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25話
「ちりちゃん……?」
美人でスタイルもよくて、みんなからちやほやされてきた姉が……自分を妬んでいた? そんなことあるはずがないのに。
「だって考えてもみてよ。『花菜実ちゃんの方が可愛い』『花菜実ちゃんにすればよかった』そんなことばかり言われてごらん? 妬むな、っていう方が無理よ。……実際、かなだってそうだったんでしょ?」
確かに、花菜実はずっと千里を妬んでいた。「普通が一番」と口にしながらも、姉が羨ましい、あんなルックスで生まれたかった――そんな風に思っていた。けれど、やっぱりお姉ちゃんが大好きで大好きで。
だからこそ、その二つの相反する感情の狭間で悩んできた。
だからこそ、あの時責めてしまったことをずっと悔やんできた。
「ほんとはさ、かなが悩んで泣いている時に『誰々がかなのこと可愛いって言ってるの』って、教えてあげればよかったんだろうけど――」
心の奥では花菜実を妬んで羨む気持ちがあって。
だから今までずっと黙ってきたのだと、千里が告白する。
「ずっとずっと、『かなみたいに小さくて可愛く生まれたかったなぁ』って、思ってたんだよ、私」
「ちりちゃん……」
何だか信じられない気持ちでいっぱいだった。花菜実が千里を羨む場面は相当数あったけれど、まさかその逆が存在したなんて。
「でも、私……告白とかされたこと、ほとんどないんだけど」
一度もなかったと言えば嘘になるが、あまり合わなさそうな人だったり、その時に好きな人がいたりで、上手くいった試しがなかった。
「あー……それね、多分、尚弥のせい」
そもそも『おまえより花菜実ちゃんの方が可愛い』などと千里に平気で言い放てるような男を、大事な次妹に引き合わせるわけにはいかない。そんな男は絶対に花菜実だって泣かせるに決まっている――尚弥はそういう輩が妹に近づかないよう、手を回していたらしい。一体どんな手を使ったのかは、千里も知らないそうだ。
「尚ちゃんが……」
「尚弥はかなが大学でひどい目に遭った時も、自分のせいだって言ってかなり怒ってたから」
ははは、と千里が乾いた笑いを漏らす。
尚弥も千里も、こんなにも自分のことを愛してくれてるんだ。何より、千里も自分と同じ、普通の女の子だったんだ――そう思うと、心の中がすぅっと晴れ渡る気がした。
「私が『謝られても困る』って言ったのは、そういう意味なのよ。つまりは『お互い様』ってこと! 今まで黙っててごめんね? かな」
千里がぎゅっ、と花菜実を抱きしめた。
「私も、ごめん……ちりちゃん、大好きだよ」
花菜実は本心からの言葉を口端に乗せた。ずっとずっと抱いていた罪悪感と劣等感がようやく消化出来た嬉しさで、めいっぱい千里に抱きついた。
「私も、かながだ~い好き! ……だから、この間心配で尾行しちゃったし!」
「あー……」
動物園で兄姉に会った時のことを思い出す。あの時の千里は本当に花菜実を心配してくれていた。
「どうなの? 水科さんって、いい人?」
「……うん、いい人だよ。昨日もね、千里さんとちゃんと仲直りした方がいい、って励ましてくれたの」
花菜実はほんのりと頬を染めてうなずいた。
「へぇ~そっか。今、かな幸せそうな表情してるもん、多分そうだろうな、って思ったけど。……実はね、私もつきあってる人いるの」
「そうなの? アメリカ人?」
「日系アメリカ人で、和食レストランを経営してる人なんだけどね。こんな私でも可愛い、って言ってくれる人なの。背も私とあまり変わらなくて、ヒール履くと私の方が高くなっちゃうんだけど、そんなの全然気にしない、って言ってくれるし……多分、結婚すると思う」
そう報告してくれた千里こそ、とても幸せそうで。喜びをおすそ分けしてもらったようで、花菜実も嬉しくなった。
「そうなの? おめでとう! ちりちゃん!」
「このこと、かなにしか話してないから。……尚弥とお父さんたちにはまだ内緒にしておいて? 二人だけの秘密ね?」
「うん、分かった」
「かなも、水科さんのこととか報告してね」
「ん……」
元々仲良し姉妹だった二人。わだかまりさえなくなってしまえば、後は元に戻るだけで。父が嫉妬するほどに仲睦まじく、べったり過ごしていた。二人で一緒に豆大福を頬張り、その日は千里の部屋で一緒に寝た。
そして次の日の朝、花菜実は幸希にメッセージを送った。
【昨日、一昨日はありがとうございました。お陰で、姉と仲直りすることが出来ました。今度、お礼させてください。】
直接的に仲直りに関与したのは尚弥だったものの、幸希が背中を押してくれなければ、実家に帰ること自体を躊躇し、直前にドタキャンをしていた可能性もあった。だから、仲直りを勧めてくれて、確実に実家まで彼女を送ってくれた幸希には、感謝してもしきれない。
そういう気持ちを込めて送ったところ、
【そうか、よかった。僕も嬉しいよ。お礼は、一昨日の続き……だったら最高に嬉しいけど。今度は寝ないでくれると助かる。】
と、返信が来た。
「一昨日の続き……? ……あ」
その文言が意味することを理解し、一瞬にして顔が赤く染まった花菜実だった。
美人でスタイルもよくて、みんなからちやほやされてきた姉が……自分を妬んでいた? そんなことあるはずがないのに。
「だって考えてもみてよ。『花菜実ちゃんの方が可愛い』『花菜実ちゃんにすればよかった』そんなことばかり言われてごらん? 妬むな、っていう方が無理よ。……実際、かなだってそうだったんでしょ?」
確かに、花菜実はずっと千里を妬んでいた。「普通が一番」と口にしながらも、姉が羨ましい、あんなルックスで生まれたかった――そんな風に思っていた。けれど、やっぱりお姉ちゃんが大好きで大好きで。
だからこそ、その二つの相反する感情の狭間で悩んできた。
だからこそ、あの時責めてしまったことをずっと悔やんできた。
「ほんとはさ、かなが悩んで泣いている時に『誰々がかなのこと可愛いって言ってるの』って、教えてあげればよかったんだろうけど――」
心の奥では花菜実を妬んで羨む気持ちがあって。
だから今までずっと黙ってきたのだと、千里が告白する。
「ずっとずっと、『かなみたいに小さくて可愛く生まれたかったなぁ』って、思ってたんだよ、私」
「ちりちゃん……」
何だか信じられない気持ちでいっぱいだった。花菜実が千里を羨む場面は相当数あったけれど、まさかその逆が存在したなんて。
「でも、私……告白とかされたこと、ほとんどないんだけど」
一度もなかったと言えば嘘になるが、あまり合わなさそうな人だったり、その時に好きな人がいたりで、上手くいった試しがなかった。
「あー……それね、多分、尚弥のせい」
そもそも『おまえより花菜実ちゃんの方が可愛い』などと千里に平気で言い放てるような男を、大事な次妹に引き合わせるわけにはいかない。そんな男は絶対に花菜実だって泣かせるに決まっている――尚弥はそういう輩が妹に近づかないよう、手を回していたらしい。一体どんな手を使ったのかは、千里も知らないそうだ。
「尚ちゃんが……」
「尚弥はかなが大学でひどい目に遭った時も、自分のせいだって言ってかなり怒ってたから」
ははは、と千里が乾いた笑いを漏らす。
尚弥も千里も、こんなにも自分のことを愛してくれてるんだ。何より、千里も自分と同じ、普通の女の子だったんだ――そう思うと、心の中がすぅっと晴れ渡る気がした。
「私が『謝られても困る』って言ったのは、そういう意味なのよ。つまりは『お互い様』ってこと! 今まで黙っててごめんね? かな」
千里がぎゅっ、と花菜実を抱きしめた。
「私も、ごめん……ちりちゃん、大好きだよ」
花菜実は本心からの言葉を口端に乗せた。ずっとずっと抱いていた罪悪感と劣等感がようやく消化出来た嬉しさで、めいっぱい千里に抱きついた。
「私も、かながだ~い好き! ……だから、この間心配で尾行しちゃったし!」
「あー……」
動物園で兄姉に会った時のことを思い出す。あの時の千里は本当に花菜実を心配してくれていた。
「どうなの? 水科さんって、いい人?」
「……うん、いい人だよ。昨日もね、千里さんとちゃんと仲直りした方がいい、って励ましてくれたの」
花菜実はほんのりと頬を染めてうなずいた。
「へぇ~そっか。今、かな幸せそうな表情してるもん、多分そうだろうな、って思ったけど。……実はね、私もつきあってる人いるの」
「そうなの? アメリカ人?」
「日系アメリカ人で、和食レストランを経営してる人なんだけどね。こんな私でも可愛い、って言ってくれる人なの。背も私とあまり変わらなくて、ヒール履くと私の方が高くなっちゃうんだけど、そんなの全然気にしない、って言ってくれるし……多分、結婚すると思う」
そう報告してくれた千里こそ、とても幸せそうで。喜びをおすそ分けしてもらったようで、花菜実も嬉しくなった。
「そうなの? おめでとう! ちりちゃん!」
「このこと、かなにしか話してないから。……尚弥とお父さんたちにはまだ内緒にしておいて? 二人だけの秘密ね?」
「うん、分かった」
「かなも、水科さんのこととか報告してね」
「ん……」
元々仲良し姉妹だった二人。わだかまりさえなくなってしまえば、後は元に戻るだけで。父が嫉妬するほどに仲睦まじく、べったり過ごしていた。二人で一緒に豆大福を頬張り、その日は千里の部屋で一緒に寝た。
そして次の日の朝、花菜実は幸希にメッセージを送った。
【昨日、一昨日はありがとうございました。お陰で、姉と仲直りすることが出来ました。今度、お礼させてください。】
直接的に仲直りに関与したのは尚弥だったものの、幸希が背中を押してくれなければ、実家に帰ること自体を躊躇し、直前にドタキャンをしていた可能性もあった。だから、仲直りを勧めてくれて、確実に実家まで彼女を送ってくれた幸希には、感謝してもしきれない。
そういう気持ちを込めて送ったところ、
【そうか、よかった。僕も嬉しいよ。お礼は、一昨日の続き……だったら最高に嬉しいけど。今度は寝ないでくれると助かる。】
と、返信が来た。
「一昨日の続き……? ……あ」
その文言が意味することを理解し、一瞬にして顔が赤く染まった花菜実だった。
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