6 / 43
第一部
その6.カレーはうまし
しおりを挟む
帰路について、俺はやっと殺意の視線が無くなったのを感じて深いため息をついた。
「お、おつかれっ?」
ノアが心配そうに顔を覗いてくる。
近い……!
心臓が一瞬激しく脈動した、こいつは自分の容姿が今どれほど男子に刺激を与えるかまだ分かっていないようだ。
「ま、まあな……」
「俺が癒してあ、げ――」
「キモい」
薫が言い終える前に言葉で遮断。
「だからキモい言うな!」
「でも……」
「でももクソもあるか! 俺の誘惑に靡かないのか?」
靡きそうで、靡いたら負けだと思う自分がいる。
薫にドキッとしたらこいつは元男! 元男! あの薫! と男の時の薫を思い出して心を静めていたり。
「わ、私にはっ、ど、どうだです?」
緊張してるのか? 日本語が不安定だな。
「はいはい、二人とも魅力的魅力的。可愛い美しい綺麗です」
この話に乗ったら面倒だ、流すとしよう。
「ちゃんとした反応しれー!」
すると薫は俺の腕を掴んで振り回し始めた。
ちゃんとした反応って言ったってどうしろっていうんだよもう。
「もしメモ帳女がどこかで見てて、俺達のいちゃいちゃしたやり取りを望んでたら近づいてくるかもしれないぞ?」
「そ、そうかもっ!」
今度はノアが残りの腕を掴んで俺は左右から引っ張られる事に。
「は、は、反応、しれー?」
「無理に薫のノリを真似しなくてもいいぞっ!?」
しかも薫とは違って柔らかいものが当たってる!
「いい加減にしろっ!」
二人の手を振り払って、頭に拳骨をお見舞いしてやった。
「ほぎゃっ!」
「あうんっ!」
涙目になって俺に何かを訴えようとしてくるも、睨み返して怯ませる事に成功。
「殴るとメモ帳女は来ないかもしれないぞ!」
……メモ帳女を都合よく利用してないか?
辺りを隈なく見ても彼女らしい姿は何処にもない。
本当にこんな事してメモ帳女は近づいてくれるのやら。
疑いつつも一理あるからこそ、何も言えずに俺はため息。
「お前は女にされたのに前向きだな」
「俺はいつだってポジティブ」
薫は女になってから、なんか前と違うな。
だるそうな様子なんて一切見せないし、随分と楽しそうにしてる。
これもメモ帳女の影響か?
もしかしたら本人が気づいていない変化というのもあるかもしれない。
「そだ、ノアさあ、携帯の番号交換しない?」
「えっ、あ、う、うんっ」
「浩太郎も交換しておけよ、何かあったら連絡しあわないとな」
それもそうだな。
「わかったよ」
ノアのアドレスと電話番号をゲット。
うーん……俺のアドレスに母さん以外の女子が初めて追加された。
あ、今は薫も女だから一応初めてではないか。
「か、家族以外で初めてアドレス帳に人が増えた……」
ノアは高々と携帯電話を空に掲げた。
とても嬉しそうで何よりです。
「メ、メールして、いい?」
「いいけど俺、あんまりメール返さないタイプだから察してね」
するとノアは携帯に指を走らせるや、その後に俺の携帯が震えだした。
メールが一件。
開いてみると、
『わかった(・∀・)キエー』
との事(顔文字にちょっとだけイラッときた、何がキエーだよ)。
それからは二人と別れ、俺は自宅へ。
いつもとはまったく違う一日だった。
疲れた、ただそれだけだ。
退屈はまあ……しなかったとは思う。
あのメモ帳女にやりたい放題やられているのは気分的にはよくないがね。
「おかえりー。今夜はカレーにしてみたわよ!」
しかしいい事は多い。
わざわざ玄関まで出迎えてくれる母さんは俺の理想の母さんになってくれて嬉しい。
こういうのはメモ帳女には感謝している。
いい香りだ、食欲がそそる。
「カレールーは使わなかったわ、カレー粉で本格的に作ってみたの」
料理の腕は格段に上がったようだ。
「母さん、何かいい事あった?」
あまりに活き活きしてていつもより若く見えるな。
「んー、何かしら。変な夢を見たんだけどね、起きたらすごく主婦を極めたくなったのよね。浩太郎、今まで駄目な母さんでごめんね。母さん、いい母親になるから!」
「謝らなくても……」
「だって、弁当だって作らなかったのよ? 朝食はいい加減なものばっか。これからはいっぱい愛情を込めるわ!」
「そ、それは嬉しいよ母さん……」
「ただいまのキスもしていいわよ!」
「それは嫌だ」
「浩太郎……母さんの事、嫌い?」
なんか性格は少し面倒な感じになったな。
「……好きだよ」
「嬉しいわあ!」
家に上がって、俺は母さんの愛情たっぷりな視線を浴びながら部屋へ。
以前の母さんに比べたら十分マシだが、俺がどう接していけばいいのかと困惑してしまう。
夕食時になり、俺は部屋を出て居間に。
カレーの香りに足が自然と動いてしまう。
母さんは鼻歌を歌いながら風呂の掃除をしていた、いつもなら母さんは一切やらないので風呂掃除は俺の仕事だったのに。
「うっま。これうっま~」
食卓には少女が既に食事中だった。
……うちは三人家族だ、少女がいるのはおかしい。
しかもカレーをもりもり食べてやがる。
「メモ。カレーはうまし」
メモする必要あるのか?
「おい」
「あっ、どうも」
「あっ、どうもじゃねーんだけど」
人の家に上がりこんでカレーを食べている、この時点で警察へ待ったなしだぞ。
「君の母、カレー作るのうまい」
少女――メモ帳女はそう言ってカレーを食べては満足そうに表情を緩める。
「お前がそうしたんだろ」
「気づいてた?」
そりゃあ気づくでしょ。
「一体お前は何者なんだよ」
「名前はみかの……箕狩野蔵曾」
カレールーで器用にも皿に書いてくる。
細かい漢字は見辛いが読みから予測。
ハンドルネームを考えるにあたって、難しい漢字をふんだんに取り入れましたみたいな、明らかに偽名なんだよなあ。
「……何が目的だ、それにどうやってあんな非現実的な事……お前、一体何者なんだ?」
「一気に質問、やめてほしい」
のんきにカレーを食べる蔵曾。
「それより君は今の生活を普通に過ごしてくれれば私はそれでいい。あとは自分でメモる」
「つーことは、俺の観察が目的か?」
変化を与えられた人達を観察するんじゃなく、俺を観察してメモする、とな。メモする理由も尋ねておきたいね。
「そう」
「どうして観察してメモを? 一体何がしたいんだよ」
「君は質問しかない」
すみませんね。
「インスピレーションを湧かせてほしい」
「インスピレーション?」
「そう。もう今日一日ですごく湧いた。筆が進みそう」
まさかとは思うが……。
「友達を女にしたり、幼馴染を巨乳美少女にしたのも……インスピレーションを湧かせてラノベを書きたいから?」
「そう」
「どうやってこんな非現実的な事を……?」
「企業秘密」
企業が絡んでいないのに企業秘密と言われてもな。
「説明しても、君は納得できずにもやもやした感覚だけ残ると思う」
「でも気になる」
「きっとその興味はアニメや漫画、小説などで出てくる特殊能力と同じ。説明を聞いても完璧に理解できない、某猫型ロボットの四次元ポケットを詳しく説明してもらったとして、君は理解・納得できる自信は?」
「……まったくない」
「なら無理」
そう言われるとちょっと腹立つな。
「完食。中辛は私好み、満足」
「知るか」
「では引き続き今の生活を楽しんで」
するとメモ帳女は皿を置くや窓へと軽やかに飛び移った。
「お、おい! 待てよ! てか普通に土足で入ってたなこの野郎!」
「主人公らしく振舞うとなおいい」
「じゃあ主人公として胸を張れる容姿をくれ!」
こいつ、俺を主人公に見立てて周りを嗾けてラノベみたいな生活を作ろうとしているのかもしれない。
だとしたら、俺はかっこいい主人公になりたい。
「嫌」
「何でだよ!」
「微妙な主人公も時にはありだと思う」
「微妙って言うなよ!」
「凡人もありかなと」
「なしだろ! とりあえず身長とイケメンの顔をよこせ、そしたらお前の望むような生活を演じてみせるぞ」
「お気になさらず、君は君らしくやって」
窓から軽やかに飛び降りて彼女はどこかへ行ってしまった。
「ま、待ってくれよぉお! 少しくらい俺をかっこよくしてくれたっていいだろ馬鹿ぁぁあ!」
全身全霊をもって訴えた。
夕焼けが目に染みる。
「近所迷惑。あと主人公の立ち位置奪われないで――」
遠くから聞こえた彼女の声。
主人公の立ち位置? なんだそりゃ。
しかしそれよりちょっと泣きそう。慎重を少しだけでいいから伸ばしてくれたっていいじゃん……。
……結局何者かを聞き出せなかった。
「ちくしょう……」
何だよ俺の周りばっかいい思いしてさ。
ふてくされて俺はソファに倒れこんだ。
あのメモ帳女、次に会ったらまた同じ事お願いしてやるからな……! それでもやってくれなかったら地の果てまで追い回してぼっこぼこにしてやる!
しばらくして父さんが帰宅した。
いつもなら酒で顔を赤くして遅い時間に帰ってきてそのままソファで寝る父さんが飯時に帰宅なんて、ねえ。
あのメモ帳女が絡んでいると思うと、こういう変化もそろそろ驚かなくなってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい、あ・な・た」
なんか二人の間にはいつもとは違って俺の嫌いなリア充と同じ雰囲気があった。
父さんは髪型や姿勢など、一つ一つが整っていて渋さがあり、母さんはそんな父さんにメロメロ。
三人で食卓を囲むのは久しぶりだ。
「美味い」
「でしょ~?」
「ああ、母さんの料理は最高だな」
「もう~あなたったら褒められると照れるわあ♪」
なにこれ?
なんたら珍百景とかに応募していい?
本当に俺の両親かと疑ってしまうくらいの票へんっぷりだ。
……けれど笑いある食卓、家族三人で食べる夕食……幸せだ。
こういう場面もメモされているかもと思うと、素直には喜べないけどな。
あの野郎……ラノベ書きたいからって妙な力まで使って人の人生を弄繰り回しやがって、しかも観察とかいってるがこれは悪質なストーカーと同じだぞ。
寝る時はカーテンを閉めてわずかでも覗くスペースも無いようにして寝るとしよう。
蔵曾はどんなラノベを書きたいのかは知らないが、俺をモデルとしたラノベなんて絶対につまらないに決まってる。
長身でイケメンにしてもらえれば俺は主人公らしく生活してやろう。
「お、おつかれっ?」
ノアが心配そうに顔を覗いてくる。
近い……!
心臓が一瞬激しく脈動した、こいつは自分の容姿が今どれほど男子に刺激を与えるかまだ分かっていないようだ。
「ま、まあな……」
「俺が癒してあ、げ――」
「キモい」
薫が言い終える前に言葉で遮断。
「だからキモい言うな!」
「でも……」
「でももクソもあるか! 俺の誘惑に靡かないのか?」
靡きそうで、靡いたら負けだと思う自分がいる。
薫にドキッとしたらこいつは元男! 元男! あの薫! と男の時の薫を思い出して心を静めていたり。
「わ、私にはっ、ど、どうだです?」
緊張してるのか? 日本語が不安定だな。
「はいはい、二人とも魅力的魅力的。可愛い美しい綺麗です」
この話に乗ったら面倒だ、流すとしよう。
「ちゃんとした反応しれー!」
すると薫は俺の腕を掴んで振り回し始めた。
ちゃんとした反応って言ったってどうしろっていうんだよもう。
「もしメモ帳女がどこかで見てて、俺達のいちゃいちゃしたやり取りを望んでたら近づいてくるかもしれないぞ?」
「そ、そうかもっ!」
今度はノアが残りの腕を掴んで俺は左右から引っ張られる事に。
「は、は、反応、しれー?」
「無理に薫のノリを真似しなくてもいいぞっ!?」
しかも薫とは違って柔らかいものが当たってる!
「いい加減にしろっ!」
二人の手を振り払って、頭に拳骨をお見舞いしてやった。
「ほぎゃっ!」
「あうんっ!」
涙目になって俺に何かを訴えようとしてくるも、睨み返して怯ませる事に成功。
「殴るとメモ帳女は来ないかもしれないぞ!」
……メモ帳女を都合よく利用してないか?
辺りを隈なく見ても彼女らしい姿は何処にもない。
本当にこんな事してメモ帳女は近づいてくれるのやら。
疑いつつも一理あるからこそ、何も言えずに俺はため息。
「お前は女にされたのに前向きだな」
「俺はいつだってポジティブ」
薫は女になってから、なんか前と違うな。
だるそうな様子なんて一切見せないし、随分と楽しそうにしてる。
これもメモ帳女の影響か?
もしかしたら本人が気づいていない変化というのもあるかもしれない。
「そだ、ノアさあ、携帯の番号交換しない?」
「えっ、あ、う、うんっ」
「浩太郎も交換しておけよ、何かあったら連絡しあわないとな」
それもそうだな。
「わかったよ」
ノアのアドレスと電話番号をゲット。
うーん……俺のアドレスに母さん以外の女子が初めて追加された。
あ、今は薫も女だから一応初めてではないか。
「か、家族以外で初めてアドレス帳に人が増えた……」
ノアは高々と携帯電話を空に掲げた。
とても嬉しそうで何よりです。
「メ、メールして、いい?」
「いいけど俺、あんまりメール返さないタイプだから察してね」
するとノアは携帯に指を走らせるや、その後に俺の携帯が震えだした。
メールが一件。
開いてみると、
『わかった(・∀・)キエー』
との事(顔文字にちょっとだけイラッときた、何がキエーだよ)。
それからは二人と別れ、俺は自宅へ。
いつもとはまったく違う一日だった。
疲れた、ただそれだけだ。
退屈はまあ……しなかったとは思う。
あのメモ帳女にやりたい放題やられているのは気分的にはよくないがね。
「おかえりー。今夜はカレーにしてみたわよ!」
しかしいい事は多い。
わざわざ玄関まで出迎えてくれる母さんは俺の理想の母さんになってくれて嬉しい。
こういうのはメモ帳女には感謝している。
いい香りだ、食欲がそそる。
「カレールーは使わなかったわ、カレー粉で本格的に作ってみたの」
料理の腕は格段に上がったようだ。
「母さん、何かいい事あった?」
あまりに活き活きしてていつもより若く見えるな。
「んー、何かしら。変な夢を見たんだけどね、起きたらすごく主婦を極めたくなったのよね。浩太郎、今まで駄目な母さんでごめんね。母さん、いい母親になるから!」
「謝らなくても……」
「だって、弁当だって作らなかったのよ? 朝食はいい加減なものばっか。これからはいっぱい愛情を込めるわ!」
「そ、それは嬉しいよ母さん……」
「ただいまのキスもしていいわよ!」
「それは嫌だ」
「浩太郎……母さんの事、嫌い?」
なんか性格は少し面倒な感じになったな。
「……好きだよ」
「嬉しいわあ!」
家に上がって、俺は母さんの愛情たっぷりな視線を浴びながら部屋へ。
以前の母さんに比べたら十分マシだが、俺がどう接していけばいいのかと困惑してしまう。
夕食時になり、俺は部屋を出て居間に。
カレーの香りに足が自然と動いてしまう。
母さんは鼻歌を歌いながら風呂の掃除をしていた、いつもなら母さんは一切やらないので風呂掃除は俺の仕事だったのに。
「うっま。これうっま~」
食卓には少女が既に食事中だった。
……うちは三人家族だ、少女がいるのはおかしい。
しかもカレーをもりもり食べてやがる。
「メモ。カレーはうまし」
メモする必要あるのか?
「おい」
「あっ、どうも」
「あっ、どうもじゃねーんだけど」
人の家に上がりこんでカレーを食べている、この時点で警察へ待ったなしだぞ。
「君の母、カレー作るのうまい」
少女――メモ帳女はそう言ってカレーを食べては満足そうに表情を緩める。
「お前がそうしたんだろ」
「気づいてた?」
そりゃあ気づくでしょ。
「一体お前は何者なんだよ」
「名前はみかの……箕狩野蔵曾」
カレールーで器用にも皿に書いてくる。
細かい漢字は見辛いが読みから予測。
ハンドルネームを考えるにあたって、難しい漢字をふんだんに取り入れましたみたいな、明らかに偽名なんだよなあ。
「……何が目的だ、それにどうやってあんな非現実的な事……お前、一体何者なんだ?」
「一気に質問、やめてほしい」
のんきにカレーを食べる蔵曾。
「それより君は今の生活を普通に過ごしてくれれば私はそれでいい。あとは自分でメモる」
「つーことは、俺の観察が目的か?」
変化を与えられた人達を観察するんじゃなく、俺を観察してメモする、とな。メモする理由も尋ねておきたいね。
「そう」
「どうして観察してメモを? 一体何がしたいんだよ」
「君は質問しかない」
すみませんね。
「インスピレーションを湧かせてほしい」
「インスピレーション?」
「そう。もう今日一日ですごく湧いた。筆が進みそう」
まさかとは思うが……。
「友達を女にしたり、幼馴染を巨乳美少女にしたのも……インスピレーションを湧かせてラノベを書きたいから?」
「そう」
「どうやってこんな非現実的な事を……?」
「企業秘密」
企業が絡んでいないのに企業秘密と言われてもな。
「説明しても、君は納得できずにもやもやした感覚だけ残ると思う」
「でも気になる」
「きっとその興味はアニメや漫画、小説などで出てくる特殊能力と同じ。説明を聞いても完璧に理解できない、某猫型ロボットの四次元ポケットを詳しく説明してもらったとして、君は理解・納得できる自信は?」
「……まったくない」
「なら無理」
そう言われるとちょっと腹立つな。
「完食。中辛は私好み、満足」
「知るか」
「では引き続き今の生活を楽しんで」
するとメモ帳女は皿を置くや窓へと軽やかに飛び移った。
「お、おい! 待てよ! てか普通に土足で入ってたなこの野郎!」
「主人公らしく振舞うとなおいい」
「じゃあ主人公として胸を張れる容姿をくれ!」
こいつ、俺を主人公に見立てて周りを嗾けてラノベみたいな生活を作ろうとしているのかもしれない。
だとしたら、俺はかっこいい主人公になりたい。
「嫌」
「何でだよ!」
「微妙な主人公も時にはありだと思う」
「微妙って言うなよ!」
「凡人もありかなと」
「なしだろ! とりあえず身長とイケメンの顔をよこせ、そしたらお前の望むような生活を演じてみせるぞ」
「お気になさらず、君は君らしくやって」
窓から軽やかに飛び降りて彼女はどこかへ行ってしまった。
「ま、待ってくれよぉお! 少しくらい俺をかっこよくしてくれたっていいだろ馬鹿ぁぁあ!」
全身全霊をもって訴えた。
夕焼けが目に染みる。
「近所迷惑。あと主人公の立ち位置奪われないで――」
遠くから聞こえた彼女の声。
主人公の立ち位置? なんだそりゃ。
しかしそれよりちょっと泣きそう。慎重を少しだけでいいから伸ばしてくれたっていいじゃん……。
……結局何者かを聞き出せなかった。
「ちくしょう……」
何だよ俺の周りばっかいい思いしてさ。
ふてくされて俺はソファに倒れこんだ。
あのメモ帳女、次に会ったらまた同じ事お願いしてやるからな……! それでもやってくれなかったら地の果てまで追い回してぼっこぼこにしてやる!
しばらくして父さんが帰宅した。
いつもなら酒で顔を赤くして遅い時間に帰ってきてそのままソファで寝る父さんが飯時に帰宅なんて、ねえ。
あのメモ帳女が絡んでいると思うと、こういう変化もそろそろ驚かなくなってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい、あ・な・た」
なんか二人の間にはいつもとは違って俺の嫌いなリア充と同じ雰囲気があった。
父さんは髪型や姿勢など、一つ一つが整っていて渋さがあり、母さんはそんな父さんにメロメロ。
三人で食卓を囲むのは久しぶりだ。
「美味い」
「でしょ~?」
「ああ、母さんの料理は最高だな」
「もう~あなたったら褒められると照れるわあ♪」
なにこれ?
なんたら珍百景とかに応募していい?
本当に俺の両親かと疑ってしまうくらいの票へんっぷりだ。
……けれど笑いある食卓、家族三人で食べる夕食……幸せだ。
こういう場面もメモされているかもと思うと、素直には喜べないけどな。
あの野郎……ラノベ書きたいからって妙な力まで使って人の人生を弄繰り回しやがって、しかも観察とかいってるがこれは悪質なストーカーと同じだぞ。
寝る時はカーテンを閉めてわずかでも覗くスペースも無いようにして寝るとしよう。
蔵曾はどんなラノベを書きたいのかは知らないが、俺をモデルとしたラノベなんて絶対につまらないに決まってる。
長身でイケメンにしてもらえれば俺は主人公らしく生活してやろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる