神様はラノベ作家を目指すようです。

智恵 理陀

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第一部

その3.薫ちゃん

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「ん? なんだあいつ」

 薫は足を止めて、何かを見ていたので俺も視線を追ってみるや、いつも横を通るファストフード店の前に女子生徒が一人。
 何やら窓に自分の顔を映して、じっとそれを見つめながらぺたぺたと自分の顔を触っていた。

「朝の俺と同じ事してやがる」
「あいつも元男だったりして」
「ありうるな」

 挙動不審すぎる、何が起きたのか分からず周囲の目も気にせずといった感情を漂わせる背中だった。
 背は俺よりも高いな、長い黒髪は腰まで伸びていて見とれちまう。

「どうする?」
「通り過ぎていいんじゃない?」

 気にはなるけど、厄介事に自ら足を突っ込むのもどうかという話。
 薫は自分の現状に手一杯、俺はその状況を理解するのが手一杯だ。これ以上何かあったら頭から煙が上がるかもしれない。

「あ、こっち見た」
「えっ?」

 本当だ。
 その視線は真っ直ぐ俺に向けられている……気がした。
 知り合いではない、あんな美人知っていたら俺の人生はもっと華やかになっていたはずだ。
 整った顔立ち、ぱっちり二重の瞼、この時点ではなまるですと言いたい。
 さらに潤いのある唇、最高――面白みも無く簡単な表現だが分かりやすく手っ取り早いので三文字でまとめると、美少女中の美少女。

「なんかこっちずっと見てるぞ」
「うん……」

 何か用件でもあるのだろうか。

「今にも助けを求めそうなくらい見てるぞ」
「ああ……」

 彼女は俺達へ歩み寄り、酸素でも欲している金魚みたく口をぱくぱくしていた。
 一応、話はしているようだが如何せん声が小さくて聞き取れない。
 こちらからも歩み寄ろう。

「何か?」
「……えと、あのっ、そのっ」

 口篭るその声。
 聞き覚えがあった、あったが……それでも誰なのかすぐには思い出せなかった。

「どちゃくそテンパってるな」
「お、落ち着いて!」

 挙動不審で視線も安定していない。
 人と話すのが慣れていないのかこの子。

「あ、あの~、お名前は?」

 簡単な質問から初めて、落ち着かせよう。
 しかし美少女の狼狽は萌える、このまま数分ほど眺めているのも悪くはない。

「……アです」
「えっ?」

 ボソッとした声、聞き取れなかった。

「……こう……アです」
「何だって?」

 もう少し腹から声を出してもらいたいものだが。
 俺達は彼女へ耳を傾けて更に距離を縮めるも、警戒されているのか彼女は距離を取って、また口をぱくぱく。
 勇気を振り絞っているのか、胸に手を当てて深呼吸した後に彼女は言った。

「こ、上月ノアです!」

 その時、世界が停止したかのような、衝撃が走った。
 薫とお互いに顔を見合わせて、瞬き二回。

「わんもわ……」
「こ、上月……ノ…………す」

 最後に至っては尻すぼみして聞き取れなかった。

「えっ……あの上月ノア?」

 薫が目を真ん丸くさせて再度確認する。
 彼女――上月ノア? は小さく頷いた。

「いやいやんなアホな!」

 朝起きたら女になってたお前が言うなよ。

「目が覚めたら……こうなってて……」

 沈黙。
 考えてみる、この非現実的な現象本日二度目について。
 落ち着け、男友達がいきなり女友達になって更に幼馴染がいきなり美少女になって目の前に現れるなんていう現実。
 いや、ダメだ、落ち着けない、わけがわからない。
 とりあえず、質問してみよう。

「変な夢、見た? 知らない女の子が出てくる夢とか」
「あ、うん……」

 つまり、薫と同じくあの女の子に何かされた?

「……本当に、本当にノアなのか?」

 ノアだとしたら俺より身長が高くてちょっとムカつくな。

「ノア、です、すみません許してくださいごめんなさい……」
「別に怒ってなんかないけど」

 ちょっとその羨ましい身長にムカついただけだ、顔に出てたかもしれないな。
 連続して信じられない事が起きると、どうしていいのか分からない。
 ……あのノアが、こんなんになっちまうなんて、どう反応していいのやら。

「でも胸ちっちぇーな。俺よりちっちぇー」
「はわ……」

 涙目になるノア。
 …………可愛い!

「ふふん」

 しかし薫は元男としてそこは勝ち誇っちゃいけないと思うんだよなあ。

「そこいじるの忘れていた。やはり幼馴染は胸が無いと駄目」

 またあの少女の声だ。 
 近くにいる、俺達は聞き覚えのある声の主を探してみると電柱の影にあの少女(メモ帳持ってるからメモ帳女と呼ぼう)を発見。
 彼女は手に持っていたシャーペンでまた何かメモを取り、ペンでノアを差すと、一瞬彼女の体に何か青白い光が纏ったように見えた。
 周りの通行人は誰もその光には反応しない、見えていない……のか?
 そして、その光が消えた時に異変は起きた。

 ブチンッ。

 そんな音と共に俺の頬に何かが飛んできた。

「痛っ」

 ……何だろう、床に転がったそれを薫と一緒に見る。
 ……ボタン? 制服のボタン、かなあ。

「はひゃっ!?」

 ノアの慌てた声、俺達の視線はノアへと移って――そんで胸へ。

「ええっ!?」

 膨らんでいた……うん、確かに、その、それが、膨らんでいた。
 何を言っているのか自分でも分からないが、目の前の光景は、なんか二つのふくらみができていたのだ。
 ボタンがちぎれたのはそのせいだ、そして見えるのは谷間。
 ノアは慌ててそれを両手で隠す、あわよくば隠さずに見せてもらいたいと思ったり。

「私の理想の幼馴染完成。そういう事で」
「どういう事っ!?」

 俺の言葉には聞き耳も立てず逃げるように去っていくメモ帳女。
 一体何なんだあいつは……。

「ま、負けた……くそう! こうなったら揉みしだいてやる!」
「あの、も、揉まないで!」

 薫は何をやっているんだ。
 しかしこういう時は女なのは得だな、男が女の胸を街中で揉んでいたら大問題だったが今の薫は女だ。
 女が女の胸を揉むのは注目は浴びるも問題にはならない、羨ましい事しやがる。
 最初は悔しそうに揉んでたはずが、徐々に嬉しそうに、しかも鼻血を垂らして揉んでいるのは何なんだろうね。

「なにこの状況」
「ああすっごいこれ」
「や、やめ……」

 道端で女子高生の胸を揉む女子高生と、それを傍観する男子高校生の図は何かと誤解を生みやすい。 
 ちらほらと聞こえてくるのは「朝から修羅場?」「あの冴えない奴の取り合い?」とか「キマシタワー」なんていう妙な会話ばかり。
 噂が広まるのも困るな、そろそろやめてもらおう。

「あの、その辺にして学校に行かない?」
「それもそうだな」

 薫は揉むのを止めるも、今度はノア自身が揉みだした。

「おいノア、どうした……?」
「お……おっぱい」
「落ち着け。ほら、行くぞ!」

 さっきまでは実感が湧かなかったのか、自分の胸の大きさに高揚が隠せない様子だった。
 同時に混乱しているのだろうけど、早く冷静になってほしい。
 学校にいけば裁縫道具あるかな? まあ、誰かしら持ってるだろう、特に女子生徒。
 それまでの我慢だな。ブラはどうするか分からんが。

「お前、あの牛乳瓶みたいな眼鏡は?」
「な、無くなってた……けど、眼鏡が無くても、よく、見えるの」

 視力もよくしてくれたようだな、羨ましいなあ。

「あのっ」
「何?」
「話するの……久しぶり、だね」
「……そうだね」

 何年ぶりか、すぐには分からないくらいに久しい。

「あれか? 久しぶりすぎて緊張する、みたいな?」

 ノアは小さく頷いた。
 緊張ねえ? 俺はそんなの感じないけど。
 くそう、それより俺はこいつを見上げなくちゃならんのがものすごく悔しい。

「つーかあのちっこくて暗いオーラ全開で牛乳瓶の髪ぼさぼさな奴がこうなるとはなあ……」
「ああ、まったくだ。あのちっこくて暗いオーラ全開で牛乳瓶の髪ぼさぼさな奴がこうなるなんてなあ……」
「今、私の心は、恐ろしいくらいに、えぐられてます」
「いやいや、ごめんごめん。だってさああんまりにも変わっちまうからびっくりなんだよ」

 そういう薫も変わりすぎてびっくりなんだよね、ノアに言っておいてやろう。

「ノア、こいつは薫。同じクラスの奴でいつも俺と一緒にいる友達」
「えっ? あの、えっ?」

 ノアは困惑して、薫を見ては瞬き数回。
 いきなり男友達を紹介しても、今は女友達になっているのだからまあそりゃそうなるわな。

「どうも雪寺薫です、今日から女の子になってしまったので薫ちゃんと呼んでください」

 それでいいのか薫ちゃん。
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