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第一部
その20.彼女の望む世界
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遅れてやってくるのは、
「く……あぁっ!」
人生で味わった事の無い痛み、血が肌をなぞって流れていくその感覚、一瞬で意識が遠のきそうになった。
「や、やった……やって、しまった……」
「おめでとうございます。立ち位置が移りますよ、世界が貴方の世界観で染まるのです」
俺は少しでも出血を抑えようと傷口に手を当てた。
迷いがそうさせたのか、咄嗟に彼女は鎌を引いていた。
それでも斬られたのだが、肩の辺りは少々深い傷で他はそれほどでもない。
痛いのは変わりないが。
「これは貴方の意思に関係なく自動で移るのですよね?」
蔵曾は小さく頷いた。
「蔵曾さんの力であって、しかしながら一度誰かの身に宿ると一人歩きする力。世界を変えられる力……」
同時に俺の体が青白く光り、その光は俺の体を離れて先輩の体へ。
それを確認した使乃さんはテーブルから降りて窓へと歩み寄った。
カーテンを思い切り開けて、射し込む陽光に俺達は目を細めるも、彼女は何の抵抗もなく外を見た。
「ははっ素晴らしいです!」
遠くの空にある何か。
別な場所では煙があがったり雷が落ちたりする何か。
それが何なのか、先輩の妄想――世界観に違いない。
「見てくださいベリアルドさん、貴方の世界ですよ」
「う、うん……」
魔法や魔物、そういったものが当然のようにある世界――?。
先輩の世界観はそれほど詳しくは分からないが大体の想像だとそうだ。俺の退屈な世界観とは大違い。
「どうしたのです? どこかお体の具合でも?」
「いや、大丈夫……。あの、奴を……」
「奴? ああ、忍野君ですか? 放っておいてもいいんじゃないでしょうか」
「なっ……!?」
「まあ、任せますよ」
先輩はどう判断する? 選択は君にゆだねられているんだ、いい選択を期待したい。
痛みに耐えるのは慣れていない、体を動かしたくもないしこの血のぬくもりも最悪だ、なるべく早くしてほしいな。
「や、奴は解放する……」
ありがたい、では先ずノア達に知らせてもらいたいな……。
「そう言うと思いました」
「――先輩!」
俺は使乃さんが右手に持つ物を――注射器を見て力を振り絞って大声を上げた。
同時に、激痛がなだれ込んで続く言葉は出せず、力が抜けて床へと崩れた。
「えっ?」
その注射器は先輩の首筋へ。
瞬き二回、その後に先輩はストン、と膝を折って倒れた。
「あ……? あ……」
体の自由が利いていない、うつろながら目だけは動いているが先輩はそのまま上体を床に沈めた。
毒ではなく、体の自由を奪う薬……?
「これは倒した事になります?」
蔵曾へ問いかけていた。
蔵曾は首を横に振り、使乃さんは残念そうにため息をついた。
「ではやはり攻撃するとしましょう」
何で攻撃するか、となれば先輩の手元から離れたあれしかない。
――鎌だ。
「最初から、俺を狙っていれば良かったじゃないか……」
俺は懸命に力を振り絞って、再び壁に凭れた。
話をするならこの体勢がいい。相手がはっきりと見えるし。
「私は警戒心が強いのですよ彼女の馬鹿げた力は半信半疑でしたから確かめる必要がありました」
先ずは俺から先輩に立ち位置を移して世界がどう変化するのかを見たかった、と?
「副作用とかあったら嫌ですし」
あるとしたら後ろで宙吊りにされているあいつが主人公らしく行動しろとか注文してくる事かな。
「それに彼女の与えられた力は役に立ちます。彼女の結界なら蔵曾さんに有効ですからね」
「なるほどね……俺達は君の手の平の上で踊らされていたようだな……」
「これで私の世界観が現実になる。心から感謝していますよ、ありがとうございます」
「どんな世界観か、聞いていい……?」
「折角なので教えてあげましょう。人々全てが不幸に塗れた人生を送り、私や優秀な人間だけが幸福の中で過ごしていく世界です。戦闘、戦争、争いは高みの見物、そんな世界にしたいのです」
「ど、どうしてそんな世界を……」
「どうして? 今もあまり変わらないでしょう? それを色濃くするだけなのですよ?」
使乃さんの眉間のしわが深くなった。
そんでもって彼女の後方で揺られる蔵曾は何かもぞもぞと動いている、ここは会話を引き伸ばして時間を稼ぎたい。
稼ぎたいが……俺としてはこの傷の痛みがあるから素直には稼ぎたいとは言えず。
「地面に溜まった水溜りの味は知ってます? 生ゴミの味は? 下水の隣で眠る気持ちは分かりますか? 人間には無視され、同族には笑われ、神は馬鹿げた事をするばかり、天使はその尻拭い、全てが腐っています」
「そんな事……」
「人生の大半を屋根の下で過ごせていられる貴方だから、そんな事無いですとか人生はもっと希望に満ち溢れているとか、酔いしれているかのような言葉を言えるのです。反吐が出ます」
彼女の心には大きな闇が渦巻いている。
俺が分かろうと歩み寄っても、突き飛ばされる闇、触れようとすればただ刺激してしまう闇。
現時点でもう既に刺激してしまった。
「それより」
鎌で軽く素振りをする使乃さん、利用する気満々だ。
「貴方は用済みなのでそろそろ死んでください」
「先輩も……殺すのか?」
「今すぐではないですけどね、あと蔵曾さんは私が先ほど彼女に打った薬を投与しつづけてこの一人歩きする力は消さないようにします」
宝くじでも当たったかのような、見るからに上機嫌。
鎌を振り回しながら俺へ一歩、また一歩と近づいてくる。
「自分に限ってとか、自分だけはとか、まだそんな希望を抱いている人が絶望に包まれるのを見るのはとても、ええ……とても快感です」
俺の前に立ち、どす黒い笑顔で大鎌を振り上げた。
ここで、終わり?
彼女にいいようにされて、俺の人生は折角楽しくなってきたのに……。
諦める?
いいや、それはしたくない。
ここで何かを変えられるとしたら、蔵曾――
「では」
俺は使乃さんの後方を見た。
蔵曾は体を捻って吊るされた状態からは解放されていたが、縄はほどけていなかった。
着地して、散乱したガラス類を踏みつける音に、使乃さんの鎌が止まった。
その一瞬。
彼女は後方へと振り返ろうとした。
この一瞬。
激痛に表情を歪めるも俺は使乃さんへと飛び掛った。
「こ、このっ――!」
けれども、こんな怪我じゃうまく力が出ない。
彼女のバランスを崩すだけで状況は変えられず。
大鎌が振り下ろされる。
蔵曾だけでも逃げられれば、きっとその後は何とかなる。
短い時間でも色々と考えられるもんだ。
こういうのが所謂走馬灯ってやつかな?
そんな巡る思考が、最後にたどり着いたのは……。
ノア、だった。
もうちょっと、あいつと学校生活を満喫したかったぜ。
とか思ったりして。
目を閉じて、その瞬間に聞こえたのは勿論斬られる音だ。自分では表現したくない、酷く耳障りでもあるあの音。
しかし――痛みが来ない。
「大丈夫?」
目を開いてみる。
目の前には、蔵曾がいた。
はらりと、彼女を縛っていた縄が解けていた。
彼女のすぐ後ろには大鎌を振り終えた使乃さんが目を真ん丸くさせて棒立ち。
何が起きたのか。
そんなの、考えるまでも無かった。
床が赤く染まっていく。
俺の血ではないそれは、蔵曾のものだ。
「ぞ、蔵曾……」
「なっ……なんて無茶を! 貴方には死なれたら困るのですよ!」
蔵曾は背中を斬られている。
それも出血量からして相当な深手。
「傷を、治す」
それなのに何事も無かったかのように俺の傷口に触れ、光を宿すや見る見るうちに怪我が治り痛みが引いていった。
破れた服すらも直っていきやがる。
次は自分を治すものだと思ってたのに俺を治し終えるや蔵曾は床に崩れた。
「おい! しっかりしろよ!」
かすかに、蔵曾の手は動いていた。
俺の手を握り、蔵曾は俺を見て言った。
「私から、贈りもの」
何か右腕に温もりのような感覚が包み込んだ。
「彼女を渡してください!」
「……断る」
「直ぐに手当てしないといけません! 分かっているでしょう!?」
「ああ、分かってる。それは俺がやる。お前の仕事じゃないよ」
「なら――!」
使乃さんは大鎌を構えた。
どうしてだろう。
何も怖くない。
大鎌が振り下ろされても何の問題は無いと俺の本能が呟いていた。
俺が立ち上がる途中段階で使乃さんは既に大鎌を振り下ろしていた。
怪我が治ったとはいえ血が足りないのか、少しばかりくらっとしていた。倦怠感も少々。
大丈夫か?
大丈夫だ。
この右腕、何かが宿った右腕。
拳を作り、大鎌に振るう。
「貴方には死んでもらいま――」
何が起きたのか。
彼女が理解するのは数秒後だ。
「く……あぁっ!」
人生で味わった事の無い痛み、血が肌をなぞって流れていくその感覚、一瞬で意識が遠のきそうになった。
「や、やった……やって、しまった……」
「おめでとうございます。立ち位置が移りますよ、世界が貴方の世界観で染まるのです」
俺は少しでも出血を抑えようと傷口に手を当てた。
迷いがそうさせたのか、咄嗟に彼女は鎌を引いていた。
それでも斬られたのだが、肩の辺りは少々深い傷で他はそれほどでもない。
痛いのは変わりないが。
「これは貴方の意思に関係なく自動で移るのですよね?」
蔵曾は小さく頷いた。
「蔵曾さんの力であって、しかしながら一度誰かの身に宿ると一人歩きする力。世界を変えられる力……」
同時に俺の体が青白く光り、その光は俺の体を離れて先輩の体へ。
それを確認した使乃さんはテーブルから降りて窓へと歩み寄った。
カーテンを思い切り開けて、射し込む陽光に俺達は目を細めるも、彼女は何の抵抗もなく外を見た。
「ははっ素晴らしいです!」
遠くの空にある何か。
別な場所では煙があがったり雷が落ちたりする何か。
それが何なのか、先輩の妄想――世界観に違いない。
「見てくださいベリアルドさん、貴方の世界ですよ」
「う、うん……」
魔法や魔物、そういったものが当然のようにある世界――?。
先輩の世界観はそれほど詳しくは分からないが大体の想像だとそうだ。俺の退屈な世界観とは大違い。
「どうしたのです? どこかお体の具合でも?」
「いや、大丈夫……。あの、奴を……」
「奴? ああ、忍野君ですか? 放っておいてもいいんじゃないでしょうか」
「なっ……!?」
「まあ、任せますよ」
先輩はどう判断する? 選択は君にゆだねられているんだ、いい選択を期待したい。
痛みに耐えるのは慣れていない、体を動かしたくもないしこの血のぬくもりも最悪だ、なるべく早くしてほしいな。
「や、奴は解放する……」
ありがたい、では先ずノア達に知らせてもらいたいな……。
「そう言うと思いました」
「――先輩!」
俺は使乃さんが右手に持つ物を――注射器を見て力を振り絞って大声を上げた。
同時に、激痛がなだれ込んで続く言葉は出せず、力が抜けて床へと崩れた。
「えっ?」
その注射器は先輩の首筋へ。
瞬き二回、その後に先輩はストン、と膝を折って倒れた。
「あ……? あ……」
体の自由が利いていない、うつろながら目だけは動いているが先輩はそのまま上体を床に沈めた。
毒ではなく、体の自由を奪う薬……?
「これは倒した事になります?」
蔵曾へ問いかけていた。
蔵曾は首を横に振り、使乃さんは残念そうにため息をついた。
「ではやはり攻撃するとしましょう」
何で攻撃するか、となれば先輩の手元から離れたあれしかない。
――鎌だ。
「最初から、俺を狙っていれば良かったじゃないか……」
俺は懸命に力を振り絞って、再び壁に凭れた。
話をするならこの体勢がいい。相手がはっきりと見えるし。
「私は警戒心が強いのですよ彼女の馬鹿げた力は半信半疑でしたから確かめる必要がありました」
先ずは俺から先輩に立ち位置を移して世界がどう変化するのかを見たかった、と?
「副作用とかあったら嫌ですし」
あるとしたら後ろで宙吊りにされているあいつが主人公らしく行動しろとか注文してくる事かな。
「それに彼女の与えられた力は役に立ちます。彼女の結界なら蔵曾さんに有効ですからね」
「なるほどね……俺達は君の手の平の上で踊らされていたようだな……」
「これで私の世界観が現実になる。心から感謝していますよ、ありがとうございます」
「どんな世界観か、聞いていい……?」
「折角なので教えてあげましょう。人々全てが不幸に塗れた人生を送り、私や優秀な人間だけが幸福の中で過ごしていく世界です。戦闘、戦争、争いは高みの見物、そんな世界にしたいのです」
「ど、どうしてそんな世界を……」
「どうして? 今もあまり変わらないでしょう? それを色濃くするだけなのですよ?」
使乃さんの眉間のしわが深くなった。
そんでもって彼女の後方で揺られる蔵曾は何かもぞもぞと動いている、ここは会話を引き伸ばして時間を稼ぎたい。
稼ぎたいが……俺としてはこの傷の痛みがあるから素直には稼ぎたいとは言えず。
「地面に溜まった水溜りの味は知ってます? 生ゴミの味は? 下水の隣で眠る気持ちは分かりますか? 人間には無視され、同族には笑われ、神は馬鹿げた事をするばかり、天使はその尻拭い、全てが腐っています」
「そんな事……」
「人生の大半を屋根の下で過ごせていられる貴方だから、そんな事無いですとか人生はもっと希望に満ち溢れているとか、酔いしれているかのような言葉を言えるのです。反吐が出ます」
彼女の心には大きな闇が渦巻いている。
俺が分かろうと歩み寄っても、突き飛ばされる闇、触れようとすればただ刺激してしまう闇。
現時点でもう既に刺激してしまった。
「それより」
鎌で軽く素振りをする使乃さん、利用する気満々だ。
「貴方は用済みなのでそろそろ死んでください」
「先輩も……殺すのか?」
「今すぐではないですけどね、あと蔵曾さんは私が先ほど彼女に打った薬を投与しつづけてこの一人歩きする力は消さないようにします」
宝くじでも当たったかのような、見るからに上機嫌。
鎌を振り回しながら俺へ一歩、また一歩と近づいてくる。
「自分に限ってとか、自分だけはとか、まだそんな希望を抱いている人が絶望に包まれるのを見るのはとても、ええ……とても快感です」
俺の前に立ち、どす黒い笑顔で大鎌を振り上げた。
ここで、終わり?
彼女にいいようにされて、俺の人生は折角楽しくなってきたのに……。
諦める?
いいや、それはしたくない。
ここで何かを変えられるとしたら、蔵曾――
「では」
俺は使乃さんの後方を見た。
蔵曾は体を捻って吊るされた状態からは解放されていたが、縄はほどけていなかった。
着地して、散乱したガラス類を踏みつける音に、使乃さんの鎌が止まった。
その一瞬。
彼女は後方へと振り返ろうとした。
この一瞬。
激痛に表情を歪めるも俺は使乃さんへと飛び掛った。
「こ、このっ――!」
けれども、こんな怪我じゃうまく力が出ない。
彼女のバランスを崩すだけで状況は変えられず。
大鎌が振り下ろされる。
蔵曾だけでも逃げられれば、きっとその後は何とかなる。
短い時間でも色々と考えられるもんだ。
こういうのが所謂走馬灯ってやつかな?
そんな巡る思考が、最後にたどり着いたのは……。
ノア、だった。
もうちょっと、あいつと学校生活を満喫したかったぜ。
とか思ったりして。
目を閉じて、その瞬間に聞こえたのは勿論斬られる音だ。自分では表現したくない、酷く耳障りでもあるあの音。
しかし――痛みが来ない。
「大丈夫?」
目を開いてみる。
目の前には、蔵曾がいた。
はらりと、彼女を縛っていた縄が解けていた。
彼女のすぐ後ろには大鎌を振り終えた使乃さんが目を真ん丸くさせて棒立ち。
何が起きたのか。
そんなの、考えるまでも無かった。
床が赤く染まっていく。
俺の血ではないそれは、蔵曾のものだ。
「ぞ、蔵曾……」
「なっ……なんて無茶を! 貴方には死なれたら困るのですよ!」
蔵曾は背中を斬られている。
それも出血量からして相当な深手。
「傷を、治す」
それなのに何事も無かったかのように俺の傷口に触れ、光を宿すや見る見るうちに怪我が治り痛みが引いていった。
破れた服すらも直っていきやがる。
次は自分を治すものだと思ってたのに俺を治し終えるや蔵曾は床に崩れた。
「おい! しっかりしろよ!」
かすかに、蔵曾の手は動いていた。
俺の手を握り、蔵曾は俺を見て言った。
「私から、贈りもの」
何か右腕に温もりのような感覚が包み込んだ。
「彼女を渡してください!」
「……断る」
「直ぐに手当てしないといけません! 分かっているでしょう!?」
「ああ、分かってる。それは俺がやる。お前の仕事じゃないよ」
「なら――!」
使乃さんは大鎌を構えた。
どうしてだろう。
何も怖くない。
大鎌が振り下ろされても何の問題は無いと俺の本能が呟いていた。
俺が立ち上がる途中段階で使乃さんは既に大鎌を振り下ろしていた。
怪我が治ったとはいえ血が足りないのか、少しばかりくらっとしていた。倦怠感も少々。
大丈夫か?
大丈夫だ。
この右腕、何かが宿った右腕。
拳を作り、大鎌に振るう。
「貴方には死んでもらいま――」
何が起きたのか。
彼女が理解するのは数秒後だ。
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