神様はラノベ作家を目指すようです。

智恵 理陀

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第二部

その33.萌え萌えキュン☆

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 蔵曾がどこかへ行ってしまった。
 直ぐに戻るとは言っていたがこの場には俺と鬼全のみ。
 目の前の敵は俺の携帯電話を人質にベンチで目を輝かせている。

「おい」
「な、何?」

 鬼全が顔を上げた。

「今日からお前はぁ……富士山だ!」
「知るか!」

 完全にハマってしまったようだ。
 これ以上は見せないほうがよさそうな気がしてきた。

「ねえ、そろそろ返して……」

 携帯に手を伸ばしたところ、

「お米食べろ!」
「食べねぇよ! 返せよ!」

 強引に奪い取った。

「あはぁ~ん……」

 雑な物まねやめろ。
 鬼全は立ち上がってじりじりと俺の携帯を再び奪おうと近づいてくる。
 近くでは「ママー、あれなにしてるのー?」と子供の声が聞こえるも「見ちゃいけません」と、続く母親らしき声。
 一体俺達は公園で純粋に遊ぶ子と保護者にどう映っているのやら。

「おまたせ」

 そこへ、いいタイミングで蔵曾が戻ってきた。
 両手で抱えているのはギターケース。
 ……それ、どうしたんだ?

「見つけてきた」
「えっ? マジで? それ、あたしの?」

 蔵曾は頷く。
 こんな短時間で見つけられるか普通。
 盗まれてからかなり時間が経過してるんだ、持ち帰られたか売り払われたかで絶対にすぐに見つかるわけがない。

「あ、あたしのだ……」
「偶然、落ちてた」

 何が偶然だよおい。絶対お前の能力だろ。

「ありがとうよ、蔵曾。マジぱねぇくらい元気出てきた」
「今ならうまく弾ける気がする」
「頑張れ頑張れできるできる絶対出来るやれる」

 あの人っぽく励ますなよ蔵曾。

「きっと不思議な力も発動できる」
「マジか!」

 ギターケースからギターを取り出し、鬼全はピックを指に挟んだ。
 肩のあたりまで手を上げて、勢いよく降ろして弦へとピックを走らせる。
 その途端に――左右からいきなり四角い箱のようなものが出現。

「うぉぉお!?」

 ギターの音が、激しく周囲に響きわたった。
 大きい箱型のはスピーカーだ、アンプも足元にありやがる。
 けど――

「うるせぇ!」

 プロのギタリストがよくやるような音にはちょっとすげぇなって思う。俺がギターに興味を持ってたら憧れたかも。
 鬼全ってギター上手いんだなあ――って思ったけど本人が一番びっくりしてる。

「これはっ!?」
「不思議な力っ! 鬼全の眠れる不思議な力っ」
「マジか、これもあの方のおかげか!」
「違いない、お米食べろ!」
「お米食べろ!」
「うるせぇ!」

 蔵曾、お前……力を使って変化させたな?
 そのギターにも何か仕掛けをしたのか?
 つーかアンプを出現させるとかどうでもいい能力を与えたな! 周囲に騒音被害を与えるだけじゃねぇかこれ。
 周りは皆が驚いてこっち見てるし、二人ははしゃいでるの悪いがこの場からすぐに俺は離れるからな!

「蔵曾、そろそろ行こうぜ!」
「ふん、貴様。今日は機嫌が良いから見逃してやる」
「はあどうも」

 ギターがよほど気に入ったのか、ギターケースにしまうや大事に抱きかかえていた。
 アンプはギターから手を離すと消えるらしい。
 周りは大胆なマジックかと目を真ん丸くしていた、騒ぎにならなきゃいいが。

「あたしは住家を探す、この街に住むぞ。必ず目標を達成できる! だからこそ! ネバーギブアップ!」
「今日からお前は、富士山だ」

 鬼全は軽やかな足取りでどこかへ行ってしまった。
 どうして俺は敵を見送っているんだ?

 やれやれ……。
 折角の休日だってのに余計な事で時間を費やしてしまったな。
 敵に塩を送る行為でしかなかった、蔵曾は満足かもしれないが俺は不満だぜ。
 今度また元気に襲ってきたら俺は再びあいつの頭にチョップしなきゃならん。
 あとうるさいギター音を鳴らされたら本気でチョップしよう。

「インスピレーション、刺激された。アイデア湧いてきた」
「よかったな。あいつを嗾けて俺を襲わせる、あのギターを利用するのもいいかしら――とか考えてたら今すぐお前の頭に鉄拳をぶち込むからな」

 ぎくりっ――といった感じで肩を上下させていた。

「お前……」
「ンな訳ねぇだろおぇぇッ?」
「名言で誤魔化そうとすんな」

 頭に鉄拳をぶち込んでやった。

「……痛い」

 しかし再び暇というものに取り囲まれた。
 公園には戻り辛いし、このまま家に帰るってのもな……。

「また本屋に引き返すか……」
「三時のおやつ」
「子供か!」

 そういやすっかりそんな時間になっちまってたな。

「最近、メイド喫茶みたいな店、できたとか」
「メイド喫茶?」

 へぇ。
 じゃあなんだ? そこでおやつを頂くと?

「ラノベでメイドは貴重、見ておきたい」
「パフェとか甘いもん食いたいだけだろ」
「何故ばれたし」

 解りやすいんだよお前は。
 しかし陽光に当たりすぎて飲み物が欲しくなったな。
 メイド喫茶みたいな店、ねえ。
 みたいなっていうなら俺の頭の中で繰り広げられてる「萌え萌えきゅん」的なレベルではなない、かな?
 普通に美味しい飲み物が飲めるのならそれでいい。
 喫茶店は基本落ち着ける、蔵曾にはいい環境を与えられるな。
 まともなラノベを書ける近道になればいいが。

「よし、行くぞ」
「れっつごー」

 陽気だな。
 それほど遠くではないらしい、街の入り口付近だとか。
 案内されて行ってみるとちょっとした行列が目に入った。

「繁盛してんの?」
「ぼちぼち」

 住宅街に紛れていて行列がなかったら見逃してたね。

「前から行きたかった」

 フードの奥に潜む両目が光を宿して輝いているように見えた。
 つーか暑くねえの? フード取ったら?
 フードを取ろうとすると、蔵曾は咄嗟に反応して両手でフードを押さえやがった。
 そんなにフード取るの嫌か?
 店内から出てきた客は満足そうに出て行った。
 入れ替わりに何人か入り、それから十分後。

「お客様どうぞ♪」

 可愛らしい声色が中から聞こえてくる。

「入る」
「……おうよ」

 入店。
 店に入るや、先ほど入店を促した声の主とは違う声が飛んでくる。

「お帰りなさいませ♪ ご主人様♪」

 目の前に駆け寄ってくるのはまさにメイド。
 黒と白だけが共存する服、それにカチューシャ。
 ふりふりのスカートが魅力的。
 俺達の前で十五度の角度でお辞儀をして、にっこりと営業スマイル。

「……」

 普通ならメイドに感激している。
 なんていったって俺の人生でこうしてメイドを見る機会は今まで無かったのだ。
 もし目の前にメイドがいたら「おぉ!」と思わず声を漏らしていたに違いない。
 では何故今三点リーダーを紡ぐだけなのか――何故絶句しているのか、というと。

「……薫」

 既知の友人が目の前にいたからだ。
 薫も同様に、顔を上げて絶句していた。
 忙しさから顔をよく見ていなかったんだな、俺もよく見ていなかった。

「……ど、どうかしました? ご主人様!」
「いや、薫……お前……」

 電話が通じなかったのは忙しかったからか?

「わ、私は薫なんて名前じゃございませんよ♪」

 そのやけに女の子らしさってより萌えを意識した口調と、尻を上げて腰はくびれを強調したポージング作るのやめない?

「ネームプレートにかおりんって書いてあるんだが」
「か、かおりん星からやってきた姫です♪」

 らしいよ。
 この場に鈍器が無くてよかったな。
 もしあったらお前の頭をかち割ってたぜ。

「……薫だよな」
「薫」
「間違いないよな?」
「間違いない」

 蔵曾と本人確認をした。
 蔵曾が言うと少しだけ説得力があるな。

「……こちらへどうぞ」

 客が再び入ってきた、店の入り口で留まらせるのはまずいと――薫? は空席へ案内する。
 ぎこちない動きだ。
 どうしたんですかねぇこの人。

「やっぱりかおりんは可愛いなぁ~」
「かおたん萌え~」
「やっぱりかおりんは最高だぜ」

 かおりんって客に人気なんだな。
 その評判からして、以前からここで働いていたのが窺える。
 席へと座り、薫は引きつった笑みで俺達を見下ろしていた。

「……薫だよな」
「薫」
「間違いないよな?」
「間違いない」

 もう一度、蔵曾と確認をした。
 いつの間に化粧上手くなったんだ? まつ毛は付けまつ毛? 化粧に関しては疎いが普段のお前と全然違ってびっくりしたぜ。

「お、お客様……メニューをどうぞ……」

 そうだ、注文しなきゃな。

「薫、何がお勧めなんだ?」
「かおりんです、薫なんて知りません。ご友人と勘違いなされてるのではございませんか?」

 誤魔化そうったってえもう無理だぜ?
 まあいい、何か注文しよう。

「蔵曾、お前は何注文する?俺は“愛情たっぷりこ~らふろ~と☆”を注文するぜ」
「げっ」

 おいなんか聞こえたぞ。

「萌え萌えきゅんきゅんオムライス」
「お前三時のおやつはどうした!?」
「急にこれを食べたくなった、指名できるらしい、かおりんを所望」
「あ、じゃあ俺もかおりんに頼もうかな」

 なんかやってくれるらしいな。ハートマークがついてるのは指名OKっていう意味か。

「はあっ!?」

 かおりん、そんな声出しちゃ駄目だぞ☆
 慌てた様子で薫は周囲を一瞥、

「ごほんっ」

 咳払いをして、笑顔を作った。
 その引きつった笑顔じゃなくちゃんとした営業スマイルが見たいな。
 薫はぎしぎしと持っていたプレートを強く握り締めて――

「……かしこまりましたご主人様♪」

 おお、さすがだぜ!
 いいよ、営業スマイル見れたぞ!
 注文を伝えに行った後はすぐさま薫は接客。
 忙しそうだ、何人かメイドがいるけどその中でも一番に薫は輝いてるね。容姿も抜群、声色も可愛らしくしてやがる。
 こりゃあ人気が出るわけだ。
 俺達は薫をじっと観察するとした。

「萌え」
「ああ、萌えだな」
「かおりん萌え」
「ああ、かおりん萌えだな」

 俺達の視線には気づいているようだが、中々目を合わせてくれない。
 今忙しいからあとにしろよってのと、何できやがったんだこの野郎って言いたそうな後姿。
 よかったらスカートふりふりって振ってほしいな、そしたら満足から即帰るまである。
 しばらくして、薫は厨房へと戻ると丁度オムライスとコーラフロートが出された。
 呼ばれてもいないのに出来上がりぴったりに戻ったのは接客中に料理が出来上がる時間を計算していたのかな。
 だとしたらすげえぜお前、流れるように接客をしてるから客をどんどん捌けるんだな。

「かおりんさんすごいわねぇ……」
「いつかこの店ナンバーワンになるかも……」

 小声でメイド達が話していた。
 他のメイド達からも関心されるほどの動き、うーん、かおりんすんごい。

「……」

 薫は俺達の前にやってきて、少しだけ沈黙の間を置いた。

「どうしたのかおりん」
「愛情たっぷりお願いしますぜ」

 ミシミシ。
 プレートが軋む音。
 うぉぉ……ご立腹でいらっしゃる? 
 ごめんちゃい。
 俺は満面の笑みを見せつけてやった。

「……それではご主人様♪ こ~らふろ~とに愛情を注ぎますね♪」
「よろしく!」

 よろしくじゃねぇよ! みたいな殺気を込めた目を一瞬だけ見せてきた。
 薫、接客接客!

「おいしくなぁ~れ、おいしくな~れ、らぶらぶこ~ら☆ はい、ご主人様♪ 美味しくなりましたよ♪ 私からバニラをお口に運んであげますね♪」

 スプーンで俺の口にバニラを運んでくれた。
 俺はぱくりと頂き、親指を立てた。

「ごゆっくり」

 ちょっと声のトーン低くなってなかった?
 そして薫は次にケチャップを取り出して蔵曾のオムライスに。
 蔵曾、口元緩みすぎ。
 ケチャップにハートマークを書き込んで、

「ご主人様ぁ♪ 今からこのオムライスに美味しくなる魔法をかけますね♪ よかったら一緒にやってもらってもいいですか?」

 なるほど、オムライスではそういうサービスね。

「是非」
「ではいきますよ♪ 私に続いてください☆」

 ちょっと引きつった笑顔に戻りかけてるけど頑張れ薫。

「美味しくなぁれ♪」
「美味しくなぁれ♪」

 おおっ!? 蔵曾も声色を変えて雰囲気出して喋った!
 貴重だこれ!

「「美味しくなぁれ♪」」

 しかも最後は綺麗に声が揃った。

「萌え萌えキュン☆」

 薫は指でハートマークを作ってオムライスに。

「キュン☆」

 蔵曾は指でハートマークを作って薫に。

「キュン☆」

 俺も薫にキュンしとこう。

「……ごゆっくり」

 また声のトーン低くなってない?
 大丈夫? もしかして具合悪い?
 普通の喫茶店より料金は少し高いが満足したぜ。
 今度また行こう。



「かおりんおはよう」
「……かおりんやめろ」

 月曜日、薫は俺を見るや両手で顔を覆って過去の思い出を雲散しようと必死だった。

「メイド姿、似合ってたぞ」
「どうも……」

 そのまま前進するのは危険だから手を下ろしなさいな。
 ノアは頭の上にクエスチョンマークを浮かべていたが、こいつに話そうとすれば絶対薫は止めるだろうな。
 なんて、思ったら。

「えっ? あ……えぇっ!?」

 ノアが上体を低くして何をしているのかと思ったら隣にはいつの間にか蔵曾がいた。
 しかも耳打ちをしている。

「あ……はい」

 ノアが頷く。
 何を言われたんだ?

「か、かおりん、おはよう」
「だからかおりんやめろ! おい何言いやがったこの野郎!」

 徐々に薫の顔が朱に染まっていく。

「ごめんかおりん」
「ご、ごめんなさいかおりん……」
「悪かったよかおりん」

 三人で謝った。

「いっそ殺せ」

 そんなに見られたのが恥ずかしかったのか?

「ああいうのって時給高い?」
「……高い、だからやった、今は後悔している」

 十代、女子高校生(元男性)の供述。

「萌え萌えキュンやって」
「やらねぇよ!」
「も、もえもえきゅん?」
「ノアは知らなくていい!」

 いじりネタが見つかってしまった、しばらく蔵曾からこれでいじられるに違いない。

「時給もいいし、接客業は得意?」
「そう、そうなんだ」
「自分が評判になってきて気分がいい?」
「ああ、ほんとそれ……」
「メイド姿も?」
「悪くない……はっ!?」

 乗せられた。
 女として楽しんで過ごしていて何よりです。
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