神様はラノベ作家を目指すようです。

智恵 理陀

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第一部

その8.休日

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 休日はいつも何をして過ごしますか、という質問がきたとする。
 読書や散歩などしてますなんて適当に答えるだろうが、実際のところは家で一日中ごろごろ。怠け者を極める事に努力している。
 今日も怠け者を極めたいところではあったが、残念ながらそうもいかず。
 俺はいつも学校で薫と待ち合わせする場所に立っている。
 時刻は朝の十時を過ぎたあたり、休日のこんな時間に外にいるのはいつ以来だろうか。
 かなり久しぶりで思いだせん。

「よっ!」

 二人は十分後に到着。
 陽気な薫に対して、俺はしかめっ面を浮かべる。

「待った?」
「いいや、全然」

 早く来たのは別に楽しみだったからじゃあない。
 暇でやる事もないし、遅れたら何か言われるかもって思っただけだからな。

「こ、浩太郎君……お、おはようっ」

 ノアは律儀にもお辞儀をしてきた。
 何だ? ノアの奴、今日はまた一段と緊張していやがる。

「ど、どう、かなっ?」
「どうって?」
「私服姿だろ、察してやれよ。これだから浩太郎は~」

 女性に疎くてどうもすみませんね。
 ノアの服装は青を基調としたワンピースに白の薄いカーディガンを重ね着していた。
 街中でよく見る女性の服装――だけどノアが着ると一味違う。

「ク、クローゼットに、何故かこれしか無くて……」

 蔵曾の仕業か?
 何の意図があるのかさっぱりだ。

「……いいんじゃない?」
「俺は男物の服しかなくてなあ」

 薫のはTシャツにジーパン、サイズが合ってないのか、ジーパンは裾を捲り上げていて、しかしそれもファッションとして十分。似合っている。
 二人のファッションと比べると俺のは安い服屋で買ったものを選んだだけ。
 しもむらファッション舐めんな。しもむらは安くて何気にいいものばかり揃ってるんだぜ。

「服が欲しいんだ! 女物!」
「そう……」

 だと思った。
 俺は服に金はかけないタイプである、なので二人の後ろをついて回って相槌を打つ係になりそうだ。

「買い物かあ……」
 正直めんどい。

「箕狩野蔵曾がひょっこり現れるかも!」
「そうだといいね」

 向かったのは街でも人気のデパート、その三階は様々な店が入っている形式なので多くの服と、店ごとに違うファッションを選択できる――との事。
 デパートのご説明はお隣を歩くノアさんが歩きながらしてくれました。

「おお~! スカート! ワンピース!」
「タ、タイツも必要、かもっ」
「黒タイツ! 見ろよ浩太郎! 黒タイツ!」
「はあ……」
「ブラジャー!」
「……うん」

 見せられると非常に困る。

「パンツ!」
「……はい」

 盛り上がってる中、俺は無表情で突っ立っているだけ。
 下着コーナーの中心に立つ俺は、学校の時よりも酷く孤独感を抱いている。

「萌える? 萌える?」

 薫はピンクのワンピースを自分の体に当てて見せてくる。
 後ろでノアが小さな拍手をしており、ノアも抱いているであろう言葉を俺は口に出す。

「似合ってるよ。萌える萌える」
「いえーい!」

 ノアとハイタッチ。
 お二人とも、テンション高いね。
 もう蔵曾の事なんて頭にないんじゃないか?

「いやあ買った買ったぁ。女の子が買い物したがるのわかるわ~」

 もうすっかり女の子だね薫は。

「わ、私も買えてよかったっ」
「俺はやっと飲み物を飲めてよかった」

 既に時刻は昼の十二時を過ぎており、俺達はデパート内のレストランで昼食を摂る事になった。

「悪い悪い、お礼に昼飯奢るよ」
「わ、私も奢るっ」
「それは嬉しいな」

 ならお言葉に甘えてハンバーグとチョコレートパフェを頂くとしよう。

「俺達のせいでお前が学校で苦労してるのもあるしさ」
「こ、浩太郎君……ご、ごめんなさい……」
「気にするなよ、どうせ俺なんか……ははっ……」
「お、落ち込むなって! 俺もあいつらに言っておくから!」
「わ、私も!」

 クラスメイトや君達を慕う生徒とはかなり親しくなったようで何よりです。

「ひっそりと学校生活を送るから大丈夫さ……。お気遣い無く」
「俺はお前を一番の友達だと思ってるから絶対に見捨てないし守ってやる!」
「私も、守る」
「ちょっと元気が湧いてきた、ありがとう」

 持つべきものは友達だな。
 それと、ノアとは今までずっと話をしてなかったけど、こうして話してみると良い奴だ。
 やっぱりって付け加えておく。うん、やっぱり良い奴。
 昔と……変わらず、いい奴だ。
 それを俺は、どうしてか鬱陶しくなって距離を取ってしまって、話もしなくなってしまった。
 きっとあの頃の自分はひどく面倒な性格だったのだ。
 ハンバーグが来たところで話は途切れられ、俺達はハンバーグをほおばった。
 意外と美味いな
 ――おごりだと思うともっと美味い!

「うめえ!」
「まったくだ、つーか薫は言葉遣いが前のままだから違和感まるだしだ」
「逆に個性としては活きるんじゃね?」
「……それもそうだな」

 親指を立てて肯定。
 しかし、こうして話が出来る機会は逃さないでおきたい。
 ノアに言うべき事を言っておかなくちゃな。

「なあ、ノア」
「ん? ど、どうかしたです?」
「今までさ、悪かったな」

 噛まないように、言下に水を口へ。

「えっ? な、何がっ!?」
「長い間、お互いの距離が離れ続けてたと思うんだ。いつしか俺は避けてた形になってた」
「べ、別に私は……」
「高校じゃあ同じクラスだってのに無視する形になっちまってさ」
「い、いいのっ。わ、私は暗い性格だし前は背が小さくて髪もぼさぼさで根暗っぽくて自分でも引くくらいで、浩太郎君が避けるの、当然だと思ったから……」

 珍しく喋るなお前。
 卑下しているのか俺をフォローしてくれているのか――両方? うん、両方だな。

「それが今や学校でも騒がれるほどの美人だもんな。避けるにも避けられん」

 何よりあの俺宛の手紙が人気を証明してくれている。
 薫のファンからのもあったが、捨てる前にざっと見た感じはノア様~と必ずその名前が書かれてたし、ノア様ファンクラブ会長とやらからも手紙が来ていたので学校での人気は俺が感じている以上に高いであろう。

「そ、そう?」
「ああ、そうだ。ノアはもっと自信を持ったほうがいい」

 いつもおどおどとしてるのはよくない、今後のためにも引っ込み思案な性格は直すべきだ。

「わ、分かった……が、頑張ってみる」
 あと一言目で躓くのも直したほうがいいかなあ。

「お前のほうは最近の学校生活、どう? 俺と違って楽しいだろ?」
「しょ、正直に言うと……楽しい」

 羨ましい。

「誰かと話すのって、意外と……いいかもっ。でもっ……」
「でも?」
「こ、こ、こ、ここっ!」
「お前はにわとりか!?」

 そこへ薫がツッコミをして戻ってきて、ノアは完全に言葉を飲み込んでしまったらしく縮こまった。

「でも、の続きは?」
「えっと、あのっ、こ、こりが!」
「「こり?」」

 俺と薫は首を傾げた。

「か、肩こりが……」
「……あ~なるほど」

 そういう事かい。

「巨乳になったおかげで肩がこり始めたと? 貧乳の俺には悩めない悩み事だねえ」

 薫……その笑顔とても怖い。

「えっ、あっ! いえ、その、ち、違うですっ」
「何が違うんだこの野郎!」

 両手でノアの胸を鷲づかみして揉み始める薫。
 この光景、俺には刺激的過ぎて直視できん。眼福ものではあるけど道徳的に。

「薫も女らしくなったよなあ」
「そ、そうか?」

 なんかよく見てみると化粧もしてるし、髪も手入れしているようだ。所謂女子力ってのが高くなっている。
 服装は男物だけど今日は女物の服も買ったんだ、これから更に女子力がアップしそうだね。

「ま、まあ~女になっちまったなら女らしく今は生きるしかねーしなあ~」
「俺も女にされてれば何か変わったかな」
「……」

 なんか二人が沈黙。
 女になった俺を想像したのか、目を逸らしながら、

「そう、だな……」
「う、うん……」

 想像した結果、どんな姿が思い浮かんだんだ? 聞かせてくれる? 場合によってはビンタあるけど。

「そういえば蔵曾の奴、現れる気配も無いな」
 唐突に薫は話を変えて――今の話は無かった事にしようという暗黙の了解に乗っておく。

「わ、私も何度か探してみたけど、見つからなかった」
「今日はメモしに来ないのかな」

 といっても今日の主な目的は買い物で蔵曾は釣れたらいいなくらいだったがね。

「その、き、気になったのっ」
 ノアは食事を終えて、口を拭いてから再び口を開いた。

「何が?」
「箕狩野蔵曾って……」
「ああ、あいつの名前か」
「逆から読むと」

 俺と薫は一瞬、クエスチョンマークを頭に浮かべて、とりあえず脳内でみかのうぞうそ、と思い浮かべた。

「逆から……」
「そう……ぞう」
「の……かみ」

 そうぞうのかみ?

「そ、想像の神……になる、んだけど、ぐ、偶然?」

 はは、いやいやまさかそんな。
 もしそれを意識して自分で名乗ったのならちょっと寒いってレベルになる。

「真面目に考えたのならネーミングセンスは絶望的だな」
「まったくだ」
「ま、まあ……」

 三人で苦笑い。

「なんだと」

 するとどこからか怒気を感じさせる声が聞こえてきた。
 近い、店内の客も唐突な怒声に周囲を見回して、何故か俺達のほうを見て視線を止めた。
 俺達の席には三人しか座っていない。
 それでも客は何かを見ていた。
 ……隣はテーブル席、仕切りがあってすぐ隣の客の顔は見えない。
 思えば声は隣から聞こえてきた。
 俺はそっと隣を見てみると、仕切りの上からこちらを覗いている少女がいた。

「お、お前!」

 パフェを食べていた、俺が注文したのと同じチョコレートパフェだ。
 なんかさっき店員がパフェを置いていったけど、いつの間にかテーブルにはパフェが無い!

「……それ、俺のだろ!」
「うまい」
「おいこら!」

 がつがつ食べはじめた。

「まいうー」
「おぉぉい!」

 それよりパフェ返せ!

「あ、ど、どうもお久しぶり、ですっ」
 ノア……律儀に頭下げて挨拶しなくていいから。

「よっ!」
 薫は蔵曾にまるで偶然会った友達みたいな感じで挨拶。

「よっ」
 蔵曾も同じように挨拶をし返した。

 なんだその挨拶、街中に遊びにいったら偶然友達と会ったような感じはよ。
 俺の知らないところで仲良くなってやしないだろうな。

「一つ言っておくが、ネーミングセンスには自信がある」

 ……うーん。

「ハイハイワロスワロス」
「その反応、ショック」

 フードを深々とかぶっているおかげで表情が伺えず、言葉も淡々としているのでどうにも感情が掴み取れない。以前の長波先生ほどではないけどさ。
 蔵曾はそう言いながら、何気にパフェを完食。

「うるさい、とりあえず自分の頭をかち割れ。あとパフェ弁償してからかち割れ」
「君は本当に口が悪い」
「お前のせいだ」

 蔵曾は容器を俺に返し、肩をすくめて顔を小さく左右に振った。
 この人は俺に張り倒してもらいたいのかな。

「か、神様、なの、かなぁ」
 ノアが囁いた。
 まるで神秘的な絶景を眺めているかのようにこいつの瞳には輝きがあった。

「さあな」
 定かではないがそれより、だ。

「……おい、とりあえず俺の身長を高くしてイケメンにしろ」
「仕方ない、やってやろう」
「マジか!」

 満面の笑み。

「嘘」
「張り倒す!!」
 俺は容赦なく蔵曾の胸倉を掴んで仕切りを乗り越えさせてこちら側に引きずり出そうとした。

「うぐぐぐ……」
「お、落ち着け浩太郎!」
「さ、殺人はダメ、絶対っ!」
「お客様っ!?」

 二人と店員に止められて、仕方なく手を離すと蔵曾は仕切りの向こうへと転げ落ちた。

「すみません! あいつを殺すだけなので大丈夫です!」
「大丈夫ではないですお客様!」

 必死に止められて、俺は仕切りを乗り越えるのを諦めた。

「げほっ……とても、苦しかった」

 仕切り越しにそんな弱々しい声。

「はぁ……もういいだろ、どうやったか知らないがお前のおかげで大変なんだよ。俺なんか観察しても何もインスピレーションは湧かないっつーの」

 するとひょっこりまた仕切りの上から猫耳フードが出てくる。

「そうでもない、インスピレーションは湧きまくりで、最高に筆が進んでいる。ノアと薫、二人が君と一緒にいると化学反応のようにいい場面が多数観察できる。この調子で頼む」
「え~……」
「俺は楽しいからやってもいいぞ!」
「わ、私はぞ、蔵曾さんにこんなにしてもらって感謝してるので……」

 くっ……俺の味方がいない、ならば一人引き込もう!

「薫! お前は男に戻りたいだろ!?」
「いやぁ……えっと、うーん、まぁ~なんちゅーか」
「別に戻らなくてもいいそうだ、ま、そうだろうね」
「……何が?」

 妙な言い回しだ。

「いや、私と彼――じゃなかった、彼女とちょっとしたお話。ねー」
「ねー」

 二人してなんか気持ち悪いな、俺だけ知らないのも嫌だし。

「じゃあまたお前は俺を観察する日々を送るってか?」
「頑張れ」
「見られてると思うと本当に最悪だ……死ねばいいのに」

 最後の言葉はぼそっと呟くように。

「いい作品を書けると思ったら、そのうち私はどっか消えるさ。てかさりげなく死ねばいいのにって言わなかった?」

 もうなんか面倒だ、色々と。

「あの、ほ、本当に、本当に……神様、なんですか?」

 ノアが恐る恐る質問をした。
 その質問には意味は無いが、聞いてみるだけ聞いてみるみたいな印象を受ける。

「神様かもしれないし神様じゃないかもしれない」

 曖昧だな。

「しかし神様と思われても仕方が無い事は出来る」

 じゃあ今すぐ高い身長とイケメンにしてくれ、いや、してくださいっつーの。
 しかし俺の頭も非現実的な事を連続して体験したからか、彼女が神だと認めても特に驚く事もなくなってしまった。
 彼女は神様、はい、分かりました――終わり。
 色々とごちゃごちゃ考えるよりも最初からこの事実を認めてしまおうと思う。
 そうすれば楽になれる。 

「ふんっ……そんで俺を使ってラノべのネタ探しか……? いい迷惑だ」
「まあそう言わずに」

 こいつが神様だとして、神様がラノベをねえ……?
 神様といっても何か文系女子みたいな感じ。

「い、いいんじゃないでしょうか……」

 そんな無理に笑顔を作らなくてもいいんじゃないかなノアよ。

「うんうん、理解してくれる人間は大好き。君も見習いなさい」
「黙れカス野郎。パフェ返せ」
「君は私に対して呼吸するかのように悪口が出てくるね」

 知るか。

「もう少し喋り方のほうを気をつけてほしい。君は主人公の素質が意外とあると私は思っている、口の悪い主人公はちょっと」
「お前以外には気をつけるよ」
「悲しいな」

 主人公の素質ねえ、別にいらないよ。

「しゅ、主人公……」
「浩太郎、お前……今そんなすげえ感じになってるの!?」
「知らん」

 退屈な日常から、こうして少しは楽しい日常になったのはいい。
 このままこの生活を送るのも悪くはない……か?
 薫やノアも特に前の生活に戻りたがっているわけじゃない。
 長波先生だって幸せそうだ。
 こいつによって、皆が幸せになっているのだ。流石神と言われるだけあるぜと言いたいところだが、俺をイケメンにしてくれなきゃ俺の態度は変わらない。
 こいつが俺にした事は何だ?
 土足で家にあがってカレーを食べて逃げて、今は俺のパフェを食べやがった。
 それくらいだ、ただの不法侵入と窃盗。

「では、この調子で頑張ってくれたまえ。あとこれを譲ろう、さらばだ」

 何か紙をもらった。
 蔵曾は店員に何か囁いた後に、帰っていった。

「何それ」
「か、神様の力が宿った御札、とか?」
「……ハンバーグ、カレー、スパゲティ、オレンジジュース」

 俺はその紙に書かれているものを読み上げて、悟った。

「……伝票」

 奴は俺に伝票を渡して食い逃げをしやがった。
 あいつの分は結局俺が支払う事になり、特にこれといった買い物もしていないのに俺のお財布は痩せてしまった。
 次に会ったら俺が払った分の金とイケメンにするよう請求しようと思う。
 ……周りは皆幸せになってるのに俺だけ不幸せなのはどうかしてほしいもんだ。
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