入れ替わり勇者と魔王は、世界の秩序を乱すか

さか様

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出会い

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勇者リュカが魔王城に辿り着いたとき、玉座の間に鎮座した魔王ラムザはひどく暇そうだった。

両手は空。
だが空間そのものが、彼の武器だった。

視線が合った、その瞬間。

(――あ)

ラムザは、ほんの一瞬だけ思考を失った。

勇者は、思っていたよりもずっと静かだった。

燃えるような正義を叫ぶでもなく、剣を誇示するでもなく、ただ真っ直ぐに、こちらを見ている。

(眩しい)

それが、最初の感想だった。

「来たか勇者。」

魔王の声に、リュカは剣を構えたまま答える。

「リュカだ。ラムザ、お前を倒す」

次の瞬間、空気が震えた。

魔法陣がいくつも展開し、床も天井も境界を失う。
逃げ場はない。気付けば剣は意味を持たなかった。

(剣が届かない……!)

気づいたときには、身体が宙に縫い止められていた。

視界が暗くなる直前、
リュカは確かに聞いた。

「……死なせるつもりはない」

目を覚ましたのは、魔王城の近くの宿屋だった。

身体は重いが、骨も内臓も無事。
剣も、きちんと枕元に置かれている。

(……おかしい)

次も、同じだった。

挑む。
魔法に封じられる。
意識が落ちる。宿屋で目を覚ます。

しかも、回復している。

宿屋の主人に言われて、気づいた。

「今日も魔王城でしたか。最近、毎日ですね」

毎日?

リュカは、自分でも驚いた。

それが討伐だからなのか、
それとも――別の理由なのか。

ある日、玉座の間で、
ラムザがいつもより長くリュカを見ていた。

「また来たか、リュカ」

魔力が揺れる。

「我は強すぎるからな。
剣では、勝てんぞ」

リュカは一瞬、眉をひそめた。

(……自分で言うか?)

「知っている」

それでも、剣を構える。

「だが、また来た」

ラムザは、わずかに口元を緩めた。

(来るのをやめない勇者か)

だから、今日も同じようにする。

魔法で叩き伏せ、致命傷を避ける。
治癒魔法をかけ、転送魔法で宿屋まで送る。

その一連の動作は、もはや“作業”に近かった。

(無事でいろ)

そう思いながら、魔法を放つ。

リュカは、薄れゆく意識の中で、
いつも同じことを思っていた。

(……あいつ、俺を殺せるのに)

そして、なぜか確信している。

(殺す気が、ない)

それが何を意味するのか、
まだ名前はつけられない。

ただ、気づけば魔王城に向かうことがリュカの日課になっていた。
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