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第五章
033 またいつもの日々。
しおりを挟む異世界に来て早三週間が過ぎようとしていた。
様々な事がありすぎて、色々な事が起こりすぎてあっという間の一か月に感じた。
この世界での生活も悪くはない、むしろ元の世界での暮らしよりも居心地はいいかもしれない。
魔力石があれば街灯は灯されるわ水は浄化されるわ、氷属性の付与で食料や飲み物も保存や冷凍もなんのその。
国から出れば大自然に囲まれていて空気は美味しいし、生活する上での稼ぎは今のところ龍と戯れて素材を回収すればがっぽり大儲け。
……悪い要素が一つもない。
ああ、あるとすれば未だに俺が死ねる方法が見つかっていないって事かな。
「ぐがぁっ……!」
なので、今日は朝一番に首を吊ってみる事にした。
一度は試したのだが、もしかしたらもしかすると、もしかするかもしれない。
「はわ! シマヅ様、一体何を!?」
運悪く丁度部屋に入ってきたハスは、天井から吊るされてテルテル坊主のようになっている俺を見ては慌てて駆け寄った。
「い、今なら、い、いけると思って……」
「いかないでくださいませ!」
ハスはすぐさまにナイフを取り出して縄を切ってしまった。
勢いよく床へと尻餅をさせられた、とても痛い。
「……お、おはよう」
「おはようじゃないですが……」
ちょっと気まずい。
明らかに怒気を宿しているハスに、俺は自然と目の前で正座した。
「あのですね、シマヅ様が死にたいという願望を抱いているのは十分承知しております、しかしこの宿屋で自殺を図られるのは店主にもご迷惑が掛かるのでおやめください」
「はい……」
「そもそもそんな気軽に自殺するものではないと思います。命を何だと思っているのですかシマヅ様は」
「俺の命はゴミみたいなものかと……」
「シマヅ様」
「はい……」
「……朝ごはん、食べましょう!」
「は、はいっ」
踵を返す彼女の背中はまだ怒気を感じられる。
ここは素直に、彼女へ主導権を渡して従おう。
首に回している縄を取り、ある程度身なりを整えて部屋を出た。
食堂では宿屋を利用している多くの冒険者達が食事をとっていた。俺達の知名度もぐんぐん上がっているようで、何かとこうした人の多い場所では注目されてしまう。
流石にもう慣れてしまったがね。
「あのですね、ガルフスディアは信仰の濃い国なのは言わずともご理解しておりますね?」
「はい……」
「朝から自殺を図る、これがいかに罪深い行為なのかも、十分にご理解しておりますね?」
「はい……」
「しかも周りの方に迷惑を掛ける状況での朝一自殺、私がどれほど怒っているのかご理解していただけました?」
「はい、すみません……」
そうだな、流石に周りに迷惑を掛けるのはやめておこう。
死ぬならやっぱりあれだ、龍にこんがり入念に全身焼いてもらって塵も残さないようにしてもらって死ねるかを試すか、火山に飛び込むとかもいいな。
ちょいと首つりあたりは自殺手段から外したほうがいいね。
「分かればいいのです、それでは今日も恵みをいただきましょう!」
「いただきます」
俺は日本式で、両手を合わせて、ハスはアルヴ教式に両手で輪を作ってから、朝食を頂いた。
「本日のご予定はどうなさいますか?」
「どうしようかな、予定通りだったら今頃死んでたはずだったから」
「シマヅ様?」
「すみません。本日は龍関連の依頼があったらまた受けようかと思ってます。そろそろギルドにまた依頼が来てると思うので」
「では午前中はギルドと、いつもの洞窟へ向かうという事で。予備の着替えはご用意できております。片手剣も刃こぼれの修正を終えていると思いますので、武器屋にも寄りましょう」
俺についての必要な事ならばハスに聞けばすぐ分かる。
優秀な秘書を持った気分だ。しかしそんな彼女でも、三角形ボードというだけで周囲にはあまり必要とされていない、優秀なんだがなあ……。
「ありがとうございますハス様」
「様付けやめてください」
「あ、はい」
眉間のしわは取れていない。
怒ってるよな、そうだよな。
機嫌を直してもらうべく、俺は店員さんに追加の注文をした。
食後のデザートとして、ミニパンケーキ。
ハスは未だに遠慮がちなところがあるのでデザートは頼まないのだがこいつは好きなはずだ。
「は、はわ……」
「どうぞお食べください」
ミニパンケーキが運ばれてくるや、ハスの眉間のしわは薄れていった。
「いただきますっ」
ころっと機嫌が直りやがる。
うんうん、やっぱり美味しいものというのは効果的だね。
食事も終えて支度を済ませ、早速ギルドへと足を運ぶ。
今日もいい天気だ。こちらの世界は未だに全体を把握しているわけではないが、少なくともガルフスディアの五月は日本の五月とさほど変わらず、さほど曇らない心地良い天候と暑くもなく寒くもないちょうどいい気温が続いている。
四季はちゃんとあるらしく、しかし聞くに日本よりは激しいわけではないそうな。
夏はほどほどに暑く、冬はたまに極寒が訪れる程度。
山の向こう側にある小さな街など、場所によっては雪が多い地域もあるようだ。
もっと広くこの世界を見てみるのも一つの手かもしれない。
ガルフスディアに留まっていても死ねる方法は中々見つかっていないし、何よりこの宗教が色濃い国は時々辟易さえしてしまう。
俺をこの世界に送り込み、ちょっとやそっとじゃあ死ねない体にした神様がこの国では国民のほぼ全員がありがたやと崇めるのだから。
今日も通り過ぎ際にアルヴ像へとハスは祈りを捧げ、俺はアルヴ像へため息を捧げる。
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