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第七章
045 ずるずると流れに引き込まれる。
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「あーうるさいのがいなくなってせいぜいしたわ」
彼らが去った後に。
ミルルさんは煙管を吸っては輪っかの煙をいくつも作っていた。
ポケットからは何やら棒状のものを取り出すや、高く掲げるとこれまで室内を照らしてたいくつもの魔力石照明がその棒へと吸い寄せられていく。
「おおっ」
「ん? 知らないのかい。洞窟やダンジョンには必須のもんだよ。拡散照明具」
「そういうのもあるんですね、初耳です」
こう見えて俺達全員冒険者としては駆け出しもいいとこなので。
しかもその拡散照明具とやら、全ての魔力石照明が一つの塊になるとそのまま松明のように使用できるらしい。
「ハス、あれは帰ったら絶対買おう」
「はいっ。私もあのようなものは見落としておりました。買っておきます」「ひよっこめ。依頼の準備だけじゃなく向かう先の環境に応じて用意する道具はきちんと調べて慎重に選びな」
「勉強になります」
彼女のポーチにはダンジョンで役に立つ道具がたくさん入っているのだろう。
「あんた達、あたしの仲間を見なかった?」
「ここへ来る時に逃げるようにすれ違っていった冒険者ならいましたよ。ほら、あそこから来たんです俺達」
自分らの来た穴を指してやる。
拡散照明具を松明状にしているために若干光が届かず見づらいが、彼女は俺達が来た穴を見つめては「ああ……」とどこか落胆の声を漏らしていた。
「何か言ってたか?」
「付き合ってられんとかなんとか」
「そうかい」
不機嫌そうに彼女は煙管を吸い込んで、どでかい輪っかの煙を作っていた。
お~っ、と。俺以外がその輪っかを見て声を上げる。
「もしかして、仲間の方でした?」
「だった――ってぇのが正しい。くそっ、また一人だ」
苛立ちからか、彼女はウォルスネークの集めたであろう草を蹴飛ばして歩きだした。
今のところ、周囲を十分に照らす光を持つのは彼女。
この場から移動するとして、彼女についていけば道も照らされて便利であるため、後ろをついていくとした。
しかし彼女の足はすぐに止まる。
「……人の光を借りて、ついてくるつもりか?」
顔だけを横に向けて、その綺麗な瞳が後ろについてきている俺達をぎょろりと見た。
「魔力は俺が吹き込みますので、よかったら明るいところに出るまで同行してもいいですかね? それに一人じゃ寂しくないですか? 折角ですから少しお話をしません?」
「……好きにしろ」
やや不満そうに、ぷいっと正面を向いてしまうが、どこか満更でもないように見える。
ため息をついているあたり、仲間に逃げられて寂しさを引きずっているのが丸分かりだ。
魔力を拡散照明具へと吹き込んでおこう。
これくらいでいいかな?
「うわっ、まぶしっ!」
「ご、ごめんなさいっ。送りすぎました!」
「流石八角形だね……。ちょっとしたもんでもぶっ飛んでやがる」
「いやあそれほどでも」
褒められてはいないのだろうけれど。
我ながら魔力の調整が下手なものだ。魔力石の大きさによっても容量は変わってくるが、小さいものだと自分基準で魔力を送り込むと時々壊してしまう事もある。
街に行けば魔力石屋で属性を込める時に、店の人に頼めば俺の魔力を拝借して調整してくれるけど、自分でうまくやれるようになるのはまだまだ時間が掛かるかな。
「ミルルさんって白金級なんですよね? すごいですね」
「八角形のお前ならすぐ上がれんだろ」
「いやいや、どうでしょうか」
持ってろ、と拡散照明具を渡された。
煙管での一服に集中したようだ。行き先は特に言っていない彼女だが地下庭園の方向には戻らない様子だ。
「ったく、ダンジョンも角数か階級の制限をすべきだぜ。あいつらすぐ逃げやがって……」
「ウォルスネークとなれば冒険者の中でも上級者でなければ対処できない魔物、巨躯でありながら俊敏に動き、巻き付かれたらただでは済まないですし、もし初見であったのならば逃げ出すのも無理はありませんね」
「なんだ仮面女、お前まだ銅級のくせにやけに詳しいな」
「し、調べるのは得意でして」
知識だけなら白金級かも。
「仮面女、知識を蓄えるのは別にいいが戦闘もできるようにしとけよ」
「心得てます」
「八角形におんぶでだっこみたいなパーティにしか見えないぜほんと。誰か一人だけ頼りっていうパーティは長持ちしねぇ」
それはまさに彼女が組んでいたパーティの事ではないだろうか。
「お前、シマヅ……だったか。いきなり妙な奴らとパーティを組んで、大丈夫なのか?」
「み、妙……?」
主に王女を指しているようで、訝しげに彼女を見ていた。
そんな視線に、王女は仮面の頬をぽりぽりと掻いてそっぽを向いていた。
「そっちのガキだってギルドじゃあ一度も見た事がねえ、まだ新人だろ」
「ぼ、冒険者の登録は今日しました……」
「おいおい今日登録して早速ダンジョンかよ。舐めてるねぇ~」
「うぅ……」
そんなにフラーウを苛めないでもらいたい。
「しかも戦力外のハイラア族も連れてるときた。は~……そんなパーティでやっていけんのかねえ」
俺達のパーティには呆れに呆れている様子だ。
しかし反論もできない。慎重に考えた上で組んだわけでもないしフラーウに関しては完全に成り行きだ。
「な、なんとかやっていきますよ……」
ハスを戦力外と言われて思わずカチンときて、あなたはパーティをまともに組めていないようですが――なんて言いそうになったが喉元で留めておけた。
おそらく言ってしまったら導火線に火をつける行為と同じだ。
大槌を担ぐ彼女は狭い道に苦戦しながらも、時には大槌を振るって強引に道を拡大させて突き進む。
うーん、パーティが組めない理由のうちの一つかな、とぶっきらぼうな彼女を見て思う。
けれども頼り甲斐は実にあるね。
「おっ、スライムだ」
天井からにじみ出るように現れたスライム。
青くぷるぷると、水まんじゅうみたいな外見だ。ちょっと美味しそう。
「ひゃっ……」
「ビビるなよガキんちょエルフ。こういうのは……こう!」
地面をえぐりながら、大槌を振り上げてスライムを天井へと叩きつけた。
「そんでもって――風撃一貫『ウィンドスピア』!」
奥に見える複数のスライムを確認するや、彼女は大槌を向けてそう吼える。
固有魔法であろうか。風が生じ、行き先は渦を起こしていった。さらっとではあるも風属性の魔導書は読んだもののウィンドスピアという魔法は無かったような。後で彼女に確認してみようかな。
「おお~!」
「すっきりしたぜい」
綺麗に削れたものだ。おかげで道も広くなったな。
流石白金級、ちょっとした魔物の群れなど数秒で片付けてしまえる。
「周辺確認、後方確認、ぼーっとしてるがお前らもやれる事はあるんだぜ~?」
言われてから動いている時点で俺達の経験不足をしみじみと思い知らされる。
しかし彼女と共に行動しているだけで、パーティはどう動くべきか、ダンジョンでの立ち回りはどうするべきかを知る事が出来て勉強になるな。
「道の悪い場所はすぐに魔力石照明をつけろ」
「は、はいっ」
「大体でいいから来た道は覚えておいて地図を作っておけ。あたしは覚えてるからいいが頭の悪いお前らは描いとかなきゃだめだぞ」
一言余計だが。
「ほらちゃんと距離取れ八角形! ぶつけられてぇのか!」
「す、すみませんっ」
「後方支援! ちゃんとついてきてるか!」
「はい~!」
先行する彼女の歩調は早い。
その分ダンジョンは進めるもののついていく身としては彼女に後れを取らないようにしなければならないために心的な圧力も感じざるを得ない。
「ぼさっとすんなガキんちょ!」
「えっ?」
トトトン、と奥から音が聞こえてきたかと思いきや、黒い何かが床、壁、天井、と跳ねてこちらへやってきた。
ミルルさんの大槌は対象を捉えられず、しかし即座に後方への注意喚起をする。
その中で、反応が鈍かったのはフラーウ。
構えてはいるも震えていて動けていない。
「フラーウ!」
咄嗟に俺はフラーウの肩を押して、その黒い何かから庇った。
「シ、シマヅさん!」
「ぐっ!」
左肩に走る痛みは、いくつもの尖ったものが肌を破る感覚からして――牙、はっきりとは姿を捉えてはいなかったものの獣型といったところではないだろうか。
振り払うと――ああ、やはり獣型。
「大丈夫ですか!?」
「死ねなかったか……」
「えっ!?」
「あ、いや。大丈夫」
咄嗟に王女が前へ出て、杖を向ける。
「ショックボルト!」
杖から放たれる雷撃――魔物は悲鳴を上げて弾き飛ばされる。
しかし威力が弱かったのか、空中で姿勢を整えて再度攻撃態勢に入ろうとするも――
「ふんっ!」
ミルルさんの大槌が魔物を完璧に捉えた。
鈍い音が聞こえる。壁には大きな凹みが出来てしまっていたが、覗くのはやめておこう。
「何やってんだガキんちょ!」
「ひっ、ご、ごめんなさい……」
「あたしに謝っても仕方がないだろ! 怪我したのはそいつだ!」
「まあいいじゃないか、軽傷だしさ」
思ったよりも、というより猫に噛まれた程度の出血でしかない。
「……お前、意外と頑丈なんだな」
「ええ、そのようです」
流石八角形だ、と呟くミルルさんではあるが、しかし今起きたこの些細なハプニングにはまだ気が収まらないようで、その双眸は鋭く、フラーウへと向けられていた。
「周りに迷惑を掛けんなっ」
「は、はい……」
「てめぇの弱さが誰かの強さを台無しにする。それを理解しろ!」
「すみません……」
すっかり縮こまっていたフラーウ。
とりあえず頭を撫でてやろう。
「よしよし」
「うう……」
「よしよしです~」
「うぅ……」
「よ~しよしよしよしですわ」
「うぅぅ……」
気が付いたらミルルさん覗く三人で撫でていた。
怖い先輩がいたもんだねぇ~って感じで。
その光景を見て、ミルルさんは眉間に深いしわを刻んでおり、彼女の不機嫌ゲージは見る見るうちに上昇中。
彼女は舌打ちをして怒気の籠った踏み込みを聞きながら、先へと進んでいく。
そんなに怒らないでさ、もっと気楽にいこうよミルルさん。
ちなみに今の魔物は獣型のクローガーという魔物らしい。狭い空間で獲物を狙うのが得意で、バネのように飛び跳ねて動き回って攻撃してくる。
魔力の高いクローガーであれば火を噴くのだとか。
魔物についても王女は詳しい。イトラペデイアと名付けよう。
「……ここは別の地下庭園か。一体いくつあるんだか。あ~めんどくせぇ!」
最初に踏み入れた地下庭園とはこれまた違った雰囲気の地下庭園が広がっていた。
ここは……遺跡っぽい感じで四角く加工されて積み重なった石が目立ち、何者かに手がけられたような印象だ。
しかし長らく放置された結果、それも木の根に侵食されてしまっている。
その分、神秘的でかつ宝の匂いもする。
ドスン、と地面に苛立ちと共に大槌を叩きつけ、彼女は深いため息をついた。
探索中の冒険者達が衝撃に軽く驚きその震源地へと視線を向けるが、相手がミルルさんだと知るや即座に視線を外していた。
彼女も彼女で睨みを聞かせており不機嫌は明らか。
「ウォルスネークはいねぇようだな。今日のところは引き上げっか……」
「俺達もそうしよっか。そこそこに素材は集まったし」
「ウォルスネークの作った穴に魔力石や鉱石がいっぱいあったのは運がよかったですね」
ただ道を進んでいただけだが、ふと魔力石照明に反射する何かを見つけたと思いきや、拳大の魔力石が数個、鉱石もいくつか見つかり思いもよらぬ成果だった。
「ミルルさんは一個も取らなかったけど、いいんですか?」
「あたしの目的はウォルスネークの牙だ。あれで煙管を作りてぇの」
「あ~なるほど」
そういう目的でしたか。
随分と年季の入った煙管だと思ったけどそろそろ替え時のようだ。
「じゃあ戻って一杯やんぞ。当然付き合うよな?」
「あ、はい……」
なんか断れない流れ。
彼らが去った後に。
ミルルさんは煙管を吸っては輪っかの煙をいくつも作っていた。
ポケットからは何やら棒状のものを取り出すや、高く掲げるとこれまで室内を照らしてたいくつもの魔力石照明がその棒へと吸い寄せられていく。
「おおっ」
「ん? 知らないのかい。洞窟やダンジョンには必須のもんだよ。拡散照明具」
「そういうのもあるんですね、初耳です」
こう見えて俺達全員冒険者としては駆け出しもいいとこなので。
しかもその拡散照明具とやら、全ての魔力石照明が一つの塊になるとそのまま松明のように使用できるらしい。
「ハス、あれは帰ったら絶対買おう」
「はいっ。私もあのようなものは見落としておりました。買っておきます」「ひよっこめ。依頼の準備だけじゃなく向かう先の環境に応じて用意する道具はきちんと調べて慎重に選びな」
「勉強になります」
彼女のポーチにはダンジョンで役に立つ道具がたくさん入っているのだろう。
「あんた達、あたしの仲間を見なかった?」
「ここへ来る時に逃げるようにすれ違っていった冒険者ならいましたよ。ほら、あそこから来たんです俺達」
自分らの来た穴を指してやる。
拡散照明具を松明状にしているために若干光が届かず見づらいが、彼女は俺達が来た穴を見つめては「ああ……」とどこか落胆の声を漏らしていた。
「何か言ってたか?」
「付き合ってられんとかなんとか」
「そうかい」
不機嫌そうに彼女は煙管を吸い込んで、どでかい輪っかの煙を作っていた。
お~っ、と。俺以外がその輪っかを見て声を上げる。
「もしかして、仲間の方でした?」
「だった――ってぇのが正しい。くそっ、また一人だ」
苛立ちからか、彼女はウォルスネークの集めたであろう草を蹴飛ばして歩きだした。
今のところ、周囲を十分に照らす光を持つのは彼女。
この場から移動するとして、彼女についていけば道も照らされて便利であるため、後ろをついていくとした。
しかし彼女の足はすぐに止まる。
「……人の光を借りて、ついてくるつもりか?」
顔だけを横に向けて、その綺麗な瞳が後ろについてきている俺達をぎょろりと見た。
「魔力は俺が吹き込みますので、よかったら明るいところに出るまで同行してもいいですかね? それに一人じゃ寂しくないですか? 折角ですから少しお話をしません?」
「……好きにしろ」
やや不満そうに、ぷいっと正面を向いてしまうが、どこか満更でもないように見える。
ため息をついているあたり、仲間に逃げられて寂しさを引きずっているのが丸分かりだ。
魔力を拡散照明具へと吹き込んでおこう。
これくらいでいいかな?
「うわっ、まぶしっ!」
「ご、ごめんなさいっ。送りすぎました!」
「流石八角形だね……。ちょっとしたもんでもぶっ飛んでやがる」
「いやあそれほどでも」
褒められてはいないのだろうけれど。
我ながら魔力の調整が下手なものだ。魔力石の大きさによっても容量は変わってくるが、小さいものだと自分基準で魔力を送り込むと時々壊してしまう事もある。
街に行けば魔力石屋で属性を込める時に、店の人に頼めば俺の魔力を拝借して調整してくれるけど、自分でうまくやれるようになるのはまだまだ時間が掛かるかな。
「ミルルさんって白金級なんですよね? すごいですね」
「八角形のお前ならすぐ上がれんだろ」
「いやいや、どうでしょうか」
持ってろ、と拡散照明具を渡された。
煙管での一服に集中したようだ。行き先は特に言っていない彼女だが地下庭園の方向には戻らない様子だ。
「ったく、ダンジョンも角数か階級の制限をすべきだぜ。あいつらすぐ逃げやがって……」
「ウォルスネークとなれば冒険者の中でも上級者でなければ対処できない魔物、巨躯でありながら俊敏に動き、巻き付かれたらただでは済まないですし、もし初見であったのならば逃げ出すのも無理はありませんね」
「なんだ仮面女、お前まだ銅級のくせにやけに詳しいな」
「し、調べるのは得意でして」
知識だけなら白金級かも。
「仮面女、知識を蓄えるのは別にいいが戦闘もできるようにしとけよ」
「心得てます」
「八角形におんぶでだっこみたいなパーティにしか見えないぜほんと。誰か一人だけ頼りっていうパーティは長持ちしねぇ」
それはまさに彼女が組んでいたパーティの事ではないだろうか。
「お前、シマヅ……だったか。いきなり妙な奴らとパーティを組んで、大丈夫なのか?」
「み、妙……?」
主に王女を指しているようで、訝しげに彼女を見ていた。
そんな視線に、王女は仮面の頬をぽりぽりと掻いてそっぽを向いていた。
「そっちのガキだってギルドじゃあ一度も見た事がねえ、まだ新人だろ」
「ぼ、冒険者の登録は今日しました……」
「おいおい今日登録して早速ダンジョンかよ。舐めてるねぇ~」
「うぅ……」
そんなにフラーウを苛めないでもらいたい。
「しかも戦力外のハイラア族も連れてるときた。は~……そんなパーティでやっていけんのかねえ」
俺達のパーティには呆れに呆れている様子だ。
しかし反論もできない。慎重に考えた上で組んだわけでもないしフラーウに関しては完全に成り行きだ。
「な、なんとかやっていきますよ……」
ハスを戦力外と言われて思わずカチンときて、あなたはパーティをまともに組めていないようですが――なんて言いそうになったが喉元で留めておけた。
おそらく言ってしまったら導火線に火をつける行為と同じだ。
大槌を担ぐ彼女は狭い道に苦戦しながらも、時には大槌を振るって強引に道を拡大させて突き進む。
うーん、パーティが組めない理由のうちの一つかな、とぶっきらぼうな彼女を見て思う。
けれども頼り甲斐は実にあるね。
「おっ、スライムだ」
天井からにじみ出るように現れたスライム。
青くぷるぷると、水まんじゅうみたいな外見だ。ちょっと美味しそう。
「ひゃっ……」
「ビビるなよガキんちょエルフ。こういうのは……こう!」
地面をえぐりながら、大槌を振り上げてスライムを天井へと叩きつけた。
「そんでもって――風撃一貫『ウィンドスピア』!」
奥に見える複数のスライムを確認するや、彼女は大槌を向けてそう吼える。
固有魔法であろうか。風が生じ、行き先は渦を起こしていった。さらっとではあるも風属性の魔導書は読んだもののウィンドスピアという魔法は無かったような。後で彼女に確認してみようかな。
「おお~!」
「すっきりしたぜい」
綺麗に削れたものだ。おかげで道も広くなったな。
流石白金級、ちょっとした魔物の群れなど数秒で片付けてしまえる。
「周辺確認、後方確認、ぼーっとしてるがお前らもやれる事はあるんだぜ~?」
言われてから動いている時点で俺達の経験不足をしみじみと思い知らされる。
しかし彼女と共に行動しているだけで、パーティはどう動くべきか、ダンジョンでの立ち回りはどうするべきかを知る事が出来て勉強になるな。
「道の悪い場所はすぐに魔力石照明をつけろ」
「は、はいっ」
「大体でいいから来た道は覚えておいて地図を作っておけ。あたしは覚えてるからいいが頭の悪いお前らは描いとかなきゃだめだぞ」
一言余計だが。
「ほらちゃんと距離取れ八角形! ぶつけられてぇのか!」
「す、すみませんっ」
「後方支援! ちゃんとついてきてるか!」
「はい~!」
先行する彼女の歩調は早い。
その分ダンジョンは進めるもののついていく身としては彼女に後れを取らないようにしなければならないために心的な圧力も感じざるを得ない。
「ぼさっとすんなガキんちょ!」
「えっ?」
トトトン、と奥から音が聞こえてきたかと思いきや、黒い何かが床、壁、天井、と跳ねてこちらへやってきた。
ミルルさんの大槌は対象を捉えられず、しかし即座に後方への注意喚起をする。
その中で、反応が鈍かったのはフラーウ。
構えてはいるも震えていて動けていない。
「フラーウ!」
咄嗟に俺はフラーウの肩を押して、その黒い何かから庇った。
「シ、シマヅさん!」
「ぐっ!」
左肩に走る痛みは、いくつもの尖ったものが肌を破る感覚からして――牙、はっきりとは姿を捉えてはいなかったものの獣型といったところではないだろうか。
振り払うと――ああ、やはり獣型。
「大丈夫ですか!?」
「死ねなかったか……」
「えっ!?」
「あ、いや。大丈夫」
咄嗟に王女が前へ出て、杖を向ける。
「ショックボルト!」
杖から放たれる雷撃――魔物は悲鳴を上げて弾き飛ばされる。
しかし威力が弱かったのか、空中で姿勢を整えて再度攻撃態勢に入ろうとするも――
「ふんっ!」
ミルルさんの大槌が魔物を完璧に捉えた。
鈍い音が聞こえる。壁には大きな凹みが出来てしまっていたが、覗くのはやめておこう。
「何やってんだガキんちょ!」
「ひっ、ご、ごめんなさい……」
「あたしに謝っても仕方がないだろ! 怪我したのはそいつだ!」
「まあいいじゃないか、軽傷だしさ」
思ったよりも、というより猫に噛まれた程度の出血でしかない。
「……お前、意外と頑丈なんだな」
「ええ、そのようです」
流石八角形だ、と呟くミルルさんではあるが、しかし今起きたこの些細なハプニングにはまだ気が収まらないようで、その双眸は鋭く、フラーウへと向けられていた。
「周りに迷惑を掛けんなっ」
「は、はい……」
「てめぇの弱さが誰かの強さを台無しにする。それを理解しろ!」
「すみません……」
すっかり縮こまっていたフラーウ。
とりあえず頭を撫でてやろう。
「よしよし」
「うう……」
「よしよしです~」
「うぅ……」
「よ~しよしよしよしですわ」
「うぅぅ……」
気が付いたらミルルさん覗く三人で撫でていた。
怖い先輩がいたもんだねぇ~って感じで。
その光景を見て、ミルルさんは眉間に深いしわを刻んでおり、彼女の不機嫌ゲージは見る見るうちに上昇中。
彼女は舌打ちをして怒気の籠った踏み込みを聞きながら、先へと進んでいく。
そんなに怒らないでさ、もっと気楽にいこうよミルルさん。
ちなみに今の魔物は獣型のクローガーという魔物らしい。狭い空間で獲物を狙うのが得意で、バネのように飛び跳ねて動き回って攻撃してくる。
魔力の高いクローガーであれば火を噴くのだとか。
魔物についても王女は詳しい。イトラペデイアと名付けよう。
「……ここは別の地下庭園か。一体いくつあるんだか。あ~めんどくせぇ!」
最初に踏み入れた地下庭園とはこれまた違った雰囲気の地下庭園が広がっていた。
ここは……遺跡っぽい感じで四角く加工されて積み重なった石が目立ち、何者かに手がけられたような印象だ。
しかし長らく放置された結果、それも木の根に侵食されてしまっている。
その分、神秘的でかつ宝の匂いもする。
ドスン、と地面に苛立ちと共に大槌を叩きつけ、彼女は深いため息をついた。
探索中の冒険者達が衝撃に軽く驚きその震源地へと視線を向けるが、相手がミルルさんだと知るや即座に視線を外していた。
彼女も彼女で睨みを聞かせており不機嫌は明らか。
「ウォルスネークはいねぇようだな。今日のところは引き上げっか……」
「俺達もそうしよっか。そこそこに素材は集まったし」
「ウォルスネークの作った穴に魔力石や鉱石がいっぱいあったのは運がよかったですね」
ただ道を進んでいただけだが、ふと魔力石照明に反射する何かを見つけたと思いきや、拳大の魔力石が数個、鉱石もいくつか見つかり思いもよらぬ成果だった。
「ミルルさんは一個も取らなかったけど、いいんですか?」
「あたしの目的はウォルスネークの牙だ。あれで煙管を作りてぇの」
「あ~なるほど」
そういう目的でしたか。
随分と年季の入った煙管だと思ったけどそろそろ替え時のようだ。
「じゃあ戻って一杯やんぞ。当然付き合うよな?」
「あ、はい……」
なんか断れない流れ。
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