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CHAPTER Ⅰ
第51話 S級グール③
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「じゃあ、いくわよ!」
刎野が宣言すると、すうっと空に浮かび上がった。
さっきの強大な魔術で近くの巨人は焼き払っていたが既に新たに6、7体もの巨人がオレたちに近付いてきていた。
「はああ!神級雷電!!」
バチチチチチ!!!
あたりが一気に昼間の様に明るくなった。
大量の雷のうねりが刎野から放たれ、近付く巨人や地面を埋め尽くしているグールの死体を一気に焦がしていった。
吻野の大魔術は、巨人の材料となっている死体の山をも完全に消滅させそうな、それほどの規模の攻撃だった。
オレたちに近付いていた巨人は何もできずに全てただの消し炭と化した。
「はあ、はあ。神級風嵐!!」
スババアアア!!!
今度は、切れ味のある風の嵐だ。
一帯を埋め尽くす蒸気も吹き飛ばしていきながら、とてつもない勢いで遠方まで広がっていき、千城や東班の戦っていた巨人の一部もその巨体を切り刻まれている。
もうこの2発の魔術で巨人は余裕で10体以上倒している。
「す、凄すぎる……!! こんな魔術が存在するのか!」
「これがモモさんの本気!!」
「これが……S級! 格が違う……」
御美苗、アオイ、北岡がただただ驚きの声を上げている。
だが、これは消耗を度外視した攻撃のはずで、本来はそう連発していいものではないのだろう。
オレには刎野の苦しむ顔が見えていた。
「はあっ、はあっ、はあっ! もう一発いくわよ。神級土岩!!」
ズズズズン!!!
地面が盛り上がり、今度は一気に大型トラック並みから小型車並みまでの巨岩が噴火するように飛び出し、無数に敵の頭上に、高速で降り注いだ。
一帯は激しい振動もの凄い衝撃だ。
これでB級グールの生き残りもかなり倒したようだ。
本当にとんでもない威力だ。。さっきバラバラに切り刻まれたグールをさらに巨岩が押し潰していく。
「こ、これは……S級ごと倒しているのでは……?」
「いや、オレもそう思います……」
「魔術の極地か……」
さらに阪本、オレ、須田が言葉を出す。
もう、驚愕の一言だ。
この世界にはこんなことができる人間がいるのか。
S級隊員というものはここまで怪物染みた力を持っているのか。
オレはただただ吻野の魔術に見とれるだけだった。
やがて、砂煙が落ち着くと、あたりに巨人は1体も残っていなかった。
少し生き残ったものも、千城と東班が討伐したようだ。
「刎野! さすがだ! 一気に片付けたな!!」
いつの間にか千城がオレたちのそばに来ていた。
「さすが刎野さんだ。今のはS級を倒したんですか?」
東班もこちら、というか刎野の元へ来ていた。
「はあ、はあ、はあ、いいえ……。みんな、S級はこれから現れると思う……。しばらくは、頼むわ」
「なに!? どういうことだ!?」
千城が質問を返したが、刎野は返事をする前にその場に倒れた。
「モモ!」
セイヤが駆け寄る。
「セイヤ、30分……頼むわね」
「ああ! 任せておけ!」
刎野とセイヤがやりとりをしていると、オレはまた背筋に悪寒を感じた。
振り返ると、まだかなり遠くだが、また巨人が生まれようとしていた。
「またか……!」
おおよそ8、9体だ。
「千城支部長、東さん。モモがあの巨人はあなたたちにお願いしたいそうです」
気が付くとセイヤがオレたちの傍に戻って来ていた。
「セイヤ! モモさんは?」
オレは吻野の方を見たが、廃墟の中でぐったりとしているようだった。
「今は休んでいる。言っていた通り、30分で目覚める。セイ、それまでオレたちで持たすぞ」
「……ああ!」
オレは腕時計を確認して、返事をした。
「なるほどな! わざと刎野を離脱させる作戦か! 一番危険なのはお前達だな! 死ぬんじゃないぞ!」
(オレたちが一番危険……?)
「それはどういう意味ですか?」
「おお! 佐々木か! 敵は一番弱い所を狙うだろう! それが戦いの定石だ! 刎野が気絶したのなら、まずそこを狙う! そして、オレたちをわざとあの巨人の元へ行かせるのならばなおさらだ!」
(……なるほど。今ようやく分かった。モモさんが気にしていたのはこの状況になったオレたちのことだったのか……! このまま戦うとオレたちだけでS級の相手をすることになる。そうわざと仕組んだ。そして、そうなると、オレたちは死人が出るかも知れない……!)
オレは強く奥歯を噛み締めた。
(全ては、オレたちが弱いからだ……!)
「セイ、オレたちが生き残ればモモの作戦は成功だ。分かるな?」
「……ああ、わかったよ」
「千城支部長、東班の皆さんも宜しいでしょうか?」
セイヤが格上の隊員たちに伺いを立てる。
「ああ! 頑張れよ!」
「了解した。だが、勝算はあるのか? これからS級グールが吻野さんを狙ってくるはずだろう?」
「それはやってみないと分かりません。だけど、モモの気持ちには報いたい。いえ、報いて、勝ってみせます!」
東がふっと笑った。
「お前達はもし死んだとしても、その後S級はオレたちが倒してやる。刎野さんには危害は加えさせない。安心しろ」
(オレたちじゃ勝てないって思ってるんだな……)
「そして、この戦いにもし生き残ったら、お前らは中央部に来い」
「!?」
「そういう覚悟があるヤツなら、中央でも仕事が務まる。生き残れよ」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ行くぞ!」
そう言うと東班は、巨人に向かい駆けていった。
「じゃあ、オレも仕事をするとするか! お前達ならできる! 期待しているぞ!」
ドン!
千城も肉体強化を生かしたスピードで敵に向かっていった。
「さて、今のうちに回復をしておくぞ」
オレたちは残りの少ない回復薬を全て飲み、各種装備を整え、設置魔術を手持ちすべて周りに配置した。
千城達は巨人と戦っているが、だんだんと消耗しているのが見ていて分かる。
戦いに次ぐ戦いの後にA級相当をもう10体以上倒しているのだから当然だ。
「10分経ちました。S級は現れるんでしょうか……」
みんなの戦況を見守る中、ユウナが呟いた。
「30分たてば刎野さんも回復するんだろ? 現れなかった時はそのまま、ここを殲滅してオレたちの勝ちだろ。できれば出てくんな」
御美苗がユウナの呟きに返した。
だが、オレは感知してしまった。
上空から今までにない悪寒を感じさせる気配を。
オレは額に汗を浮かべて空を仰ぐと、特段何も見えはしないが、確実に少しずつ近付いてきている。
間違いない。
「……みんな、感知した。来るぞ……」
「!!!」
「どこだ? セイ」
「あの辺だ」
オレはそう言って空を指差した。
「? 何も見えないが?」
オレはもう完全に敵の位置を知覚出来ていた。
近付く気配に強化視覚を凝らすと、何か布の様なものがひらひらと浮かんでいるのが分かった。
「なんだ? あれ……」
「布?」
だんだんと近付いてきて、みんなも少しずつ見えてきたようだ。
真っ黒な布のようで、見えづらい。
その瞬間、その布がボコッと膨らんだ。
「!」
そのまま地面に落ちると、ボコボコと膨らみながらその気配を強めていった。
「敵性反応がありました! 数は1体! ……え、S級グールです!!」
北岡が報告する声は悲鳴に近い。
小さな布切れだったものはグールの肉体を形づくり、3メートルほどの人の形になった。
筋骨隆々な真っ白な肉体で大きさはE級グール程度だ。肩や頭からは短い角が生えている。
顔には赤い目を6つ灯してこちらを見ている。
(これがS級グール……!!)
「みんな、仕方ない。作戦通りだ。……後19分」
御美苗が息を吐いた。
「何としても生き残るぞ」
刎野が宣言すると、すうっと空に浮かび上がった。
さっきの強大な魔術で近くの巨人は焼き払っていたが既に新たに6、7体もの巨人がオレたちに近付いてきていた。
「はああ!神級雷電!!」
バチチチチチ!!!
あたりが一気に昼間の様に明るくなった。
大量の雷のうねりが刎野から放たれ、近付く巨人や地面を埋め尽くしているグールの死体を一気に焦がしていった。
吻野の大魔術は、巨人の材料となっている死体の山をも完全に消滅させそうな、それほどの規模の攻撃だった。
オレたちに近付いていた巨人は何もできずに全てただの消し炭と化した。
「はあ、はあ。神級風嵐!!」
スババアアア!!!
今度は、切れ味のある風の嵐だ。
一帯を埋め尽くす蒸気も吹き飛ばしていきながら、とてつもない勢いで遠方まで広がっていき、千城や東班の戦っていた巨人の一部もその巨体を切り刻まれている。
もうこの2発の魔術で巨人は余裕で10体以上倒している。
「す、凄すぎる……!! こんな魔術が存在するのか!」
「これがモモさんの本気!!」
「これが……S級! 格が違う……」
御美苗、アオイ、北岡がただただ驚きの声を上げている。
だが、これは消耗を度外視した攻撃のはずで、本来はそう連発していいものではないのだろう。
オレには刎野の苦しむ顔が見えていた。
「はあっ、はあっ、はあっ! もう一発いくわよ。神級土岩!!」
ズズズズン!!!
地面が盛り上がり、今度は一気に大型トラック並みから小型車並みまでの巨岩が噴火するように飛び出し、無数に敵の頭上に、高速で降り注いだ。
一帯は激しい振動もの凄い衝撃だ。
これでB級グールの生き残りもかなり倒したようだ。
本当にとんでもない威力だ。。さっきバラバラに切り刻まれたグールをさらに巨岩が押し潰していく。
「こ、これは……S級ごと倒しているのでは……?」
「いや、オレもそう思います……」
「魔術の極地か……」
さらに阪本、オレ、須田が言葉を出す。
もう、驚愕の一言だ。
この世界にはこんなことができる人間がいるのか。
S級隊員というものはここまで怪物染みた力を持っているのか。
オレはただただ吻野の魔術に見とれるだけだった。
やがて、砂煙が落ち着くと、あたりに巨人は1体も残っていなかった。
少し生き残ったものも、千城と東班が討伐したようだ。
「刎野! さすがだ! 一気に片付けたな!!」
いつの間にか千城がオレたちのそばに来ていた。
「さすが刎野さんだ。今のはS級を倒したんですか?」
東班もこちら、というか刎野の元へ来ていた。
「はあ、はあ、はあ、いいえ……。みんな、S級はこれから現れると思う……。しばらくは、頼むわ」
「なに!? どういうことだ!?」
千城が質問を返したが、刎野は返事をする前にその場に倒れた。
「モモ!」
セイヤが駆け寄る。
「セイヤ、30分……頼むわね」
「ああ! 任せておけ!」
刎野とセイヤがやりとりをしていると、オレはまた背筋に悪寒を感じた。
振り返ると、まだかなり遠くだが、また巨人が生まれようとしていた。
「またか……!」
おおよそ8、9体だ。
「千城支部長、東さん。モモがあの巨人はあなたたちにお願いしたいそうです」
気が付くとセイヤがオレたちの傍に戻って来ていた。
「セイヤ! モモさんは?」
オレは吻野の方を見たが、廃墟の中でぐったりとしているようだった。
「今は休んでいる。言っていた通り、30分で目覚める。セイ、それまでオレたちで持たすぞ」
「……ああ!」
オレは腕時計を確認して、返事をした。
「なるほどな! わざと刎野を離脱させる作戦か! 一番危険なのはお前達だな! 死ぬんじゃないぞ!」
(オレたちが一番危険……?)
「それはどういう意味ですか?」
「おお! 佐々木か! 敵は一番弱い所を狙うだろう! それが戦いの定石だ! 刎野が気絶したのなら、まずそこを狙う! そして、オレたちをわざとあの巨人の元へ行かせるのならばなおさらだ!」
(……なるほど。今ようやく分かった。モモさんが気にしていたのはこの状況になったオレたちのことだったのか……! このまま戦うとオレたちだけでS級の相手をすることになる。そうわざと仕組んだ。そして、そうなると、オレたちは死人が出るかも知れない……!)
オレは強く奥歯を噛み締めた。
(全ては、オレたちが弱いからだ……!)
「セイ、オレたちが生き残ればモモの作戦は成功だ。分かるな?」
「……ああ、わかったよ」
「千城支部長、東班の皆さんも宜しいでしょうか?」
セイヤが格上の隊員たちに伺いを立てる。
「ああ! 頑張れよ!」
「了解した。だが、勝算はあるのか? これからS級グールが吻野さんを狙ってくるはずだろう?」
「それはやってみないと分かりません。だけど、モモの気持ちには報いたい。いえ、報いて、勝ってみせます!」
東がふっと笑った。
「お前達はもし死んだとしても、その後S級はオレたちが倒してやる。刎野さんには危害は加えさせない。安心しろ」
(オレたちじゃ勝てないって思ってるんだな……)
「そして、この戦いにもし生き残ったら、お前らは中央部に来い」
「!?」
「そういう覚悟があるヤツなら、中央でも仕事が務まる。生き残れよ」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ行くぞ!」
そう言うと東班は、巨人に向かい駆けていった。
「じゃあ、オレも仕事をするとするか! お前達ならできる! 期待しているぞ!」
ドン!
千城も肉体強化を生かしたスピードで敵に向かっていった。
「さて、今のうちに回復をしておくぞ」
オレたちは残りの少ない回復薬を全て飲み、各種装備を整え、設置魔術を手持ちすべて周りに配置した。
千城達は巨人と戦っているが、だんだんと消耗しているのが見ていて分かる。
戦いに次ぐ戦いの後にA級相当をもう10体以上倒しているのだから当然だ。
「10分経ちました。S級は現れるんでしょうか……」
みんなの戦況を見守る中、ユウナが呟いた。
「30分たてば刎野さんも回復するんだろ? 現れなかった時はそのまま、ここを殲滅してオレたちの勝ちだろ。できれば出てくんな」
御美苗がユウナの呟きに返した。
だが、オレは感知してしまった。
上空から今までにない悪寒を感じさせる気配を。
オレは額に汗を浮かべて空を仰ぐと、特段何も見えはしないが、確実に少しずつ近付いてきている。
間違いない。
「……みんな、感知した。来るぞ……」
「!!!」
「どこだ? セイ」
「あの辺だ」
オレはそう言って空を指差した。
「? 何も見えないが?」
オレはもう完全に敵の位置を知覚出来ていた。
近付く気配に強化視覚を凝らすと、何か布の様なものがひらひらと浮かんでいるのが分かった。
「なんだ? あれ……」
「布?」
だんだんと近付いてきて、みんなも少しずつ見えてきたようだ。
真っ黒な布のようで、見えづらい。
その瞬間、その布がボコッと膨らんだ。
「!」
そのまま地面に落ちると、ボコボコと膨らみながらその気配を強めていった。
「敵性反応がありました! 数は1体! ……え、S級グールです!!」
北岡が報告する声は悲鳴に近い。
小さな布切れだったものはグールの肉体を形づくり、3メートルほどの人の形になった。
筋骨隆々な真っ白な肉体で大きさはE級グール程度だ。肩や頭からは短い角が生えている。
顔には赤い目を6つ灯してこちらを見ている。
(これがS級グール……!!)
「みんな、仕方ない。作戦通りだ。……後19分」
御美苗が息を吐いた。
「何としても生き残るぞ」
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