【完結】蒼天を掴む

さか様

文字の大きさ
19 / 23

子供

しおりを挟む
梓は布団の上で、奏の胸に抱かれていた。
大きな掌が背中を撫でるだけの、静かな夜。

「……最近、優しいな」

思わず零した言葉に、奏は小さく笑った。

「冷たくしてほしいの?」

「そういうんじゃ、なくて……」

頬が熱くなり、言葉を濁す。
それでも今は、狂気も支配も遠ざかったように思えた。

(……普通に、恋人みたいだ……)

けれど、その錯覚は長くは続かない。

奏の指先が腹の上に滑り、下腹を撫でながら低く囁く。

「梓……赤ちゃん、ほしい?」

梓は布団に押し倒され、両手首を頭上に押さえつけられていた。
奏の体温が覆いかぶさり、部屋の空気を重くする。

「……なぁ、梓。赤ちゃん、欲しいんだろ?」

耳元で囁かれるその声は、甘やかすようでいて底冷えする。

「っ……や、いや……っ」

涙声で首を振っても、奏の腰は止まらない。

ぐちゅっ、と深く押し入れられ、奥の奥まで何度も擦り上げられる。

「やめ……っ、あ、あぁああっ!」

喉の奥から悲鳴が零れ、視界が滲む。

「梓、可愛いな……全部、俺のものになって……」

吐息がかかるたび、律動はより深く、重く、ゆっくりと沈み込む。
注ぎ込まれた熱が一度流れ出すたび、また押し戻され、奥に塗り込められていく。

「や、だ……っ、中……いや……っ」

必死の拒絶は、濁った水音にかき消される。

「ほら。こんなに受け入れて、欲しいって言ってるじゃないか」

奏の手が頬を撫で、唇を掠める。指先には粘ついた白濁が絡む。

梓の脚は震え、腰は反射的に突き上げられていた。
何度も注がれ、何度も掬われ、奥をかき混ぜられ、恥も涙もすでに滲んで区別がつかない。

「なぁ、赤ちゃん……俺と梓の子、どっちに似るんだろうな」

奏の声がふっと低く笑う。

「梓似かな……俺似かな……?
考えたらゾクゾクするよ」

「や……やだ……っ……いやぁ……っ」

涙に濡れた顔を左右に振る梓。

その瞬間、奏の瞳が冷たく細まった。

「……ああ、そう。いらないんだ」

次の瞬間、拳が鳩尾を抉った。

「――――っぐッ!!!」

肺の中の空気が弾け飛び、視界が真っ白になる。

「おえっ……おえええッ!」

堪えられず、胃の中身が逆流する。酸味と苦味が喉を焼き、シーツに飛び散った。

「ひゅっ……ひゅう……」

荒い喘鳴が喉を裂き、胸が苦しくて呼吸もできない。

奏は吐瀉物にまみれた梓を見下ろし、無感情に呟いた。

「あーあ……赤ちゃん、死んじゃったね。梓が殺した」

「や……やだ……っ……ちが……っ」

泣きながら首を振る梓。その奥から、注ぎ込まれた白濁がどろりと流れ出し、シーツに混じる。

「……ほら、もう出てきてる。無駄になった」

「うっ……うぅ…」

掠れた喘鳴が部屋に響き、指先は必死に奏の袖を探る。

だが奏は何も言わず、立ち上がった。

その背中は梓の視界の端にぼやけ、玄関へ向かう音だけが響く。
扉が開き、閉じる音。

――静寂。

酸味と精臭の混じった部屋の中に、梓は取り残された。

ひゅうひゅうと苦しげな音を立てながら、ぐしゃぐしゃの布団に沈み込む。

(…なんで……? 俺、ひとり……)

意識の奥底に、不安がじわりと広がる。
時間の感覚が失われ、昼と夜の区別も曖昧になる。

二日目、三日目――

奏が戻ってこないまま、梓は薄暗い部屋で過ごした。
空腹も喉の渇きも感じるたびに、自分の手でどうにかするしかないが、足首の違和感は常に付きまとう。

孤独の中で、梓は鏡の中の自分を見る。
やつれた頬、涙の跡、指先にはまだシーツの血と精の匂いが染みついている。

(……おかしいのは俺か……? 奏じゃない……俺が……)

呟きは声にならず、指先が無意識に自分の肌を掻き毟る。
傷跡の線をなぞり、爪で皮膚をひっかく。
赤い筋が増えていくたびに、痛みよりも妙な安堵が胸に広がる。

(……ここにいる……まだ……ここにいる……)

涙がこぼれ、笑いとも嗚咽ともつかない声が漏れた。

その瞬間、外から足音がした。

奏のものかどうかもわからない。
梓は反射的に立ち上がろうとするが、足首がもつれ、床に崩れ落ちた。

(……奏……帰ってきたの……?)

声はもう出なかった。
自分が壊れていく音だけが、胸の奥に響いていた。

――

玄関の音に梓は顔を上げた。
数日ぶりに聞く足音。乾ききった喉が「奏」と呼ぼうとしたが、声は掠れて出なかった。

扉が開き、いつものように奏が立っていた。
その姿を見た瞬間、胸がきゅっと掴まれる。

(……帰ってきた……)

涙が滲み、床に這いながら近づこうとする。

「……梓、何やってんの」

投げつけられた声は氷のように冷たかった。

「よ……よかった……っ、帰ってきて……」

必死に笑みを作る梓に、奏は鼻で笑った。

「お前さ……汚い。臭い。風呂入れよ」

冷徹な視線が突き刺さり、梓の胸がきりきりと縮む。

「ご、ごめん……っ……っ、ちゃんとするから……!」

すがるように縋りつく梓を、奏は乱暴に振り払った。

「赤ちゃん、欲しくないんだろ?」

淡々と放たれる言葉に、梓の呼吸が止まる。

「だったらさ、別になんでもいいじゃん。そこら辺の女、捕まえて赤ちゃん作ってきた」

「……え……」

脳が追いつかない。
耳から入った音が意味を持った瞬間、梓の頬が蒼白に染まる。

「だからお前はもういらないんだよ」

吐き捨てられる。
その言葉が胸の奥深くに突き刺さり、息が詰まる。

「や……やだ……っ、いや……! 奏……っ、捨てないで……!」

梓は床に額を擦りつけるようにして懇願した。
手も足も震え、息は掠れた泣き声に変わる。

「俺には梓しかいない……っ……! いなくなったら……生きてけない……!」

必死に叫ぶ声は、媚びへつらうだけのものになっていた。

奏はそんな梓を無言で見下ろし、わざとらしく肩を竦める。

「へぇ……そう。じゃあ、役に立てよ」

顎を掴まれ、強引に顔を上げさせられる。
冷たい瞳に射抜かれた瞬間、梓は小さく笑おうとした。

「……なんでもするから、捨てないで……」

縋る梓の声は、涙に濡れて震えていた。
奏はそんな梓を見下ろし、ゆっくりと笑んだ。

「そう? じゃあ証明して」

床に押し付けられ、乱暴に下着を引き下ろされる。
梓は怯えたように目を閉じた。

「……奏……っ」

だが、次に入ってきたのは奏自身ではなく、硬い異物だった。

「――っ……あ……!」

金属の冷たさが奥まで押し込まれる。
体が強張り、喉から掠れた声が漏れた。

「赤ちゃん欲しくないって言ったよね?」

奏は低く囁き、バイブを捻る。
震動が鈍く響き、梓の腹が小さく跳ねた。

「だったらこれで充分だろ。おもちゃでよくなるなんて楽でいいなぁ、梓」

「ちが……っ……やだ……!やだやだやだやだやだ!!!」

必死に首を振る声はすぐに快感に途切れ、息が乱れる。

「でももう俺は構ってやらない。梓が選んだんだろ?」

耳元に落ちた声は、冷たく乾いていた。

そのままシーツに押し伏せられ、震える体を貫く震動だけを残して、奏は部屋を出て行った。

長い夜。
バイブの低い唸りが梓の体をじわじわと壊していく。
抜けない。止まらない。
羞恥と恐怖と快感がぐちゃぐちゃに混ざり合い、梓の意識は何度も途切れた。

(……奏……どこ……)

答えのない空虚が胸を締め付け、声にならない嗚咽がこぼれた。

――

翌朝。
高熱のように汗に濡れ、頬は赤く、息は荒い。
まだ震える体を抱えながら、梓は呻くように言葉を洩らした。

「……赤ちゃん……ください……奏……っ」

無意識のように繰り返すその声は、熱に浮かされた子どもの寝言のようだった。
でも、それは確かに、梓の奥からこぼれ出た願望。

奏は扉の前でそれを聞き、ゆっくりと笑った。

「……ほらな。やっぱり欲しかったんじゃん」

低く湿った声が、梓の絶望と渇望を絡め取っていった。

――

薄明かりの差す部屋。
汗で湿ったシーツの上、梓はまだ震えていた。
唇からは掠れた声が、途切れ途切れに零れる。

「……赤ちゃん……ください……かなた……」

無意識の寝言のようなそれを、扉の前で聞いていた奏は、ゆっくりと部屋に足を踏み入れた。
静かな足音。梓の枕元にしゃがみ込み、濡れた頬を親指でなぞる。

「……赤ちゃん欲しい?」

梓のまぶたがかすかに震え、重たく開いた。
まだ夢の続きかと思うほどに、奏の顔は近かった。

「……ちが……ちがう、そんな……」

言葉で拒もうとした瞬間、顎を掴まれ、強引に唇を塞がれた。
昨日まで冷たい鉄の震動しか知らなかった体に、人肌の熱が押し込まれる。

「もう遅い。口にしたんだから責任取れよ、梓」

囁きと同時に、熱が奥まで打ち込まれた。

「――っああああっ!」

声が掠れて途切れる。
下腹部を抉るたびにシーツがきしみ、汗と涙と涎が混ざる。

「赤ちゃん欲しいんだろ? 欲しいって言えよ」

腰を深く押し付け、耳元で狂気を孕んだ声が滴る。

「……い、ら……な……っ、やっぱ、い…らない…」

必死に否定を絞り出しても、奏の律動は止まらない。

「ほら、素直に。赤ちゃんくださいって言ったろ。言葉通りにしてやるから」

絶え間ない衝撃に声が掻き消され、梓はついに嗚咽を混ぜて叫んだ。

「っ…あ、あ、…ほしい……赤ちゃんください……っ!」

その瞬間、奏は満足げに息を吐き、奥深くで大きく突き上げた。

「いい子だ、梓……。ほら、受け取れ」

熱が一気に流し込まれる。
体が震え、膝が勝手に震えてシーツを蹴る。

「……まだ足りないな。もっと欲しいんだろ?」

奏の手が梓の腹を押さえ、奥へと精を押し込める。

「お腹、大きくしてやる。梓似かな、俺似かな……どっちが生まれても楽しみだよな?」

「や……やめて……こわ……」

梓の目尻から大粒の涙がこぼれる。

「怖がらなくていい。これが幸せなんだから」

吐息混じりの声とともに、再び腰が強く沈み込んだ。

熱と恐怖と羞恥がぐちゃぐちゃに絡み合い、梓は自分の声すらわからなくなっていった。

(……もう戻れない……)

冷たい鎖のような腕の中で、壊れていく自分を理解しながらも、梓はただ震える体を委ねるしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

サファヴィア秘話 ー満月奇談ー

文月 沙織
BL
満月の夜、将軍サルドバは得体の知れない兵たちに襲われる。彼らはサルドバに降伏の儀式を受けさせるという。 これは前作のおまけです。前作でのサルドバのイメージが壊れるのが嫌、という人は絶対に読まないでください。 性描写もありますのでご注意ください。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

こんにちは、付喪神です。

江多之折(エタノール)
BL
すみません、息抜き用に連載に昇格しました。そっと連載してる。 背後注意のところに※入れる感じでやります 特に大切にされた覚えもないし、なんならUFOキャッチャーでゲットしてゲーセンの袋に入れられたまま年単位で放置されてたけど、神、宿りました。 見てください、人型です。…なんで? あ、神といっても特別な能力とかないけど、まぁ気にせず置いといて下さいね。宿ったんで。って汚?!部屋、汚ったな!嘘でしょ?! え?なんですか?ダッチ…? 社畜気味リーマン(Sっ気有)×付喪神(生まれたての家政婦)の短編。じゃなくなった。でもゆるめ。

慶ちゃんの言うとおり

カミヤルイ
BL
完璧な優等生を演じるド執着攻めが、見た目ふわふわ系可愛い受けを「自分はひ弱」と思い込ませて、囲い込んでいくお話。 (囲い込みBLでゾワゾワしたい方がおられたら…同志がおられるといいなと)

Bランク冒険者の転落

しそみょうが
BL
幼馴染の才能に嫉妬したBランク冒険者の主人公が、出奔した先で騙されて名有りモブ冒険者に隷属させられて性的に可哀想な日々を過ごしていたところに、激重友情で探しに来た粘着幼馴染がモブ✕主人公のあれこれを見て脳が破壊されてメリバ風になるお話です。 ◯前半は名有りモブ✕主人公で後半は幼馴染✕主人公  ◯お下品ワードがちょいちょい出てきて主人公はずっと性的に可哀想な感じです(・_・;) ◯今のところほとんどのページにちょっとずつ性描写があります

処理中です...