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ミゴノ助

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幼年期編

異世界特訓生活録 テンセイシャ 修練編

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「次、あそこの木まで往復二十!」

「はいっ!」

 この世界にきてから二年半が経った。
 初めは朝起きてすぐにやらされる走り込みにも疲れ果て、母上曰く準備運動の時点でバテバテになっていたが今では一応運動部かつ立ち仕事をしていたこともあって成長痛に悩まされつつも文字通り朝飯前の準備運動と化していた。
 最近ではより実戦で使えるようにと緩急を着けて木々の間をすり抜けるダッシュがメニューに追加され、朝から忍者の如く森の中を駆け回ることになっている。


「よし!少しクールダウンしたら素振り各々百回ずつ」

「はい!」

 それが終われば聖剣を取り出して太刀筋の練習となる。
 これも初めは普通の木剣を使って基礎的な太刀筋を体得するための素振りだったが慣れてきた今はより重心の偏ったツルハシを振るう。
 ハッキリ言ってバランスの悪いそれはただ闇雲に扱えば反動で体勢を崩される。
 元々採掘具であって戦闘用に想定されていない其れを無理に振り回せば簡単に遠心力に引っ張られ、必然足腰に力を入れて踏ん張らなければ軸がぶれてまともに薙ぐことすらできない。

 当初こそ気分はまさに禁忌や魂喰、あるいは超人的なバラバラ死神と喜び勇んで素振りに託つけたチャンバラをしていたが、今となってはアニメの大鎌使いはよく使えていたなと感心してしまう。

(普通に使うならシャベルモードの方がまだ使いやすいな。
 塹壕戦で活躍したのは機関銃とシャベルと言うのをどこかで聞いたような気がするし……)

 そんな事を考えながらもツルハシとシャベル、二つの形態での素振り各々百回づつを終えると朝練は終了となる。
 言われた回数をこなし終わり、腕の痺れを感じながらシャベルを地面に突き刺すがまだ手を離さず母の言葉を待つ。

「……よし、終わったな。聖剣は仕舞って良いぞ、先に行っているから少し休んだら食堂に来るように!」

 終了宣言を告げられて初めて聖剣から手を離し、漸く気を落ち着けることができる。

 一度回数をこなして気が抜け残心を切ってしまって不意をつかれて「気を抜くなっ!」と意識の外からビンタを喰らってしまって以来、終わりを告げられるまでは気を抜くことができなくなっている。

 今でも視線だけは向けて振り返ってこないか確認しつつ、楽な体勢にはしているもののいつでもフェイントに対応できるよう野生の小動物のように意識を残して休憩をしている。

「フゥ、ハァ、……よしっ、いくか!」

 微妙にストレスフルな休憩で呼吸を整えるとゆっくり関節を解しながら立ち上がり、食堂へと向かう。




「それでは始めさせていただきます。坊っちゃまのほうも御用意下さいませ」

 朝食をとったあとはメイによる魔法と座学の授業を受ける。

 こちらは実技もやるものの座学と半々で何れサバイバル技能やブービートラップの仕掛け方などをする母のものに比べれば幾分穏便なもの……。


という訳では全くなかった。

「はい……」

 基本的には読み書き計算に歴史、といった至極真っ当な内容と思う。授業を受けながら同時に『砂の柱』を常に行使し続けて木板を跳ね上げ地面につけないということをやらされていなければ……。

 始めの内は普通に授業を受けていたが、並列思考のスキルがあることをうっかりメイにバラしてしまい以降はこの授業スタイルになってしまった。

 幸いにして以前のリドルの記憶があり、前世では苦手だった数学も算数のレベルなら容易くこなせる。

(仕事中に脳内カードゲームやっててよかったな。魔力操作しながらでも難なく解ける。まぁそのせいでこうなっているんだけど……)

 魔力によるリフティングと授業の質問に答えるという離れ技を強要されながらも単純な計算は元々速かったこともあり、早々に算術の課題をやり終える。




「本日の座学はここまでにいたしましょう。練習場に向かいますよ」

 一通り座学が終わるとお待ちかねの魔法の実技にはいる。

 練兵場に移動すると既に的が立てられ、その幾つかにはもう使われたのか焼け跡がついている。

「では、ここからは坊っちゃまお楽しみの魔術の実戦ですよ。魔力操作訓練は止めてよろしいのであちらの的に向かって放ってください」

「お楽しみって、やっぱりバレてた?」

 一応集中していたから授業中は顔に出していないつもりだったのだがメイにはお見通しだったらしい。

「はい、授業の最後の方には顔に表れておりましたよ。最近の坊っちゃまは以前より魔法の練習を楽しんでおられるようで私も喜ばしいです」


 ウキウキした気持ちを見透かされたように苦笑するメイに促されるまま魔力リフティングを中断し魔力を集中し、ここ最近でずっと練習している魔法を構築し始める。


砂衝弾アース・バースト

 途中詠唱を短縮した略式で放たれた回転する砂矢は狙いを過たず的の中心を射抜き、そのまま貫通する。

「流石ですね。基礎攻撃魔法で的を貫通させるなどなかなか出来る事ではありません」

「あんまり誉めないでよ。教え方が良い上に習ったことをいっぱいいっぱいにやってるだけなんだし、それに好きでやってるだけなんだから」

 ある程度魔力の制御が出来てきたという事でここ数ヶ月で某魔法先生の如く各属性攻撃の基本の基となる『衝弾』を習ったが、これがまた面白い。

「坊っちゃまは本当に魔法を使うのがお好きですね」

 当初こそ貴族スタートな上魔法あり、何より無味乾燥なルーチンワークから解放されスローライフを満喫できると考えていた。

 しかしエンタメ大国の日本生まれとしてアニメで言語を覚え、その後の人生も就活で躓いて心身共に摩耗するまではオタク漬け……。

 否、摩耗していても隙を見つけては無理矢理に僅かな休憩時間にトイレで足を上げながらネットで二次創作を嗜んでいた身としては耐えられなかった。
 娯楽が少なく、本ですら希少なこの世界では童心に帰って野を駆け回るのも早々に飽きてしまい暇を見つけてはビート虐待クソ兄貴への対策も兼ねて授業以外でもコッソリ練習していた。

「いえ、普通は坊っちゃまくらいの歳ですとできて的に当てる程度です。そもそもの威力の低い基本魔法で貫通とはそうそうできません」

「そう、なのかな?だったら一つ見てもらいたいものがあるんだけど」

 勉強関連で誉められたことが少なく、木に登っているのが自分でも判りつつも調子を押さえられず密かに練習していたモノを披露する。

「なんでしょうか?」

「まぁ見ていてよ」

 そう言いながら聖剣ツルハシを取り出してからゆっくりと深呼吸し、失敗しないよう慎重に指先へと魔力を集中させる。

「えっ、あの坊っちゃま!」

 左手の五指を的に向け、末端まで神経を尖らせて想像力を一杯に沸き上がる力を球状に圧縮し一気に解き放つ……!




五指砂衝連撃フィンガー・サンド・バースト!!』

 高らかに呪文名を宣言しながら魔力を展開すれば練習場に並べられた的を一つ一つ砕いていていく。

 そう、みんな大好き焼き氷の半分こ将軍が使った技を模したモノである。
 名称の関係で指一本ずつにチャージしながら唱えられないのは残念でだが、その分当てやすい上に拡散収束させることである程度威力の調整が出来て再現度と使い勝手は中々のものに仕上がっていると思う。

「ふぅ、どうかな自分では良い感じだと思うんだけど……」

 息を整えながらそう後ろへと振り替えるとメイは開いた口が塞がらないといった様子でポカンと口を開けながら呆けていた。

「……っ!失礼しました。坊っちゃま、今のは?」

「あ、戻ってきた。いや個人の魔法は連続しては撃てないって習ったからどうにか連射出来ないかなと思って……ダメだったかな?」

 この世界の魔法は一部の極少数な例外を除いて連続の行使が出来ない。
 基本的に呪文を詠唱しなければならないのと杖の先端や掌など一ヶ所しか放出する箇所がないからだ。
 銃に例えれば一発一発リロードしなくてはならないボルトアクションのようなもので、どうしても発射の間隔が空いてしまう。
 そのため連続して放つ場合は人数を揃えての釣瓶打ちにするしかなく、その結果複数人での儀式魔法へと発達していった。


 ならば発射口を増やせばよいのでは?と考えて前世の知識から此の技を捻り出した。
 決して厨二心からだけではない、そう、実戦を想定たうえであくまでも実用性を鑑みただけである。

「いえ、ダメという訳ではありませんが……消費は大丈夫なのですか?あれだけの連弾では相当に魔力を使われるのでは?」

「普通の『衝弾』五発分とたいして変わらないよ」

 一度に多数放つというインパクトこそ強いものの実際やっているのはただ魔力構築を速くしているだけなので派手な見た目に反して消費はそこまでで、むしろ暴発しないようにする魔力の制御と弾道のコントロールのほうが大変なくらいだ。

「指先に灯りを点す要領でやったら出来たんだけど……」

「そのようなこと発想すらありませんでした。こうですか?」

 簡単にやり方を説明するとメイはいとも容易く模倣してみせ、たちまち指先に球状に魔力を形成し水の球体をつくりだす。

「成る程、これは便利ですね。これなら学園に行く前にもう少し段階を上げられそうです」

「本当?!だったら……。
 ゴーレムを作る魔法を教えてくれる?!!」

 自分の手をじっと見つめながら指先で三つの水球を弄ぶメイがぽつりと呟いた言葉に思わず前から頼んで却下され続けていた事を口走ってしまう。
 この世界に来て魔法の適正が土、そして教科書にもその存在だけは記されるほどの有名魔法『偶像戦士創造《ゴーレムクリエイト》』
 使用者の属性により難易度は変動するが土、次いで水が最も適正があり自分だけのゴーレムを作り出せるこの魔法を知ったときから前世で好きだったあれこれをゴーレムで再現できると思って切望していた。

「あ、それはダメです」

「そこをなんとか!」

 しかし、その期待はメイにピシャリと否を告げられ脆くも砕け散った。


「えぇ…………うん、やっぱりね。解ってはいたよ、いたけど……」

 そう言いつつ一応、上目遣いでメイに無言のおねだりをしてみるが当のメイは指先だけで水をお手玉するという器用な真似をしながらもう片方の手を顎に当てて思案する。

「そうですね……。でしたら少し実戦訓練といきましょう」

「実戦訓練?」

 弄くりまわしていた水球をパチリっと弾けさせ唐突にそんなことを言い出す。

「はい、いまから私に魔法を撃ってください。まともに一撃入ったら新しい魔法をお教え致します」

「それは?!」

 一瞬訳が解らなかったが、次いで告げられた餌に思わず飛び付いてしまう。
 これまで『礫化』『砂の柱』そして『砂衝弾』基本的な魔法であるこの三つほどしか習っておらず、徹底して魔力操作を向上させるべくひたすらに練習した。
 その結果眼を瞑っていても構築でき、当たるかどうかは別として放つ事もできるようになった。
 しかし流石にそろそろ新しい物を覚えたいのと確りとした威力のあるものが欲しく、『五指砂衝連撃コレ』を考えだした。

「ほ、本当にいいの?」

「はい、一撃当てればなんでもよろしいですよ。なんなら今ここでも大丈_____」

『砂の柱』!!!
 当てればなんでも良い……。

 その言葉を聞き、メイが言い終わる前に仕掛ける。


 メイの足下にコッソリ構築していた魔法を発動させて不意討ちする。
 話している最中の真下からの一撃は確実に正中線を突き避けても体のどこかには当たるハズ……。

「躊躇いなく撃ってくるとは色々お教えした甲斐がありますね」

 しかしメイは知覚しづらい筈の地中からの攻撃を涼しげな顔であっさりと回避する。

「甘いですね。注意を反らしての避けにくい角度から一撃、その戦法は初見や姿を隠してからなら有効ですが、もう少し気配を消さすなり、牽制をするなり、しないと、意味がありませんよ」

 そればかりか最小限の動きで体を捻り、時に軽やかなステップでこちらの攻撃を意に介さないかのようにダメ出しをしてくる。

「『砂の柱』!  『砂の柱』!!  『砂の柱』ぁぁ!!!」

(そんなことは重々承知だよ。……こんな初見殺し系は教えて貰っているうえに何回も見せているメイには通用しないくらい……)

 内心で悪態をつきながら聖剣《ツルハシ》の補助のもと柄を地面に付け一気に勝負をかけるべく矢継ぎ早に魔法を構成していく。

「どうしましたか?もう終わりだしたら新しいものなど夢のまた夢ですよ」

「こ、っノオォぉ!!」
(もう少し、もう少し……今!)

 軽い挑発に乗るフリをしながら『砂の柱』を操作し狙ったポイントへ誘導する。

「っ、!!!」

 メイがこちらの攻撃をステップで回避し足が着く瞬間に地面を『礫化』で脆くし、体勢を崩した瞬間に聖剣ツルハシを向ける。

「!?まだまだっ!」

 ここでメイが初めて少し焦った様子を見せ、大きく跳躍して地面から飛び出す魔法に対応しようとする。



 _________が……。


「掛かったぁ、『五指砂衝連撃《フィンガー・サンド・バースト》』!!流石に空中ならコレは躱《かわ》しようがないでしょ!!!」

 フェイントでわざと空中に大きく回避させての五連弾が身を捻るメイに炸裂し、虚空に砂塵を巻き起こす。





「うっ………く、………砂が目に……でも流石にこれならいくらなんでも当たった筈」 

「でもないですよ」

 命中を確信した瞬間、砂煙の中からメイの声が聞こえてくると同時に胴に衝撃が走る。
 肺が圧迫され「カハっ!」という声を漏らしながら吹き飛ばされそのまま踞《うずくま》ってしまう。

「今のは悪くありませんでした。しかし最後の油断と視界が塞がってしまうのが原点ですね」

 顔をあげるとアドバイスをしながら何事もなかったかのようにこちらに向かって歩いてくるメイの姿が目に写る。

「当たって…なかったの?」

「ギリギリですが迎撃できました」

 痛みが走る中でなんとか絞り出すと服に着いた埃を払いつつ応えてくれる。

「見せていただいた坊っちゃまの連弾を見よう見まねで再現しました」

 メイ曰く、拡散仕切る前の密集している所に一発、反動で回避するのに一発、最後に腹に喰らった一発の計三発を一瞬のうちに構築したらしい。

「なかなか上達しているようで何よりです。ゴーレムはダメですがそれより下位のものでしてらお教えしましょう」

「え?でも……」

 まともに一撃入れたら、という約束だったので苦しみも忘れてキョトンとする俺にメイは優しく言葉をかけてくれる。

「教えたものはムラがあるもののそれなりに使いこなせていたのでオマケです。今日の午後は討伐に参加なのでそれからですけどね」

 背中をさすられながらそう告げられて午前中の授業は終了となるのだった。



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