神様はラノベ作家を目指すようです。

智恵 理陀

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第一部

その10.傷害罪で訴えますよ?

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 ノアのおかげで過ごしやすくはなったな。
 未だに殺意を含んだ視線は感じられるが、ファンクラブの方々が直接やってくる事はなくなった。
 放課後になって俺は掃除をしながら、ため息をついて今日一日の疲れを全身で感じた。
 疲れといってもだ、精神的な疲れのほうが大きい。
 そこへ追い討ちをかけるように、本来ならば豊中さんが掃除をするはずだった場所を掃除ときた。
 というのも、七時間目の授業を受けずに具合が悪いと早退してしまったので代わりに俺が行っているわけで……てか、具合が悪いっていうより心労? 元を辿れば原因は俺か。
 まさか豊中さんは最後に俺への嫌がらせをすべくわざわざ早退を!? ――なわけないか。
 しかし、何気に化学実験室の掃除を任されるのは面倒だ。
 今日はさほど利用されなかったのでさっと掃除するだけでいいとはいっても、広いんだよねここ。
「よし、と……」
 駆け足気味に室内をぐるぐる回って全体の掃除は大体終了。
 後はカーテンを開けるだけとなったが、誰も使っていないはずなのに何故カーテンが閉められているのか、面倒な事をしてくれたものだ。

「手紙は、読んだか?」

 するとどこからか女性の声。
 光が射し込まないので薄暗さのせいですぐには声の主を見つけられなかったが――コツン、と歩む音が位置を知らせてくれた。

「えっ?」

 いつの間にか化学実験室の隅に、その人はいた。
 扉は閉まっている、入ってきたのではないとしたらずっとそこにいたと? いやいや、ちゃんと俺はここを回って掃除したんだ、気づかないはずがない。
 ならば、隠れていた?
 ……掃除が終わるまで律儀に? いや、それより返答しよう。

「手紙?」
「貴様に、手紙を渡しただろう? うぐっ……! 疼く……! 我の左目が、疼くぞ!」

 彼女は左目を包帯だらけの手で押さえてそう言った。
 手紙といっても、最近大量の手紙をもらったからなあ。
 てか左目大丈夫? 眼帯してるようだけど。
 それにしても、左目……左目が疼く……手紙、何か引っかかる。
 手紙、手紙……。
 あっ。

『我が左目の疼きは貴様の魂に呼応している、この世に命を宿した時から決まっていた運命、いず――』

「あの手紙は君のかあ」

 そんでもってあれがフラグだったようだ……。

「気づいたようだな、先ずは左目の封印を取ろう」

 そう言って彼女は眼帯を取った。
 カラーコンタクトでもしてるのか、青い目だった。綺麗な目だなあ
 ……けど、この子。

「……あれか」
「ふふ、貴様……我を知っているのか?」
「中二病患者か」
「そんな中二病とやらには侵されてなどいないっ! ふははっ! 貴様こそ我が宿敵!」

 ちょっと小柄な少女、胸の校章の色は赤――二年生のものだ。
 二年生? 本当に二年生……!?
 二年生で……中二病か、うーん、絡みたくない。てか絡まれてるから手遅れだ。
 腰に手を当てて右手はびしっと指を立てて顔をやや覆うように構えるそれは、まさに中二病的ポーズ。
 嗚呼、本当に……絡みたくないなぁ。

「我らは戦うさだめにあったのだ! 闇の化身に心奪われし者よ!」

 運命と書いてさだめなのかな、雰囲気的に。

「ただの後輩ですよ俺」
「唯一この世に残る黒の魔術師である我は貴様を倒して世界を手に入れるのだ!」
「落ち着いて現実を見てください先輩」
「先輩ではない! ベリアルド・ヴィ・サーヴァだ!」
「そんな……響きがいいってだけで意味の無い言葉で名前を作らなくても……」

 痛いので黒歴史になる前に止めておかなくちゃ。
 しかしなんの接点もない彼女が俺にこうして絡んでくるのは何なんだ?

「うるさい! このベリアルド様を愚弄するのか!」
「ベリアルド先輩、落ち着いて」
「だ、だからあ! 先輩って言うんじゃなーい!」

 怒られた。
 何だよ、俺は宿敵として立ち振る舞えばいいのか? それよりカーテンを開けて帰らせて欲しいのだけど。
 先生に言われたんだよね、カーテンは開けた状態にして窓の鍵は掛けられているかきちんと確認してって。
 つーか先輩、学生服に黒いマントをつけてるけど服装改造で怒られちゃうぞそれ。

「あの、ベリアルドさん。俺に何か用ですか?」
「さっきも言ったでしょ! 貴様を倒して世界を手に入れるの! 入れちゃうの!」
「わあ、それはすごい。ぐあー、ベリアルドさんの魔力にやられたー。ではっ」
「ではっ――じゃないわい! からかうんじゃなーい!」

 もう……自分の思い通りにならないからって地団駄踏まれても困る。
 先輩の世界観をまだ理解すら出来ていないのに、ここは「ふふっ、ベリアルド……! とうとう見つかってしまったようだな!」とか言えばいいの?
 ……やだよ。

「先生、いますよ」
「あひっ!? せ、先生っ!? あの、えっと、これはですねっ」
「嘘です」

 先生はいません。

「……騙したな!」
「ごめんなさい」

 もう帰ろう。
 鞄持ってくればよかったな。教室まで取りに行かなきゃ。

「じゃあ俺はこれで、お疲れ様です」
「あ、うん。おつか……っておぉい! ちょっと待て!」

 いいノリツッコミだった。
 先輩は中二病を患うより漫才のツッコミとして腕を磨いたほうがいいと思うな。

「ふははっ、えっと……あっ、あれよ。結界を張って、と」

 ベリアルド先輩は左手を扉のほうへと翳すと、光が宿った。
 扉からカチャン、と鍵が掛かる音がして何やら魔方陣が浮かび上がっていた。

「えっ……!?」
「これで誰も入ってこれない、そして貴様は私を倒さないかぎりここから出られないのだ! ふははは! 疼く……! 貴様を倒せと我が左目が疼くぞ!」

 左目に光が帯び始めていた。
 目の前で連続して起きている不可解な現象。
 何がどうなってる……?

「封印されし我が右腕、今解き放つ!」

 ま、まさか……。
 まさかとは思うけど、これも蔵曾の仕業……か?
 てか封印だらけだな! 自分を束縛するのが好きなの?

「あのっ! ちょ、ちょっと待って!」
「我が右腕に宿る鎌よ……この手に!」

 先輩は右手の包帯を取って俺に翳すと、手の平には先ほど見た魔方陣が描かれていて青白く発光していた。
 その光は徐々に形を作り、大きな鎌へと変わり彼女の手に。

「安心しなさい、殺しはしない」
「一振りで殺されそうなのですけど!」
「貴様の体力だけ斬る、我の鎌は斬るものを選べるのだ」

「傷害罪で訴えますよ?」
「それはちょっと…………やめてほしい」

 現実的なものを引き出すと先輩は怯んでくれるものの。
 両手で鎌をしっかりと持って徐々に距離を縮めてくる。

「……大丈夫、痛くしないから」
「先輩! 話し合いましょう!」
「先輩じゃない! ベリアルドだ!」
「ベリアルドさん! どうか冷静に!」
「我は至って冷静だ。貴様を倒して我がその立ち位置を得る、それだけよ」
「立ち位置……?」

 妙な、単語だ。
 俺が襲われる理由と関係していそうな気がする。

「はっ……! いや、違うっ。貴様を倒して、その、世界を手に入れるのだ! ふははっ!」
「俺を倒しても世界は手に入りませんよ!」

 助けを呼びたいが、扉は魔方陣によって閉められている。
 物音を立てれば誰か気づいてくれるか……? そろそろ生徒達が皆部活やら帰宅やらで廊下が騒がしくなる頃だ、扉を叩く……いや、魔方陣には触れずに壁を叩いて助けを呼ぶか?
 呼ぶとしても、その間に斬られる可能性もあるので隙を見てやらければ。
 それか鎌をすらりとかわして壁を斬らせて音を立てる、とか!
 何気に逃げる事なら得意だぞ俺は。
 体力だけを斬るとかなんか言ってたが結局斬られるのならばそれは避けたい。
 そういやさっき主人公がどうたらとか言っていたな……。

「あの、ベリアルドさん……」
「なんだ!」
「もしかして変な女の子に会って、妙な事してもらったり?」
「妙な事ではない! 神は我の内に秘めた力を呼び覚ましたのだ! そして神は言った、お前を倒せば我の世界を広められると」

 神ねえ……推測してみるに、先輩の場合は多分中二病を現実にしてもらったのだろう。
 ……あの野郎、なんちゅー事しやがるんだ……!
 主人公争奪戦でもしたいのか?
 それともインスピレーションを湧かせるために敵を作って俺を襲わせたいのか? 
 バトルもののラノベ書きたいとか単純な理由で俺を襲わせたらたまったもんじゃない!

「我のために、礎となれ!」
「ちょ、ちょちょ! ちょっと待って! 後輩を傷つけるなんて酷くないですか!」
「知るか! さっき会ったばかりで貴様なんぞ後輩もクソもないわ!」

 ごもっともだけど、少しは罪悪感を得て欲しかった。

「じゃあ少しでも俺に鎌が当たったら傷害罪で訴えますからね! 先生にも言いますからね! 生徒会や風紀委員にも言いますからね! あと慰謝料も請求しますから! 停学、下手したら退学ですよ! 経歴に傷ついちゃいますよ!」
「ぐぐっ……貴様、現実的過ぎるものを出してくるな!」
「現実は俺の味方なので!」

 ラノベ的な展開にされてたまるかってんだ!

「……あっ」

 すると、先輩はふと考えはじめた。

「ど、どうかしたんですか?」
「そうだ。貴様の体力を斬って、その後貴様の記憶を斬ってしまおう。ふふ、私なら出来るはずだ!」
「そういう都合のいい能力ってどっか弱点があるもんじゃないですか? たとえば持続性が無いとか」
「えっ、そ、そう?」
「じゃないとチートですよチート、いくらなんでもそんなの出されちゃあ先輩に力を与えた神様も先輩を脅威に感じるじゃないですか。自分が怖いものを出しやしませんって」

 今俺が唯一発揮できる武器は、言葉だ。
 彼女を困惑させて、隙を作りたい。

「うーん……細かい事は気にしない方針で。とりあえず斬ってみよう! 物は試しだ、ふははっ!」

 失敗した!
 先輩は鎌を大振りするも、机の上に置いてあったビーカーや試験管は鎌に触れても一切壊れなかった。
 斬るものを選ぶってのは便利だな、けどどうして神殺しなのかね。それもノリで考えたのかな。
 まあ、そんな事考えている場合じゃなくて――

「うぉぉぉお!」

 逃げる! 兎に角逃げる!
 隅には追いやられないように考えて俺は必死に化学実験室をぐるぐると回って彼女から逃げた。

「逃がすか!」

 壁や床を鎌で斬っても壊れず音も出ない、助けを呼ぶには自分から物音を立てるか叫ぶかしかない。

「ちなみにあの魔方陣はこの室内の防音効果も兼ねている!」
「便利~……」

 魔方陣がどれほどすごい効果なのか説明したいって感じだ。ドヤ顔で自慢げ、自分の考えた設定が現実になったのを見せびらかせるのが幸せでたまらなそう。
 窓を開けて逃げるにもここは三階、廊下側の窓は開かず、隣の科学準備室への扉も開かずで逃げ道は無し。
 考えろ、考えるんだ……!
 俺の体力だけを斬るとなると少しでも斬られたら逃げる事すら難しそうだ。
 しかし先輩は今まで鎌を振ったことなど無いはず、見事に鎌の遠心力に体が引っ張られている。
 更には、

「はぁ……はぁ……ちょ、ちょっと休憩……へぁ……」

 体力も無い、運動不足を自覚している俺でもまだ動けるのに。
 中二病な設定ばかり考えていて体は全然動かしていないのだろう、それがあだになりましたね先輩。

「ベリアルドさん、このままだと不毛な戦いになりそうなのですが」
「な、何をぅ! この鎌で必ずや貴様を斬ってみせる!」

 自分の体力を考えずに大振りを繰り出す。
 きっとこの人、馬鹿だ。 

「わわっ! ちょ、ちょっと!」

 逃げる、兎に角逃げる。
 化学実験室の広さを有効に活用しよう。
 小柄なのでリーチが無いのが助かった。

「逃げるな!」
「逃げますよ!」
「先輩として命令する!」
「今更先輩風吹かされても! さっき自分で先輩って言うなって言ってたじゃないですか!」
「うるさいうるさい! 私に黙って斬られなさいよぉお!」

 また地団駄。
 もう、思い通りにならないからって地団駄踏んでも何も解決しませんよ!

「中二なキャラ崩壊してますよ先輩!」
「はっ!? わ、我に斬られるがいい!」
「先輩って面白い人ですね……」
「その哀れみの目はなんだ!」

 また大振り、そして俺は逃げる。
 その繰り返しだ。
 先輩を挑発して大振りを誘って逃げる、これを続けていくとする。

「そこ、ビーカーあるから気をつけてくださいね」
「あ、うん……っておい! 貴様の助言などいらぬわ!」

 この人、周りに振り回されやすいタイプだろうなあ……。
 そうしてまた逃げまくること十分。
 ここで一つ見てみるとしよう。
 運動していない人が大鎌を振ったらどうなるか、というと――

「ぜぇ……ぜぇ……貴様、我の体力を奪う魔術を持っているな……?」

 彼女はとうとう大鎌を放り出して床に大の字になっていた。

「いえ、先輩の体力が絶望的に無いだけです」
「せ、先輩って言うな……」

 大鎌も中々に重そうだ、それを振り続ければ流石にきついものがある。

「すみません、ベリアルドさん。本名はなんて言うんです?」
「ベリアルドが本名だ! この器にも名前はあるがな! はぁ……ふぅ……」

 怒鳴らせると息切れを加速させそうだ。

「じゃあ器の名前を教えてくれません? 俺は忍野浩太郎って言うんだけど」
「知っておるわ!」

 あ、そうですか。

「我の器の名は……田島秋保(たじまあきほ)という」

 ものすごく普通な名前ですね、とか言ったら怒られそう。

「よろしく、田島さん」
「ベリアルドだ!」
「あ、はい。ベリアルドさん」

 自分の名前を呼ばれるのは好きじゃなさそうだ。

「ベリアルドさんは俺を倒して主人公になりたいって事で襲ったんですよね?」
「我が神が言っていた、貴様を倒せば、我はこの世界の中心に立てるのだ……!」

 他にもそう言って力か何か与えて俺を襲わせようとはしてないだろうな蔵曾よ。

「てかさ、ベリアルドさんは自分の望んでた力は手に入れたんですよね?」
「そうだな」
「それで満足は出来ないんですか? 今は襲う側ですけど、もし世界の中心になんか立ったら次はベリアルドさんが襲われるんじゃないですか?」
「むっ……」

 考え直して欲しいね。
 今自分の立場を受け継ぐという事は、いつ何処で襲われるか分からない状況がやってくるかもしれないって事だ。
 俺のように化学実験室の掃除をしたらいきなり閉じ込められて襲われるのもありうる。

「ろくな事が無いと思いますが」
「……ぐぬぬ」

 眉間にしわを寄せて考える秋保さん。

「隙あり!」

 途端に彼女は上体を起こすと共に大鎌を手にとって振るってくる。

「ちょっ! 待っ――」

 咄嗟に屈んで無意味なのに頭を防御しようとしたところ、肘に衝撃。

「はぶっ……」

 俺の肘には、田島先輩の顔がめり込んでいた。
 これは、正当防衛なので怒らないで欲しいものだ。
 先輩は大鎌を落として、

「ふあ……」

 もはや意識は夢の中。
 また倒れこむと、化学実験室の扉の前に浮かんでいた魔方陣が消え、大鎌も消失。
 逃げられるチャンス――だけど、このままここに先輩を放置するのも……。
 鼻血垂らしてるしさ。

「ティッシュやハンカチの一つくらい持ってるだろうな……」

 俺は失礼して彼女のポケットを触れるとティッシュの感触、それを取り出して鼻につめてやった。
 肘から伝わる衝撃はかなりのものだった、相当強く当たってしまったなぁ……。
 まだ起きないようだ、保健室に運んでおこう。
 その間に起きて再び襲われる可能性もあるけど、そしたら全力で逃げるとする。
 彼女を抱えると、女性というのは意外と軽くて驚いた。
 小柄なのもあるが、俺でも難なく運べる。
 問題は運んでいる間、多くの生徒に見られる事だ。

「おい……忍野が今度は女を運んでやがる」
「誰彼構わず手を出してるのか……?」
「女の人、怪我してない? まさか、襲った……?」
「ありうるわよね、あの女の人小柄だし」

 ここまでひそひそ話をしている生徒達から聞き取れた会話。
 保健室のベッドに先輩を寝かせて俺の役目は終了だ、後は速やかにここから離れよう。

「はあ……どうしてこんな事に……」

 襲われた上に、親切にも襲った奴を運んでやっただけなのに急降下していく俺の好感度。
 まあいいけどさ。
 名前すら知らない上、先輩に襲われるなんて思いもよらなかったよまったく、
 これも蔵曾のせいだ、本当に。
 さて、すっかり遅くなっちまったな。

「こ、浩太郎君……」

 廊下の角に、何やらノアの顔。
 不安そうに俺を見つめていた。
 その下には薫の顔もあり、こちらを覗き込んでいるが何なんだこの二人は。
 しかもノアを慕うクラスメイトの女子達が二人の後ろにいるし。

「何だお前ら」
「こ、浩太郎君が……女子を襲って保健室に連れ込んだと聞いて……」
「情報が早いな。お前にそう言った奴を教えてくれ、張り倒すから」
「俺だ」
「お前だったのか」

 薫は何故ドヤ顔で名乗り出たのだろう。
 マジで張り倒そう。

「そう言ったほうが面白いものが見れると思って」
「今すぐこっちに来い」
「こ、浩太郎君……」

 ノアは心配そうに、まるで飼い犬のようにとたとたと近づいてくる。

「薫の言った事は嘘だ。事情は複雑だからここでは話せない」
「そ、そう……」

 どうかノアを見たさに集まっている皆さん、彼女を見てその次に俺を見てひそひそ話するのはやめてくれるとありがたい。

「鞄持ってきてやったぞ」
「それだけは感謝しておこう」

 それだけはね。
 帰り道、俺は周囲の帰宅する生徒が少なくなったところで掃除の時間に何があったのかを二人に説明した。

「襲われた、とねえ……?」
「ぞ、蔵曾さん……が?」
「あいつ――箕狩野蔵曾がよ、俺を倒したら主人公にしてやるとかそういう感じで嗾けたんだよきっと」
「どう、いう事?」

 そりゃあクエスチョンマークを浮かべちゃうよなあ。
 俺の推測を彼女達に説明するとしよう。
 とはいっても田島先輩の話を聞いての推測となるが。

「蔵曾はラノベを書きたいけど、その主人公のモデルとして俺が選ばれたわけなんだが。今は俺が中心の世界で過ごしていられているんじゃないのかな」
「浩太郎君が、中心の世界?」
「立ち位置とか、自分の世界を広められるとかなんか言ってたけど……多分自分の中にある世界観が現実に反映されるんじゃないかな」
「浩太郎の場合は……なるほど、お前を中心としたハーレム世界か!」
「違うわい!」

 そうなってんならとっくに俺が幸せな思いをしてるんだがな。

「俺の場合は……特に強く願ったりはしてないからそんな変わんないのかも。だけどファンタジーな思考の人がいて、俺を倒したら俺の今の立ち位置を与えてやるってなると、だ。もし俺が倒されたらそのファンタジーな思考の人の世界観になっちまう――んじゃないかな」

 以上が、先輩の話していた事から推測したものである。

「魔法とかいっぱい出てくる世界とか?」
「そうだな」
「お、お菓子が降ってくる世界っ、とか?」
「それは分からん」

 ノア、お前の頭の中のファンタジーはどうなってるの?

「主人公の座につられてどんどん敵が現れたりしないだろうな」
「危惧の念を抱きまくりで胃が痛い」

 今だって後ろから斬りかかられたり魔法でも飛んできたりしないよなと気になって警戒しまくりだ。
 それとはまったく関係がないであろう殺意を込めた視線によってそわそわしてしまう。

「い、いざとなったら、私が浩太郎君を、守る!」
「どうもありがとう……」

 頼りない。
 でも誰か数人と一緒にいれば相手は襲ってこないかも。
 先輩だって突然自分の中二な力が現実になったとはいえ、誰かに見られて騒がれるのは避けたかったはず。
 今思えばカーテンを閉じていたのは目撃者が出てくるのを避けるために先輩がやったのかも。
 襲ってくるとしたら俺が一人の時、目撃者も現れない場所――そういう場所は気をつけておこう。

「よし、俺は浩太郎を倒して俺の独裁政治な世界観にしよう」
「そうなる前に今すぐここでお前を始末しよう」

 薫を睨みつけて、ファイティングポーズ。

「わ、私も手伝う!」
「嘘だよ嘘嘘!」

 なんにせよ。
 敵が増えるのは勘弁して欲しいものだ。


 それからの学校生活は様々な視線の中に明らかに俺の様子を伺っている視線が混じる事となった。
 学校で一人になる状況は無いに等しい、化学実験室の掃除は次の日から豊中さんがちゃんとやってくれたので俺は教室で皆と掃除しているので安全ではある。
 学校帰りは薫とノアが一緒に肩を並べてくれるので先ず一人にならない。
 途中で別れて家までは一人で歩く事になるけど、そういう時は全速力で奪取だ!

「あっ」

 後ろから聞こえる声の主は田島先輩。
 即座に角を曲がって田島先輩を撒いて、先輩が探し回って疲弊して重い足取りになるのを確認したら安心して自宅へという流れ。
 とても面倒になった、物語の主人公ってのはこうも苦労するものか?
 蔵曾よ、お前が書きたい物語はもはやジャンルも安定しないしこれでいい物語が書けるのだとしたら是非に読ませて欲しいものだ。
 次に会ったらあいつはただじゃおかない、こちとら身の危険を感じているのだ、抗議しなきゃ気が済まん。

「主人公として頑張ってもらいたいんなら能力の一つくらいよこせっての……」

 どんな力も吸収してしまう右手とかいいなあ。
 手をかざしたら剣が出てくるとか、そういうのもありか?
 あとは魔法? 詠唱して炎を出したりなんてのも一度は憧れた。
 中学の頃はこういう妄想で時間を潰せたもんだ。
 窮地に立たされて能力が開花して大逆転、なんてならないもんかね。
 はかない希望を乗せたため息を夕空に溶かして俺は自宅へと向かった。
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