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第一章
007 死の衝動に駆られど。
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「ありがとう、色々と教えてくれて」
「いえいえ。なんでもお聞きください。貴方様は命の恩人なのですから」
「じゃあもっと聞いておくよ。君のその肌の色は、塗料か何かか?」
ずっと気になっていたその灰色の肌。
こういうのって聞いたら失礼かな? なんて思うものの初めて見る肌の色には好奇心が高まっていた。言いたがらなかったら、謝ろう。
「いえ。これは灰肌といって、我らハイラア族特有のものなのです。これといって魔力があるわけでもない非力な種族です」
「ふぅん、そうなんだ」
「ハイラア族は見世物小屋に並べられるか奴隷として過ごすか、野垂れ死ぬかといったところしかございません。ボードも大体三角形止まりで将来性もないですし。奴隷商様に捨てられてしまったのでこの先どう暮らせばいいか……」
「故郷に戻って暮らしたりはしないのか?」
捨てられたとは聞こえが悪いものの、奴隷という立場からの解放なのでは?
自由を手にしたにしては、どこか嬉しくなさそうだ。
「故郷は戦火に焼かれて無くなってしまいました。私以外のハイラア族がどこにいるのか、もはや定かではございません。行くあても、ないです」
なるほど。
生活の糧もなく行くあてがないとなるとそりゃあ解放されても嬉しさなんて湧いてこないか。
「君は奴隷として長いの?」
「物心ついた頃には、既に奴隷でした」
「そうなんだ……。じゃあご家族とかは……」
「存じません。でも記憶にない分、寂しさも薄れているので、辛くはありません」
ハスは笑顔を見せてきた。
強がっての笑顔なのか、それとも自然と表れている笑顔なのか。定かではないが、どうであれ、この子の笑顔は……見ていて暖かくなる。
「折角だし、よかったら手伝ってくれない?」
「手伝う、ですか?」
「ああ、君は文字を読めるし物知りだ。あと俺が死んだらその死体を埋めてくれると嬉しいな」
「さ、最後のはできればその機会が訪れない事を祈りますが……。貴方様は命の恩人であり、神様の使い、私に出来る事がございましたら、是非ともお手伝いさせてください!」
神様の使いってところは否定したいが、手伝ってくれるようで助かる。
「よし、では早速なんだけど……この辺に自殺スポットか崖はあるかな?」
「ど、道中にございますが……」
そう言ってハスは道の先へと視線を移した。
夜光に照らされたその道、やや曲道になっているがそのあたりであろうか。
「ほう、いい崖じゃないか」
「い、いい崖とは……」
道中は森が続いていたが、森が薄れたこの曲道は左手側が崖になっていた。
山からいくつもの突き出た固い岩盤が平らで広い道を作り出す反面、片側は反り返るほどの極端な崖を作り出していた。
崖から広がる景色は、俺がこれまでの人生では一度も見た事のない、夜光に照らされたまさに大自然と言える光景だった。
所々に光の集合体が見えるが、村か街であろうか。空を漂う黒い影は、鳥にしては大きい、魔物とやらの類かもしれない。
まあ、そんな光景よりも俺が見るべきは崖下だ。
「高さは俺が飛び降りた時よりは高くないが……頭から落ちればまあ、いいだろう」
「と、飛び降りた……?」
「ちょっとこれから飛び降りてみるから、もし死んでたら埋めてくれ」
荷物は置いていこう、クッションになって助かったなんて事にはならないように。
「あ、あの、シマヅ様?」
はい、荷物。
――あっ、はい。
はい、松明。
――あっ、はい。
そんなやり取りの後に。
「それじゃあ。よろしく」
「えっ? はい?」
彼女に手を振って、俺はそのまま体を倒した。
驚愕に表情を強張らせるハス、視界は移り空へ、そしてさかさまの景色へ。空気抵抗を感じつつ――数秒後には衝撃と同時に、暗転。
「――ヅ様~!」
気が付けば、草むらの中にいた。
ハスの声が遠くから聞こえる。ああ、また死ねなかったようだ。
飛び降りも俺が死ねる方法ではなかったか、もしかしたらとは思ったんだが、まあそんなに期待していなかったし一つ確認ができたという事でよしとしよう。
「――シマヅ様~!」
「ここだよ~」
崖のほうを見るとハスが太い根を伝って降りてきている。
危ないな、両足は鎖に繋がれているというのに無理をするね。
「あわわっ」
「言わんこっちゃない」
ずるずるとずり落ちていく。
心配なので彼女が落下しても受け止められるよう真下につき、降りてくるまで見守るとした。
「ご、ご無事ですか?」
「見ての通り無事だよ。まったく君は、無茶するね。荷物までちゃんと持ってくるんだから」
「シマヅ様ほど無茶はしておりませんが……。しかしこれはシマヅ様から預かった大切なお荷物、手放すわけにはいきません」
誰かに従い尽くすのが身に染みているのだろうか。
奴隷本能といったところ?
「はぁ……やっぱり飛び降りでも駄目だったよ。この辺の草を次は食べてみるか……。なんか紫で毒草っぽいし」
「あっ、これは珍しい花ですね。ランハンショウですよ、魔力に反応して強い幻覚作用を引き起こされる事があるらしいので注意です」
「幻覚作用か。だったらいいや……」
「そんな残念がる人初めて見ました」
俺が求めているのは一発で死ねるくらいの毒性だ。
それが死ねる方法であればなお良し。
それからは周囲からは魔物らしき足音も聞こえてきたのですぐに移動し、山道を探した。
ハスは方向感覚もいいようで腰あたりまで伸びる草原の中、きちんと山道まで辿り着いた。後は下っていけば街へ行けるようだ。
街まで行ってどうこうといった目的はないものの、この子を安全な場所まで送り届ける程度の責任は、自分にはあるだろう。
「そういえばこの食料袋、宝石みたいなの入っていたんだけど、これ何? なんかずっと袋の中ひんやりしてるのもこいつのせい?」
「それは魔力石です。魔力を宿す事ができて、その際に属性も付与させると効果が及びます。たとえばこれは水属性の応用として氷属性を宿してますので、この魔力石を袋に入れておくと食料の保存ができるのです」
「へ~そいつはいいね」
「魔力石のおかげで生活はとても便利なのです。大地から魔力は湧き出るものなのですが、濃厚に湧き出る場所では結晶となり、それが魔力石と呼ばれます。一度魔力が抜けても注げば使いまわしが出来るのですよ」
この世界、俺の思った以上に発展してる?
そんなちょっとした疑問は、街を見渡せる丘に辿り着いてすぐに解消された。
「いえいえ。なんでもお聞きください。貴方様は命の恩人なのですから」
「じゃあもっと聞いておくよ。君のその肌の色は、塗料か何かか?」
ずっと気になっていたその灰色の肌。
こういうのって聞いたら失礼かな? なんて思うものの初めて見る肌の色には好奇心が高まっていた。言いたがらなかったら、謝ろう。
「いえ。これは灰肌といって、我らハイラア族特有のものなのです。これといって魔力があるわけでもない非力な種族です」
「ふぅん、そうなんだ」
「ハイラア族は見世物小屋に並べられるか奴隷として過ごすか、野垂れ死ぬかといったところしかございません。ボードも大体三角形止まりで将来性もないですし。奴隷商様に捨てられてしまったのでこの先どう暮らせばいいか……」
「故郷に戻って暮らしたりはしないのか?」
捨てられたとは聞こえが悪いものの、奴隷という立場からの解放なのでは?
自由を手にしたにしては、どこか嬉しくなさそうだ。
「故郷は戦火に焼かれて無くなってしまいました。私以外のハイラア族がどこにいるのか、もはや定かではございません。行くあても、ないです」
なるほど。
生活の糧もなく行くあてがないとなるとそりゃあ解放されても嬉しさなんて湧いてこないか。
「君は奴隷として長いの?」
「物心ついた頃には、既に奴隷でした」
「そうなんだ……。じゃあご家族とかは……」
「存じません。でも記憶にない分、寂しさも薄れているので、辛くはありません」
ハスは笑顔を見せてきた。
強がっての笑顔なのか、それとも自然と表れている笑顔なのか。定かではないが、どうであれ、この子の笑顔は……見ていて暖かくなる。
「折角だし、よかったら手伝ってくれない?」
「手伝う、ですか?」
「ああ、君は文字を読めるし物知りだ。あと俺が死んだらその死体を埋めてくれると嬉しいな」
「さ、最後のはできればその機会が訪れない事を祈りますが……。貴方様は命の恩人であり、神様の使い、私に出来る事がございましたら、是非ともお手伝いさせてください!」
神様の使いってところは否定したいが、手伝ってくれるようで助かる。
「よし、では早速なんだけど……この辺に自殺スポットか崖はあるかな?」
「ど、道中にございますが……」
そう言ってハスは道の先へと視線を移した。
夜光に照らされたその道、やや曲道になっているがそのあたりであろうか。
「ほう、いい崖じゃないか」
「い、いい崖とは……」
道中は森が続いていたが、森が薄れたこの曲道は左手側が崖になっていた。
山からいくつもの突き出た固い岩盤が平らで広い道を作り出す反面、片側は反り返るほどの極端な崖を作り出していた。
崖から広がる景色は、俺がこれまでの人生では一度も見た事のない、夜光に照らされたまさに大自然と言える光景だった。
所々に光の集合体が見えるが、村か街であろうか。空を漂う黒い影は、鳥にしては大きい、魔物とやらの類かもしれない。
まあ、そんな光景よりも俺が見るべきは崖下だ。
「高さは俺が飛び降りた時よりは高くないが……頭から落ちればまあ、いいだろう」
「と、飛び降りた……?」
「ちょっとこれから飛び降りてみるから、もし死んでたら埋めてくれ」
荷物は置いていこう、クッションになって助かったなんて事にはならないように。
「あ、あの、シマヅ様?」
はい、荷物。
――あっ、はい。
はい、松明。
――あっ、はい。
そんなやり取りの後に。
「それじゃあ。よろしく」
「えっ? はい?」
彼女に手を振って、俺はそのまま体を倒した。
驚愕に表情を強張らせるハス、視界は移り空へ、そしてさかさまの景色へ。空気抵抗を感じつつ――数秒後には衝撃と同時に、暗転。
「――ヅ様~!」
気が付けば、草むらの中にいた。
ハスの声が遠くから聞こえる。ああ、また死ねなかったようだ。
飛び降りも俺が死ねる方法ではなかったか、もしかしたらとは思ったんだが、まあそんなに期待していなかったし一つ確認ができたという事でよしとしよう。
「――シマヅ様~!」
「ここだよ~」
崖のほうを見るとハスが太い根を伝って降りてきている。
危ないな、両足は鎖に繋がれているというのに無理をするね。
「あわわっ」
「言わんこっちゃない」
ずるずるとずり落ちていく。
心配なので彼女が落下しても受け止められるよう真下につき、降りてくるまで見守るとした。
「ご、ご無事ですか?」
「見ての通り無事だよ。まったく君は、無茶するね。荷物までちゃんと持ってくるんだから」
「シマヅ様ほど無茶はしておりませんが……。しかしこれはシマヅ様から預かった大切なお荷物、手放すわけにはいきません」
誰かに従い尽くすのが身に染みているのだろうか。
奴隷本能といったところ?
「はぁ……やっぱり飛び降りでも駄目だったよ。この辺の草を次は食べてみるか……。なんか紫で毒草っぽいし」
「あっ、これは珍しい花ですね。ランハンショウですよ、魔力に反応して強い幻覚作用を引き起こされる事があるらしいので注意です」
「幻覚作用か。だったらいいや……」
「そんな残念がる人初めて見ました」
俺が求めているのは一発で死ねるくらいの毒性だ。
それが死ねる方法であればなお良し。
それからは周囲からは魔物らしき足音も聞こえてきたのですぐに移動し、山道を探した。
ハスは方向感覚もいいようで腰あたりまで伸びる草原の中、きちんと山道まで辿り着いた。後は下っていけば街へ行けるようだ。
街まで行ってどうこうといった目的はないものの、この子を安全な場所まで送り届ける程度の責任は、自分にはあるだろう。
「そういえばこの食料袋、宝石みたいなの入っていたんだけど、これ何? なんかずっと袋の中ひんやりしてるのもこいつのせい?」
「それは魔力石です。魔力を宿す事ができて、その際に属性も付与させると効果が及びます。たとえばこれは水属性の応用として氷属性を宿してますので、この魔力石を袋に入れておくと食料の保存ができるのです」
「へ~そいつはいいね」
「魔力石のおかげで生活はとても便利なのです。大地から魔力は湧き出るものなのですが、濃厚に湧き出る場所では結晶となり、それが魔力石と呼ばれます。一度魔力が抜けても注げば使いまわしが出来るのですよ」
この世界、俺の思った以上に発展してる?
そんなちょっとした疑問は、街を見渡せる丘に辿り着いてすぐに解消された。
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