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CHAPTER Ⅱ
第63話 南部防衛戦
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オレたち中央部隊は戦況が均衡している今、一旦休憩を取り魔素の回復にあたっていた。まだかなりの数のグールは残っているが、この先に現れるであろう上級グールに備えてのことだった。
「交戦開始より13時間経過、敵殲滅数は45000に達しました! 討伐防衛隊員の死者数は1000を越えています!」
オレは防衛隊員の報告を聞き戦況の確認をしていた。1000人の隊員がすでに命を散らしたと聞いて落ち着くことができなかった。
「モモさん、オレたちはここで休んでいていいのかな? 応援に行った方がいいんじゃないか?」
オレは刎野に聞いてみた。
「今はいいわ。こちらの疲弊を見計らって上級グールが攻めてくるはずだし、その時に私達が消耗していては意味がないの」
吻野は落ち着いて椅子に座っているままだ。
「……だけど、都市の人員の犠牲はかなりの数になってるし、ずっと休んでるってのも……」
「佐々木くん、私達は中央の高戦力部隊よ。A級が群れで現れたらこの都市の部隊では対応しきれないわ。その備えよ。それに私はそれ以上の敵にも備えなければいけないわ」
「それ以上?」
「S級よ」
「え?」
「刎野さん、ここにはS級グールがいるのですか?」
東も驚いているようだ。
オレたちは少し前にこのメンバーでS級に苦い思いをさせられたばかりだ。
「ええ、絶対では無いけれど想定は必要よ。S級はいないだろうという予測は油断よ」
「そう、か……」
オレはそこまでではないだろうと思ったが、東は知らず知らずに自分が油断をしていたのだと考えたようだ。ふうと息を吐いた。
「それに、70000もの大群を操るには司令型が5、6体は必要なはず。その取り纏め役はいるはずよ」
「そうか、それがS級……」
オレは刎野の考えに確かにそうだなと返事をした。
「ええ」
オレは過去に新ツクバ都市に攻めてきたグールを思い出していた。あの時は30000のグールに対して2体の司令型だったが、 今回はその倍以上の数だ。冷静に考えると厳しい戦況だと言える。刎野は戦局を見据え、今は休むと決めていると理解した。
「すいません、分かりました……」
「いいわ」
それからさらに数時間が過ぎた。
刎野ももうかなり回復したようだ。戦線にも問題なく復帰できるだろうというのが分かった。
オレの感知能力の一環だ。
「報告! 南部にてA級群体が現れました! 海洋型のA級です!」
(A級群体!? A級が100体以上ってことか……!)
「そう。いよいよね。現在の敵の総殲滅数は?」
「およそ50000弱です!」
「了解、敵は総数の8割減で主力投入というわけね。みんな殲滅に向かうわよ」
「了解!!」
オレたちが外に出ると、海の方に巨大な怪獣の群れが居るのが見えた。防壁の半分以上の体長のものが多い。
ここの防壁は40メートルらしいので、敵の大きさは20メートル越えだ。
「デカいな!」
「狙いやすい的よ。行くわよ!神級雷電!」
「うおおお!!」
(いきなりか!)
海洋型A級グールは確かに脅威だったが、オレたちの攻撃で一体、また一体と敵の数を減らしていった。
さすがにA級となるとそう簡単には倒せない。
「す、凄い! A級を30体殲滅! 残りは80程です!」
防衛隊員の声に刎野が反応した。
「ちっ! 追加が来たわよ。数を報告して!」
「えっ!? あっ! A級の背後にB級群体……、総数500!」
「北、東、西の状況も報告して!」
「はっ、はい!……東西にそれぞれ……! B級群体が現れました……そ、そんな……500体ずつです……!」
「北は!?」
「……いえ、いまの所は敵の増援は確認できておりません」
「……御美苗班は東! セイヤ達は西に戻って、B級と応戦して!」
「え! 刎野さん! ここは持つんですか!?」
「そうだ! こんな難局をモモだけに任せられない」
「私が持たせる! それに東班もいるわ! 小見苗くん、東側にはA級の他に司令型も居るはずよ! それを討伐してきて! 西側も同じよ! いいわねセイヤ!」
「……了解した」
セイヤも声を絞り出す。
刎野はここで潰れ役を引き受けるつもりだろう。
吻野の性格をよく知るセイヤはそれを理解した。前にS級と戦ったときもそうだった。
「みんな、急いで司令型を討伐しよう」
「了解!」
オレたちは西側の防壁に急いだ。
防壁近くにも大群のグールがいるが、一般の都市隊員に任せ、セイヤは高速で移動した。オレも急いで肉体強化を掛けてセイヤを追った。
「ユウナ! アオイ! 先に行ってるぞ!」
「わ、わかった!」
そこまで広い都市ではないといえ、南側から西側への移動は20分は掛かった。息を切らせて西側にたどり着くと、防壁の上にまでB級が登ってきており、かなりの惨状と化してしまっていた。
「セイ! 急いで援護するぞ!」
「ああ!」
セイヤはすぐに剣に魔素を込めて、手近のグールを斬り伏せた。そしてオレも追尾弾丸を雨のように発射し、犠牲になりかけた隊員を助けていった。
「た、助かった!」
「ありがとう……」
「まだまだですよ! 踏ん張りましょう!」
オレは高跳躍からの追尾弾丸、高速移動をしながらの拳蹴を繰り返して十体以上のグールを討伐してした。セイヤもかなりの速度で移動しつつ、剣を振るっていた。
「はあ、はあ、よし! 危ないところは脱したな! 今度は防壁外のB級を倒すぞ!」
「「おお!」」
オレが号令をあげるとみんなも合わせてくれ、どんどんとグールを倒していった。西側の防壁にはまだ4000近い兵がいるのでオレたちが加わることで盛り返したようだ。
「帝級火炎球!」
「帝級貫通散弾剣!」
ドドドドン!!
「ユウナ! アオイ!」
「はえーよ! 佐々木!」
「やっと追い付きました!」
これでさらにここの防衛は磐石だ。時間を掛けて殲滅を進めようと考えていると、通信インカムから防衛隊員の焦った声が聞こえた。
『北部に敵の増援を確認しました! B級の大規模群体です!』
(うそだろ!!?)
『現在の敵殲滅数は53000! 北部には石動市長と近衛部隊が対処に向かいました! 新トウキョウ都市の隊員の皆様! 増援をお願いします!』
(増援って……ここを抜けたら……)
『みんな、聞こえる?』
「モモさん!」
『非常に厳しい状況になったわ。ここからの巻き返しは困難極まりないわ。だけど私たちはここで中央部隊として覚悟を決めて防衛にあたるしかないわ』
(何が言いたいんだ……?)
『南部からこれ以上の増援は出せない。よって私達増援部隊から、東西の2班をさらに分割して北部へ援護に向かってもらうわ』
「え?」
『北部へは各班からそれぞれ2名ずつ増援に向かって』
『モモ! それでは東西も危険ではないのか?』
『……セイヤ、事態はそれだけ深刻なのよ……』
『……』
『結城、大将がそう言ってるんだ。仕方ないだろう。東側からはオレと、須田。北部へ向かうぞ』
小見苗は経験値が違うのか、刎野の指示をすんなりと受け入れた。
おそらくこういった切羽詰まった状況も何度か通ってきたのだろう。経験値の差だ。
「……北部は一般兵の数が少ない、よって殲滅力のある……セイとユウナ、行ってくれるか?」
「ああ!」
「もちろんです」
オレとユウナは力強く返事をした。
北部にいるのはB級群体だけではないだろう。そして残っている討伐防衛隊員の数は2000人ちょっとだ。
東西は4000人近くずつ居るので、北部は単純な戦力も低い。そこへ2人だけを送ることがどれだけ危険なのかをセイヤもわかっているはずだ。
「セイヤ。オレたちは生き残る。また後で会おう」
「……ああ」
オレとユウナは新たな戦場に向かい、轟音の響く都市の中を駆けた。
「交戦開始より13時間経過、敵殲滅数は45000に達しました! 討伐防衛隊員の死者数は1000を越えています!」
オレは防衛隊員の報告を聞き戦況の確認をしていた。1000人の隊員がすでに命を散らしたと聞いて落ち着くことができなかった。
「モモさん、オレたちはここで休んでいていいのかな? 応援に行った方がいいんじゃないか?」
オレは刎野に聞いてみた。
「今はいいわ。こちらの疲弊を見計らって上級グールが攻めてくるはずだし、その時に私達が消耗していては意味がないの」
吻野は落ち着いて椅子に座っているままだ。
「……だけど、都市の人員の犠牲はかなりの数になってるし、ずっと休んでるってのも……」
「佐々木くん、私達は中央の高戦力部隊よ。A級が群れで現れたらこの都市の部隊では対応しきれないわ。その備えよ。それに私はそれ以上の敵にも備えなければいけないわ」
「それ以上?」
「S級よ」
「え?」
「刎野さん、ここにはS級グールがいるのですか?」
東も驚いているようだ。
オレたちは少し前にこのメンバーでS級に苦い思いをさせられたばかりだ。
「ええ、絶対では無いけれど想定は必要よ。S級はいないだろうという予測は油断よ」
「そう、か……」
オレはそこまでではないだろうと思ったが、東は知らず知らずに自分が油断をしていたのだと考えたようだ。ふうと息を吐いた。
「それに、70000もの大群を操るには司令型が5、6体は必要なはず。その取り纏め役はいるはずよ」
「そうか、それがS級……」
オレは刎野の考えに確かにそうだなと返事をした。
「ええ」
オレは過去に新ツクバ都市に攻めてきたグールを思い出していた。あの時は30000のグールに対して2体の司令型だったが、 今回はその倍以上の数だ。冷静に考えると厳しい戦況だと言える。刎野は戦局を見据え、今は休むと決めていると理解した。
「すいません、分かりました……」
「いいわ」
それからさらに数時間が過ぎた。
刎野ももうかなり回復したようだ。戦線にも問題なく復帰できるだろうというのが分かった。
オレの感知能力の一環だ。
「報告! 南部にてA級群体が現れました! 海洋型のA級です!」
(A級群体!? A級が100体以上ってことか……!)
「そう。いよいよね。現在の敵の総殲滅数は?」
「およそ50000弱です!」
「了解、敵は総数の8割減で主力投入というわけね。みんな殲滅に向かうわよ」
「了解!!」
オレたちが外に出ると、海の方に巨大な怪獣の群れが居るのが見えた。防壁の半分以上の体長のものが多い。
ここの防壁は40メートルらしいので、敵の大きさは20メートル越えだ。
「デカいな!」
「狙いやすい的よ。行くわよ!神級雷電!」
「うおおお!!」
(いきなりか!)
海洋型A級グールは確かに脅威だったが、オレたちの攻撃で一体、また一体と敵の数を減らしていった。
さすがにA級となるとそう簡単には倒せない。
「す、凄い! A級を30体殲滅! 残りは80程です!」
防衛隊員の声に刎野が反応した。
「ちっ! 追加が来たわよ。数を報告して!」
「えっ!? あっ! A級の背後にB級群体……、総数500!」
「北、東、西の状況も報告して!」
「はっ、はい!……東西にそれぞれ……! B級群体が現れました……そ、そんな……500体ずつです……!」
「北は!?」
「……いえ、いまの所は敵の増援は確認できておりません」
「……御美苗班は東! セイヤ達は西に戻って、B級と応戦して!」
「え! 刎野さん! ここは持つんですか!?」
「そうだ! こんな難局をモモだけに任せられない」
「私が持たせる! それに東班もいるわ! 小見苗くん、東側にはA級の他に司令型も居るはずよ! それを討伐してきて! 西側も同じよ! いいわねセイヤ!」
「……了解した」
セイヤも声を絞り出す。
刎野はここで潰れ役を引き受けるつもりだろう。
吻野の性格をよく知るセイヤはそれを理解した。前にS級と戦ったときもそうだった。
「みんな、急いで司令型を討伐しよう」
「了解!」
オレたちは西側の防壁に急いだ。
防壁近くにも大群のグールがいるが、一般の都市隊員に任せ、セイヤは高速で移動した。オレも急いで肉体強化を掛けてセイヤを追った。
「ユウナ! アオイ! 先に行ってるぞ!」
「わ、わかった!」
そこまで広い都市ではないといえ、南側から西側への移動は20分は掛かった。息を切らせて西側にたどり着くと、防壁の上にまでB級が登ってきており、かなりの惨状と化してしまっていた。
「セイ! 急いで援護するぞ!」
「ああ!」
セイヤはすぐに剣に魔素を込めて、手近のグールを斬り伏せた。そしてオレも追尾弾丸を雨のように発射し、犠牲になりかけた隊員を助けていった。
「た、助かった!」
「ありがとう……」
「まだまだですよ! 踏ん張りましょう!」
オレは高跳躍からの追尾弾丸、高速移動をしながらの拳蹴を繰り返して十体以上のグールを討伐してした。セイヤもかなりの速度で移動しつつ、剣を振るっていた。
「はあ、はあ、よし! 危ないところは脱したな! 今度は防壁外のB級を倒すぞ!」
「「おお!」」
オレが号令をあげるとみんなも合わせてくれ、どんどんとグールを倒していった。西側の防壁にはまだ4000近い兵がいるのでオレたちが加わることで盛り返したようだ。
「帝級火炎球!」
「帝級貫通散弾剣!」
ドドドドン!!
「ユウナ! アオイ!」
「はえーよ! 佐々木!」
「やっと追い付きました!」
これでさらにここの防衛は磐石だ。時間を掛けて殲滅を進めようと考えていると、通信インカムから防衛隊員の焦った声が聞こえた。
『北部に敵の増援を確認しました! B級の大規模群体です!』
(うそだろ!!?)
『現在の敵殲滅数は53000! 北部には石動市長と近衛部隊が対処に向かいました! 新トウキョウ都市の隊員の皆様! 増援をお願いします!』
(増援って……ここを抜けたら……)
『みんな、聞こえる?』
「モモさん!」
『非常に厳しい状況になったわ。ここからの巻き返しは困難極まりないわ。だけど私たちはここで中央部隊として覚悟を決めて防衛にあたるしかないわ』
(何が言いたいんだ……?)
『南部からこれ以上の増援は出せない。よって私達増援部隊から、東西の2班をさらに分割して北部へ援護に向かってもらうわ』
「え?」
『北部へは各班からそれぞれ2名ずつ増援に向かって』
『モモ! それでは東西も危険ではないのか?』
『……セイヤ、事態はそれだけ深刻なのよ……』
『……』
『結城、大将がそう言ってるんだ。仕方ないだろう。東側からはオレと、須田。北部へ向かうぞ』
小見苗は経験値が違うのか、刎野の指示をすんなりと受け入れた。
おそらくこういった切羽詰まった状況も何度か通ってきたのだろう。経験値の差だ。
「……北部は一般兵の数が少ない、よって殲滅力のある……セイとユウナ、行ってくれるか?」
「ああ!」
「もちろんです」
オレとユウナは力強く返事をした。
北部にいるのはB級群体だけではないだろう。そして残っている討伐防衛隊員の数は2000人ちょっとだ。
東西は4000人近くずつ居るので、北部は単純な戦力も低い。そこへ2人だけを送ることがどれだけ危険なのかをセイヤもわかっているはずだ。
「セイヤ。オレたちは生き残る。また後で会おう」
「……ああ」
オレとユウナは新たな戦場に向かい、轟音の響く都市の中を駆けた。
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