散々茶化されたわね」
ハルが大きく伸びをして、ため息混じりに言う。
けれどその表情は、いつもの挑発的な笑みよりも少し柔らかかった。
「はは、でもちゃんと伝えられてよかった」
陸は真っ直ぐに言う。
「…ほんと真面目よね、陸って。そういうとこ、嫌いじゃないけど……」
ハルは視線を逸らして、歩道のネオンを見上げる。
数歩歩いたあと、不意に口をついて出てしまった。
「……1回だけね、昔。蓮と寝たことがあるわ。ウリを始めたころ、トラブルに巻き込まれたの。事故みたいなもんよ。今思えば、若かったわ」
自分でもなぜそんなことを言ったのか分からなかった。酔いのせいか、陸を試したくなったのか。
ぽろっと出てしまった秘密に、ハルは「しまった」と口を噤む。
だが陸は立ち止まると、ハルを振り返った。
「……1回だけ、か」
黒目がちな瞳にじっと見つめられて、胸の奥がかき乱される。
「…か、過去のことだしもう忘れたわ!陸も忘れてよ!…やだ私、なんでこんなこと…」
「忘れない」
低く落ち着いた声で告げると、陸はすっとハルの手を取った。
「過去のハルがいて、今のハルがいる。全部含めて俺が大好きなハルだから、俺は忘れない」
言葉は淡々としているのに、握る手の力は強い。
過去や蓮さんとのことは妬けてしまうが、とばつが悪そうに呟く。
ハルは思わず笑い出す。
「ねぇ、そうやって詰めてくるの、分かっててやってる?!ずるいわよ!いつもどストレートに愛の言葉で殴ってくるのやめて頂戴!」
「殴ってないし、ハルのことに関してならずるくてもいい」
真っ直ぐな言葉が胸を打ち抜く。
(本当、そういうところ…こんなにたくさん受け取っていいのかしら)
歩道の角に差しかかると、煌びやかなホテルの灯りが見えてくる。
一瞬目を伏せて、それから陸を見上げた。
「……ねぇ陸」
「ん?」
「陸だけがいいの、忘れさせてくれる?」
挑発のようで、どこか縋るような声。
陸は一瞬目を見開いたが、ハルが望むならと頷き、腰を引き寄せた。
(俺は、どんなハルでも守りたい)
ネオンに照らされながら、二人の影は重なり合い、そのままホテルの灯りの中へと消えていった。
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