神様はラノベ作家を目指すようです。

智恵 理陀

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第一部

その12.学園ラブコメハーレム能力バトルもの

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「君達が想像して作り上げたものは元々存在していた、けれど表に出させて我々は引っ込む。そうする事で“現実にはいない”と悟らせた結果が君の知っている――いいや、知っていた“現実”」

 奥が深いね、現実ってのも。
 真実を知っても、今一ピンとはこない。
 あまりにも規模がでかすぎるのだ。

「ちなみに、私のような者が力を使うと他の者も引き寄せられて近づく傾向がある。もしかしたら会えるかも。いいや、むしろもう会っている……かも」
「魔術師っぽいのなら会ったな」
「それは私の力によって変化した者。本当の魔術師が持つ力は比じゃない」

 是非とも一生会わないでおきたいね。

「この世界はファンタジーで溢れている、今は君を中心に回っていて君の世界観がそれを抑制している、遭遇は難しい。けど君の心境は変わりつつある、加えて私が遭遇させようとすれば、可能」
「やっぱりあの主人公がどうたらとか先輩が喋ってたのは……」

 蔵曾が口にした世界観という言葉で思い出した。

「立ち位置は、世界で最も価値がある。所謂主人公というものになれるに等しい。しかし、敵に倒されたらその立ち位置は奪われる」
「じゃあ誰にも襲われない世界観を願えば俺は安全か?」
「変化させられた者、異能の者、強大な力を持つ者、世界に何らかの強い感情を持つ者、干渉されない場合がある」

 なんてこったいってやつだ。

「……それで、変化させられた者として先輩は自分の中二病を現実にしてもらって俺の敵にさせて、お前はその立ち位置がなんたらと説明して襲わせたってか」
「君は頭がいい」

 正解のようだ。 

「主人公に敵はつきもの」
「いやいやいや……ジャンルによるだろ、どんなジャンルのラノベ書きたいんだよお前は……」
「学園ラブコメハーレム能力バトルもの」
「詰め込みすぎだろ、俺の人生をどうぶちこわすつもりだ」

 俺の身が持たない、絶対に。

「……こんなの、いつまで続くんだ?」
「どうか協力して欲しい、まだまだ満足できない。君がこの素晴らしい日常を過ごしてくれるだけでインスピレーションが刺激され、アイデアは湧いてくる。それを私はメモするの繰り返し、今は執筆にすら至っていない。まだ至る気配もない」
「つまりまだまだ続くって事かよ」
「そう」

 敵に襲われる日も来るであろう。
 先輩は俺を確実に倒す計画をこれからは練ってくるかもしれない、ものすごく不安だ……。

「不安がらないで。ラノベというのは主人公にはとても優秀な能力が備わっているらしい。それを活用する」
「という事は……俺にも能力を!?」
「ご都合主義能力」
「あー……そゆ事」
「頑張ってご都合主義になるような状況を作る、君は敵に負けないよう戦い抜いて。さっきの注意して、というのはそういう意味。メモする時間も欲しいから、よろしく」
「よろしくじゃねーよ」

 お前のメモのために俺は身を挺して戦わなきゃならんのか。
 ため息が出てしまう、頭を抱えてしまう。
 俺はコーヒーを口へと運んで、とりあえず今は一息つくことにした。

「なんでお前のラノベ執筆のためにここまでやらなきゃならん……」
「君にはお礼をちゃんとする」
「じゃあ今すぐ長身とキリッとした顔つきのイケメンにしてくれ」
「申し訳ございませんがそのご要望にはお応えしかねます」
「なんでいきなり丁寧に断った?」

 蔵曾はトーストをほおばり、窓の外を歩く児童を見てはっとし――

「この際ショタっぽくしちゃっていい? ショタ主人公の学園ラブコメハーレム能力バトルもので」
「本気でやめろ馬鹿」

 肩をすくめて続いてウインナーをほおばやりやがる。

「ったく……人を何だと思ってるんだ」
「すまない」

 俺の日常をぶち壊しといてその一言のみかよ。

「私からも聞いていい?」
「どーぞ」
「こうなる前と今、どっちがよかった?」

 微妙に悩む質問だ。
 前は前で退屈な日々すぎた、特にこれといって何も無かったあの日々……。
 ああいう平穏はちょっと恋しい。
 けれど今は綺麗な幼馴染に可愛い女友達、寡黙で威厳のある父と料理上手でバリバリ家事をこなす母(しかも煙草は禁煙したらしく煙草臭さはもう無い)、友人関係と家庭環境は今がいい、学校面は孤独を感じるがそれはまあ置いといて。
 誰かに襲われる心配の無い平穏な日常が付け加えられば今のままで問題なし。
 総合的に、考えて――

「……今だな」
「ふむ。私としては幼馴染と女友達とハーレムを築き上げて後々にはベリアルドも引き込ませてもらいたいと願っている」
「ハーレム要素は却下の方針で。あとお前の力で無理やりハーレムってのも絶対にするなよ!」
「しない、君には環境を与えるだけ。あとは自力でやってもらう事に価値がある」

 それは安心した。
 ならばハーレムは今後無いと思っていただこう。

「つーかほんとにさ、俺に主人公の素質ってのがあるのかよ」
「ある」
「俺以外にももっと優秀なのがいるだろ」
「いる」

 はっきり言うなよおい。
 傷つくだろ。

「じゃあなんで俺を選んだ? 特に悩む様子もなかったよな? 今からでも素質のある奴に切り替えればいいじゃん」

 本屋での彼女の様子を思い出してみる。
 たった数分話しただけだった、それもただラノベについて語っただけ。

「私が君の望むものを与え、君は私が望むものを与える。この関係を今は保っていられればいい」
「俺が望むものはまだ叶ってないぞ」
「家族を変えてやった、君が望んだ家族の姿。最も、君の両親は心のどこかに君が望む家族の姿をとわずかながら願望があった。その願望を叶えてやったから少しばかり違うかもしれないけど」

 少しばかり、かあ。
 父さんは寡黙になったので俺の理想はもう少し喋る父親であってほしかったかなってのはあったりするので少しばかり……確かに少しばかり理想と違う。けれどこれもいい。

「正直に言うと、偶然本屋で会って話をした。それだけ、だがそれだけだからこそ、私は君を選んだ」
「どういう事だ?」
「人間は誰もが人生では主人公。そして誰もが物語の主人公になれる素質を持っている。誰でもよかった、けれど私にも主人公の好みがある。君も好みはあるはず」

 そうだな、俺にも好みはある。
 アクション系の漫画なら長身の主人公であれば購入してしまうかもね。

「お前の好みの主人公は俺みたいな奴と?」
「そう」
「本屋で偶然好みの主人公に会ったから俺に決めたと?」
「……そう」

 最後に残ったウインナーを食べ終えて、蔵曾は一息ついてから再び口を開いた。

「会ったばかりで分からんだろそんな事。俺の事を何一つとして知らなかったろ」
「見ただけで分かる」

 そうですか、そうですよね。
 目の前にいる奴に現実的な話をぶつけても無意味だった、非現実的な力がある限り何でもそれで解決されてしまう。
 見ただけで分かるだって? どうして?
 そういう力を持ってるから、はい解決。

「君は現実に退屈していた、現実は退屈なものだと既に諦めていた、現実は何も変わらない、このままずっと現実は常識と退屈で構成されたままなのだと、君は悟っていた。けれど、君はわずかながら願っていた」
「……」

 俺はただただ蔵曾の話に耳を傾けていた。

「私という存在を、私という非現実を君は願っていた。偶然出会ったというのは言い換えると、運命的な出会い。私達はお互いに引き寄せ合い、惹かれ合った」
「まさか」

 ははっと最後に付け足して笑ってやった。

「まさか」

 彼女はオウム返しのように発音を変えて同じ言葉を俺へ。

「偶然とは、そういうもの」
「そ、そうだとしても……」
「君は今を楽しんでいる、自分でも分かっていないかもしれないが、楽しんでいる」
「そんな事は、ない」

 誤魔化すかのように俺はコーヒーを口へ。

「事実、君は強く止めろとは言わない。文句は言うが私に付き合ってくれてる、とても乗り気」
「乗り気じゃない」
「嘘」
「ほんと」
「嘘」
「ほんと」

 しつこいな。

「私に付き合ってくれてる」
「つきあってない」
「私と付き合ってくれる?」
「意味変わってない!?」

 こいつとの会話は疲れる。

「素直じゃない」
「ひねくれてるよ俺は」
「可愛い」
「可愛い言うなこの野郎」

 くすくすと笑う蔵曾、ちょっとムカつく。

「そういやお前さあ、箕狩野蔵曾とか絶対偽名だろ」
「ペンネーム、偽名じゃなく」

 そうですか。

「自分の名はよく変わる、本名は無く、あっても無価値」
「本名が無い?」
「あったとは、思う。もう憶えてはいない」

 その言い方は悠久を感じさせた。

「何歳か、聞いていい?」
「レディに年を聞くのは失礼」

 失礼なのは承知の上だ。

「少なくとも君よりは年上」
「そうかい」

 絶対あれだよこいつ。
 年齢が三桁以上いってるんじゃねーのかな、神様とかそういう存在だし、もしかして年齢は四桁? ありうるな。
 この手の奴ってのは見た目と年齢がマッチしない、現実でこんな奴を見れるとはね。見れてもこれといって特に何も感じないが。

「失礼な事、考えてない?」
「いやいや、別にっ」

 こいつに関しては興味がどんどん湧いてくる、その素顔も見てみたいし蔵曾は自分の事をはっきりとは言わないが、その正体も細かく知りたいものだ。
 あとその猫耳フードが売ってた店も知りたいな、ノアに着てもらったら似合いそう。
 猫耳、嫌いじゃないよ。

「では、やる事があるのでお先に失礼する」
「そのやる事とやらを聞いていい?」
「秘密」

 少なくとも俺に絡む何かである事は間違いなさそうだ。

「ここはパフェが美味しい、帰る前に食べて」
 別に食べたい気分じゃないんだけど――と言おうとしたその時、蔵曾は通りかかった店員にパフェを注文。

「ちょっ」
「また、いずれ」
「また、いずれじゃなくて!」

 席を立った蔵曾は右手を左右に軽く振って店を出て行った。
 追いかけたいが、パフェも会計も済んでいないので追いかけられない……これを狙っての注文だったのか?
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