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運命の君とふたりで6
しおりを挟む「俺、実は凛の両親には反対されるかと思ってた。家柄的なもので」
食事の後、凛の部屋に入るや否や蒼がホッとしたように言った。
「家柄なんて、そんな大層なもんじゃないよ。何代か前にたまたま成功した成金だし。それにうちは運命の番に巡り会えたら万々歳なんだよ。何せうちの家系で成功してるのはみんな運命の番に出会えた人たちばかりだから。祖母もそうだし父もね。でも出会えないからと冷遇されるわけじゃないよ。まぁ一種の験担ぎみたいなものだよ」
二人は抱きしめ合いながら話をした。番に出会えなかった鳴海家のアルファのこと、充のこと。それからキスをして。
二人きりの愛おしい時間が過ぎていく。
少しして、
「蒼、先に風呂入って」
凛が蒼にきれいに畳まれたパジャマを差し出した。
「あ、俺パジャマ持って来たから大丈夫」
「……これ、着てくれたら嬉しい」
バッグからパジャマを出そうとした蒼を制し、凛は自分が持っている方を突き出す。その目は期待とほんの少しの照れに満ちている。
「だってそれ凛のだろ? 俺にはデカいよ」
「だから! 着てほしいんだ」
凛の考えていることが何となく分かってきた蒼は、口元をひきつらせた。
「えぇー……やだ。子供が大人のやつ着てるみたいになりそうだし」
蒼のその言葉を聞いた凛の瞳が、より一層輝きを増した。
「……ダメ?」
「えー……」
「ね?」
「え……」
「お願い」
(尻尾が……)
先が矢尻のように尖った黒い尻尾だ。それが首を傾げる凛の背後で蠱惑的に揺れているのを見た蒼は、諦めのため息をつきパジャマを受け取った。そして凛の案内で浴室へ行く。蒼の家のものよりも更に広々とした室内とバスタブに感動しながら全身を洗い、湯船につかった。
「凛のやつ……番になった途端に小悪魔みたいになっちゃってさ」
バシャバシャと音を立てて顔に湯をかける。
今まで封印されていた愛嬌が、番になったことで解放されたかのようだ。次から次へと可愛らしいわがままが凛から飛び出して来るのに、蒼はとまどいを隠せない。
でもそんな凛が愛らしく見えて胸がときめいてしまうのも事実で。何でも言うことを聞いてあげたくなってしまうから不思議だ。
「俺も大概やばいわ……」
蒼は頭を抱えた。
「可愛い……蒼可愛すぎる。ズボンだけ脱いでくれたらもっと可愛い……」
凛のパジャマはやはり蒼には大きかった。何せ三十センチ近くも身長差があるのだ。服のサイズにもそれは影響するはずで。
蒼は明らかに【パジャマに着られている】状態だった。
(くっそ……パジャマ如きに着られちゃう俺って……!)
凛との体格差を実感し、悔しくなる蒼。そんな彼をよそに、凛は携帯電話を構えてシャッター音を鳴らし続ける。その目は完全にハート型だ。
「おまえ……変態くさい」
「彼シャツ姿の蒼が見たいんだ」
「ふつうに引くわっ」
「だから言ったよね。引かれても自分が思ってることを言う、って」
凛には一切悪びれる様子がない。あまりの潔さに逆に感心する蒼。
「……写真撮らない、何もしない、って約束したら、おまえが風呂に入ってる間に脱いでおいてもいいよ」
「うー……ん、わ、かったよ。俺の心のシャッターは連写するけど」
渋々、といった様子で凛は蒼の出した条件を了承する。
「だからその言い回しがマジ変態くさいから」
蒼は着替えを抱えた凛の背中を押し、部屋から追い出した。
「はぁ……」
(凛に「キャラ変わった」って言ってるけど、俺も変わってきてるよな……)
自分の中に残るなけなしの羞恥心が凛を諫めてはいるが、心の中では彼シャツでも何でもしてあげたいと思ってしまうのだ。
番になったアルファには従順になる――これもオメガの性質の一端だと分かってはいるが、まるで流されるように自然に性格までオメガらしく変化しているのに気づいて、怖くなるのだ。
凛の部屋にある姿見を見る。見た目は以前の蒼とまったく一緒である。どこも変わってはいない。しかし昨日うなじを噛まれた瞬間から、まったく違う自分になってしまった感じもする。
「どこをどう見ても普通なんだけどな」
こんな自分のどこに凛を惹きつける要素があったのだろうかと疑問に思う。
しかし自分が凛に囚われてしまったのと同じで、彼もまた蒼に囚われてしまったことはよく分かっていた。
それが運命の番の理なのだ。
まだ自分はいい。オメガになって数ヶ月で運命の番を得ることが出来た。しかし凛は、未覚醒で自覚のない蒼を一年半も人知れず求めて焦がれていたのだ。
この数ヶ月は本当に苦しかった。凛に既に番がいると思い込み、自分の焼けるような想いを押し殺して生活するのは本当につらかった。
蒼でさえそうだったのだから、凛のつらさはどれだけだっただろう。蒼は彼が今まで効き目の強い抑制剤に頼っていたわけがよく分かった。
(凛の今までの苦しさに比べたら、俺の疑問とか悩みなんてちっさいよな)
そう思い、蒼はパジャマのズボンに手をかけた。
部屋の扉を開いた凛は、音を立てて後ずさった。
「凛?」
凛に気づいた蒼は、振り返って首を傾げた。
「あ、蒼……その格好……」
「え?」
惚けていた蒼はその言葉で我に返った。
パジャマのズボンを脱いだ後、凛のことを考えたまま何となく床に座ったのだが、それがアヒル座り――通称・女の子座りだったことに、蒼自身気づいていなかったのだ。
つまり、彼シャツ姿で女の子座り、更には上目遣いで首を傾げて振り返るという萌え技までも披露していたわけで。自分の現状を自覚し、途端に恥ずかしくなる蒼。
「うわっ、俺なんでこんな女の子みたいな座り方してんの?」
蒼は慌てて立ち上がった。アヒル座りは一般的には男性には出来ないとされているが、オメガである蒼にはあまり苦ではなかったようだ。違和感のなかったその姿に、凛はうっとりして、
「俺のこと試してるのかと思った。可愛い……俺の蒼」
蒼を胸の中に取り込んだ。
「……何もしないって言ったのに」
「抱きしめるだけだから。許して」
「ん……」
「蒼といると、どんどん欲張りになってく。想いが通じ合ってそばにいるだけで幸せだと思っていたのに、蒼にあれしてほしい、これしてほしい、ってどんどん欲が出てきちゃうんだ」
「裸エプロンとか言うのはやめろよ」
頼まれたらきっと断れないから――そう継ぐのはやめておいた。
「あぁ……それもいいね。結婚したらしてもらおうかな」
「だからやめろ、って。凛がすればいいだろ」
「俺がしても可愛くもなんともないよ。蒼がするからいいんだよ」
「そっか? すごい色っぽい裸エプロンになりそうだけど?」
「気持ち悪いからやめて」
自分のその姿を想像したのだろう、凛がきれいな顔を歪めてかぶりを振った。
「なら俺も絶対しない」
「ちぇ……」
いずれ結婚して凛に頼まれた時には多分してしまうんだろうな……そんな予感を胸に抱きながら、蒼は凛にぎゅっと腕を回した。
「俺も凛にしてほしいことあるんだ」
「何? 俺に出来ることなら何でもするよ。裸エプロン以外なら」
「ははっ、さすがに今はそんなこと言わないから。……今日も凛の腕枕で寝たい。してくれる?」
昨夜、浴室でのセックスの後、疲れ果てた蒼に凛はベッドで腕枕をしてくれた。それがとても心地よかったのだ。
「もちろん。俺は初めからそのつもりだったよ。っていうかむしろ抱きしめて寝たい」
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