AVENIR 未来への一歩

RuNext

文字の大きさ
15 / 27

兵力差

しおりを挟む
 王国を奪還しあと、三日かけてすべての建物や壁を黄金の槍で直したミーアは自室のベッドで寝ていた。すでに太陽は真上にあり、兵士と民が訓練する声がかすかに聞こえる。槍を何度も使ったことにより体力を消耗したミーアはいまだ起きれずにいた。
 そこにレイがやって来る。

「ミーア様、大丈夫ですか?」
「まだ体がまだ重いわ」
「あれだけのことをやったのですから仕方ありません。ですが、今後のことについてマグナが話があると」
「マグナさんが?」
「えぇ、戦いのことに関してです」
「……わかった。部屋に集めといて。すぐ行くわ」
「承知しました」

 レイが部屋を出ていきミーアはゆっくりと重たい体を起こした。槍の力を使っても今までは何ら異変はなかった。魔力を使わずとも槍の力だけでも十分戦えたからだ。しかし、槍の力は強大で、今の自分には手に余ることを知った。導きではなく意志で強引に使うとそれだけ体力を消耗するのだ。
 その仕組みは一切不明だが人の手には余るということだけははっきりと理解出来る。

「ナーバスになってちゃだめだわ。これからが本当の戦いなんだから」

 玉座の間へいくとすでに三騎士とマグナにビートが集まっていた。柱に背を預けたウィークの姿もある。

「ミーア様、あちらへ」
「玉座に?」
「そうですよ。あなたはこの城の女王となる存在なのですから」
「そうか、城があって国あるんだから姫のままじゃいられなくなるのね」

 かつて母親が座っていた場所に座ると、なんとも言えない不思議な感覚が身を包む。数段高いこの場所から立っている人々の姿を見ると、嫌でも自分が地位の高い存在になったことを自覚する。責任を背負い、言葉を求められ、一言で王国の命運が変わる。心臓の鼓動が早くなる。だが、深く深呼吸をしてミーアは言った。

「マグナさん。お話を聞かせてください」

 マグナはミーアの不慣れに座る姿を見て、小さく笑みを浮かべたのち答えた。

「そちらの三騎士や兵士の情報から計算したところ、戦闘に参加するであろう相手の兵士は十二万。対してこっちは民を合わせて一万と言ったところだ」
「かなりの差ですね……。現実的にこれを覆せるのでしょうか」
「勝てない戦いというわけではない。かつて俺が若い時、十二倍の兵力差のある戦いで勝利するのをこの目で見ている」
「その時の兵力はどれくらいだったんですか」
「二千対二万五千」
「そんな少数でどうして……」
「当時は豪雨だった。雨に紛れ敵陣に接近し、最後には大将を討ち取った」
「大将を討ち取れば兵士たちが生きていようとその後の恩恵はなくなる。士気は低下し戦いを放棄する者が大半というわけね」
「この時代は俺が戦った時代と大差はない。基本的にトップが下に何かを与えることで士気をあげ従えさせる。特にジャクボウは兵士たちに自由にやらせ成果をかなり重視するタイプだ。戦いへの動機が恩義ではなく、報酬ならば大将を討ち取るのが得策」

 事実これはスバラシア王国を含め多くの王国が同様に抱える問題。スバラシアの兵士たちの中には女王が死んでもなお戦い続けた者もいるが、その先の未来が見えないとなると士気は下がる。スバラシアが崩壊した原因の一つは女王が早期に殺されてしまったこと。

「でも、それは向こうも同じなのでは」
「どうかな。ウィークほど素早く敵陣に攻め込む馬鹿はそうそういない。ウィークの話によれば一人だけウィークの後に続いて城へ侵入したやつがいたらしいが、あくまでそれはウィークが切り開いた道があったからだ。この戦いに関しては差ほど城への侵入は気にしなくていい」
「でも、マグナさんの言う戦いは攻め、私たちは守り。それに、天候が崩れるのを待っていることもできない」
「だが、秘策はある。君を前線に出すことだ」
「わ、私を!?」

 マグナは黄金の槍に力の多くを知っている。ミーアがバリアを張り兵士を癒し建物を直したことから思いついた策だった。兵力差があるということはそれだけ一人の人間が戦わなければいけない兵士の数が増える。仮にうまく立ち回れたとしても体力だけは嫌でも取られてしまう。救護隊を作れるほど余裕のない現状で、唯一広範囲で守りと治癒、さらに武器の再生を可能とするミーアは本人の体力が続く限り無限の兵力を生み出す存在にも等しい。
 ミーアもその提案に乗り気であったがレイが割って入る。

「いけません! 前線では矢も大砲も飛び交う。兵士の回復をしている間に狙われる可能性があります。そのような姿を敵兵が見たならば優先してミーア様を狙うことでしょう」
「だったらそれでいいだろ」
「貴様! ミーア様を見殺しにするのか!」
「敵兵が一か所に集中したならば、こちらの攻撃も当たりやすい。その上、こちらの兵士を維持しながら戦える」
「だが、もしものことがあれば!」
「少しでも完璧なことをしようとしたら少数勢力は負ける。完ぺきではない策に賭けるのが少数側の戦いだ」

 拠点制圧や手薄な場所を攻めるのなら、地形や天候を利用し様々な可能性を模索できる。だが、今こうしている間にもジャクボウが攻めてくる可能性がある以上、できることはそう多くない。
 ボルトックはマグナに疑問を問いかけた。

「レイが言っていることもわかる。だが、マグナの言っていることも一理ある。ただ、仮に前線を押されたらどうするつもりで?」
「町で戦う」
「もう一度町を戦火に包むと? 民の暮らしはどうなる」
「ミーアが直せる。これからの戦いは王国の再起をかけたもの。そんな中、建物の一つや二つ、いや、町がダメージを受けることを少しでも回避したいと思うのは傲慢ではないか? 傷を負う覚悟がなければ倒せんぞ」

 マグナの言っていることは正しかった。この戦いの勝敗がこの国の存在そのものを決定する。犠牲を前提とした戦いなのだ。
 しかし、マグナの言っていることには不確定要素もある。それは王が戦場にやってくるのかという点だ。ミーアは槍の力を使うため前線へ出ることになったが、本来そんな危ない場所に国の主が来るはずがない。そもそも、相手は侵攻なのだから余計にやってくる理由はないはずだった。だが、それに対してウィークが答える。

「ジャクボウの傭兵としてスバラシア王国を崩壊させた時、王は近くまで来ていた。奴は悪趣味な奴だ。もう一度滅ぼし完膚なきまでに叩き潰すだろう。ならば確実に来る」
「でも、今回はどうかしら。私たちの兵力が低いのは向こうもわかってる。相手からしたら片手間のつもりで興味を失っているかもしれない」
「そんなことはない。俺が知っている限り奴は三度戦場に姿を現している。そのどれもが対象となる国を崩壊させ支配する時だ」
「三度? ウィークは傭兵として戦果を上げているけど、ジャクボウがここ数年で支配したのはこの国だけでしょ」
「ジャクボウの王としては一度だ。だが、あいつは精神を別の人間へと移せる魔法を使える。俺の国を崩壊させた時、俺が復讐をした時。そして、ジャクボウの王となってスバラシアを崩壊させた時だ」
「精神を移すってそんなこと……」

 ウィークは情報共有のためにかつて自分が見た出来事を話した。
 ウィークのいた王国はスバラシアと同様に侵略をせず同盟を結び友好関係を保つことを重視していた。しかし、少しずつ同盟を広げる姿をよく思わなかったナキーア国が同盟の中心となっていた王国に侵略戦争を仕掛けた。その結果、王国は崩壊しウィークは一人になる。豪雨が降りしきる中、ウィークは離れた場所から、たくさんの兵士に囲まれ勝どきをあげる王の姿を目撃した。
 マグナの下で修業を積み、漆黒の槍を盗んで復讐しにいくと、王は満面の笑みで答えたという。

「お前の顔を覚えたぞ。ウィーク・レイハント。次あった時はお前を殺してやる」

 死に際の言葉にしてはあまりにも奇妙だった。呪い殺すのか、霊体となり殺しに来るのか。そんなことを考えたこともあったが時は流れ、ウィークは槍を満たすために傭兵として活動を始めた。そして、死に対してあまりにも冷酷になったころ、スバラシア王国を支配する話を持ち掛けられ多額の報酬で請負って女王を殺した。
 その成果は大きく称えられたが最終的に裏切られることになる。

「裏切られた時、その場にジャクボウの王がやってきていた。俺に殺される危険があるのにも関わらずだ。そして奴は言った。『言っただろう、次あった時は殺してやる』と。満身創痍の中なんとか逃げることができた。どうやってにげたかもよく覚えてない。だが、あれが奴だったことだけはわかる」
「で、でも、一体どうやってそんな芸当ができるの?」
「奴は一部の兵士や騎士に刻印を押す。表向きの意味としては成果上げた者に対し信頼できる証として首の後ろに刻印をするんだ。奴は死んだ瞬間、刻印を付けた生きた対象がいればそこに意識を移動させる。その後どのようにして王になったかはわからいが、ジャクボウはスバラシアのように王座を受け継ぐのではなく、王が次の王を決める。おそらく気に入られた後に殺したのだろう」
「だったら何度倒しても意味がないじゃない」
「刻印はそんなに頻繁につけられるものではない。それだけ魔力を消費するからだ。だが、師匠が言っていた大将だけを仕留める作戦は一時的な決着はできるが、奴なら復讐しに戻ってくるだろう」

 この事実はミーアにとってつらいものだった。偽善かもしれないが犠牲者を一人でも減らしたいという思い。だが、半ば全員殺すつもりで戦わなければ刻印による移動を阻止できない。
 
「悪趣味なやつだな。まぁ、それならそれで戦いようはある。でも、武器が必要だ」
「ボルトックとウォースラーが他国から物資の手配をしています。それらでどうにかなりますか?」
「もっとだ。設置、砲撃、投擲、それらを駆使すれば時間稼ぎになる。奴らと戦うためには最初にどれだけ時間を稼げるかがカギになる。王が前に出てきたくなるくらい戦場をかき乱すんだ」
「ですが、これ以上は今の国の状況では」
「俺に当てがある。三日以内に手配しよう。それまで奴らの動向を逐一確認して置いてくれ」

 圧倒的な兵力差の防衛戦。完璧な策などなかったが、それでも戦うための準備は着実に進んでいた。

 ジャクボウ王国では王が戻り不在期間中に起きた異変のすべてを聞いた。

「奴は生きていたか。それにスバラシアが復活。楽しくなってきたじゃないか。奴らはかつての同盟国に力を借りるだろう。だが、この国を正面から相手するのは他国も二つ返事で答えられるわけがない。兵力差ゆえに増援としてではなくあくまで兵器を渡すだけ。ならば見せてやろうではないか。こちらの新たな力を、俺の力を」

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

騎士団の繕い係

あかね
ファンタジー
クレアは城のお針子だ。そこそこ腕はあると自負しているが、ある日やらかしてしまった。その結果の罰則として針子部屋を出て色々なところの繕い物をすることになった。あちこちをめぐって最終的に行きついたのは騎士団。花形を譲って久しいが消えることもないもの。クレアはそこで繕い物をしている人に出会うのだが。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...