死ねば死ぬほど強くなる不死者は死ぬ方法を探している。

智恵 理陀

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第一章

008 聖都ガルフスディア

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「おおっ……」
「あれが聖都ガルフスディアでござます」

 街をぐるっと塀で囲んだ城郭都市――夜だというのにいくつもの街灯が街を照らしており、街の中心部にある城らしきものは立派に空を穿つように建っていた。
 白を基調とした建物が多く、聖都と言われるだけあって神聖さは一瞥だけで感じ取れるものがあった。
 Yの字で大きな川が街中を通っており、川の所々には施設が建っている。
 彼女に聞いてみると魔力石を使った浄水施設らしい。
 そういう使い方もあるのか、と感心した。
 上下水道も整っているようで、魔力石による文明の発展には驚かされるばかりだ。
 小山の先にもいくつか都市が集合しており、街並みは実に大規模。
 さて、街に入るには門をくぐらねばならない。
 更に歩数を重ねて丘から降りて近づいてみると、甲冑を身に纏った衛兵が門番をしており、別に悪い事をしたわけではないのだがその険しい表情をされると近寄りがたい。

「入国にはお金は掛かるのか?」
「入国税が課せられますね。ギルドに所属して登録料や年会費を払うと入国税は免除となりますので、もしガルフスディアを拠点にするのであればギルドへの手続きをお勧めします」
「ギルドか……」

 ゲームなんかでそういうのがあったな。
 ともかく街に入るとしよう。
 若干の緊張を帯びながら、衛兵のもとへと足を進める。

「こんな夜中にやってくるとは珍しいな、旅人か?」

 衛兵は警戒心を漂わせながら、腰に下げる剣に手を置いて話しかけてきた。
 俺には上から下まで、隈なく訝しげに見てくる。マントを着ているとはいえ中はスーツ、この服装では仕方がない。

「ええっと……その……」

 なんて言えばいいのか、口籠ってしまう。
 そこへ咄嗟にハスが助け船を出してくれた。

「数時間前にこの西口門を出た商人の事を憶えておりますでしょうか」
「ああ、それが……? ん、お前。灰肌の奴隷じゃないか。まさか逃げ出したのか!?」
「いえ。途中でヴァフベアに襲われて、私は捨てられてしまいました……。そこにこの方が現れて助けてくださったのです」
「……ヴァフベアの鳴き声が聞こえたと思ったが、そういう事か」

 愛想笑いを浮かべておく。
 衛兵が俺に笑顔を向けてくれる事はなさそうだが。
 二人は両手で輪を作る祈りを交わしており、アルヴ教の信仰的挨拶は日常的にも用いられる挨拶のようだ。
 俺もしておいたほうがいいか、でもアルヴに屈したようで少し嫌だな。

「しかしお前、ここらでは見ない人種だな」
「あー……遠くの国から旅をしてきたもので」
「見たところ東和国の者のようだが、この国には何用で来たんだ?」

 東和国――名称から考えるに俺のような東洋人の住む国であろうか。
 ちょっと行ってみたいな。

「ん、そ、その……アルヴ教を学びに」
「おおっ、東和国にもアルヴ教教徒もいたのか。遠慮遥々やってくるとは熱心な信仰者だな」

 ようやくしてその険しい表情が綻ぶ。
 祈りをしてきたために、内心では渋々ながらも祈りを返す。
 俺がこういった信仰的作法をするのは人生で初めてだ、別に屈したわけではないのだが心は微塵も込めてないとはいえ、この動作を行ってしまった事に少々の悔しさを感じる。

「だが手続きはきちんとせねばな。先ずはこちらに来てくれ」

 門のすぐ脇にある部屋へと案内された。
 俺の世界でいう検問所といったところであろう。彼は受付側へと回り、何やら書類を取り出して受付台へと置いた。
 少し黄ばんだその紙は、羊皮紙とかいうやつか。
 羽ペンを渡され、書いてくれというので書類を見るも……。

「ああ、おたくらのとことは文字が違うのか。灰肌の、お前は書けるよな?」
「はい。よろしければ代わりにお書きしても?」
「いいぞ、名前に年齢、性別を記載してくれ」

 ハスに羽ペンを手渡し、シマヅイクオをこの国で使用されている文字で書いてもらった。
 なるほど、こうやって書くのか。
 点が付いていたり伸びやかだったり、筆記体とどこか似ている。
 言葉は通じるけど文字は違うというのも、何とも妙な感覚だ。
 数字に関しては俺の世界で使っていたものと共通のようだ。
 壁に掛けられている時計も同様だ。
 ……というか、今気づいたがもう深夜の十二時になりそうなのか。山からかなり歩いたが、感覚から察するに一時間以上歩いていただろう。
 けれども不思議と疲労はない、どうしてなんだ? 死んだら体が治ると共に疲労などもリセットされたりする?
 可能性は、あるな。

「――恐れながら申し上げますシマヅ様、ご年齢をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「ん、年齢? 二十五だよ」
「二十五? にしては随分と若く見えるな」
「え、そうですか?」

 若く見えるだなんて初めて言われたな。
 ハスもどこか意外そうに見ている、そんなに俺は若く見えるかい?

「じゃあ次は、ボードの確認だ。見せてくれ」
「はいよ」

 ボードを出現させる。
 彼もハスと同じような反応をするのだろうな、なんて思いつつそんな反応を見るのもまたほんの少し、楽しみな自分がいた。

「は、八角形……」
「そうなのです! シマヅ様は八角形ボードの持ち主なのです!」
「こ、こりゃあ……大層なお方が来たもんだ……」

 この瞬間は優越感に浸れて気分は悪くない。
 今後ともボードを見せる際には何かとこの優越感を抱けるとなると、何だか楽しくなってくるね。

「いや……シマヅ様、ようこそお越しになられました」

 衛兵の態度は一変した。
 先ほどまで受付台に肘をついて対応していたというのに、ボードを見るやすぐに姿勢を伸ばして一例。
 ボードの角数がこうも影響力があるとは驚きだね。

「そんなかしこまらなくても……。いつもの対応でいいので」
「そ、そうかい? しかし八角形持ちとは初めて見たな。ギルドの利用をする予定ならこの書類は送っておくけど、どうするかい?」
「そうですねえ……利用するかもしれないので送ってください」
「了解。西区のギルドでいいか? 流石に今日中に他の区に行かないよな?」
「ん~……。ええ、そうですね、西区のギルドに送ってください」

 ここは西口門とか言っていたな。
 今からわざわざ他の区へ足を運ぶ意味はないし、一先ずは西区を中心に動くとしよう。

「では次に身体検査だが……特に何も持ってないな。八角形となるとそこいらの武器なんか必要なさそうだな。服装は変わってるが……それ、どこ産なんだ? 妙に生地が良さそうに見えるが」

 安いスーツなんですよこれ。
 といっても分からないだろうが。

「いやいや、大したものじゃないですよ、気にしないでください。むしろこの国に合わせてすぐにでも着替えたいんですけどね。この時間じゃあ、流石に店はやってないでしょうし明日にします」

 お金もどれくらい掛かるか分からないが手持ちは見るからに乏しい。
 金を稼ぐ手段は調べておかなくちゃならないな。生活基盤を整えるのが第一か……といっても、俺の目的は死ぬ事。その辺を熱心に整えて何になるんだか。
 我ながら……死にたいのにとりあえず生きなければならないこの状態には複雑な気分を抱かざるを得ない。

「んじゃあ手続きのほうに戻るぞ、後は俺が書く項目だけだな。最後に、入国税は銀貨一枚だが、持っているか?」
「ええっと、ああ、ありました」

 銀貨は数えると十枚ほど、価値としてはどれくらいなのだろう。
 二枚を手渡して手続きはこれにて終了だ。

「この子の分は?」
「この子はあんたの所有物だろう?」
「所有物?」
「シマヅ様、奴隷とはそういうものなのです」

 世間的にそういうものなのだろうけれど、人を物扱いというのは気に入らない。
 人を物扱いした上司の顔がちらついた。あんなのと、一緒にはなりたくない。なってたまるか。

「いいや、お手伝いさんだ」

 さらにもう一枚、銀貨を渡した。

「ちょ、ちょっとシマヅ様!? 私は物なのですよ!」
「奴隷商人が放棄したんだし、何より人を物扱いっていうのはなあ……。ああ、足枷も後で外そうね」
「三角形ボードの私が人として暮らすには……自信がございません……」
「じゃあ俺が雇おう。俺の手伝いをしてくれれば報酬を渡す、明日には俺もギルドとやらに行って稼げるものを探してみるよ」

 俺は八角形ボードだからそれなりに働き口もありそうだ。
 なのでハスは俺の手伝いとして雇う形にすればいいのではないだろうか。何より今のところ、この子がいないと俺は文字の読み書きすらできない。
 これも何かの縁、頼るならこの子だ。俺の中では彼女の印象はとてもいい、今後とも付き合いを続けていきたいと思った。
 ……今後ともといっても、俺がぽっくり死ねれば短い間、となるかもしれないけれど。

「あんたも変わった人だな」
「そうですか?」

 早く死にたいだけなのでそんなに深くは考えていない、だからか“変わった人”に見えるのかもしれない。

「それじゃあ灰肌、お前の分の書類も書いてくれ」

 ハスも俺と同じ書類を書き込み提出した。
 衛兵に工具を貸してもらい、彼女の足枷も解いてやった。街中を歩くたびにジャラジャラ鎖の音を鳴らして歩くのもよろしくないしな。
 その後は書類に俺達の簡易的なイラストが描かれ、書類はギルドや国の管理局に送られるらしい。

「仕事を探しているのならギルドに是非寄ってくれ、八角形ボードのあんたなら高難易度の依頼もこなせるだろう」
「ギルドか……」
「それと一応気を付けてくれよ。最近は帝国軍が何かと侵入していると聞く」
「帝国軍?」
「ああ、別大陸からやってきた種族なんだが、奴らはボードは大体三から四角ばかりで魔力面が優れてない代わりに機械を多用するんだ。高性能の銃なんかを持ち出しているらしいぞ」

 詳しい事情は分からないが、どうもこの国にとって敵国と思っていいようだ。
 機械を使う国……か。この世界は機械と魔法で文明が二分されているのだろうか。

「最近は妙な病も流行りつつあると聞いたから、その辺も注意してくれ。宿屋はここからだと少し歩く。地図も渡そう」
「どうもご丁寧に。ありがとうございます」
「ああそうそう、近々聖火祭があるから是非参加してくれ。これがチラシだ」

 地図の他に受け取ったのは何やらこの街に花火が上がっている絵が描かれていた。
 なんて書いてあるのか聞くと聖火祭、だそうだ。
 花火大会みたいなものか。
 それまでに生きていたら参加してみよう。
 最初とは打って変わって、快い歓迎のもとこのガルフスディア王国への入国を果たせた。
 物を抜けると夜の帳に包まれた街が広がる――街灯が道を点々と照らし、深夜であるが故にひと気がないものの風情があって実にいい。
 道路や歩道は煉瓦補装で整えられており、建物は木と煉瓦などの組み合わせでヨーロッパのような街並みだった。
 遠くで眺めるのと近くで見るのとはこうも違うものか。この世界の魅力を一度に味わっているかのようで、正直……感激している。
 この付近は静寂が漂ってはいるも、耳を澄ませばどこかで陽気な音楽と笑い声が聞こえてくる。酒でもかき込んで席を囲む人達の姿が想像できる。
 アルヴ教の聖地でもあり、多くの冒険者も集まる国らしく大いに栄えているようだ。自殺スポットがあるか聞いたがどうやら国内にはないらしい、残念。
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