ある日突然タイムリープしてしまった社畜、自分の書いた物語が現実となった過去をやり直す。

智恵 理陀

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025 狙いは

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 あれから委員長は二日ほど学校を休んでいる。
 体調不良、そんなありきたりな理由ではあったが当然嘘である。
 彼女は今頃ラトタタやブギーと計画を練って着実に準備を進めている最中であろう。
 美耶子さんも目を光らせているから無闇に手は出せないはず、となれば今や膠着状態に入っていると考えていい。
 本来であればこのような展開にはならないのだがね。
 もはや俺の考えた物語の展開は大幅に本来の筋書きから外れてしまっている。ここからはどうなるかは分からない。
 筋書きが変わった今、先輩はすぐに別の筋書きを用意するだろうか。
 どんな筋書きであれ結末に向けて動くのは変わりないが、できれば血みどろな戦いや誰かが死ぬような展開にはならないでほしいね。
 あわよくば和解に持ち込んで平和的な解決といきたいところだがそれは物見谷先輩が許さないだろう。
 前回のデートによって委員長達が潜んでいると思われる拠点自体は把握したらしく、現在は監視をして警戒態勢を敷いている。
 こちら側も慎重に、動きがあればすぐにといったところだ。
 それにしても……委員長のいない学校生活というのは少し寂しさがある。
 クラスメイト達も全体的にいつもの活気が薄れていて、委員長の存在がどれほど大きかったのかが顕著に現れていた。

「き、今日もいい天気だね~」
「そうね」

 俺達の昼休みも委員長がいない分、賑やかさが欠けている。
 治世は時折ぼんやりと空を見入り、瞬きもせずに黙り込んでいた。
 彼女の頭の中は異能教がいつ動くか、動いた場合はどう対処するか、俺を守るには何が一番最適か――そればかりが脳内で渦巻いているのだろう。

「……あいつら、仕掛けてこないわね」
「そろそろ何かしら動きを見せる頃合だとは思うんだけどねえ」
「根拠は?」
「な、なんとなく……」
「はあ~……」

 聞いて損したと言わんばかりのくそでか溜息つかないでよ。

「い、いやあしかしながら……委員長がいないと、なんだか寂しいね」
「私は別に寂しくもなんともないわ、むしろ喧しいのがいなくなって精々してるわ」
「本当にそう思ってる~?」

 実は寂しいんじゃないの? とジト目で伝えてみる。

「は? 何よその目は。唐揚げ入れるわよ」
「やめてくださぁい!」

 いくら君が作った美味しい唐揚げとはいえその使い方は凶器でしかない。

「冗談よ。ほら、ん」
「ん?」
「……」

 唐揚げを口許に運んでくれている。
 そうか、そういう事ね?

「あ、ありがとう」

 ちょっと照れつつぱくっと、一口で。
 うん、俺好みのほんのりしょうゆ味のジューシーな唐揚げ。
 料理が上手い設定をつけておいてよかったよ。
 でも実は悩んだんだよね。ほら、たまにあるだろう? 料理が下手な設定でそこを萌え要素として展開にも活かすパターン。

「お前は細すぎるわ。もりもり食べて筋肉を付けなきゃいざという時動けないわよ」
「そのうち鍛えるよ」
「今日からにして」
「はい……」

 じゃあトレーニング付き合ってくれない? なんて。
 一応ね、意欲はあるんだよ意欲は。体育の時の俺を見てくれ。

「原稿を使う異能者もどうなってるのかしら。原稿を全然送ってこないわね」
「異能をうまく発動できてないか、条件でもあるのかもしれないね」
「条件ねえ……?」

 勿論、先輩にはそんな異能も条件もありやしないだろう。

「今一目的が分からないわね」
「そ、そうだね……」

 先輩の目的なら、はっきりとしている。
 俺を理想の主人公に仕立て上げたい――ただ、そんな説明なんてできない。

「……何か、隠してない?」
「えっ、いや、何も?」
「お前、本当にこの前から……変。時々、お前は別人になってしまったんじゃないかって思う時すらあるわ」

 ……まさにそうなのだけど。
 彼女達の中心に立つ主人公という位置に、俺が立ってしまっているからこそ生じるその差異はどうしても違和感を与えてしまう。

「その……」

 沈黙が漂う。
 数秒後、治世は俺から目を逸らして、ゆっくりと口を開いた。

「……ごめんなさい、今言ったのは気にしないで。何か隠してるなら話して欲しいって、思っただけなの。行きましょう」
「あ、うん……」

 主人公の事を理解し敏感に感情などを感じ取るその設定が、逆に俺達の間にちょっとした距離感を作ってしまったかもしれない。
 所詮俺は主人公の位置に立っているだけの、自分の物語だからと好き勝手に書いて神を気取っていた作者だ、主人公の器もない。
 治世とはもっと仲良くしていきたいし、どんどん距離を縮めていくべきなんだが、どうもうまくいかないな……。
 二人で力を合わせて来たる展開を乗り越えなくちゃならないのだが、果たしてこのままで俺達は大丈夫なのだろうか。
 そんな不安を引きずって午後の授業へ。
 五限目、六限目は移動教室のため席は若干位置が変わり、治世とは離れ離れの班で授業を受ける。
 彼女とは少しでも親睦を深めるべきなのだが、こういう時に限って事はうまく運んでやくれない。
 もしや、先輩は意図的に俺達を引き剥がそうとしている……? いや、そんな事は……どうなんだろう?
 しかしこれでは田中君とばかり仲良くなってしまうな、いやそれはそれで学校生活を送る上ではいい事なんだけど。
 ……しかしここ最近は授業内容なんて頭に中々入ってこない。
 授業中はもはや現状について考える時間と化している、今後受けるであろうテストの成績はきっと悲惨なものになるだろうが構いやしないさ。
 もしかしたら成績が落ち込んで、治世との勉強会というイベントが発生する可能性も無きにしもあらず、悪くない。
 ただしそんなイベントが訪れるのは、少なくとも委員長達との戦いを終えてからであろう。

「あれ? 治世……どこ行ったんだろ」

 教室へ戻る際には必ず俺の隣へさりげなく移動する治世だがそれもなく、教室に戻っても彼女の席は空席だった。
 続々と生徒は戻ってきているが、彼女の姿はない。
 学校ではいつも傍にいるのが当然、それも設定の一つ――と思ってはいたが思えば彼女との学校生活はまだ大した日数を経ていない。
 こういう日もある、のかもしれない。
 初めての事に、如何せんちょっとした戸惑い。
 治世だって休み時間に俺の傍から離れてどこかで時間を潰す事もあるだろう。何かあったのかと心配するのは、大げさすぎるかもしれない。
 ……。
 …………ううむ、やっぱり気になるな。
 席を立って一度廊下を覗いてみる。
 右を見ても左を見ても、お喋りをしている生徒や教室に戻る生徒、はたまたじゃれあってる生徒など様々。
 遠くからでも分かるあの凛とした雰囲気を纏う治世の姿はいないと一瞥で判断できる。

「もしかして能美崎さんでも探してるの?」
「うん、どこ行ったのかなと思って」

 田中君が丁度教室に戻ってきた。
 手に持っているのは教材か、次の授業を担当するであろう先生の手伝いをしていたってとこだろう。君って本当に優しい奴だね。

「彼女ならさっき見かけたよ。何か手紙みたいなの持ってたなあ」
「手紙?」
「あ、手紙にしてはサイズが大きかったかな。けど手紙っぽいのは持ってたのは確かだよ。深刻そうな顔して階段下りていっちゃったけど何かあったのかな」

 次の授業まで残り数分。
 教室に戻るどころか階段を下りていったとなれば、向かうは玄関? 戻るつもりはない……のか?
 治世の持っていたその手紙らしきものはもしかしたら、原稿の可能性が高い。
 そうだとすれば、原稿を読んで飛び出していったと考えるのが妥当だ。
 ……ではどうするか。それは考えるまでもないが、物語でよくあるあのシチュエーションをまさかやる日が来るとは思いもよらなかったな。

「た、田中君!」
「ん? どうした?」
「急用が出来たから、欠席するって先生に言っておいてくれる?」
「えっ、急用?」
「んじゃ、そういう事で!」
「お、おい佐久間ー! サボりかー!?」

 かけられる言葉も置いてけぼりにして、軽く手を振って俺は階段へ。
 ……今の俺、物語の主人公っぽい感じだ。
 それはさておき。
 どれくらいの時間差があるのか、然程差がないのであれば治世と合流できるかも。
 原稿を見つけたのならば連絡をしてくれればいいのに、それもしないとなればよほど緊急性のある内容なのかもしれない。
 一先ず向かうは玄関へ。

「治世っ!」

 彼女の名を呼ぶも返答も、姿も無く。
 上履きが転がっている、治世のものであろうか。すばやく外履きに履き替えて上履きは放り投げたような印象に見える。
 俺も靴を履き替えるか……。

「むぅ!?」

 靴箱を開けると紙が一枚出てきた、ラブレター?
 いいや残念ながら、当然ながら違う。

「……原稿か」

 悔しいが一瞬ドキッとしてしまった自分がいる。

 --------------------

 授業を終えて、ささやかな開放感に包まれながらも、治世は警戒心を決して緩めずにいた。
 廊下の先を見ると文弥の姿が確認できる。
 いつもなら合流するのだが、その足は止まってしまった。
 今日は変な事を言ってしまった。
 ぽつりと、気がつかぬうちについた服の汚れのように、気まずさが心の中に小さく染みていた。
 じわりじわりと、その染みは広がっている。
 クラスメイトの列から外れて、彼女は窓の外を意味もなく見やる。
「どうしてあんな事、言ったのかしら」
 けれども確かな違和感はあった。
 彼のようで、彼でないような、そんな違和感が。
 隠し事もしているとなれば、打ち明けて欲しかった。
「……何だか、ムカついてきたわ」
 そのうち力ずくにでも吐かせようかしら、などと少々野蛮な思考を働かせながらも再び足を進めたその一歩目。
 ――それはどこからともなく。
 その紙はひらひらと漂ってきては、彼女の足元へ。
 前を行く生徒の誰かが落としたものではない。
 一目で分かる、これは――原稿だ。
 さっと拾い上げて、彼女は書かれている内容を読むやすぐに踵を返して階段へと向かう。
 こうしてはいられない、文弥に一言告げる間すら惜しいほどの迅速なる行動が求められていた。
 学校敷地から出て周囲を見回し、彼女は視界に入った雑居ビルへと足を運ぶ。
 原稿によるとそこの三階に、文弥を狙う敵がいる。
 そしてその敵は、数分後に攻撃を仕掛ける――すぐに阻止すればこの原稿通りにはならないだろう。
 彼女の行動も実に早かった、十分に間に合う。
 ……のだが、治世は気付いていない。
 その原稿は望月月子が用意した、偽物の原稿だという事に。

 --------------------

「偽物の、原稿?」

 彼女達の狙いは俺なのだから、必然的に俺から狙ってくるものだと思っていた。
 委員長が偽物の原稿を用意したその目的を考えるに――

「治世から狙ってきたか……!」
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