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総力戦

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 カナリアはジャクボウ軍が接近しているのを確認した。しかし、その量に唖然とする。

「みんな……。この戦いで次の衝突で最後かもしれない」
「どういうことですか」
「向こうも本気を出してきたみたいね。空、地上、共に大群が迫ってきてる。空船が五隻、竜騎士部隊は百。地上部隊は……十万」
「最低限の兵だけを国に置き後はすべてこちらに向かわせたわけですか」
「ミーア、もし退くならいまだよ。衝突したらもう誰も逃げられない」

 町はいまだ燃えている建物があり、外には兵士たちの死体が山ほどある。生き残っている兵士たちは槍の力で回復したが、一時的に極度の緊張状態から解き放たれたことで戦意は低下しつつあった。
 三騎士やマグナたちは戦える状態であったが、戦闘が始まれば一般兵に比べ何倍もきつい状態で戦うことだろう。
 そのすべてを理解しつつミーアは決断した。

「このまま戦います」
「大砲の弾はもうないよ。矢だってほぼない。接近戦の武器はいくらでもあれど、それ持って戦える人間はそう多くない」
「カナリアさん、私の声をもう一度全員広げてください」
「わかった」

 言霊の範囲を町全体へと広げると、ミーアは全員に向けて言った。

「今現在ジャクボウの軍勢がこちらに向かっています。空も地上も私たちにとって有利な場所は一つもない。その上、先の戦いで多くの兵が戦場に散って行きました。今のスバラシアにとって万全とも言える状況なのに関わらずです。次の戦いですべてが決まるでしょう。もし、戦う自信を失ったのならば、城の後ろから森へ抜けられます。さらに進めば隣国の領土内にある町に続きます。戦いが始まる前に移動するなら今です」
「ミーア様、自ら戦力を削る気ですか!」
「戦いは強制ではない。あくまでこれはスバラシア王国の戦い。ここにいる一人一人に人生がある。私はそれを尊重します。例えこの場を離れても責めたり恨んだりなんてしません。それもまた一つの選択。私が王国を再起させようとしたのと同じ。ですから、戦いが始まる前に森へ」

 町、地下、城内、すべての兵士や民に告げられた。
 一部の民や兵士が去る一方で、多くの人間はその場に残った。その上、戦闘経験のない民でさえも武器を手に持ち戦う意志を示した。

「姫様、減った分は俺らが戦いますよ!」
「どうせここ以外に行く当てもない老いぼれじゃ。腰が砕けてもやらせてもらうわい」
「私は子どもたちにスバラシアで育ってほしい。姫様が家を直してくれるし、こんなにいい人がトップなんだから離れる理由はありませんよ」
「いまこそスバラシアの底力を見せるべきです! 去った人たちだって仕方なく去ったんです。そいつらの分まで俺らがやりますよ」
「守られるだけじゃなく、守る側に立たせてください!」

 一人一人の力は微々たるものだ。長槍を使ったとしても短期間とはいえ訓練したものと比べれば戦力とはいいがたい。だが、この姿は単純な戦力の向上だけでなく、命を懸けて戦う兵士たち、騎士たちの心に届いた。

「やってやりましょう!」
「三騎士に助っ人、それに敵の情報は丸わかり。なんとかなりますって」
「姫様が戦ってんだ。俺らが退く理由はない。散った兵士、去った兵士たちの分までやり遂げましょう!」
「去った者たちがまた戻ってきたくなるようにもう一度輝きを」

 ミーアは自分には何の力もないと思っていた。逃げるために三騎士の手を借り、強くなるためにマグナたちの力を借り、目的を見つけるためにウィークの力を借り、前に進むために槍の力を借りた。
 だが、ミーアの精神には確実に女王と同じものが備わっていた。人を引き付ける魅力。命を賭けたくなる存在感。未来を託したい人間性。戦いの場面では無力だった力が、最終局面で町を一丸とする力になった。
 潤んだ瞳を拭きミーアは言った。

「因縁をここで断ち切ります。王を倒し、再びスバラシアに旗を掲げるのです!」

 数分後、すべての人間が兵士となり町と前線へと配置される。ビートを中心とした町の防衛。ミーアたち率いる前線部隊。兵器はもうない。だが、カナリアもまだ残り状況の報告をつづけた。

「敵さんのおでましだよ」
「えぇ、こちらからも見えています」
「総力戦だ。君が女王になる姿、私に見せてよね」
「その約束、確実に果たして見せます」

 カナリアはジャクボウ軍が近づくのを把握しつつも離れた場所にいくつかの生物反応と魔力反応が点在しているのを確認していた。これは前線部隊が衝突した時からずっとその場に静止しており微動だにしない。誰かがこの戦いを傍観していた。
 すでにそのことはミーアたちに報告しているが、今この状況で隠れている者への対策をとっている余裕はなかった。今はただ、その者たちが敵ではなく、ただ傍観しているのを信じるだけだった。

 ジャクボウ軍を率いるは残った九人の英傑。後方には大量の兵士たち。空には竜騎士部隊と空船。だが、ミーアたちは臆さない。
 衝突する直前、ウィークはミーアに手紙を渡した。

「なにこれ?」
「もし、俺に何かがあったらこれをジャクボウに支配されていた町にいる槍の練習をしている少女に届けてほしい」
「自分で届けないの?」
「俺はこの戦いで槍の力を自分のできる最大限まで使う。そのあと、俺が俺でいられる保証はない。例え死ななくても、約束を果たせないかもしれない。だから、その時は頼む」
「……わかったわ。でも、きっと自分の口で伝えることになるわ。だって、私たちは勝つしあなたはあなたのままだから」

 ミーアの瞳はまっすぐとウィークを見ていた。動揺はない。心の底から敗北など感じていない瞳。そんな瞳を見て、少しでも自分が自分ではなくなるかもしれないと思っていた自身の弱さに気づいた。
 
「君はもう、出会ったときから大きく成長した。俺よりも強いさ」
「だったらこれが終わった後に比べましょうよ。それではっきりさせるわ」
「言ったな。手加減はしないぞ」

 スバラシアとジャクボウの最後の戦いが始まる。
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