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第一部
その11.唐突な休校
しおりを挟む「我の左目がうずくッ……! 貴様を斬れと血が滾るッ! この右腕に宿る我の大鎌……封印を解き放つ!」
「おはようございます、先輩」
登校中、街中でばったり会ってしまった。
田島先輩は肩で呼吸しており、額には薄っすらと汗が浮かんでいた。
多分、探していたんだと思う。
「先輩言うな!」
「おはようございます、ベリアルドさん」
「うむっ」
数日振りですね、帰りは何度か尾行されて撒いての繰り返しだったけど、諦めて今度は朝に待ち伏せって事ですか。
「まさか街中で大鎌出したりしないですよね?」
「そのまさかだ!」
俺の学校生活はもう滅茶苦茶だよ蔵曾……。
「えーっと……結界を作って、貴様を対象にして……あ、その前にそう、左目の解放!」
先輩、自分の考えた中二設定がうろ覚えなのは如何なものか。
眼帯を取って左目に青い光を宿すと、彼女を中心に周囲が薄暗くなった。
気がつけば俺と先輩しかおらず、辺りは一瞬にして無人の街。
「こ、これは……?」
「隔離結界! その範囲や5メートルにした、これなら我の大鎌も貴様に十分届く」
「考えましたね」
前後左右を見てみると、街中ではあるも黒い壁が立ちはだかっていた。壁には魔方陣が描かれており、化学実験室での状況を彷彿とさせた。
逃げられる範囲も狭いとなると……これはやばいかも。
……そうでもないか。
「先輩、落ち着いて話し合いましょう! 朝からこれはちょっと!」
激しい運動はしたくない。
先輩は大鎌を振りかざすや、俺は左右に動いて先輩を翻弄。
「あっ、ちょっ、動くな!」
「止まったら斬るつもりでしょ!」
「そうだ! 我に斬られるのが貴様の宿命!」
「理不尽な宿命すぎる」
それと先輩、左右に俺は動いているんだから横一閃に大鎌を振ればいいんですよ。
先輩は運動がかなり不得意、大鎌を振った事など妄想でしかないであろうし、よくよく考えれば狭い空間だろうが互いの戦力を比べれば問題はまったくない。
俺は距離を詰めて先輩にでこピンで応戦。
「痛いっ!」
先輩は怯み、目を閉じながら大鎌を無茶苦茶に振るが、振る速度も速くない上に目を閉じているので俺が安全な距離にいるのも分かっていない。
俺は漫画や小説は結構読んでいるほうだと自負している。
敵というものはやはり、それなりの力を持っていてそれなりの運動神経を持っている。
……しかし先輩は問題外だ。
これほどに弱い敵は、流石になあ……能力はすごいよ? 左目は主に結界を扱う能力で右手は大鎌の出し入れができるんだよね? しかも大鎌は斬る対象を選べる。
けれどこれらを扱う本人が……なあ?
これといって運動は得意でもなく、何の能力も無い奴に翻弄される敵というのもどうかと思う。
俺は鎌柄を掴んで取り上げて、でこピンをまた食らわせる。
「痛いっ!」
「はい、俺の勝ち」
「か、返せ!」
「この結界を解いたら返します」
「うぐぐ……卑怯な……!」
敵がこんな台詞吐くかねえ……。
蔵曾、これは完全に配役ミスだぞ。
「はいカット。駄目駄目、ベリアルド……駄目じゃない」
唐突に、黒い壁の向こうから声がした。
半透明なその壁をよく目を凝らして見ると蔵曾の姿を確認。
「入れて」
「か、神!? 今すぐに!」
先輩は壁の一部を消失させて入り口を作り、蔵曾は俺と先輩の間に割って入ってきた。
「もっと追い詰められるようにしなきゃ。逆に追い詰められてどうするの」
いきなり説教が始まった。
「貴方には期待してるのよ、少しは大鎌を巧みに操ってかっこいい立ち振る舞いをしてくればきゃ私のインスピレーションが全然刺激されない」
「申し訳ございません……」
「結界解除。鎌は返してもらわなくても能力解けば消えるよ」
「あ、そ、そうでした!」
蔵曾は俺から大鎌を取り上げて先輩に渡し、先輩は言われるがままに結界を解除した。
周囲を歩く通行人の中に俺達は唐突に出てくる形となったはずだが、誰も反応していない。
どうなってんだか。
「脅威や緊張感が欠けているのかもしれない。次はじっくり考えて彼を襲いなさい、強く激しく恐ろしく」
「は、はい! 神の望むままに!」
「やめてくれない?」
先輩は深々と蔵曾に頭を下げてその場から去っていった。
そんな彼女の後姿を眺めて、薄っすらと口元が緩みながらため息。
がっかりとか、そういう感情は感じられなかった、心配……そういった感情かなあ。
まるでやんちゃする娘を見てつくため息だ。
「……おい」
「なんだね?」
「なんだねじゃないだろ。敵だよ敵、敵が出てきたんだよ」
「そうだね」
「そうだねじゃないだろ、お前が嗾けたんだろ!」
まるで他人事だ。
「ここで立ち話もなんだし、喫茶店でもいかない?」
「学校があるんだけど」
「今日は学校休み」
「嘘つけ」
「今唐突にね、休みになった」
何を言っているんだこいつは――とか思った瞬間に、携帯が震えだした。
新着メールが一件、メールの主はノアだ。
メールを開いて見てみると『今日学校休みになったと連絡網が回ってきたです(・∀・)キエー♪』とあり、だからそのキエーは何なんだよと俺は『やったー』と簡単な返事をして携帯を閉じて蔵曾を見た。
蔵曾は肩をすくめてフードの下から見える口をにんまりと形作った。
「学校が休みになるのは嬉しいが、お前の気分一つってのがどうかと思うけど」
何事もなかったかのように、鼻歌混じりで踵を返して彼女は歩き出す。
……ついていくしかないな。
どうせ今日は一日暇になったんだ、こいつに質問攻めをするとしよう。
歩く事数分? 数秒? いつもの通りからちょいと交差点に差し掛かったところで曲がったすぐ先の小さな喫茶店を前にして蔵曾は足を止めて看板を指差した。
「行き着けの店」
「近くにこんなレトロな雰囲気の喫茶店があるとは……全然気づかなかったよ」
店内はコーヒーの香ばしい香り、クラシックが流れていてここだけ時間がゆるやかになったかのようだった。
ふーん、朝でも意外と人がいるんだな。
サラリーマンが何人かいてコーヒーを口へ運んでいる。
俺もその一人となろう。
「何か話でもあるのか?」
席に座って俺は喫茶店に誘った意図を早くも尋ねた。
「むしろ話があるのは君のほうでは?」
ごもっともだ。
つまりは俺のために話し合いの場を設けてくれた、と? それはありがたいね。
「何か頼む?」
蔵曾はマスターにメニューを見ながらモーニング、と一言。
俺はコーヒーを一杯注文するとしよう。
注文したものはすぐに届けられ、蔵曾の前にはトーストとスクランブルエッグにウインナー、ハム、サラダ――朝食を食べたとはいえ食欲そそるものがあるモーニングセット。そんでもってコーヒー付きだ。
蔵曾は食事だというのにフードは取らずにスクランブルエッグへフォークを近づけていた。
右手をそっと出して――どうぞ、と質問を促す仕草に俺は遠慮なく口を開いた。
「先ずはそうだなあ……」
一番最初に。
そう、一番最初に気になったのは、だ。
「金は持ってるのか?」
俺にとっては。
そう、俺にとってはものすごく重要な質問である。
「無いに決まってる」
「今すぐ出て行け」
「君は本当に酷い奴だ」
俺の金で飯を食う奴とどっちが酷い?
「お前の不思議な力で金くらいどうにでもなるだろ」
「やりたくない、君がどうやりくりするかを見たいから」
「じゃあどうやりくりするか見せてやろうか? お前が食事を終えて会計する時にお前を厨房に投げ込んで俺は逃げる、それでどうだ?」
「身長を少し伸ばしてあげるから」
「いっぱい食え」
やっぱり蔵曾様は違うぜ、ケーキ食うか?
「ほんと滅茶苦茶な奴だよなお前って。身長を伸ばすのもちょちょいのちょいってのもな。一体何なんだよお前は」
「君達が既に心の中に抱いているものでいいんじゃないかな」
「自分が何者かってはっきりと言わないんだな」
「言ったところで何になる? 何にもならないよ、私の正体をはっきりと言ったところで、君の中にある現実は既に書き換えられている。そこに一つ、私が何者かという、君が薄々感じている情報が追加されても変化など無い、違う?」
それも……そうだな。
お前と出会って、その次の日には非現実的な事が起きすぎて俺の中にある現実は木っ端微塵だ。
こいつの正体――簡単に納得するなら神様? だが彼女の口から直接聞いても俺の心境は特に変わらないのも確かである。
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「様々な……?」
「異世界人、怪異、妖怪、幽霊、超能力者、魔術師、神様、天使、悪魔、など。君は偶然その中の一つと遭遇した」
「……ほ、本当にそういうの、存在するのか?」
箕狩野蔵曾という、滅茶苦茶な力を使う奴を前にして俺はどうしてこんな馬鹿な質問をしているんだか。
目の前にいる奴はいともたやすく非現実な力を発揮する存在、なら他にも非現実的な奴が存在していてもなんら不思議は無いのだ。
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