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第五章
037 免罪符
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王子は枢機卿の元へと行き、何やら話をしてはすぐにテーブルを離れた。
「はわっ、こちらへ来るようですね……」
「そのようだ」
大物二人を目で追う多くの貴族と冒険者達。
その視線は自然と俺達へと向けられていく。もしや他の連中が話しかけてこなかったのは王子が最初に話しかけるからとかいう暗黙の了解でもあったのだろうか。
「前回の授与式以来かな? どうだシマヅ、調子のほうは」
「ええ、すこぶるいいです」
遠くから見ても圧倒される筋骨隆々の長身は、目の前に来られるともはや押しつぶされそうなほど、更に圧倒される。
この人、王子というより冒険者を目指したほうが良いんじゃないか。その辺の冒険者より強そうだ。
精悍な顔立ちに口髭と顎髭を蓄えていてなんというか、ダンディー。
国王にはやはり似ているが、王女とは血が繋がっているのか疑うほど似ていないな。
「はっはっはっ! すこぶるか、うむ! さあ更にすこぶる調子よくなろうではないか!」
少なくなった俺のグラスを見てはテーブルの酒瓶を執事が注いでくれる。
二人とも二十代の女性で、片方は金髪で柔らかなほほえみを浮かべており、もう片方は銀髪で表情は硬い。対照的だ。
「彼とは初めてかな? 枢機卿の一人だが、まだ挨拶はできていなかったろう?」
「トゥト・スティーメと申します」
「どうも。初めまして」
アルヴ教の祈りの挨拶に、ハスと二人ですぐに挨拶を返す。
挨拶を返すのは礼儀であるが、アルヴ教なんて微塵も信仰していないのにこうして祈りの形式を取らなくちゃならないのは、アルヴにやらされているようでほんのり悔しい。
「国を救った英雄とお話が出来て光栄でございます」
「俺は別に、それほど大した事は……」
「ほう、国を救う程度大した事ではないとな! 流石八角形ボードは違うな!」
「いえいえ、そういう意味ではなくてですね……。王女やハスのおかげで救えたわけで」
「謙虚だな! 嫌いではないぞ、英雄に乾杯!」
コン、と俺のグラスに合わせて、王子はぐいっとまるで水を飲むかのように一瞬でグラスを空にした。
すかさず執事がグラスに酒を満たす。量はやや多め。この王子……もしや酒豪だな?
「この国にはもう慣れましたか?」
「はい。楽しくやらせてもらっています」
「左様ですか。東和国出身との事ですが、あちらではアルヴ教はそれほど浸透はしていないようですね」
「ま、まあ……そうですね」
東和国については正直何も知らない。
多分、日本とか中国――俺の肌や髪の色と同じ種族って事くらいだ。
「仏天教という宗教が主に浸透していると聞いております。アルヴ教はあまり歓迎されていないとも」
「え、ええ……なのでアルヴ教を信仰する身としては肩身が狭くてですね、それで場所を移るついでに、どうせならアルヴ教の総本山であるガルフスディアに行きたいと思って足を運んだわけであります!」
我ながら咄嗟の思い付きでよくここまで出てくるなと感心した。
意外とやればできるじゃないか俺よ、嘘つきの才能があるかもしれない。
……誇れるものではないな。
「関心であるな! それに八角形ボードとあれば冒険者としても生計を立てられるのもあって生活には苦労しないだろう」
「なんでも龍関連の依頼をこなしているのだとか」
「ほう? それはまたやりおるな! 時にはこの国へ信仰のためにやってくるも生活できずに路頭に迷ったり無茶をして命を落とす冒険者もいるが、君は心配ないな!」
「ええまあ、今のところは順調です」
「我が国としても是非腰を据えてもらいたいものだ! もし興味があるのならば聖騎士として国に仕えてみないか!」
「聖騎士ですか……」
「うむ、この国を守る者であり、各地で魔物から人々を守ったり、帝国を含む敵国や移民との争いにも立ち向かっている! だがそれ故に国を守る強者がやや不足し前回は後れを取った。君が聖騎士として仕えてくれれば百人力なのだが!」
「じ、自分は……」
「強制ではない! 気が向いたらでいい、考えておいてくれ! その気が少しでもあったらギルドの者に伝えてくれればすぐに手続きしよう!」
王子は力強い握り拳を作ってそう語る。
勢いに圧されて首を縦に振りそうになってしまうな。
「帝国は恐ろしい計画を企んでいたものだが、現在は和平を結んでいる周辺国家と共に防衛の強化を行っている!」
「帝国とは衝突するか、協議に持ち込めるかは定かではないですが、私は後者のほうが望ましいですね」
「そうなればよいのだがな! 長年信仰という影響力を武力で手に入れようとしてきた帝国が協議に応じてくれそうにもないが!」
戦火に巻き込まれるのは……嫌だな。
争いというものは、この世界に来て十分に体験した。嫌なものだ、本当に。
「して、その子は君のパートナーか?」
ハスは王子の迫力にすっかり圧倒されてしまっていた。
今にもかぶりつきそうな勢いで王子はハスへ顔を近づけると、まるで獲物に睨みつけられた小動物のようにハスは固まってしまっている。
「パ、パートナーというか、こ、後方支援、で、ございましゅ」
「後方支援か! 三角形ボードなのだな? しかし案ずるな、確かな信仰心があればいつかは昇角できる! アルヴ様のご加護を信じろ少女!」
「は、はい! ありがたきお言葉で、ございますっ」
祈りを捧げるハスに、王子は両肩をバンバンと叩いて鼓舞する。
そのままハスが床にめり込んでいかないか心配だ。
「君達には特別にこれをやろう」
「これは……?」
ふと手渡されたのは掌に収まる程度の木枠。
紙がはめ込まれており、ガラス面材の中央には小さな魔力石がついていた。
下部にはアルヴ教の象徴でもある輪が銅製のもので作られ、アクセサリーのようにぶら下がっている。
「免罪符というもので明日から国内外で売り出される予定だ!」
「免罪符?」
「うむ、枢機卿らと共に考案した! 聖都にて教皇アティウス様に魔力を込めてもらい、アルヴ様のご加護を頂けるよう祭壇で祈りを捧げた後に各教会へと行き渡る!」
「なんだかありがたいものっぽいですね」
「はわっ……すごいものです!」
「我々人間は罪を犯し続けるものだ、命を食らい生き続ける。罪からは逃れられん、だからこそ自らの罪と向き合い、免罪符を購入してその資金を教会や大聖堂、そしてそれらを管理する者達へ渡らせて善行を行うのだ」
「……なるほど」
この免罪符とやらを買えば間接的に何かしらの善行を働いている事へとつながる。
お金で解決というのも、ちょいと気にはなるが。
「そ、それならば尚更私達はお金を払うべきではないでしょうか……」
「いやいいのだ君達は! 私が持とう! 教会に寄る事があれば募金してくれればそれでいい! 何より君達は大きな善行をすでに行っているしな!」
「アルヴ様もきっと貴方達の善行を見ておられる事でしょう」
うん、確かに見てたな。
俺が聖塔から落ちている最中だったけど。
「免罪符には加護も宿っている、良い事があるぞ!」
「良い事……」
俺はちょっとした想像をする。
その隣で、ハスは俺をジト目で見つめていた。
いや違うんだよハス。
良い事って、その……ほら、俺にとっては良い事を想像しているんだ。
「死ねるかなとか考えてませんか?」
耳元で囁いてくる。
図星だったがために、思わず俺は誤魔化すために酒を口へ運んだ。
「そういえば妹が世話になったようだな」
「ああいえ、むしろ俺のほうがお世話になりました。天国病の抗体は彼女が作ったのですし」
「まったくあいつは王家らしくもなく怪しい研究ばかりしおって。今回は役には立ったようだが」
今後とも文明の発展にも大きく貢献するだろうからもっと受け入れてやればいいのになあ。
堅苦しい風習や何の役にも立たない矜持は捨てるべきじゃないか――なんて王子には言えず、俺は愛想笑いを浮かべた。
「しかし王子、排他的に扱うよりも時には受け入れてみるのも良いかと」
「む? そうか?」
「確かに長らくガルフスディア国含むこの大陸の数々の国が機械文明や化学技術に関しては発展が害を生み、信仰に乱れを来すと言われてきましたがアルヴ教自体はそれらについては否定をしているわけではございません」
「確かにそうではあるが」
「信仰に揺るぎがないのであれば、時には寛容するのもよろしいかと」
「揺るぎがないのであれば、な」
トゥトさんは意外と分かってくれているようだ。
それに対して王子は厳しいな。彼に諭されても然程考えは変わっていないように感じる。
強情なのか、それとも兄だからこそ厳しくあるのか。
「だがあいつはもっと王家らしく、いつかは嫁ぐ事もあるのだから女性らしくあるべきだ。そうは思わんかハイラア族の!」
「え、私ですかっ」
「うむ、君も女の子だろう! どうだ君から見てあいつは!」
ハスは俺の後ろへと隠れつつ(こら、ずるいぞ)、覗き見るように顔半分だけ出して答えた。
「あ、憧れるほどに素敵な女性だと……思います」
「ふむ、具体的には?」
「……く、雲一つない晴天の中で、陽光に優しい照らされているような、それでいて、力強さも感じられる、方かな、と……」
「よく分からんが詩的だな!」
よく分からんのかい。
「最近では城でも姿を見せんが、君達のところへ行ったりしてはいないか?」
「いや、来ていませんね」
「そうか。まったくどこで何をしているのか。だが城にいても怪しい研究をし始めるからやめさせようとしては口論の繰り返しなのだが」
あのお淑やかな王女様でも口論するんだな。そこが驚きだ。
トゥトさんは口端が少し吊り上がっており、笑うのを堪えていた。その様子から、俺の想像している口論はやや激しいものであったが、きっと言い合っている内容はそれほどのものではないのだろう。
「君達ももしあいつに会ったら言ってやってくれ。王女らしくしろとな」
「王女らしく……ですか」
白衣とマスクをつけている王女の姿を思い出す。
……ああ、王女らしくはないな。
けれども、誰にでも優しく丁寧に接する彼女は、良い意味で王女らしくもない。あの人はあのままでいいと、俺は思うが。
「王子、そろそろ」
「む、そうだな。他の者達にも話をせねば。それではシマヅ、ハイラアの……ああっと」
「ハ、ハスです」
「そうだった、すまんハス。いずれ機会があればまた!」
快活な足取りで去っていく王子へ小さく手を振って見送る。
トゥトさんは最後に祈りを捧げており、彼もまた信仰心の厚い方だと感じた。
王子が太陽ならば、彼は月。どちらも印象強い。
「はわっ、こちらへ来るようですね……」
「そのようだ」
大物二人を目で追う多くの貴族と冒険者達。
その視線は自然と俺達へと向けられていく。もしや他の連中が話しかけてこなかったのは王子が最初に話しかけるからとかいう暗黙の了解でもあったのだろうか。
「前回の授与式以来かな? どうだシマヅ、調子のほうは」
「ええ、すこぶるいいです」
遠くから見ても圧倒される筋骨隆々の長身は、目の前に来られるともはや押しつぶされそうなほど、更に圧倒される。
この人、王子というより冒険者を目指したほうが良いんじゃないか。その辺の冒険者より強そうだ。
精悍な顔立ちに口髭と顎髭を蓄えていてなんというか、ダンディー。
国王にはやはり似ているが、王女とは血が繋がっているのか疑うほど似ていないな。
「はっはっはっ! すこぶるか、うむ! さあ更にすこぶる調子よくなろうではないか!」
少なくなった俺のグラスを見てはテーブルの酒瓶を執事が注いでくれる。
二人とも二十代の女性で、片方は金髪で柔らかなほほえみを浮かべており、もう片方は銀髪で表情は硬い。対照的だ。
「彼とは初めてかな? 枢機卿の一人だが、まだ挨拶はできていなかったろう?」
「トゥト・スティーメと申します」
「どうも。初めまして」
アルヴ教の祈りの挨拶に、ハスと二人ですぐに挨拶を返す。
挨拶を返すのは礼儀であるが、アルヴ教なんて微塵も信仰していないのにこうして祈りの形式を取らなくちゃならないのは、アルヴにやらされているようでほんのり悔しい。
「国を救った英雄とお話が出来て光栄でございます」
「俺は別に、それほど大した事は……」
「ほう、国を救う程度大した事ではないとな! 流石八角形ボードは違うな!」
「いえいえ、そういう意味ではなくてですね……。王女やハスのおかげで救えたわけで」
「謙虚だな! 嫌いではないぞ、英雄に乾杯!」
コン、と俺のグラスに合わせて、王子はぐいっとまるで水を飲むかのように一瞬でグラスを空にした。
すかさず執事がグラスに酒を満たす。量はやや多め。この王子……もしや酒豪だな?
「この国にはもう慣れましたか?」
「はい。楽しくやらせてもらっています」
「左様ですか。東和国出身との事ですが、あちらではアルヴ教はそれほど浸透はしていないようですね」
「ま、まあ……そうですね」
東和国については正直何も知らない。
多分、日本とか中国――俺の肌や髪の色と同じ種族って事くらいだ。
「仏天教という宗教が主に浸透していると聞いております。アルヴ教はあまり歓迎されていないとも」
「え、ええ……なのでアルヴ教を信仰する身としては肩身が狭くてですね、それで場所を移るついでに、どうせならアルヴ教の総本山であるガルフスディアに行きたいと思って足を運んだわけであります!」
我ながら咄嗟の思い付きでよくここまで出てくるなと感心した。
意外とやればできるじゃないか俺よ、嘘つきの才能があるかもしれない。
……誇れるものではないな。
「関心であるな! それに八角形ボードとあれば冒険者としても生計を立てられるのもあって生活には苦労しないだろう」
「なんでも龍関連の依頼をこなしているのだとか」
「ほう? それはまたやりおるな! 時にはこの国へ信仰のためにやってくるも生活できずに路頭に迷ったり無茶をして命を落とす冒険者もいるが、君は心配ないな!」
「ええまあ、今のところは順調です」
「我が国としても是非腰を据えてもらいたいものだ! もし興味があるのならば聖騎士として国に仕えてみないか!」
「聖騎士ですか……」
「うむ、この国を守る者であり、各地で魔物から人々を守ったり、帝国を含む敵国や移民との争いにも立ち向かっている! だがそれ故に国を守る強者がやや不足し前回は後れを取った。君が聖騎士として仕えてくれれば百人力なのだが!」
「じ、自分は……」
「強制ではない! 気が向いたらでいい、考えておいてくれ! その気が少しでもあったらギルドの者に伝えてくれればすぐに手続きしよう!」
王子は力強い握り拳を作ってそう語る。
勢いに圧されて首を縦に振りそうになってしまうな。
「帝国は恐ろしい計画を企んでいたものだが、現在は和平を結んでいる周辺国家と共に防衛の強化を行っている!」
「帝国とは衝突するか、協議に持ち込めるかは定かではないですが、私は後者のほうが望ましいですね」
「そうなればよいのだがな! 長年信仰という影響力を武力で手に入れようとしてきた帝国が協議に応じてくれそうにもないが!」
戦火に巻き込まれるのは……嫌だな。
争いというものは、この世界に来て十分に体験した。嫌なものだ、本当に。
「して、その子は君のパートナーか?」
ハスは王子の迫力にすっかり圧倒されてしまっていた。
今にもかぶりつきそうな勢いで王子はハスへ顔を近づけると、まるで獲物に睨みつけられた小動物のようにハスは固まってしまっている。
「パ、パートナーというか、こ、後方支援、で、ございましゅ」
「後方支援か! 三角形ボードなのだな? しかし案ずるな、確かな信仰心があればいつかは昇角できる! アルヴ様のご加護を信じろ少女!」
「は、はい! ありがたきお言葉で、ございますっ」
祈りを捧げるハスに、王子は両肩をバンバンと叩いて鼓舞する。
そのままハスが床にめり込んでいかないか心配だ。
「君達には特別にこれをやろう」
「これは……?」
ふと手渡されたのは掌に収まる程度の木枠。
紙がはめ込まれており、ガラス面材の中央には小さな魔力石がついていた。
下部にはアルヴ教の象徴でもある輪が銅製のもので作られ、アクセサリーのようにぶら下がっている。
「免罪符というもので明日から国内外で売り出される予定だ!」
「免罪符?」
「うむ、枢機卿らと共に考案した! 聖都にて教皇アティウス様に魔力を込めてもらい、アルヴ様のご加護を頂けるよう祭壇で祈りを捧げた後に各教会へと行き渡る!」
「なんだかありがたいものっぽいですね」
「はわっ……すごいものです!」
「我々人間は罪を犯し続けるものだ、命を食らい生き続ける。罪からは逃れられん、だからこそ自らの罪と向き合い、免罪符を購入してその資金を教会や大聖堂、そしてそれらを管理する者達へ渡らせて善行を行うのだ」
「……なるほど」
この免罪符とやらを買えば間接的に何かしらの善行を働いている事へとつながる。
お金で解決というのも、ちょいと気にはなるが。
「そ、それならば尚更私達はお金を払うべきではないでしょうか……」
「いやいいのだ君達は! 私が持とう! 教会に寄る事があれば募金してくれればそれでいい! 何より君達は大きな善行をすでに行っているしな!」
「アルヴ様もきっと貴方達の善行を見ておられる事でしょう」
うん、確かに見てたな。
俺が聖塔から落ちている最中だったけど。
「免罪符には加護も宿っている、良い事があるぞ!」
「良い事……」
俺はちょっとした想像をする。
その隣で、ハスは俺をジト目で見つめていた。
いや違うんだよハス。
良い事って、その……ほら、俺にとっては良い事を想像しているんだ。
「死ねるかなとか考えてませんか?」
耳元で囁いてくる。
図星だったがために、思わず俺は誤魔化すために酒を口へ運んだ。
「そういえば妹が世話になったようだな」
「ああいえ、むしろ俺のほうがお世話になりました。天国病の抗体は彼女が作ったのですし」
「まったくあいつは王家らしくもなく怪しい研究ばかりしおって。今回は役には立ったようだが」
今後とも文明の発展にも大きく貢献するだろうからもっと受け入れてやればいいのになあ。
堅苦しい風習や何の役にも立たない矜持は捨てるべきじゃないか――なんて王子には言えず、俺は愛想笑いを浮かべた。
「しかし王子、排他的に扱うよりも時には受け入れてみるのも良いかと」
「む? そうか?」
「確かに長らくガルフスディア国含むこの大陸の数々の国が機械文明や化学技術に関しては発展が害を生み、信仰に乱れを来すと言われてきましたがアルヴ教自体はそれらについては否定をしているわけではございません」
「確かにそうではあるが」
「信仰に揺るぎがないのであれば、時には寛容するのもよろしいかと」
「揺るぎがないのであれば、な」
トゥトさんは意外と分かってくれているようだ。
それに対して王子は厳しいな。彼に諭されても然程考えは変わっていないように感じる。
強情なのか、それとも兄だからこそ厳しくあるのか。
「だがあいつはもっと王家らしく、いつかは嫁ぐ事もあるのだから女性らしくあるべきだ。そうは思わんかハイラア族の!」
「え、私ですかっ」
「うむ、君も女の子だろう! どうだ君から見てあいつは!」
ハスは俺の後ろへと隠れつつ(こら、ずるいぞ)、覗き見るように顔半分だけ出して答えた。
「あ、憧れるほどに素敵な女性だと……思います」
「ふむ、具体的には?」
「……く、雲一つない晴天の中で、陽光に優しい照らされているような、それでいて、力強さも感じられる、方かな、と……」
「よく分からんが詩的だな!」
よく分からんのかい。
「最近では城でも姿を見せんが、君達のところへ行ったりしてはいないか?」
「いや、来ていませんね」
「そうか。まったくどこで何をしているのか。だが城にいても怪しい研究をし始めるからやめさせようとしては口論の繰り返しなのだが」
あのお淑やかな王女様でも口論するんだな。そこが驚きだ。
トゥトさんは口端が少し吊り上がっており、笑うのを堪えていた。その様子から、俺の想像している口論はやや激しいものであったが、きっと言い合っている内容はそれほどのものではないのだろう。
「君達ももしあいつに会ったら言ってやってくれ。王女らしくしろとな」
「王女らしく……ですか」
白衣とマスクをつけている王女の姿を思い出す。
……ああ、王女らしくはないな。
けれども、誰にでも優しく丁寧に接する彼女は、良い意味で王女らしくもない。あの人はあのままでいいと、俺は思うが。
「王子、そろそろ」
「む、そうだな。他の者達にも話をせねば。それではシマヅ、ハイラアの……ああっと」
「ハ、ハスです」
「そうだった、すまんハス。いずれ機会があればまた!」
快活な足取りで去っていく王子へ小さく手を振って見送る。
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