グールムーンワールド

神坂 セイ

文字の大きさ
上 下
62 / 264
CHAPTER Ⅱ

第62話 海洋型グール

しおりを挟む
「ええ……あれが海洋型……?」

 オレは思わず素直な感想を口にしていた。
 
 防壁の南側にまで辿り着いて目に入ったのは海洋型と呼ばれるグールの大群だ。

 オレのイメージでは海洋型グールの見た目は半魚人とかだろうと思っていたのだが、実際はまさかの恐竜だった。体長は2、3メートルほどだが、毛のない二足歩行型で小さい前足がある。まんま、ティラノサウルスを小さくしたようだ。だが、口から光線を出している者や、本当のティラノサウルスくらいの大きさのグールも見える。
 バリエーションも豊かで、図鑑やネットで見たことのある恐竜たちが赤い目を血走らせて防壁へと殺到していた。

「海洋型グールを討伐するぞ!」

「了解!」

 セイヤの指示にオレたちも気合いを入れて臨む。
 激しい攻撃を加えつつ、防壁上のグールの討伐も進めていき、南部防壁の上にいるはずの刎野と東班を探した。

 南部に侵攻している海洋型の数はあらかじめ聞いてはいたがすさまじく、都市の隊員にもすでに多数の被害が出ているのが見えた。
 オレたちはなるべくグールの数を減らしながら南部防壁の中央に向かって進んでいた。だが、敵のおびただしい数のせいで思うようには進めず、さらに数時間の戦闘を行った頃にようやく防壁の中央部が見えてきた。

 各防壁の中央など要所には壁の上に建物が建築されていて物見台や倉庫、詰所などの役割を果たしていた。
 そしてそこ場所のひとつから大規模な魔術を使用している隊員がいるのが分かった。

「あそこだ!」

 セイヤが叫ぶ。もうオレたちも合計すると千以上はグールを殲滅している。何時間も戦闘を続けているし、疲労はかなりのレベルだ。

「おおお!」

 オレは肉体強化を実施して高く跳躍、防壁上のグールをマーキングした。
 追尾能力付加デバイスで弾丸に込められた魔素の3割程を使用して追尾機能を付加ができる。今のように敵味方入り乱れる場合には極めて有効だ。オレは散弾型、追尾型の弾丸を複合的に何十発と発射し、一気に数十体近い下級グールを討伐した。

「す……すごい……」
「あれが……主都の部隊の実力……」

 誰かの声が聞こえる。オレも少しは強くなれたみたいだなと感じた。かすかな達成感を味わいながら、ローカル通信インカムからの反応を聞いた。

『みんな聞こえるか! こちらは東だ。海洋型のB級群体の反応がある。オレたちで迎撃するぞ!』

 通信装置からは東の声が聞こえてきた。これはオレたち増援部隊の中のみに聞こえる通信となっている。

「みんな、あれが海洋型のB級です!」

 ユウナがティラノサウルスを指差した。

(え!? あれでB級!? デカいな!)

 ユウナが示したB級は、体長が15メートルはある恐竜だ。通常のA級グールでさえ、10メートル程の大きさなので体の大きさは海洋型のB級の方が大きいことになる。
 そして既に遠くに見えている海の方からその恐竜が少なくとも100体以上はこちらに向かっているのが見えた。
 
 巨体を揺らす恐竜たち、おそらくB級相当のグールはティラノサウルス以外にも、首の長いやつ、トリケラっぽいやつ、プテラノドン型で空を飛んでいるやつなどと多彩だ。まるでジュラ何とかという映画のようだ。

『迎撃するぞ!』

「了解!」

 オレとユウナは遠距離攻撃を始め、セイヤとアオイは引き続き防壁周りのグールを討伐していた。

 遠くから小見苗の槍や須田の魔術が恐竜に飛んでいくが見えた。新トウキョウ都市から来たメンバーはみんなこの防壁に集まっているようだ。ただ、刎野の気配だけが感じられなかった。

『……モモさん? 居るよな?』

 オレは若干の不安を抱えて、通信を開いた。

『佐々木くん、どうしたの? 私も南部防壁に居るわよ。ちょっと大技を使ったから休んでいるの。今までも何度かあったことでしょう?』

『そ、そうか! そうだよな! この調子で頑張ろう!』

『……ええ』

 オレは吻野の声を聞いて理解した。刎野はこの都市の隊員を守る為に相当魔素を消費してしまっている。 おそらくしばらくは戦線に復帰できないだろう。そして彼女はそういった弱味を見せる事を嫌う。刎野はいつも無理をして、戦局を動かす戦い方をする。
 オレたちもその意図を汲んで余計なことは言わない。
 御美苗たちもそのことには気付いただろう。

「やるしかない! じゃあ、行くぞ!」

 オレは追尾能力付加デバイスを遠距離射撃デバイスに切り替えた。この魔銃に取り付けたデバイスはマルチタスクタイプで、いちいち別の機械をセットし直さなくても色々な調整ができる。銃身、デバイスの設定は腕に取り付けたガントレットで調整する。
 ガントレットは銃と連動していて、色々な設定をそこで行える。無線式で極端な話、銃を離れた場所に置いてあっても設定操作は可能だ。

ドドド!!

 オレの発射した光線が大型の恐竜を次々と貫いていく。東、中井、小見苗やユウナ、坂本、須田など遠距離攻撃を得意とする隊員の攻撃も雨あられと恐竜の群れを打ち倒して行き、すぐにB級群体は殲滅できた。

『だいたいは殲滅できたみたいよ、みんな一度中央の監視塔に集まって』

 刎野からの指示でオレたちは一度集合することになった。



「モモさん! 東さん! 小見苗さん! みんな無事ですね!」

「当然でしょ」
「オレたちがやられては援軍の意味がない」
「いや、オレたちはギリギリだったよ……」

 刎野、東はいつものように強気、というか便りになる発言だが、小さく小美苗が弱音を吐いていた。
 オレたちは中央の建物に集合し、およそ8時間ぶりに再会を果たした。

「みんなご苦労様。さ、こちらへ座って」

 刎野がみんなを促すと、大きなテーブルがあり、そこには作戦会議を開いていたであろう隊員たちがいた。その隊員たちがオレたちに気付くと立ち上がってこちらを向いた。

「刎野さん、そして皆様! 今回の応援、誠に感謝しております!!」

 そう言って隊長らしき青年がペコリと頭を下げた。

(おお、礼儀正しい人だな)

「自分は、志布志班の班長をしています、志布志カイトと言います! 宜しくお願いします!」

 志布志が再度頭を下げると、周りの隊員たちも同じように頭を下げた。

 オレたちが挨拶を交わし終わると、志布志から現状の報告へと入った。

「では、現在の戦況の報告を致します。グールの侵攻が始まっておよそ11時間経ち、皆さんのおかげで敵討伐数は40000に達しました。敵の残数はおよそ30000になります」

(おお! もう少し頑張れば防衛できそうだな)

「ですが、ここまででB級以上の討伐数が1000も越えていません。敵は主力を残している可能性があります。また、東、西の防壁外にてA級グールも複数確認されております。敵はここから何かしらの攻勢に出てくる見込みです」

 吻野が顎に指を当て考え事をしている。

「東西に現れたA級グールの数は?」

 吻野の質問には志布志とオレたちのそばに控えていた防衛隊員が答えた。

「は! 現在それぞれ10体程とのことです」

「……南部に海洋型のA級は確認できてる?」

「いいえ! 現在のところ南部では未確認です」

「そう……」

 吻野はまだ何か考えているようだが顔をオレたちに向けた。

「誰か司令型を発見、もしくは感知出来た?」

 オレたちは全員が首を横に振った。

(東西でそれぞれグールがまとまってるならそこに司令型がいるんだろうけどな。でも南側の司令型はどこにいるんだろう?)

 オレも大雑把に予測だけはできるが、まだまだ司令型の居場所は不明だ。

「まだ、敵の狙いが見えないわ。引き続き防衛にあたりましょう。敵数が減っているからといって油断はしないように」

「了解!!」

 敵はまだ主力を残している。
 つまり、この防衛戦争の本番はまだ先だ。
しおりを挟む

処理中です...