神様はラノベ作家を目指すようです。

智恵 理陀

文字の大きさ
11 / 43
第一部

その11.唐突な休校

しおりを挟む

「我の左目がうずくッ……! 貴様を斬れと血が滾るッ! この右腕に宿る我の大鎌……封印を解き放つ!」
「おはようございます、先輩」

 登校中、街中でばったり会ってしまった。
 田島先輩は肩で呼吸しており、額には薄っすらと汗が浮かんでいた。
 多分、探していたんだと思う。

「先輩言うな!」
「おはようございます、ベリアルドさん」
「うむっ」

 数日振りですね、帰りは何度か尾行されて撒いての繰り返しだったけど、諦めて今度は朝に待ち伏せって事ですか。

「まさか街中で大鎌出したりしないですよね?」
「そのまさかだ!」

 俺の学校生活はもう滅茶苦茶だよ蔵曾……。

「えーっと……結界を作って、貴様を対象にして……あ、その前にそう、左目の解放!」

 先輩、自分の考えた中二設定がうろ覚えなのは如何なものか。
 眼帯を取って左目に青い光を宿すと、彼女を中心に周囲が薄暗くなった。
 気がつけば俺と先輩しかおらず、辺りは一瞬にして無人の街。

「こ、これは……?」
「隔離結界! その範囲や5メートルにした、これなら我の大鎌も貴様に十分届く」
「考えましたね」

 前後左右を見てみると、街中ではあるも黒い壁が立ちはだかっていた。壁には魔方陣が描かれており、化学実験室での状況を彷彿とさせた。
 逃げられる範囲も狭いとなると……これはやばいかも。
 ……そうでもないか。

「先輩、落ち着いて話し合いましょう! 朝からこれはちょっと!」

 激しい運動はしたくない。
 先輩は大鎌を振りかざすや、俺は左右に動いて先輩を翻弄。

「あっ、ちょっ、動くな!」
「止まったら斬るつもりでしょ!」
「そうだ! 我に斬られるのが貴様の宿命!」
「理不尽な宿命すぎる」

 それと先輩、左右に俺は動いているんだから横一閃に大鎌を振ればいいんですよ。
 先輩は運動がかなり不得意、大鎌を振った事など妄想でしかないであろうし、よくよく考えれば狭い空間だろうが互いの戦力を比べれば問題はまったくない。
 俺は距離を詰めて先輩にでこピンで応戦。

「痛いっ!」

 先輩は怯み、目を閉じながら大鎌を無茶苦茶に振るが、振る速度も速くない上に目を閉じているので俺が安全な距離にいるのも分かっていない。
 俺は漫画や小説は結構読んでいるほうだと自負している。
 敵というものはやはり、それなりの力を持っていてそれなりの運動神経を持っている。
 ……しかし先輩は問題外だ。
 これほどに弱い敵は、流石になあ……能力はすごいよ? 左目は主に結界を扱う能力で右手は大鎌の出し入れができるんだよね? しかも大鎌は斬る対象を選べる。
 けれどこれらを扱う本人が……なあ?
 これといって運動は得意でもなく、何の能力も無い奴に翻弄される敵というのもどうかと思う。
 俺は鎌柄を掴んで取り上げて、でこピンをまた食らわせる。

「痛いっ!」
「はい、俺の勝ち」
「か、返せ!」
「この結界を解いたら返します」
「うぐぐ……卑怯な……!」

 敵がこんな台詞吐くかねえ……。
 蔵曾、これは完全に配役ミスだぞ。

「はいカット。駄目駄目、ベリアルド……駄目じゃない」

 唐突に、黒い壁の向こうから声がした。
 半透明なその壁をよく目を凝らして見ると蔵曾の姿を確認。

「入れて」
「か、神!? 今すぐに!」

 先輩は壁の一部を消失させて入り口を作り、蔵曾は俺と先輩の間に割って入ってきた。

「もっと追い詰められるようにしなきゃ。逆に追い詰められてどうするの」

 いきなり説教が始まった。

「貴方には期待してるのよ、少しは大鎌を巧みに操ってかっこいい立ち振る舞いをしてくればきゃ私のインスピレーションが全然刺激されない」
「申し訳ございません……」
「結界解除。鎌は返してもらわなくても能力解けば消えるよ」
「あ、そ、そうでした!」

 蔵曾は俺から大鎌を取り上げて先輩に渡し、先輩は言われるがままに結界を解除した。
 周囲を歩く通行人の中に俺達は唐突に出てくる形となったはずだが、誰も反応していない。
 どうなってんだか。

「脅威や緊張感が欠けているのかもしれない。次はじっくり考えて彼を襲いなさい、強く激しく恐ろしく」
「は、はい! 神の望むままに!」
「やめてくれない?」

 先輩は深々と蔵曾に頭を下げてその場から去っていった。
 そんな彼女の後姿を眺めて、薄っすらと口元が緩みながらため息。
 がっかりとか、そういう感情は感じられなかった、心配……そういった感情かなあ。
 まるでやんちゃする娘を見てつくため息だ。

「……おい」
「なんだね?」
「なんだねじゃないだろ。敵だよ敵、敵が出てきたんだよ」
「そうだね」
「そうだねじゃないだろ、お前が嗾けたんだろ!」

 まるで他人事だ。

「ここで立ち話もなんだし、喫茶店でもいかない?」
「学校があるんだけど」
「今日は学校休み」
「嘘つけ」
「今唐突にね、休みになった」

 何を言っているんだこいつは――とか思った瞬間に、携帯が震えだした。
 新着メールが一件、メールの主はノアだ。
 メールを開いて見てみると『今日学校休みになったと連絡網が回ってきたです(・∀・)キエー♪』とあり、だからそのキエーは何なんだよと俺は『やったー』と簡単な返事をして携帯を閉じて蔵曾を見た。
 蔵曾は肩をすくめてフードの下から見える口をにんまりと形作った。

「学校が休みになるのは嬉しいが、お前の気分一つってのがどうかと思うけど」

 何事もなかったかのように、鼻歌混じりで踵を返して彼女は歩き出す。
 ……ついていくしかないな。
どうせ今日は一日暇になったんだ、こいつに質問攻めをするとしよう。
 歩く事数分? 数秒? いつもの通りからちょいと交差点に差し掛かったところで曲がったすぐ先の小さな喫茶店を前にして蔵曾は足を止めて看板を指差した。

「行き着けの店」
「近くにこんなレトロな雰囲気の喫茶店があるとは……全然気づかなかったよ」

 店内はコーヒーの香ばしい香り、クラシックが流れていてここだけ時間がゆるやかになったかのようだった。
 ふーん、朝でも意外と人がいるんだな。
 サラリーマンが何人かいてコーヒーを口へ運んでいる。
 俺もその一人となろう。

「何か話でもあるのか?」

 席に座って俺は喫茶店に誘った意図を早くも尋ねた。

「むしろ話があるのは君のほうでは?」

 ごもっともだ。
 つまりは俺のために話し合いの場を設けてくれた、と? それはありがたいね。

「何か頼む?」

 蔵曾はマスターにメニューを見ながらモーニング、と一言。
 俺はコーヒーを一杯注文するとしよう。
 注文したものはすぐに届けられ、蔵曾の前にはトーストとスクランブルエッグにウインナー、ハム、サラダ――朝食を食べたとはいえ食欲そそるものがあるモーニングセット。そんでもってコーヒー付きだ。
 蔵曾は食事だというのにフードは取らずにスクランブルエッグへフォークを近づけていた。
 右手をそっと出して――どうぞ、と質問を促す仕草に俺は遠慮なく口を開いた。

「先ずはそうだなあ……」

 一番最初に。
 そう、一番最初に気になったのは、だ。

「金は持ってるのか?」

 俺にとっては。
 そう、俺にとってはものすごく重要な質問である。

「無いに決まってる」
「今すぐ出て行け」
「君は本当に酷い奴だ」

 俺の金で飯を食う奴とどっちが酷い?

「お前の不思議な力で金くらいどうにでもなるだろ」
「やりたくない、君がどうやりくりするかを見たいから」
「じゃあどうやりくりするか見せてやろうか? お前が食事を終えて会計する時にお前を厨房に投げ込んで俺は逃げる、それでどうだ?」
「身長を少し伸ばしてあげるから」
「いっぱい食え」

 やっぱり蔵曾様は違うぜ、ケーキ食うか?

「ほんと滅茶苦茶な奴だよなお前って。身長を伸ばすのもちょちょいのちょいってのもな。一体何なんだよお前は」
「君達が既に心の中に抱いているものでいいんじゃないかな」
「自分が何者かってはっきりと言わないんだな」
「言ったところで何になる? 何にもならないよ、私の正体をはっきりと言ったところで、君の中にある現実は既に書き換えられている。そこに一つ、私が何者かという、君が薄々感じている情報が追加されても変化など無い、違う?」

 それも……そうだな。
 お前と出会って、その次の日には非現実的な事が起きすぎて俺の中にある現実は木っ端微塵だ。
 こいつの正体――簡単に納得するなら神様? だが彼女の口から直接聞いても俺の心境は特に変わらないのも確かである。

「そもそもこの世には様々なものが存在している、君達は知っていながら見た事が無いからありえないものだと、いないものだと決めつけているだけで」
「様々な……?」
「異世界人、怪異、妖怪、幽霊、超能力者、魔術師、神様、天使、悪魔、など。君は偶然その中の一つと遭遇した」
「……ほ、本当にそういうの、存在するのか?」

 箕狩野蔵曾という、滅茶苦茶な力を使う奴を前にして俺はどうしてこんな馬鹿な質問をしているんだか。
 目の前にいる奴はいともたやすく非現実な力を発揮する存在、なら他にも非現実的な奴が存在していてもなんら不思議は無いのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...