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第一部
その1.男のロマンが詰まってるからな。
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「浩太郎! おはようっ!」
「……おはよ」
美少女が朝から元気な挨拶をしてきた。
「お、お、おはっ、おはようっ」
続いてまた美少女が言葉はやや躓きながらも、挨拶をしてくる。
美少女二人と肩を並べて学校へ向かう、男子高校生誰もが羨ましがる朝なのではないか。
右を見ても美少女、左を見ても美少女。
周囲には優越感を振り撒いての通学、口元がにやけてしまうってもんよ。
しかし、疑問が一つ。
それは大きな疑問だ。
何がどうしてこんな朝を迎えられているのか――俺の日常というのは、綺麗で可愛い幼馴染とか、女友達なんていやしないはずなのだ。
一体何処でこうなった?
何が引き金だった?
振り返ってみるとしよう。
……ああ。
あれかもしれない。
ほんの少し前の話――ではあるけどその前に、だ。
先ずは退屈な俺の学校生活一日を知ってもらうのがいいかもしれない。
いや、退屈すぎるから知らなくてもいいがね。
* * * *
高校生になって早数週間。
俺は既に今のこの高校生活には辟易している。
これといったイベントというイベントも特に起きず、恋愛? 青春? そんなものが早くも消えうせた日常となってしまった。
高校生になったからといっていきなりハーレムになったり、異世界にタイムスリップしたり、交通事故(大抵が何故かトラックに轢かれる)に遭って神様が何故か手違いとか言って転生されたりもない。
実は俺の家系は異能の力を持っていて、唐突に力が覚醒やらもせず、敵なんて現れもしない。
学校へ行く途中に曲がり角でパンを口に銜えた女の子とぶつかて恋愛フラグに繋がるようなイベントも無い。
つーかこのご時勢、パンを口に銜えて駆ける人などいるわけがない!
平凡で平和で、退屈な日常である。
異世界からの侵略者も悪の組織も怪異も妖怪も幽霊も、漫画などでよくあるのは魔術師や化け物が突然現れて襲われる――期待する妄想は全て叶わず。
自分はずっと人生に高望みしすぎていたのかもしれない。
些細なイベントだってそうだ。
例えばクリスマス。
幼い頃に一目だけでもと望んでいたサンタクロースはいつまでたっても現れる気配はなかった。
いないのだなと悟った頃に、ある意味ではサンタクロースの正体である父さんにサンタクロースを望むも、少しはサンタクロースに扮してプレゼントを届けるくらいの努力をすればいいのに父さんったらどうしたと思う?
クリスマスの夜はワインを飲むだけ飲んでそのまま寝て、隠されていたクリスマスプレゼントはソファの影に置いたままだ。
それを見つけた時は渇いた笑いが出たね、しかもクリスマスプレゼントは世代が明らかに違うゲームソフト、古すぎてそのソフトのゲーム機は持っていなかった。
悲しい思い出だ。
何から何まで平凡すぎて、退屈すぎて、普通すぎてつまらない。
高望みするだけ損だ。
俺の人生っていうのは、きっと退屈のみで構成されていてこれからも退屈が待っているんだと思う。
父さんだけに限らず、
――母の作る炒飯は美味い?
うちはしょっぱくて辛いぜ。
母さんは料理が下手で、何より改めようともしないんだこれが。
作ってやってるんだから文句を言うなと言わんばかりの姿勢だ。
家族にはもはや何も望まない。
そんなに美味しくない朝食、だらだらとした家族、こんな朝じゃあ気分もまったく乗らないね。
朝から倦怠感をたっぷりと込めたため息をついてニュースを見た。
『き、今日ふぁ、失礼しました』
いつも見るニュースでは新人の美人キャスターは毎日と言っていいほど一回は噛むんだがどうなってるんだ?
「はぁ……」
他のチャンネルも特に見るものはないからいつも同じニュースだけど、テレビすら今や俺の中では退屈に飲み込まれてしまっている。
アニメや漫画みたいな世界にでもなれば退屈しないで済むかもなあ。
ああ、でもどうかなそれも。
ああいうものも中学の折り返し地点あたりから退屈だと思い始めていた。
当時、全国的に大ヒットしたラノベがあったけど、勧められて読んでみたものの俺にはそのラノベの面白さが一切分からずにつまらないと一蹴していた。
自分が退屈な人間で退屈だと常々思っていて、退屈まみれな人生だから、何もかもが退屈でつまらなく感じてしまうのかもしれない。
何でもいいから、この日常……変化して欲しい。
……くだらない願いだ、そしてこんな俺の願いなど叶わないのは分かっている。
これからも退屈な日々は変わらない。
俺の周りが何か変わるわけもない。
あ、そうそう。
物語といえばよく出てくるのが幼馴染の存在だ。
実は俺にも幼馴染はいる。
平凡な家庭に平凡な友人関係、その中で幼馴染の女の子がいるというのは貴重だ。
幼い頃はいじめられているところを助けてやったり、よく一緒に遊んでやったりしていたなあ。
日常を変えてくれるスパイスになるかと思いきや――ところがどっこい、今じゃあ話すどころか一言すら言葉を交わしていない。
高校では同じクラスになったのに、接点が皆無でいないのと同じだ。
クラスでもあいつはいるかいないか分からないくらい存在がぼんやりしてるしね。
何かの手違いで空気と融合してしまったんじゃないか?
そのうちひょんな事から消失とかしないだろうな。
「なあ浩太郎。あの子幼馴染なんだろ? 仲はいいの?」
こいつは雪寺薫、中学からの付き合いがある友人だ。
薫は歩道の端をなぞるように歩く幼馴染を見て呟いた。
「もう何年も話してない、目が合ってもすぐに逸らされるくらいの仲」
そんでもって幼馴染の名前は上月ノア。
名前は日本人っぽくないが歴とした日本人だ。
身長は低く、寝癖がついたままの手入れがあまりされていないようなぼさぼさした感じの髪に牛乳瓶みたいな眼鏡。
体形を一言で例えるなら寸胴。
身だしなみに気を配らないところから、女を捨ててるのか? そう言いたくなる容姿だ。
寝癖くらい直せよな。
「変わった名前だよなあ、ノアって」
「そういう名前付けるの昔流行ったろ? そのうちの一人さ」
外国じゃあノアって男の子につける名前なのに、響きだけでつけられたっぽくてちょっとかわいそう。
けれど確かに響きは可愛いって思っちまう、本人はどう思っているか分からないけど。
「なるほど。しっかしあの暗いオーラ、近寄りがたいな。それにあんな眼鏡、分厚すぎてやばくね?」
「相当目が悪いっぽいな」
話をしているとノアはこちらをちらりと見て、目が合った。
言葉を付け加えるならば“今日も”だ。
何気に毎日俺を一瞥してくるのだあいつは。
何の意味があるのかは知らないし知らなくても構わないし知る必要も無いがね。
けど見られるたびに少しばかり、ほんの少しばかりイラっとする。
何か言いたい事でもあるのなら口で言ってほしいぜ。
ノアとはいつも一定の距離で同じ歩調。
その距離が縮まるのは学校に到着して靴を履き替える時くらいだ。
さあて。
平凡な学校、クラスに到着。
これといって不良がいるわけでもなく、学園のアイドルもおらず、ごく普通のクラスメイトばかり。
可愛らしいヒロインすら存在しない。
担任はというと、
「皆さんおはようございます授業をはじめますので席についてくださいそれでは出席をとります」
少しは読点をつけて話してくださいよ長波先生。
ロボットかよってツッコミを入れたくなるくらいに淡々として不気味なんですけど。
しかも無表情でホームルームや授業は作業の一つみたいにでも思っているのか? もう少し熱意を持って指導してくれないだろうか。
こっちとしても朝から溜息を何度もつきたくないのだが。
……高校の選択を間違えた気がしてならないな、本当に。
教師もそうだが、学校全体でもいいとこを見つけるのが難しいくらいに、この学校はこれといった良さが見つからない。
部活も弱小の集まり、学校の年間イベントを見たが変わったものや面白そうなものは一切無く、この学校はいつ盛り上がるのかと問いたくなる。
環境もちょっとな、よろしくないね。
置かれてる自動販売機は種類が少なく、食堂はメニュー豊富であるがどれもごく普通の味、二割ほど不味い。
購買はいい品揃えでもなく、昼休みはその購買で普通のおにぎりとパンを購入ときた。
ほんと、溜息が出るね。
午前中だけで何回溜息ついたかな?
溜息をつかないのはこの昼休みくらいかもしれない。
薫は弁当を作ってもらってて羨ましい限りだ。
母さんも面倒がらないで弁当作ってほしいな。
「よくあいつら校庭とか体育館で遊んでられるよな」
薫は冷たさをたっぷりと込めた視線で騒がしい校庭を見つめていた。
「体力の配分ってものを知らないんじゃないかな」
「若しくは青春真っ盛りだぜ! 的なのをやろうとしているのかねえ」
「人生楽しそうだな」
俺達の会話はいつだって退屈で内容が高校生としては終わっている。
「屋上は屋上で、来るのはリア充ばっかでこれまた楽しそうだ」
「リア充は爆発すればいいのに」
殺意を込めて俺はリア充共を見た。
「本当にな、汚い花火となって爆発すればいい」
「リア充が果てますように」
「激しく同意なのでその願いが叶いますように」
空に向かってお願いを呟く男二人。
嫉妬に塗れた酷い会話。
「……何か面白い事起きないかな」
俺は空に向かってその願いを呟いた。
当然空は何も言葉を返してくれず、小さな雲がゆっくりと揺らめいているだけ。
「面白い事って?」
「何でもいいよ、溜息が少なくなるような事であれば」
些細な事でいいんだ、退屈を紛らわせてくれるなら。
願ったところで何も変わらず。
退屈な午後を終えて放課後。
俺はいつものように薫と帰路についた、話す内容は眠気を誘う授業の愚痴や嫌いな先生の愚痴ばかり。
毎日飽きずに、いいやもう飽きているのだけど話題がないので愚痴にすがっているだけだ。
俺達の青春は始まる前から終わってる気がしてならない。
俺の学校生活はこんなもんだ、これまでを漢字二文字でまとめると――退屈、はい終了。
「あ、俺今日ちょっと寄るとこあったんだった」
「そっか、またな」
薫と別れるのは惜しいが仕方が無い。
そこそこ時間があるので街の本屋へと俺は向かった。
夕食まではどうせ暇だ、本屋で立ち読みでもしよう。
毎日毎日、無駄に時間を消化している気がする。
ラノベコーナーで適当に一冊読むも、気分が乗らないのが原因か内容が頭に入ってこなくてこれまた溜息だ。
同じような一日を繰り返している。
どっか部活にでも入ってみるか? そうすれば何か変わるか?
どうだろう、変わらないか……変わらないよな。
夕方のスケジュールが変わるだけで、最初は違っても慣れればまた退屈な一日と思うに決まっている。
本を閉じて、俺はまたため息をついた。
「つまらなかった?」
「――うおっ!?」
いつの間にか、隣には少女が立っていた。
しかし困った、女性との交流は疎いほうだ。
おかげでドキッとして一瞬思考が停止しかけたぜ。
人生でも初めてなんじゃないか? 学校ならまだしも街で赤の他人に、それも少女に話しかけられるなんて。
ちらりと見てみる。
身長は頭一つ低い、華奢な体躯。
……妙な服装だな。
猫耳付きフードとかそれどこで買ったんだ? そこらへんに可愛い子がいたら勧めて着させたいぜ。
そのフードを深々とかぶっていて彼女の目元は覗けなかった。
鼻と口や輪郭、それに白い綺麗な肌から中々の美少女と思われる。
よし、この子と何かフラグを立ててラブストーリーを……って、無理だな。
おっと、それよりも返答だ。
俺が読んでいたのは今月発売したらしいラノベ、文章が頭に入っていなかったので何とも言えん。
「い、いやぁ……俺にはどちらとも言えない? かなあ」
「そう。読者はどんなものが面白いと感じるのかな」
「さあ……内容が面白いとか?」
「内容、ふむ」
「漫画なら絵の好みとか」
「絵の好み、ふむ」
「映画ならかっこいい俳優とか綺麗な女優とか、それぞれじゃないかな」
「ふむ」
ふむって言う子今時珍しくない?
顎に手を置いて、見た目と違ってどこか大人びた雰囲気がある。
「共通するのはやっぱり内容じゃない? 一番重要だよね」
話については、そう、そんな感じだ……と俺は思うが、俺が思っているだけで周りの人達やこの少女はどう思っているのかは分からない。
一個人としての感想でしかない。
「内容、うむ」
これ、長くなる?
腹の虫が騒がしくなってきた、見知らぬ少女との会話もいいが話が長引くのは嫌だな。
話すことが無くなったら気まずくなって全力疾走で立ち去るかも。
「突然すまない。実は私、ラノベを書きたくて」
オープンな子だな、お互い名前すら知らないのに。
「漫画も考えたが私の描く絵は地獄絵図に等しいので諦めた。ならば、文字だ――というわけ」
「ご説明どうも」
ならば文字と、切り替えが早いな。
でもいいんじゃない? やりたい事があるなんて羨ましいよ。
「面白いものを書きたい、しかし中々うまくいかない。君の人生はラノベのように毎日トラブルやら恋愛やらハーレムやら異世界やら転生やら魔術師やら超能力者やらなにかしらあったり、する?」
「全然、まったく、微塵も」
非現実的な事は起きるわけもなく。
そもそも異世界や転生なんてのが現実に起きてたら俺は今ここにいないぞ。
「そう、残念」
ほっとけ。
「しかし少しは現実的なものも、ある?」
すると一冊彼女は手にとって見せてきた。
「このラノベ、主人公の周りには美少女の幼馴染や男友達に女友達、それに妹もいて、日常が楽しそう」
ラブコメものかな?
文字も丸みを帯びたフォントで萌えを印象付けさせる。
「そんなのありえないね、絶対に」
「ありえない? 貴方にはどれか一つくらい共通するものはないの?」
「一つ教えてやる、俺の友人関係には女友達はいないし妹もいない。幼馴染はいるにはいるがかわいくなくてちっこくて無口、ハーレム要素なんて何も無いぜ」
「お、幼馴染って女の子なら皆可愛いんじゃ……?」
「何その法則!」
「えっ」
「絶対ないから!」
「えっ」
「幼馴染ってだけでもれなく女の子なら美少女、男の子だら美男子か? そしたら今頃世の中美少女美男子で埋め尽くされてるぜ?」
「な、なんという……」
「ラノベはラノベ、現実的なものはない!」
少女は何故か驚愕を浮かべていた。
俺はただ現実を教えてやっただけだぜ。
どうあがいても、そう。
現実は非情で、退屈なのだ。
「この棚に並んでいる本、面白いものもあるけど、どれも現実にはありえないものばっかりだぜ。だからこそ引き込むものがあるのだろうけどさ」
「どれも? 一冊くらいありえるものは? 恋愛ものや青春もの、学園ものだって」
「主人公は皆顔がいいし登場人物は美少女ばっかり、この時点でありえないね。ああ、絶対にありえない。よく気になるのは髪の色が赤だったり金だったり茶だったり、たまに青だったり緑だったりするけどそんな髪の色してる奴いたら色々とヤバい」
「これは? 黒髪、ジト目でガラの悪そうな主人公の本。ヒロインらしき登場人物達もそんなに、ヤバくない」
彼女は棚から一冊取り出して見せてきた。
「ガラの悪そうな主人公だな」
「でしょ、貴方のように」
「ほっとけ。けどさ、こいつの後ろに写ってるヒロインっぽい少女は美少女、多分こいつら仲がよくなるか恋愛関係に発展するな。ラノベならありだが現実と比べればそりゃあありえないに入る」
俺は首を横に振ってため息をついた。
「なんだかんだいってハーレムになるか恋愛フラグ成就させてカップル、これだ」
「フラグ……」
「フラグは大事だ、ラノベを書きたいならフラグを勉強すればいい」
「ふむ」
「それに現実ではありえないものを想像してみて、自分なりの物語を作って読者が読んでいて面白いと感じるように書く事も大事かなあ」
何様なんだろうね俺は。
自分でそう思うもこの少女よりは小説を読んでいると思う。
家にある本棚はびっしり、本屋でも暇つぶしにと読んでいたら結構な量を読んでしまっていた。
「いっぱい本を読めば理解できる?」
「どうかな。読むのと書くのは違うからなあ、漫画を読んでも描けないのと同じだ。俺だって偉そうに述べてるけど全然書けん。一行すら思いつかん」
「書けるようになる近道は、なんだと思う?」
「さあねえ……実際に見たり体験したりする機会があれば少しは変わるんじゃね? 知らないけど」
彼女はメモ帳を取り出して熱心にメモしていた。
そんなためになる事を言ったつもりはないんだがなあ。
「俺も日常がこんな世界だったらなあ」
それを題材に面白いものを書いてみたり、っていうのもありか?
どうせ誰の目にも留まらずで終わりそうだが。
「もし君の幼馴染が美人だったら?」
「……分からん。少しは退屈な日常も何か変わったかもな」
「幼馴染がどんなだったら、いい?」
「胸が大きいとか」
「胸っ」
「男のロマンが詰まってるからな」
「ロマン……」
頷いた、理解してくれたようで何より。
「あとは二重瞼、整った顔立ち、潤いある肌に見るからに弾力のある魅力的な唇、これ!」
「おおっ」
「さらりとした触り心地のよさそうな髪もいいかな」
「素晴らしい。では」
そこで一呼吸置いて彼女は顎に指を当てて再び言葉を紡いだ。
「例えばだが、更に魔術師や超能力者とかいて、遭遇したら? 君の日常は面白くなっていると思う? ラノベ一冊書けるくらいに」
「魔術師や超能力者、ねえ?」
「うん」
「……多少は面白くなるか? ラノベっぽい生活になるのかなあ。いや、それはないか」
「どうして?」
「そういう奴らが出てくる物語は何かしら主人公に敵意や目的があるけど、俺のようなごく普通の高校生には敵対する理由は無いよな」
「なるほど。敵対する理由……ね」
ちょいとメモ帳を覗き見てみる。
びっしりと文字で埋められたページは彼女の熱意が伝わってくる。
しかし果たして俺の意見は参考になるのやら。
「勉強になった」
「面白いもの書けそう?」
「インスピレーションは刺激された。実際に見てみたい」
「見てみるのは不可能だけどな」
残念ながらここは現実だ、退屈な日常しかない。
どうしても見たいなら漫画でも立ち読みするかレンタルショップでアニメでも借りてくるか深夜アニメを見るかしてもらいたいね。
長話は空腹には辛い、そろそろ行くか。
「じゃ、俺はこれで。いいラノベ書けるよう頑張れよ」
久しぶりに女性と長い時間話したな。
なんか、ちょっと……嬉しくて楽しかったのもある。だから俺は饒舌に語ってしまったんじゃないだろうか。
「君を使って見てみるとする。事実は小説よりも奇なり、だから」
「えっ?」
振り返ってみると、そこにはもう少女の姿は無かった。
どこに、行った?
店内を見渡してみてもどこにもいない、すばしっこい奴だな。もう店を出てしまったのか?
なんだろう、妙な事を言っていたけど……まあいっか。
帰ろうっと。
今日一日は大体こんな感じ。
やる事の無い放課後はその日の気分で何かするだけ、あとはほとんど変わらない。
こんな放課後を過ごすより部活でもやってみようかなとは思ったが、興味が無いものをやったところで続きやしないだろう。
そうなると選択肢は帰宅部以外考えられないね。
何より今更どこかの部に所属して俺の人生が何か大きく変わるとも思えないし。
明日も同じ一日が待っている、放課後は多少違うかもしれないけど微々たるものだ。
退屈すぎて溜息がまた出ちゃうねこれ。
「……おはよ」
美少女が朝から元気な挨拶をしてきた。
「お、お、おはっ、おはようっ」
続いてまた美少女が言葉はやや躓きながらも、挨拶をしてくる。
美少女二人と肩を並べて学校へ向かう、男子高校生誰もが羨ましがる朝なのではないか。
右を見ても美少女、左を見ても美少女。
周囲には優越感を振り撒いての通学、口元がにやけてしまうってもんよ。
しかし、疑問が一つ。
それは大きな疑問だ。
何がどうしてこんな朝を迎えられているのか――俺の日常というのは、綺麗で可愛い幼馴染とか、女友達なんていやしないはずなのだ。
一体何処でこうなった?
何が引き金だった?
振り返ってみるとしよう。
……ああ。
あれかもしれない。
ほんの少し前の話――ではあるけどその前に、だ。
先ずは退屈な俺の学校生活一日を知ってもらうのがいいかもしれない。
いや、退屈すぎるから知らなくてもいいがね。
* * * *
高校生になって早数週間。
俺は既に今のこの高校生活には辟易している。
これといったイベントというイベントも特に起きず、恋愛? 青春? そんなものが早くも消えうせた日常となってしまった。
高校生になったからといっていきなりハーレムになったり、異世界にタイムスリップしたり、交通事故(大抵が何故かトラックに轢かれる)に遭って神様が何故か手違いとか言って転生されたりもない。
実は俺の家系は異能の力を持っていて、唐突に力が覚醒やらもせず、敵なんて現れもしない。
学校へ行く途中に曲がり角でパンを口に銜えた女の子とぶつかて恋愛フラグに繋がるようなイベントも無い。
つーかこのご時勢、パンを口に銜えて駆ける人などいるわけがない!
平凡で平和で、退屈な日常である。
異世界からの侵略者も悪の組織も怪異も妖怪も幽霊も、漫画などでよくあるのは魔術師や化け物が突然現れて襲われる――期待する妄想は全て叶わず。
自分はずっと人生に高望みしすぎていたのかもしれない。
些細なイベントだってそうだ。
例えばクリスマス。
幼い頃に一目だけでもと望んでいたサンタクロースはいつまでたっても現れる気配はなかった。
いないのだなと悟った頃に、ある意味ではサンタクロースの正体である父さんにサンタクロースを望むも、少しはサンタクロースに扮してプレゼントを届けるくらいの努力をすればいいのに父さんったらどうしたと思う?
クリスマスの夜はワインを飲むだけ飲んでそのまま寝て、隠されていたクリスマスプレゼントはソファの影に置いたままだ。
それを見つけた時は渇いた笑いが出たね、しかもクリスマスプレゼントは世代が明らかに違うゲームソフト、古すぎてそのソフトのゲーム機は持っていなかった。
悲しい思い出だ。
何から何まで平凡すぎて、退屈すぎて、普通すぎてつまらない。
高望みするだけ損だ。
俺の人生っていうのは、きっと退屈のみで構成されていてこれからも退屈が待っているんだと思う。
父さんだけに限らず、
――母の作る炒飯は美味い?
うちはしょっぱくて辛いぜ。
母さんは料理が下手で、何より改めようともしないんだこれが。
作ってやってるんだから文句を言うなと言わんばかりの姿勢だ。
家族にはもはや何も望まない。
そんなに美味しくない朝食、だらだらとした家族、こんな朝じゃあ気分もまったく乗らないね。
朝から倦怠感をたっぷりと込めたため息をついてニュースを見た。
『き、今日ふぁ、失礼しました』
いつも見るニュースでは新人の美人キャスターは毎日と言っていいほど一回は噛むんだがどうなってるんだ?
「はぁ……」
他のチャンネルも特に見るものはないからいつも同じニュースだけど、テレビすら今や俺の中では退屈に飲み込まれてしまっている。
アニメや漫画みたいな世界にでもなれば退屈しないで済むかもなあ。
ああ、でもどうかなそれも。
ああいうものも中学の折り返し地点あたりから退屈だと思い始めていた。
当時、全国的に大ヒットしたラノベがあったけど、勧められて読んでみたものの俺にはそのラノベの面白さが一切分からずにつまらないと一蹴していた。
自分が退屈な人間で退屈だと常々思っていて、退屈まみれな人生だから、何もかもが退屈でつまらなく感じてしまうのかもしれない。
何でもいいから、この日常……変化して欲しい。
……くだらない願いだ、そしてこんな俺の願いなど叶わないのは分かっている。
これからも退屈な日々は変わらない。
俺の周りが何か変わるわけもない。
あ、そうそう。
物語といえばよく出てくるのが幼馴染の存在だ。
実は俺にも幼馴染はいる。
平凡な家庭に平凡な友人関係、その中で幼馴染の女の子がいるというのは貴重だ。
幼い頃はいじめられているところを助けてやったり、よく一緒に遊んでやったりしていたなあ。
日常を変えてくれるスパイスになるかと思いきや――ところがどっこい、今じゃあ話すどころか一言すら言葉を交わしていない。
高校では同じクラスになったのに、接点が皆無でいないのと同じだ。
クラスでもあいつはいるかいないか分からないくらい存在がぼんやりしてるしね。
何かの手違いで空気と融合してしまったんじゃないか?
そのうちひょんな事から消失とかしないだろうな。
「なあ浩太郎。あの子幼馴染なんだろ? 仲はいいの?」
こいつは雪寺薫、中学からの付き合いがある友人だ。
薫は歩道の端をなぞるように歩く幼馴染を見て呟いた。
「もう何年も話してない、目が合ってもすぐに逸らされるくらいの仲」
そんでもって幼馴染の名前は上月ノア。
名前は日本人っぽくないが歴とした日本人だ。
身長は低く、寝癖がついたままの手入れがあまりされていないようなぼさぼさした感じの髪に牛乳瓶みたいな眼鏡。
体形を一言で例えるなら寸胴。
身だしなみに気を配らないところから、女を捨ててるのか? そう言いたくなる容姿だ。
寝癖くらい直せよな。
「変わった名前だよなあ、ノアって」
「そういう名前付けるの昔流行ったろ? そのうちの一人さ」
外国じゃあノアって男の子につける名前なのに、響きだけでつけられたっぽくてちょっとかわいそう。
けれど確かに響きは可愛いって思っちまう、本人はどう思っているか分からないけど。
「なるほど。しっかしあの暗いオーラ、近寄りがたいな。それにあんな眼鏡、分厚すぎてやばくね?」
「相当目が悪いっぽいな」
話をしているとノアはこちらをちらりと見て、目が合った。
言葉を付け加えるならば“今日も”だ。
何気に毎日俺を一瞥してくるのだあいつは。
何の意味があるのかは知らないし知らなくても構わないし知る必要も無いがね。
けど見られるたびに少しばかり、ほんの少しばかりイラっとする。
何か言いたい事でもあるのなら口で言ってほしいぜ。
ノアとはいつも一定の距離で同じ歩調。
その距離が縮まるのは学校に到着して靴を履き替える時くらいだ。
さあて。
平凡な学校、クラスに到着。
これといって不良がいるわけでもなく、学園のアイドルもおらず、ごく普通のクラスメイトばかり。
可愛らしいヒロインすら存在しない。
担任はというと、
「皆さんおはようございます授業をはじめますので席についてくださいそれでは出席をとります」
少しは読点をつけて話してくださいよ長波先生。
ロボットかよってツッコミを入れたくなるくらいに淡々として不気味なんですけど。
しかも無表情でホームルームや授業は作業の一つみたいにでも思っているのか? もう少し熱意を持って指導してくれないだろうか。
こっちとしても朝から溜息を何度もつきたくないのだが。
……高校の選択を間違えた気がしてならないな、本当に。
教師もそうだが、学校全体でもいいとこを見つけるのが難しいくらいに、この学校はこれといった良さが見つからない。
部活も弱小の集まり、学校の年間イベントを見たが変わったものや面白そうなものは一切無く、この学校はいつ盛り上がるのかと問いたくなる。
環境もちょっとな、よろしくないね。
置かれてる自動販売機は種類が少なく、食堂はメニュー豊富であるがどれもごく普通の味、二割ほど不味い。
購買はいい品揃えでもなく、昼休みはその購買で普通のおにぎりとパンを購入ときた。
ほんと、溜息が出るね。
午前中だけで何回溜息ついたかな?
溜息をつかないのはこの昼休みくらいかもしれない。
薫は弁当を作ってもらってて羨ましい限りだ。
母さんも面倒がらないで弁当作ってほしいな。
「よくあいつら校庭とか体育館で遊んでられるよな」
薫は冷たさをたっぷりと込めた視線で騒がしい校庭を見つめていた。
「体力の配分ってものを知らないんじゃないかな」
「若しくは青春真っ盛りだぜ! 的なのをやろうとしているのかねえ」
「人生楽しそうだな」
俺達の会話はいつだって退屈で内容が高校生としては終わっている。
「屋上は屋上で、来るのはリア充ばっかでこれまた楽しそうだ」
「リア充は爆発すればいいのに」
殺意を込めて俺はリア充共を見た。
「本当にな、汚い花火となって爆発すればいい」
「リア充が果てますように」
「激しく同意なのでその願いが叶いますように」
空に向かってお願いを呟く男二人。
嫉妬に塗れた酷い会話。
「……何か面白い事起きないかな」
俺は空に向かってその願いを呟いた。
当然空は何も言葉を返してくれず、小さな雲がゆっくりと揺らめいているだけ。
「面白い事って?」
「何でもいいよ、溜息が少なくなるような事であれば」
些細な事でいいんだ、退屈を紛らわせてくれるなら。
願ったところで何も変わらず。
退屈な午後を終えて放課後。
俺はいつものように薫と帰路についた、話す内容は眠気を誘う授業の愚痴や嫌いな先生の愚痴ばかり。
毎日飽きずに、いいやもう飽きているのだけど話題がないので愚痴にすがっているだけだ。
俺達の青春は始まる前から終わってる気がしてならない。
俺の学校生活はこんなもんだ、これまでを漢字二文字でまとめると――退屈、はい終了。
「あ、俺今日ちょっと寄るとこあったんだった」
「そっか、またな」
薫と別れるのは惜しいが仕方が無い。
そこそこ時間があるので街の本屋へと俺は向かった。
夕食まではどうせ暇だ、本屋で立ち読みでもしよう。
毎日毎日、無駄に時間を消化している気がする。
ラノベコーナーで適当に一冊読むも、気分が乗らないのが原因か内容が頭に入ってこなくてこれまた溜息だ。
同じような一日を繰り返している。
どっか部活にでも入ってみるか? そうすれば何か変わるか?
どうだろう、変わらないか……変わらないよな。
夕方のスケジュールが変わるだけで、最初は違っても慣れればまた退屈な一日と思うに決まっている。
本を閉じて、俺はまたため息をついた。
「つまらなかった?」
「――うおっ!?」
いつの間にか、隣には少女が立っていた。
しかし困った、女性との交流は疎いほうだ。
おかげでドキッとして一瞬思考が停止しかけたぜ。
人生でも初めてなんじゃないか? 学校ならまだしも街で赤の他人に、それも少女に話しかけられるなんて。
ちらりと見てみる。
身長は頭一つ低い、華奢な体躯。
……妙な服装だな。
猫耳付きフードとかそれどこで買ったんだ? そこらへんに可愛い子がいたら勧めて着させたいぜ。
そのフードを深々とかぶっていて彼女の目元は覗けなかった。
鼻と口や輪郭、それに白い綺麗な肌から中々の美少女と思われる。
よし、この子と何かフラグを立ててラブストーリーを……って、無理だな。
おっと、それよりも返答だ。
俺が読んでいたのは今月発売したらしいラノベ、文章が頭に入っていなかったので何とも言えん。
「い、いやぁ……俺にはどちらとも言えない? かなあ」
「そう。読者はどんなものが面白いと感じるのかな」
「さあ……内容が面白いとか?」
「内容、ふむ」
「漫画なら絵の好みとか」
「絵の好み、ふむ」
「映画ならかっこいい俳優とか綺麗な女優とか、それぞれじゃないかな」
「ふむ」
ふむって言う子今時珍しくない?
顎に手を置いて、見た目と違ってどこか大人びた雰囲気がある。
「共通するのはやっぱり内容じゃない? 一番重要だよね」
話については、そう、そんな感じだ……と俺は思うが、俺が思っているだけで周りの人達やこの少女はどう思っているのかは分からない。
一個人としての感想でしかない。
「内容、うむ」
これ、長くなる?
腹の虫が騒がしくなってきた、見知らぬ少女との会話もいいが話が長引くのは嫌だな。
話すことが無くなったら気まずくなって全力疾走で立ち去るかも。
「突然すまない。実は私、ラノベを書きたくて」
オープンな子だな、お互い名前すら知らないのに。
「漫画も考えたが私の描く絵は地獄絵図に等しいので諦めた。ならば、文字だ――というわけ」
「ご説明どうも」
ならば文字と、切り替えが早いな。
でもいいんじゃない? やりたい事があるなんて羨ましいよ。
「面白いものを書きたい、しかし中々うまくいかない。君の人生はラノベのように毎日トラブルやら恋愛やらハーレムやら異世界やら転生やら魔術師やら超能力者やらなにかしらあったり、する?」
「全然、まったく、微塵も」
非現実的な事は起きるわけもなく。
そもそも異世界や転生なんてのが現実に起きてたら俺は今ここにいないぞ。
「そう、残念」
ほっとけ。
「しかし少しは現実的なものも、ある?」
すると一冊彼女は手にとって見せてきた。
「このラノベ、主人公の周りには美少女の幼馴染や男友達に女友達、それに妹もいて、日常が楽しそう」
ラブコメものかな?
文字も丸みを帯びたフォントで萌えを印象付けさせる。
「そんなのありえないね、絶対に」
「ありえない? 貴方にはどれか一つくらい共通するものはないの?」
「一つ教えてやる、俺の友人関係には女友達はいないし妹もいない。幼馴染はいるにはいるがかわいくなくてちっこくて無口、ハーレム要素なんて何も無いぜ」
「お、幼馴染って女の子なら皆可愛いんじゃ……?」
「何その法則!」
「えっ」
「絶対ないから!」
「えっ」
「幼馴染ってだけでもれなく女の子なら美少女、男の子だら美男子か? そしたら今頃世の中美少女美男子で埋め尽くされてるぜ?」
「な、なんという……」
「ラノベはラノベ、現実的なものはない!」
少女は何故か驚愕を浮かべていた。
俺はただ現実を教えてやっただけだぜ。
どうあがいても、そう。
現実は非情で、退屈なのだ。
「この棚に並んでいる本、面白いものもあるけど、どれも現実にはありえないものばっかりだぜ。だからこそ引き込むものがあるのだろうけどさ」
「どれも? 一冊くらいありえるものは? 恋愛ものや青春もの、学園ものだって」
「主人公は皆顔がいいし登場人物は美少女ばっかり、この時点でありえないね。ああ、絶対にありえない。よく気になるのは髪の色が赤だったり金だったり茶だったり、たまに青だったり緑だったりするけどそんな髪の色してる奴いたら色々とヤバい」
「これは? 黒髪、ジト目でガラの悪そうな主人公の本。ヒロインらしき登場人物達もそんなに、ヤバくない」
彼女は棚から一冊取り出して見せてきた。
「ガラの悪そうな主人公だな」
「でしょ、貴方のように」
「ほっとけ。けどさ、こいつの後ろに写ってるヒロインっぽい少女は美少女、多分こいつら仲がよくなるか恋愛関係に発展するな。ラノベならありだが現実と比べればそりゃあありえないに入る」
俺は首を横に振ってため息をついた。
「なんだかんだいってハーレムになるか恋愛フラグ成就させてカップル、これだ」
「フラグ……」
「フラグは大事だ、ラノベを書きたいならフラグを勉強すればいい」
「ふむ」
「それに現実ではありえないものを想像してみて、自分なりの物語を作って読者が読んでいて面白いと感じるように書く事も大事かなあ」
何様なんだろうね俺は。
自分でそう思うもこの少女よりは小説を読んでいると思う。
家にある本棚はびっしり、本屋でも暇つぶしにと読んでいたら結構な量を読んでしまっていた。
「いっぱい本を読めば理解できる?」
「どうかな。読むのと書くのは違うからなあ、漫画を読んでも描けないのと同じだ。俺だって偉そうに述べてるけど全然書けん。一行すら思いつかん」
「書けるようになる近道は、なんだと思う?」
「さあねえ……実際に見たり体験したりする機会があれば少しは変わるんじゃね? 知らないけど」
彼女はメモ帳を取り出して熱心にメモしていた。
そんなためになる事を言ったつもりはないんだがなあ。
「俺も日常がこんな世界だったらなあ」
それを題材に面白いものを書いてみたり、っていうのもありか?
どうせ誰の目にも留まらずで終わりそうだが。
「もし君の幼馴染が美人だったら?」
「……分からん。少しは退屈な日常も何か変わったかもな」
「幼馴染がどんなだったら、いい?」
「胸が大きいとか」
「胸っ」
「男のロマンが詰まってるからな」
「ロマン……」
頷いた、理解してくれたようで何より。
「あとは二重瞼、整った顔立ち、潤いある肌に見るからに弾力のある魅力的な唇、これ!」
「おおっ」
「さらりとした触り心地のよさそうな髪もいいかな」
「素晴らしい。では」
そこで一呼吸置いて彼女は顎に指を当てて再び言葉を紡いだ。
「例えばだが、更に魔術師や超能力者とかいて、遭遇したら? 君の日常は面白くなっていると思う? ラノベ一冊書けるくらいに」
「魔術師や超能力者、ねえ?」
「うん」
「……多少は面白くなるか? ラノベっぽい生活になるのかなあ。いや、それはないか」
「どうして?」
「そういう奴らが出てくる物語は何かしら主人公に敵意や目的があるけど、俺のようなごく普通の高校生には敵対する理由は無いよな」
「なるほど。敵対する理由……ね」
ちょいとメモ帳を覗き見てみる。
びっしりと文字で埋められたページは彼女の熱意が伝わってくる。
しかし果たして俺の意見は参考になるのやら。
「勉強になった」
「面白いもの書けそう?」
「インスピレーションは刺激された。実際に見てみたい」
「見てみるのは不可能だけどな」
残念ながらここは現実だ、退屈な日常しかない。
どうしても見たいなら漫画でも立ち読みするかレンタルショップでアニメでも借りてくるか深夜アニメを見るかしてもらいたいね。
長話は空腹には辛い、そろそろ行くか。
「じゃ、俺はこれで。いいラノベ書けるよう頑張れよ」
久しぶりに女性と長い時間話したな。
なんか、ちょっと……嬉しくて楽しかったのもある。だから俺は饒舌に語ってしまったんじゃないだろうか。
「君を使って見てみるとする。事実は小説よりも奇なり、だから」
「えっ?」
振り返ってみると、そこにはもう少女の姿は無かった。
どこに、行った?
店内を見渡してみてもどこにもいない、すばしっこい奴だな。もう店を出てしまったのか?
なんだろう、妙な事を言っていたけど……まあいっか。
帰ろうっと。
今日一日は大体こんな感じ。
やる事の無い放課後はその日の気分で何かするだけ、あとはほとんど変わらない。
こんな放課後を過ごすより部活でもやってみようかなとは思ったが、興味が無いものをやったところで続きやしないだろう。
そうなると選択肢は帰宅部以外考えられないね。
何より今更どこかの部に所属して俺の人生が何か大きく変わるとも思えないし。
明日も同じ一日が待っている、放課後は多少違うかもしれないけど微々たるものだ。
退屈すぎて溜息がまた出ちゃうねこれ。
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