入れ替わり勇者と魔王は、世界の秩序を乱すか

さか様

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おなご

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今日も今日とて、秘密の部屋。

勇者の身体をしたラムザが、なぜか得意げに胸を張って言った。

「見ろ」

嫌な予感しかしない。

「この勇者の身体は、全体的に可愛らしいだろう」

「待て」

魔王の身体をしたリュカが即座に止めに入る。

「その前振りは絶対に碌なことにならない」

だが、ラムザは聞かない。

「そしてだ」

一歩、距離を詰め、裸になる。

「姿勢を工夫し、体のラインを寄せると――」

「おい、待て何を言って…なぜ服を脱ぐ…」

リュカは青ざめる。

「可愛らしいリュカのイチモツを股に挟み、これまた可愛らしいピンクの胸を真ん中に寄せると…
何ということだ…」

ラムザは真顔で断言した。

「おなごだ」

「違うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

リュカが絶叫する。

「俺の体で遊ぶなぁぁぁぁ!!!」

「だが魔王的には――」

「魔王論を適用するな!!」

魔術師は、部屋の隅で遠い目をしていた。

「……私は今、
何を見せられているんでしょうか」

誰も答えない。

リュカは頭を抱えた。

「ラムザ…“体を大切にしよう”って言ってなかったか……?」

「言った」

即答。

「その精神は、今もある」

「どこがだよ!!」

魔術師は深くため息をつく。

(入れ替わりが解けた後、
この記憶をどう処理するつもりなんだろう……)

――

沈黙が、秘密の部屋を支配した。

壊滅的な沈黙だった。

誰も動かない。
誰も視線を合わせない。
合わせたら最後、何かが決壊する気がした。

最初に動いたのは、魔術師だった。

「……えー……」

咳払い。

「とりあえず、座りましょうか。
立っていると、いろいろ思い出してしまいそうなので」

リュカが即座に叫ぶ。

「ふざけるなよ!今!今まさに!
忘却の魔法を脳に直接かけたいところなんだよ!!」

ラムザは、腕を組んだまま真剣に頷いた。

「リュカよ、忘却は危険だ。学びを失う」

「学びにするな!!」

「だが」

ラムザは続ける。

「今回の件で分かったこともある」

「何も分かってないだろ」

リュカは即座に反応する。

「リュカの身体は、多角的な観点から見て“可愛らしい”」

「すぐに記憶を消せ!!」

魔術師は、机に肘をつき、遠い目をした。

(……入れ替わりは緊急事態、のはずなんですけどねぇ。
なぜだろう…観察対象としては最高すぎる)

リュカは、深く息を吸ってから言った。

「……もういい。この話は終わりだ」

「終わり、とは?」

「二度と蒸し返すな。思い出すな。おなごになるな」

「理不尽だな」

「うるさい!」

そのとき、部屋の奥で、かちりと音がした。

三人の視線が、同時にそちらを向く。

魔術師の机の上。
未完成の薬が入ったフラスコが、微かに光っている。

「……あ」

魔術師が、少しだけ歯切れの悪い声を出した。

「それ、“感情と身体感覚の同期が強まる”試作品なんですが…」

「戻す薬は?おい、戻す薬作ってたんじゃないのか?」

リュカは魔術師の襟首を掴み揺さぶる。

「さっきの騒ぎで、反応したみたいですね…」

魔術師はリュカに揺さぶられながら淡々と続けた。

リュカとラムザが、同時に固まる。

「……え?」

「……魔術師よ、何が起きる?」

魔術師は、正直に答えた。

「簡単に言うと…相手の身体を意識すると、自分の反応も過剰になります」

沈黙。

リュカが、ゆっくりと後ずさる。

「……今の話題、続けたら……」

「我のイチモツが…大暴走だ」

交互に口に出す。

「は?」

リュカがラムザの方を見ると、顔を手で覆う自分の姿があった。

(勘弁してくれ…)

三人は、無言でフラスコを布で覆った。

魔術師は、その様子を見ながら、
ほんの一瞬だけ、手を止める。

(……実は、戻す薬は、もうすぐ完成するんですけど……もう少しだけ、もう少し、このまま観察しても……誰も困らないのでは?というかなんか平和では?)

その考えに気づき、
自分で自分を戒めるように首を振った。

「……今日は、もう解散しましょう」

「賛成だ」

「二度とここでおなごとか言い出すなよ」

「努力する」

「努力目標にするな!!」

扉が開き、閉まり、それぞれがそれぞれの“役”へ戻っていく。

廊下に出たところで、ラムザがふと立ち止まり、振り返った。

「……リュカ」

「何だ」

「おなごについてだが……」

一瞬、言葉を探す。

(流石に魔王も謝るのか…?)

「今度からは一人で魔鏡の前でやる」

「やるな!!魔鏡の前で!だめだろ!見られてるだろ、魔鏡に!!!!」

リュカの叫びが、廊下に響いた。

その声を聞きながら、魔術師は一人、部屋に残る。

布をかけられたフラスコを見つめ、小さく呟いた。

「……完成は、いそがなくていいや。面白!」

秘密の部屋には、未完成の薬と、魔術師の好奇心と、ほんの少しの邪な期待が残された。
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