死ねば死ぬほど強くなる不死者は死ぬ方法を探している。

智恵 理陀

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第七章

044 犬猿の仲

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 先ず最初にやっておく事は、この先に危険な魔物がいると他の冒険者に知らせる必要があるため、目印を設置しておく。
 ハスが取り出したのは赤い布がつけられた小さな杭。
 叩くものがないので俺の片手剣の柄で代用した、ようやく使用する機会ができたけれど用途が違う。
 兎に角、こいつを道の傍に打ち込んでおく事で冒険者達は警戒してくれるだろう。

「さっきの冒険者に話を聞きたかったなあ。大蛇系ってどういうのなんだろ」
「もしかしたら大型かもしれませんね。この道はそれほど大きくないので、通れずに引き返したのかも」
「ありうるな」
「お、大型、ですか……」

 フラーウの両耳がまた下がる。
 怯えている彼には悪いが、その様子は実に愛らしい。

「人を簡単に丸のみできるくらいの大型であればなお良し」
「なお良しじゃありませんよシマヅ様」
「とりあえず追ってみようか。準備はいい?」

 俺は別に準備はしなくてもいい。
 死ぬ準備ならいつでもできている。
 フラーウはメタルプロテクターのグローブを何度か握っては開いてを繰り返し、頷いた。
 王女はハスへ少し寄って頷く。彼女の事は任せろ――そのような意味も受け取れる。

「行こう」
 慎重に足を進める。
 この道自体は大体高さ三メートルほどであろうか、それほど高くはない。
 横幅も同じくらいで他の道とは違ってかなりごつごつしている。
 地面に壁、そして天井にはいくつものひっかき傷がついており、おそらうく大蛇系の魔物がつけたものであろう。

「もしかしてこの道……大蛇が開けた穴なのではないでしょうか」

 王女は所々杖で突きながらそう呟いた。

「……だとしたら、俺達が今進んでいるのは道じゃなく、大蛇の巣か?」

 魔力石照明を拾い上げて、魔力を注いだ。
 よく見てみるとピンがついており、叩く部分も設けられている。なるほど、このタイプは叩いて打ち込んで壁に引っ付くようになていたのだなと理解した。
 光を取り戻し視界のある程度は把握できる。

「自分の通れない道を作るとは思えないので、おそらく空気の通り道として作った穴の一つではないでしょうか」
「であれば奥は広い空間に出る可能性が?」
「そうなりますね。爪を持った大蛇系の魔物……そして大型となれば、ウォルスネークかもしれません」
「ウォルスネーク……」

 見た目はこのような感じです、と王女は壁に杖でイラストを描き始めた。 描いてくれるのならばイメージしやすくなってありがたい。
 そう思っていた時間がほんの少しだけありました。

「……これは?」
「ウォルスネークです」

 もはや蛇の要素はどこなのかと。
 うねうねとナメクジみたいなものが描かれていて、手と思われる枝のようなものがぶっ刺さっている。
 頭は一応それなりに蛇……かな? 見ようと思えば蛇だし、他の人の視点では蛙かもしれないし、はたまた別種の魔物に見えるかもしれない。

「誰がなんと言おうと私にとってはウォルスネークなのです」
「ということは似てないって事ですね?」
「あ~そう言いますかぁ。そう言ってしまいますかシマヅさんはぁ~」

 そっぽを向かれた。
 どうしよう、怒らせてしまったかな。

「ぼ、僕は…………似ていると思いますよ!」
「ハスも、似てると…………思います!」
「奇妙~な間が。その間が私の心にぽっかりと穴を空けてきますね。そう、今私達が通っているこの穴と同じものが、私の心の中に出来上がって穿っている最中です!」

 仮面越しから漏れてくるため息。
 彼女とて自覚はしているようだ、自分の絵心がいかほどかを。
 ハスはリュックから紙と鉛筆を取り出してはサラサラと描いていく。

「私の記憶と、ラトー様の絵から推測するにこのようなものかと」
「上手いな!」
「ハスさんのは分かりやすいですね!」
「のは?」

 ぐいっと仮面がフラーウへと勢いいく向いた。
 おいおいフラーウ君、言葉を気を付けなければ君の立場も危うくなるぞ。

「あ、いえ……! ラトーさんのも勿論お上手ですよ!」
「……ありがとうございます」
 
 ハスのおかげでウォルスネークの容姿は大体分かった。
 要は蛇に人間の上半身の骨格がついていて両手もきちんとあるのだろう? ミノケンタウロスの下半身が蛇バージョンってとこかね。
 どちらが狂暴なのかは、定かではないが。
 時には両足に確かな力を入れなければならないほのど下がるこう配。
 ごつごつしている分、階段のように下れる分は楽ではあるがややきつい勾配は体力を奪っていく。

「バジリスクだったらどうしましょう……」
「バジリスクって?」
「大蛇系の中で頂点に立つ魔物です、ハスは見た事は無いのですが……噂では狂暴で何十何百という冒険者がこれまでに犠牲になったとお聞きしております」
「それならご心配なく。このひっかき傷をみてください、バジリスクは五本爪のはずなのでどれも四本しかないあたり、ウォルスネークで間違いないでしょう」

 壁の爪をなぞる王女。
 四本のひっかき傷は一本一本が彼女の二の腕ほどの大きさだ。

「ああ、それならよかったですぅ……」
「俺はよくないな~」

 胸を撫で下ろすハスは、すぐに俺をジト目で見る。

「しかしウォルスネークも獰猛で危険な魔物、心してかからないといけません」
「うぅ……」

 縮こまるフラーウの背中を、俺はすぐに軽く叩いてやった。

「俺もね、不安な事や怖い事があれば、すぐ動けなくなって凹むタイプなんだよね」
「えっ、そうなんですか……? 八角形ボード、なのに……?」
「まあ、前の話ではあるけど……それでも、ボードの角数なんて関係ないさ。人はすぐに変われないし、変わろうと思うとエネルギーがとても必要になる。ガス欠を起こして動けなくなる人だっているだろう、俺もその一人だった」
「シマヅさんが……?」
「色々と嫌になって全部投げ出して、気が付いたら色々と手にして成り行きでうまくいっちゃったけど普通の人はそうならない。俺はただ単にツイてただけの無能だよ、今も昔も」
「ハスは、そうは思いませんが……」
「ありがとう。でも事実だ、自分から手に入れたものは何もない。多分俺は、これからもずっと与えられたものでやりくりするだけの無能だ」

 全部アルヴに与えてもらっただけ。
 自分の力ではない。もしも何も能力を受け取っていなければ、そもそもの話――この世界で即座に自殺して終わっていた身だ。
 なんだかんだで生きていたとしても、自分の下へ下へとただ下るだけの感情が良い効果をもたらして向上するとは思えない。
 与えられただけのものを自分の力だと過信したら、終わりだ。
 かといって与えられたもの以外を使ってやりくりしていくのも、きっと俺には無理だ。だからこそ、俺は自分に無能のレッテルを貼り続ける。
 俺はそれで、いいんだ。

「フラーウ、お前は自分の力で突き進んで様々な可能性を掴み取れれる。落ち込んでもいい、けれどその分自分を奮い立たせていけよ」
「は、はいっ……!」

 彼はまだ不安を引きずっているものの、まっすぐに俺を見ては握り拳を作った。
 このまま撫でまわしたい気持ちを何とか抑えて、俺達は奥へと進んだ。
 先行していた冒険者達のおかげで魔力石照明が所々に落ちており、魔力を注いで光を灯していく。

「……ん? 光が見えるな」
「巣かもしれませんね、道も少しずつ広くなっておりますからご注意を」

 片手剣を抜き、三人に視線を送り警戒を促す。
 先行するのは俺だ、後ろには王女とフラーウ。最後尾にはハス。
 陣形は良し――って、まあどういう陣形が最適なのかは正直分からないけど。

「……なんか、声が聞こえる」
「言い合ってるような、声ですね……」
「戦闘音は聞こえないな、行っても大丈夫……だよな?」

 四人で覗き見てみる。
 言い合っているのは三人のグループと、一人の女性だ。
 どちらも見覚えはある。

「ハンク達じゃないか」
「ハ、ハンクさんですか……」

 フラーウは顔を引っ込めてしまった。
 いじめっ子に遭遇した奴みたいな反応だ。

「もう片方は、あの白金級の人か」
「何を言い争っているのでしょうか……?」

 聞き耳を立ててみる。

「――あたし一人でもやれたってのに邪魔ばっかしやがって! 何なのさ!」
「あ~? てめぇがその大槌でドカドカ叩くからだろうが! ったく西区の暴れん嬢ってのはその通りだなミルル!」
「だーれが暴れん嬢じゃい!」

 白金級――ミルルは大槌を振り上げてハンクの前へと勢いよく振り下ろした。

「あっぶねぇ!」

 大地が割れ、あまりの振動に天井からは砂がぱらぱらと落ちていく。
 崩壊とかしないよな……? 心配になってきた。

「折角ウォルスネークを見つけたってのに、あんた達のせいで取り逃がして最悪だよ!」
「お前が一人でいたから手助けしてやったんだろうが!」
「一人じゃないやい! 仲間もいたし!」
「もう逃げてたっつーの! 数合わせだけの弱ぇ仲間引き連れてたせいで仲間に見捨てられたんだろ! 知ってんだぞこっちは、無謀な依頼ばっか受けるからよく組んだ奴らに逃げられるってな!」
「に、逃げられてないわー!」

 大槌を振り回し、地面は見る見るうちに凹まれていく。
 中央には草が敷き詰められていたあたりからして、ここがウォルスネークの巣なのだろう。
 周りの壁にはいくつか穴もある、その中にはウォルスネークが通っていたのであろう大きめの穴もあり、損傷の激しい穴はウォルスネークが逃げたのが想像できる。

「あんまり関わりたくないなあ」
「ですがこのままというのも。彼らを止めましょう!」

 王女は率先して彼女達の間へと入っていく。
 大槌にも、剣を抜いているハンクにも臆せず――

「落ち着いてください!」

 両者の武器が、彼女に当たる寸前のところで止まった。
 内心ひやひやだ、王女に何かあったとなれば大変だ。
 俺達もすぐに彼女の傍へと駆けつけた。

「んだてめぇ」
「私は、冒険者ラトー」

 両者が武器を下ろすや杖を調子よく構えて、妙なポーズをする王女。
 ……そういうものに、密かに憧れてたんだなあの人。
 まだ若いし、まあそういう年頃では分からなくもない。

「よ~しハンク! 落ち着け!」

 するとまたハンクの仲間である男女が彼を引っ張って距離を取らせた。

「あー。お前あれか、八角形んとこの奴か」
「冒険者同士、争いあっても何にもなりませんよ」
「あたしは悪くねぇし」
「いーや悪いのはお前だね! 見ろよこの状態を!」

 どれだけ激しい戦闘をしたのか、周りには大槌で力いっぱいに叩いた跡が何十とある。
 誰の仕業かと問い詰める必要もなく。

「ウォルスネークもよく暴れたものよね」
「お前の仕業だろうが~!」
「かっ」

 彼女は面倒くさそうに煙管を取り出して一服し始めた。
 険悪な空気がハンクから伝わってくる。

「ハンク、もうウォルスネークもいないんだから一旦離れよう! 他にも魔物がいるかもしれないしそっちを狙うのもありだろ!」
「そうよ! ここで時間を食ってられないわよ!」

 彼の仲間達はそう説得しながら彼女から何とか距離を取りたい様子であった。

「ちっ、そうすっか……。ん、お前……なんでここにいるんだ」

 ふとハンクはフラーウを見て足を止めた。

「ひゃぅ……! ぼ、僕は……シマヅさんのパーティに今は所属しておりまして……」
「あ~? お前、自分で魔物を退治できねぇからって八角形と組んで楽して倒そうとしてんのかあ!?」
「そ、そういうわけでは……!」

 咄嗟にフラーウは俺の後ろへと隠れて顔だけを覗かせる。
 ここは状況的にさ、もう少し男らしくできないかねフラーウ君。そんな君も可愛らしくて別にいいっちゃあいいんだけど。

「どうだかなぁ~。いきなり八角形とパーティを組むだなんて何か弱みでも握ったのかおい」
「いいや、そういうわけじゃないですよ。彼は一人でダンジョンに挑もうとしてたから、折角だしうちは人数が少ないパーティだったので誘ったわけでして」
「私が提案をいたしました。彼は邪な考えを持つような方ではございません」
「そうかい。フラーウ、他の奴らに迷惑はかけるんじゃねえぞ」
「は、はい……分かっております……」

 もはや完全に委縮してしまっている。
 この後の探索に支障が出なければいいのだが。

「他の魔物を探すか。邪魔な女もいるしなあ」
「かっ。邪魔なのはお前さんじゃい。早くどっか行け!」
「言われなくても行くっつーの!」

 犬猿の仲というのはこういうのを言うのだろうな。
 それとハンクがまともにその場から去る光景を未だに見た事がない。もっとマシな雰囲気を構築してまともな退場をできないものか。
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