入れ替わり勇者と魔王は、世界の秩序を乱すか

さか様

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色ボケ魔王

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薬棚の整理をしていた魔術師は、ふと思い出したように口を開いた。

「そういえば陛下」

玉座の脇で魔法陣を解いていた魔王ラムザが、ちらりと視線を向ける。

「なぜ勇者を倒すたびに、いちいち治癒して宿屋まで転送しているのです?」

魔王は一拍、考えるそぶりを見せた。

「……暇だし」

「暇」

「あと」

ラムザは顎に手を当て、わりと真面目な顔で続けた。

「最初は鬱陶しかったが、何度も来るうちに可愛く見えてきてしまってな」

魔術師の手が止まる。

「……はい?」

「下心だ」

即答だった。

「程々に回復させて送り届けるのは、魔王の嗜みだろう」

魔術師はゆっくり瞬きをしたあと、額を押さえた。

「あー……」

頭の中で何かが、きれいにつながる音がする。

(あ、この魔王、完全に色ボケしてるわ)

「陛下」

「なんだ」

「それ、勇者にバレたら厄介ですよ」

ラムザは鼻で笑った。

「気づかれていない。
あれはまだ、“違和感”の段階だ」

妙に自信満々だった。

魔術師は深くため息をつく。

(魔王が一目惚れして、勇者を通わせてる世界線……)

ろくでもない。
だが、ちょっと面白い。

「……せめて、回復しすぎないでくださいね」

「それは譲れん」

「なぜ」

「怪我が残ると、次に来る足取りが鈍る」

魔術師はもう何も言わなかった。

(ああ、ダメだこれ)

魔王城の秩序は今日も保たれている。
その中心にいる魔王が、
完全に恋に落ちていることを除けば。
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