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第二部
その34.雰囲気大事っ
しおりを挟むなんか目撃してしまった。
夕方、街の本屋にまた行こうとしたら、あいつがいたんだ。
背中にギターケースを背負ったあいつ――鬼全が。
「ど、どうかしたの?」
「いや、ちょっとな……」
何処に行こうとしてるんだあいつ。
ああ、そういや住家を探すとか行ってたな。見つかったのか?
しばらく襲ってこなかったから安心したが、行方が解らないと不安は残る。奴について情報は少しでも集めておきたいな。
襲われても別に問題は無いんだけどね。
「新しい敵、なんだよねあいつ」
ノアと二人で物陰に隠れて覗く。
「て、敵!?」
薫はいない、あいつは今日も萌え萌えキュン☆だ。
「名前は鬼全、怪異って奴らしい」
「つ、強そう」
「いや、弱い」
「よ、弱いの!?」
はっきりと頷いた。
本当に、ものすごく弱いんだぜ。
「けど敵については把握しておかないとな」
「わ、私も把握する」
そりゃどうも。
「ちょ、ちょっと待っててっ」
ん? どうしたんだ?
ノアは近くのコンビニへ入っていった。
数分後、袋をさげて戻ってきた。何を買ってきたんだ?
「あんぱんっ、牛乳」
「……刑事じゃないんだから」
「ふ、雰囲気大事っ」
雰囲気も何も、なあ。
でも小腹が空いてきたし頂いておこう。
「ほら、お金」
ちゃんと金も払っておく、ノアの分も含めてね。
「こ、これくらい大丈夫だよっ?」
「こういうのは男が金を出してやるもんだ、俺の私用に付き合ってもらってるんだから当然だよ」
「こ、浩太郎君は優しいね……」
「そうか?」
よく解らん。
おっと、目を離したすきに角を曲がっていったぞ。
「行くぞっ」
「いえっさー!」
ノリノリだな。
それにしても何処に向かってるんだあいつ。
街に向かっているようだけど、街の中心部へ向かうには少し方向がずれている。
この先は大型スーパーがあるが……方向的にそこへ真っ直ぐ向かっているような足取り。
「あっ、ゴミ拾ってゴミ箱に捨てたっ」
「意外と真面目だな」
一つ一つ観察しておこう。
「こ、子供とぶつかった! 子供、泣いちゃった……慌てふためいてる」
「意外とアクシデントには弱いな」
「あ、何かあげてるっ」
頭も撫でてるな、泣き止まそうと必死だ。
あげてるのは飴か? 必死すぎて十個くらい渡してるぞあいつ。
「泣き止んだ」
「また動いたな」
子供のお母さんもやってきて一安心だ。
はぐれちゃったんだな、鬼全とぶつかってその場に留まったおかげで合流できたようだ。
飴もいっぱいもらって子供は元気に手を振って鬼全を見送っていた。
鬼全のちょっとした駆け足は照れが感じられる。
再び尾行を再開。
向かった先は――スーパー。
「似合わねぇ」
あんぱんをすぐに食べ終えて牛乳で流し込んでから俺達も中へ入った。
主婦に紛れるパンク女。
周りが少し距離を取っているのは気のせいだろうか。
カートにかごを二つ乗せていて今から大量購入すると言わんばかり。
怪異ってのは何を食べるのか気になるな。
意外とプリンとか食べたりして。
「プ、プリン取った」
「マジで!?」
ああ、あのプリンね。
とろ~りクリ~ムプリン俺も好きだよ。母さんがよく買ってくるんだ。
「一つ目のかごにお酒いっぱい入れてる」
「呑んだくれだなぁ……」
かごから飛び出しそうなくらいに入れていた。
見た感じ三十缶くらい? それに日本酒も一升瓶で二本、どんだけ飲むんだあいつ。
「次は惣菜売り場か」
「おつまみ?」
「多分な」
予想通り、酒に合うのであろうから揚げやら揚げ物中心に放り込んでいく。
父さんはビールにから揚げって組み合わせで頂いてたな。
俺も父さんのつまみをよくつまむ。
かごが二つともいっぱいになるや鬼全はレジへ。
その豪快な買い物に通りかかる客は皆が二度見していた。
レジの店員も目を真ん丸くさせて、これから何のパーティ? みたいな顔をしていた。
年齢確認は大丈夫なのかな? あいつ顔つき幼いけど、怪異って身分証明できるもの持ってるのかな?
あっ、店員ビビッてる。こりゃあ年齢確認されないな。
一万円札を出して会計。
鬼全って金持ちなんだなぁ。
怪異ってみんなそうなのかなもしかして。
「ど、どうやって持ち帰るのかな?」
「それ俺も気になった」
袋詰めスペースに移動するや、鬼全はそこにギターケースを置いた。
「「えっ」」
俺達だけではない、その周りの客もぎょっとして見ている。
ケースを開けるとギターは無く、その中に缶と一升瓶を入るだけ兎に角詰め込んでいた。
よいしょっ――と詰め込み終えてギターケースを背負う鬼全は残ったものは袋に入れて店を出た。
なるほどなぁ……。
つーか、ギターケースはそうやって使うもんじゃねぇから!
再び尾行。
今度は住処へと向かうはずだ。
流石にギターケースが重くなったのか、歩調は先ほどよりも遅い。
両手に袋を下げて重みに時折揺さぶられると手を貸したくなる。
ノアも同じ気持ちに違いない。
二人でそわそわしながら鬼全を見守った。
たどり着いたのはアパート。
蔵曾のとこと比べるとこっちのほうがぼろくも古くも無い、外装は所々黒ずんだりしているが月々の料金も標準的っぽい感じ。
要するにどこにでもある普通のアパート。
アパートの管理人であろうおばあさんが箒で掃いていたので鬼全は通り過ぎる際に「よお!」と陽気な挨拶をして階段を上がって二階の奥の部屋へ。
印象的にそのまま無視して通り過ぎるかと思ったが。
部屋を確認して、おばあさんに話しかけてみた。
「あの、さっきの人について聞きたいんですけど」
「ん~? あの子かい? つい二日前に入った子さ、いい子だよほんとにねぇ……」
にっこりと笑って言う。
「最初は楽器の音がうるさくてねぇ、注意したらちゃんと聞いてくれてねぇ。見た目はあんなだけど、いい子さねぇ。お隣さんともすっかり仲良くなってねぇ」
ここの住人とはうまくやっていっているようだ。
怪異も人間とは何気にうまくやっていけるもんなんだな。
怪異について知識が浅いからなんとも言えないが少なくとも鬼全は社交的。
二階からも笑い声が聞こえる。
廊下でお隣さんと偶然会って立ち話に花を咲かせているのかな?
階段をゆっくりと上っていき、ノアと一緒に覗いてみる。
お隣さんらしき女性と笑いあってるな。
「た、楽しそう」
「そうだな」
お隣さんは至って普通の女性だ。
パンクな鬼全さんとツーショットは些か合わないくらいに。
「おにこちゃん、この子達お友達かねぇ?」
すると階段を上がってきたおばあちゃんがそのまま鬼全へ声を掛けて俺達を指差した。
「「「あっ」」」
俺とノアと、鬼全の声が同時に揃った。
咄嗟に顔を引っ込めたけど完全にばれちゃったよなぁ……。
「ん~どうかしたのかい?」
「い、いえいえ……ちょっと急用を思い出しまして……」
「う、うん、き、急用っ」
とたとたと足音が聞こえてくる。
やばいやばいっ、逃げようっ!
「て、てめぇら……」
階段をおり始めると同時に後ろから鬼全の声。
「僕は、通りすがりの、学生です」
片言気味。
「は、はい、私も、です」
ノア、お前も付き合わなくたっていいんだぜ?
それより――逃げようっ。
階段を下りて二人でダッシュ。
鬼全は追ってこれまい、今日買った大量の酒などが重みになっているのだから。
「ま、待てやぁ!」
そんな声が聞こえてきたが当然待たない。
アパート名はゆきたか荘、場所も覚えた。
そこら周辺は近づかないようにしようっ。
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