27 / 34
027 裏設定
しおりを挟む
「み、美耶子さーん!」
今にして思えばこの扉は事務所の入り口を飾るにしては似合わない鉄製のもの。
蹴破られる心配もなく、逆に閉じ込めるという手段としても活用でき、まさに今その活用をされている。
扉越しに聞こえる階段を下りる音、何度呼びかけてもその足音は止まらず遠ざかっていく。
曇りガラスから見える人影は凛ちゃんか。彼女にも呼びかけてはみるもこちらを振り向く素振りはない。
「くそっ……!」
どうする、どうすればいい……?
物語的にこれは――先輩はどんな展開を望んでる?
俺がここからどうにか脱出して治世の元へと行く展開? いや待てよ。
「先輩……悲劇がどうとか言ってたよな……」
一度冷静に、そして考えをまとめるべくソファに座るとした。
「誰かが命を落とす展開を作るのなら……まさか治世を?」
待て待て、いきなりヒロインが命を落とすとかあるか?
先輩がどんな結末を考えているのか、未だに分からない。もしかしたら、そのようなぶっ飛んだ結末を用意しようとしていたりするのだろうか。
「こうしちゃいられない!」
再び席を立つも塞がれた窓に突破できない扉、まさに八方塞がりの状況に俺は室内をうろうろするしかなかった。
誰かに助けを求めようとスマホを取り出すも――電波は圏外。
室内だとそうなるよう仕掛けを施していたのか、抜け目がないな。
……そういう設定にしたのは俺なんだけどね。
「どこか脱出できるところは……」
壁を叩いたり窓のシャッターをこじ開けようとしてみたり、扉に体当たりしてみたりと一つ一つ試してみる。
その結果、こうして再びソファに腰を下ろして溜息をつくしかなく。
「このまま物語が結末を迎える……なんていうのはないはずだ……」
落ち着け、冷静に考えろ。
何か脱出できる手段があるはずなんだ。
これは現実であって、物語でもある。
物語の観点からも考えるべきだ。
扉の向こうには凛ちゃん――彼女をなんとか使って打開せよってとこだろうか。
俺の持つ特異の出番?
凛ちゃんの異能は確か……黒い人型の分身を召喚する異能だ。成人男性くらいの大きさで、凛ちゃんの命令を聞く異能なんだよな。
特異でそいつを操ってこの場から脱出しろって事なのだろうか。
それか、凛ちゃんの設定を思い返して……か。
「凛ちゃん……」
扉をノックしてみる。
彼女が顔だけを振り向かせているのが曇りガラス越しに見える。
反応はしているが、扉は開けてくれそうにない。
さて、どう動くか。
正直、あれから特異を発動させてみようと何度か試してみたがうまくいっていないんだよね。
設定のほうで、攻めてみようか。
先輩が知っているかどうか分からないが、凛ちゃんの裏設定のほうをね。
「協力、してくれないかい?」
「……」
「君は――治世の事が大好きだったよね。どうだろう、治世を撮った画像数枚をあげるから俺に協力するというのは」
「……な、う、あっ」
ガタンッと扉が振動した。
どうしたのだろうか、想像以上の反応だ。
「うーん、よく撮れてるなあ。学校で結構撮ったんだよねえ~」
「はぅ、う、うぉ!」
この反応。
やはり、裏設定のほうは活きている。
扉が勢いよく開き、顔をひょっこり出してくる。
いつもの不愛想な表情ではなく、好物をぶら下げられた動物のように目をギラつかせている。
苦労して脱出方法を探した割りに開くのが絶望的だった扉のほうがなんともあっさりと開いた。
画像を見せつけてやるとする。
「おまっ……それ、送れ!」
「ああ怖い、そんなにすごまれるとうっかり削除ボタンを押しちゃうかもしれない」
「うっ、あぅ……!」
狼狽えている。
中に入ってきては、両手を空でばたつかせて。
さてさて。鍵は開けられたままだ。後は出るだけだが当然彼女はすんなりと通してやくれないだろう。押し倒して逃げるとしても、追いつかれたら終わりだ。
であれば、引き入れるべきだ、こちら側に。
「協力してくれたら、画像全てが君のものだ」
「うぉ、うぅ、ぬぅ……!」
下唇を噛んで葛藤していた。
「美耶子さんには特異を使われたと説明すればいい」
「うぅ……な、何故、私が、治世たんを好きだと……気づいた?」
治世たんって裏では呼んでたんだよなこの子は。
素っ気ない態度は愛情の裏返し。
「な、なんとなく、かな? これでも勘がいいほうでね!」
「そうか……」
項垂れて、両手をぎゅっと閉じる凛ちゃん。
「わ、分かった」
「本当かいっ!?」
「協力、する。その代わり、画像……」
「ああ、いくらでもあげるよ!」
やった。
やったやった!
「ところで美耶子さんがどこへ向かったのかは知ってるかい?」
「……知ってる。案内する」
「ありがとう、助かるよ」
もはや治世の画像をくれるのならばなんでもするといった様子だ。
ううむ、まさか自分でもこんな設定が役に立つとは思いもよらなかったな。
今にして思えばこの扉は事務所の入り口を飾るにしては似合わない鉄製のもの。
蹴破られる心配もなく、逆に閉じ込めるという手段としても活用でき、まさに今その活用をされている。
扉越しに聞こえる階段を下りる音、何度呼びかけてもその足音は止まらず遠ざかっていく。
曇りガラスから見える人影は凛ちゃんか。彼女にも呼びかけてはみるもこちらを振り向く素振りはない。
「くそっ……!」
どうする、どうすればいい……?
物語的にこれは――先輩はどんな展開を望んでる?
俺がここからどうにか脱出して治世の元へと行く展開? いや待てよ。
「先輩……悲劇がどうとか言ってたよな……」
一度冷静に、そして考えをまとめるべくソファに座るとした。
「誰かが命を落とす展開を作るのなら……まさか治世を?」
待て待て、いきなりヒロインが命を落とすとかあるか?
先輩がどんな結末を考えているのか、未だに分からない。もしかしたら、そのようなぶっ飛んだ結末を用意しようとしていたりするのだろうか。
「こうしちゃいられない!」
再び席を立つも塞がれた窓に突破できない扉、まさに八方塞がりの状況に俺は室内をうろうろするしかなかった。
誰かに助けを求めようとスマホを取り出すも――電波は圏外。
室内だとそうなるよう仕掛けを施していたのか、抜け目がないな。
……そういう設定にしたのは俺なんだけどね。
「どこか脱出できるところは……」
壁を叩いたり窓のシャッターをこじ開けようとしてみたり、扉に体当たりしてみたりと一つ一つ試してみる。
その結果、こうして再びソファに腰を下ろして溜息をつくしかなく。
「このまま物語が結末を迎える……なんていうのはないはずだ……」
落ち着け、冷静に考えろ。
何か脱出できる手段があるはずなんだ。
これは現実であって、物語でもある。
物語の観点からも考えるべきだ。
扉の向こうには凛ちゃん――彼女をなんとか使って打開せよってとこだろうか。
俺の持つ特異の出番?
凛ちゃんの異能は確か……黒い人型の分身を召喚する異能だ。成人男性くらいの大きさで、凛ちゃんの命令を聞く異能なんだよな。
特異でそいつを操ってこの場から脱出しろって事なのだろうか。
それか、凛ちゃんの設定を思い返して……か。
「凛ちゃん……」
扉をノックしてみる。
彼女が顔だけを振り向かせているのが曇りガラス越しに見える。
反応はしているが、扉は開けてくれそうにない。
さて、どう動くか。
正直、あれから特異を発動させてみようと何度か試してみたがうまくいっていないんだよね。
設定のほうで、攻めてみようか。
先輩が知っているかどうか分からないが、凛ちゃんの裏設定のほうをね。
「協力、してくれないかい?」
「……」
「君は――治世の事が大好きだったよね。どうだろう、治世を撮った画像数枚をあげるから俺に協力するというのは」
「……な、う、あっ」
ガタンッと扉が振動した。
どうしたのだろうか、想像以上の反応だ。
「うーん、よく撮れてるなあ。学校で結構撮ったんだよねえ~」
「はぅ、う、うぉ!」
この反応。
やはり、裏設定のほうは活きている。
扉が勢いよく開き、顔をひょっこり出してくる。
いつもの不愛想な表情ではなく、好物をぶら下げられた動物のように目をギラつかせている。
苦労して脱出方法を探した割りに開くのが絶望的だった扉のほうがなんともあっさりと開いた。
画像を見せつけてやるとする。
「おまっ……それ、送れ!」
「ああ怖い、そんなにすごまれるとうっかり削除ボタンを押しちゃうかもしれない」
「うっ、あぅ……!」
狼狽えている。
中に入ってきては、両手を空でばたつかせて。
さてさて。鍵は開けられたままだ。後は出るだけだが当然彼女はすんなりと通してやくれないだろう。押し倒して逃げるとしても、追いつかれたら終わりだ。
であれば、引き入れるべきだ、こちら側に。
「協力してくれたら、画像全てが君のものだ」
「うぉ、うぅ、ぬぅ……!」
下唇を噛んで葛藤していた。
「美耶子さんには特異を使われたと説明すればいい」
「うぅ……な、何故、私が、治世たんを好きだと……気づいた?」
治世たんって裏では呼んでたんだよなこの子は。
素っ気ない態度は愛情の裏返し。
「な、なんとなく、かな? これでも勘がいいほうでね!」
「そうか……」
項垂れて、両手をぎゅっと閉じる凛ちゃん。
「わ、分かった」
「本当かいっ!?」
「協力、する。その代わり、画像……」
「ああ、いくらでもあげるよ!」
やった。
やったやった!
「ところで美耶子さんがどこへ向かったのかは知ってるかい?」
「……知ってる。案内する」
「ありがとう、助かるよ」
もはや治世の画像をくれるのならばなんでもするといった様子だ。
ううむ、まさか自分でもこんな設定が役に立つとは思いもよらなかったな。
0
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
断罪されそうになった侯爵令嬢、頭のおかしい友人のおかげで冤罪だと証明されるが二重の意味で周囲から同情される。
あの時削ぎ落とした欲
恋愛
学園の卒業パーティで婚約者のお気に入りを苛めたと身に覚えの無いことで断罪されかける侯爵令嬢エリス。
その断罪劇に乱入してきたのはエリスの友人である男爵令嬢ニナだった。彼女の片手には骨付き肉が握られていた。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
遊鷹太
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる