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第二十四話.その先へ。
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「あは、はぁ……」
「ラトタタ!」
辛うじて暗器を盾にして直撃は防いだものの動ける体力はないようだ。
木に凭れて座り、吐血もしていた。
思ったよりも……重傷だ。
「だ、大丈夫?」
「敵の心配を、するぅ?」
「敵であっても君は、俺の作った登場人物だし」
「ボツにした、って付け加えてもらっても、いいかしらぁ」
「ご、ごめん……」
暗器も大体が壊れてしまっている。
戦える余力も武器もないならば無力も同然、このまま拘束といきたいがまだ何かあるのではという警戒心が彼女との距離を詰めさせてくれなかった。
「どうするぅ……? ボツにして一度殺した私を、今度はこの世界でもう一度、殺す?」
「それは、しない。したくないよ」
「……そう、意気地なしねえ。嗚呼……本当に憎いわぁ。ご都合主義に主人公補正というものかしらぁ、この差はぁ」
「かもしれないね」
「でも、これで終わりじゃないわぁ」
何かまだ策があるのか?
彼女の目も、諦めは宿っておれず、にやりと口角を吊り上げた。
マッチに火をつけて、俺の足元へと投げ込む――俺がここへ歩み寄ると見越して爆弾を隠していた? それは……まずい!
「吹き飛ぶ様を見せてもらうわぁ!」
「てぇぇいっ」
するとそこへ――予期せぬ人物の声が響く。
俺の前へと立ちはだかる、その人物は――
「茜さん!?」
同時に、爆発。
視界が揺らぎ、耳鳴りが聞こえるが……無事だ、不思議と五体満足でいられる。
いや、それよりだ。
「茜さん、大丈夫!?」
「アリアの防衛魔法、すごいわ」
誇らしげに親指を立てて彼女は振り返る。
なるほど、自ら前に立つことで防衛魔法を発揮させて爆発を防いだのか。
こうなる事をまるで予測していたかのようだ。
「ああ、もう……いたのを忘れてたわぁ」
「こんな事もあろうかと、準備はできていた。すごいでしょ」
「あはぁ……イラつくイラつく、うまくいかなくて、本当にイラつくわぁ……!」
頭を掻き毟り、彼女はゆっくりと立ち上がる。
まだふらついていて思うようには動けまい、しかしこちらとしては警戒せざるを得ない。
「原稿……原稿はどこぉ……?」
「原稿、そう、そうだ。あの原稿や挿絵は君が寄越してきたのか?」
「違うわよぉ、私にもいくつか原稿は届いたわぁ。先の展開が書かれている原稿、あはぁ……貴方の力かと思ったけど、違うようねぇ」
「じゃあ誰が?」
「さぁねぇ、知っていても当然教えないわよぉこのクソ作り手がぁ」
彼女はふらついた足取りで後退する。
地面に落ちていた針を取り、俺達にはまだ戦意は見せるものの、今であれば容易く拘束できるであろう。
「そうか。他にも聞きたい事があるんだけど、じっくり話そうよ。拘束はするけどね」
「お断りいたしますわぁ、今日はこの辺で帰らせてもらうわよぉ」
「それは――」
させない、と言おうとするも彼女は割り込んで叫ぶ。
「デュピオリアァァア!」
地面が揺れる。
デュピオリアがこっちに来るのか? また地面を吹き飛ばされたりでもしたらたまらない、少し彼女と距離を取って様子を見るか。
「次はぁ……もっと準備してからやるとするわぁ、帝国軍も寄せ集めばかりで勝つには至らないでしょうし」
デュピオリアの影が俺達を包み込み、風と共にラトタタは目の前から姿を消した。
跳躍していたデュピオリアに回収してもらったようだ。
目くらましを兼ねてか周辺の木々を撒き散らしていく最後の攻撃――は、
「ご無事ですか!?」
アリアの爆炎魔法によって跳ね返される、デュピオリアを追いかけてきたのだろう。
丁度よかったよ、おかげで降ってくる木々を粉砕する必要はなくなった。
「こっちは大丈夫だ、君は?」
「私も無事です、お気遣いありがとうございます」
「……彼女、逃げちゃったね」
既に彼女は遥か遠くへ。
デュピオリアの移動速度は中々のものだな、これじゃあ追いつくのは難しい。
「仕方がないよ、無理に追いかけるのもやめておこう。それよりツェリヒさん達はどうなったかな!?」
「転移いたしましょう!」
「頼む!」
こういう時もやはり転移魔法は便利だね。
転移して崖上まで移動する、ラトタタを追い返したとはいえまだここの状況がどうなっているかが定かではないために気は抜けない―ーが。
「ふんっ、帝国の奴らめ。あたし達を舐めんなよなあ!」
「スウたん!」
おやおや。
彼女が活躍する場面かな?
触れた岩石を自在に飛ばし、帝国軍の兵士達はされるがままに攻撃を受けていた。
シュンゼルさんとツェリヒさんも敵陣で猛威を振るっている。
執拗に盾を狙って耐久度を下げてスウたんの飛礫攻撃で盾を破壊し身体へダメージを与える、と。
近距離と遠距離攻撃の連携がうまくいっている。
「ほらほら、ロルス人とちゃんと協力して陣形保ってねえ~。今更ロルス人と仲良くできないなんて言えないよねえ、共闘したら友達も一緒だよ~」
ツェリヒさんも指揮をしてくれている。
ラトタタが強引に引き連れてきたせいか、帝国軍はまともな指揮官すらおらず陣形も保てず崩れているようだ。
このまま引き返すしか手段はあるまい。
「ほーら、かの有名な刺青の者もやってきたよ! 君達どうするよ、このまま我々とやりあうかい? ロルス人の援軍もあるんだよー、オルランテからも援軍呼び出せるよー!」
口から出任せを言うツェリヒさんだが、ここでは効果は絶大だ。
敵地に乗り込んで情報を全て掴んでいるとは思えない。
彼らはツェリヒさんの言葉を鵜呑みにして、続々と退いていた。
「へっ、帝国も大した事ねえなあ」
「本隊じゃあなかったしまだ油断はできないねえ、オルランテにも報告して守りを固めようかぁ。しっかし世界獣っぽいのもいたけど……そいつぁ悠斗君達が?」
「ええ、こっちは片付きました」
「一件落着ね」
茜さんは扇子を開いて締めた。
最後以外特に何もしてなかったけど、どこか自分も大いに貢献したかのような、満足げな表情。
それからはシュンゼルさんも俺達への警戒心が解けたのか、ロルス国へとすんなり案内してくれた。
暫くはロルス国で過ごす事になるだろう。
部隊の援軍も来ればロルス国は安全だ。
後は……茜さんに頼んでロルスとオルランテ、両国の和解をしてもらいたいところ。
オルランテはこれ以上の強引な領土拡大の停止、ペテルエル山に手出しはしない約束と、弱っているロルスの援助を――ロルスはオルランテへの攻撃停止と、帝国側との取引停止をってとこだな。
だが後者は言うまでもなく帝国との取引はもうしないだろう。
帝国側の思惑も見れたのだ、そして目的のためならばなんでも利用しようとするような国であると分かったのだから尚更である。
あれから数日。
オルランテとは違ってロルスは自然が溢れていて心地がいい。
景色の良い部屋でゆっくりと過ごしていられている。
「暫くはここに留まって両国の橋渡しになればいいのね?」
「そうそう。茜さん、頼んだよ」
「任せて。設定も大体覚えたわ」
ここ数日は俺の覚えている設定を彼女に教え込んでは、どう立ち振る舞えばいいのかなどは伝授した。
オルランテからも使いがやってきては何度か互いに連絡をし合う日々が続いた。
こっちには王女がいるのも影響が大きい、元老院も強引な手段は使えまい。
お互いすぐに仲良くとはいかないものの両国が一度見直し改める最初の機会となる。
「両国の領土を巡る争いも終息に向かう、ロルス国王もオルランテから支給された薬で回復するし両国が協力し合えれば帝国も手を出しづらくなるね」
「次なる展開は人獣編?」
「そうなるかな、人獣族の動き次第だけど……世界獣編に入る前に世界獣出てきたのもあるからラトタタがまた変にかき回してくるかも」
「これで完結という事で元の世界に戻れたりはしないのかしら」
「どうだろうねえ……」
完結の基準が俺達には分からないしね。
そもそも戻れる方法も、条件も知らないのだからこればかりはもう祈るしかない。
「ま、この世界も悪くはないからまだゆっくりしていってもいいかも。頼りになる刺青の男と、最強の魔法士がいるから安全だし」
「それはどうも、しかし最強の魔法士さんはあれから引っ張りだこだなあ」
小型とはいえ世界獣を追い返したアリア。
ツェリヒさんの勧誘から始まり、魔法士達が教えを乞いにやってきたりして俺より彼女のほうが忙しい日々を送ってしまっている。
「悠斗より目立ってる、本当はあの子が主人公なのでは?」
「脇役キャラが主人公だった件、なんていう感じで一冊書くか」
「この物語より面白いかも」
「それはそれでショックだよ」
茜さんはベッドでごろごろするのも飽きてきたのか、起き上がるや、
「ちょっと外、出よ?」
「外? いいよ」
暇になる時間は増えた。
アリアかスウたんにでも絡みに行くつもりかな。
「あ、シュンゼルさん」
「うむ」
相変わらず寡黙的。
割りと近くによくいるのは警護してくれているからだ。
「元気?」
「元気だ、王女様」
「私も元気」
「そうか」
君達はあまり表情が変わらない者同士で何か通じ合うものがあるのかな。
「今日は天候はいいが、魔物も昼間から活発だ。あまり遠くには行くな」
「うん、塔で景色でも眺めるわ」
ロルス国での俺達の行動はそんなに制限はされていない。
まだまだ国民や兵士達からの警戒心は高いものの、王女である茜さんがこの国を堪能している姿がそれを和らいでいってくれているようにも見える。
だからこそ、自由に行動させているのかもしれない。
「またね」
「ああ」
山の中腹に築かれたこの国は防壁や塔がいくつも作られている。
魔物の脅威から守るための防壁と、監視塔の役割をしている塔は重要な建築物だ。
塔と塔は橋で結ばれており、それがいくつもあって波紋状に広がっているために遠くからみればロルス国が一つの巨大な塔にも見えなくもない。
塔から見える景色はというと――
「絶景というのはこういうのを言うのかしら」
穏やかに流れる雲を優しく切り裂く山々は幻想的で、魔物か獣か定かではないが鳥類がその山々を縫うように飛行している。
視線を別のほうへと移せばオルランテに、広大な海も見える。
ファンタジーな世界に来ている。ああ、とてもそれを実感できる。
「この景色に見えるもの全てが、俺達の想像から生まれたものなんだよね」
「想像力ってすごいね」
「まったくだ、でもまさかその想像の中に俺達が来ちゃったもんだからこれまた驚きだよね」
「草通り越して森」
「ネットスラングやめて」
二人で話している時は王女らしさの欠片もない。
加えて悪役令嬢であるユフィらしさもなく。
「原稿、ラトタタによるものじゃなかったのよね?」
「そうだよ、また別な人がいるようだ、誰かは分からないけど」
「神様、だったりして」
「物語ではよくある要素だね」
「この世界に神様は?」
「いるよ、創造神たるものはいないけど、それぞれ強大な力を持った天精霊種の最上位に属するのが神って呼ばれてる。会いにいってみる?」
「行ってみよう、やってみようー」
好奇心は旺盛のようで。
元の世界にはまだ戻れないものの、これからまた様々な物語や展開が待ち受けているだろう。
「俺達の戦いはこれからだー」
「打ち切り感出すのやめて」
いやしかし。
まさに俺達の戦いはこれからなのかもしれない。
「ラトタタ!」
辛うじて暗器を盾にして直撃は防いだものの動ける体力はないようだ。
木に凭れて座り、吐血もしていた。
思ったよりも……重傷だ。
「だ、大丈夫?」
「敵の心配を、するぅ?」
「敵であっても君は、俺の作った登場人物だし」
「ボツにした、って付け加えてもらっても、いいかしらぁ」
「ご、ごめん……」
暗器も大体が壊れてしまっている。
戦える余力も武器もないならば無力も同然、このまま拘束といきたいがまだ何かあるのではという警戒心が彼女との距離を詰めさせてくれなかった。
「どうするぅ……? ボツにして一度殺した私を、今度はこの世界でもう一度、殺す?」
「それは、しない。したくないよ」
「……そう、意気地なしねえ。嗚呼……本当に憎いわぁ。ご都合主義に主人公補正というものかしらぁ、この差はぁ」
「かもしれないね」
「でも、これで終わりじゃないわぁ」
何かまだ策があるのか?
彼女の目も、諦めは宿っておれず、にやりと口角を吊り上げた。
マッチに火をつけて、俺の足元へと投げ込む――俺がここへ歩み寄ると見越して爆弾を隠していた? それは……まずい!
「吹き飛ぶ様を見せてもらうわぁ!」
「てぇぇいっ」
するとそこへ――予期せぬ人物の声が響く。
俺の前へと立ちはだかる、その人物は――
「茜さん!?」
同時に、爆発。
視界が揺らぎ、耳鳴りが聞こえるが……無事だ、不思議と五体満足でいられる。
いや、それよりだ。
「茜さん、大丈夫!?」
「アリアの防衛魔法、すごいわ」
誇らしげに親指を立てて彼女は振り返る。
なるほど、自ら前に立つことで防衛魔法を発揮させて爆発を防いだのか。
こうなる事をまるで予測していたかのようだ。
「ああ、もう……いたのを忘れてたわぁ」
「こんな事もあろうかと、準備はできていた。すごいでしょ」
「あはぁ……イラつくイラつく、うまくいかなくて、本当にイラつくわぁ……!」
頭を掻き毟り、彼女はゆっくりと立ち上がる。
まだふらついていて思うようには動けまい、しかしこちらとしては警戒せざるを得ない。
「原稿……原稿はどこぉ……?」
「原稿、そう、そうだ。あの原稿や挿絵は君が寄越してきたのか?」
「違うわよぉ、私にもいくつか原稿は届いたわぁ。先の展開が書かれている原稿、あはぁ……貴方の力かと思ったけど、違うようねぇ」
「じゃあ誰が?」
「さぁねぇ、知っていても当然教えないわよぉこのクソ作り手がぁ」
彼女はふらついた足取りで後退する。
地面に落ちていた針を取り、俺達にはまだ戦意は見せるものの、今であれば容易く拘束できるであろう。
「そうか。他にも聞きたい事があるんだけど、じっくり話そうよ。拘束はするけどね」
「お断りいたしますわぁ、今日はこの辺で帰らせてもらうわよぉ」
「それは――」
させない、と言おうとするも彼女は割り込んで叫ぶ。
「デュピオリアァァア!」
地面が揺れる。
デュピオリアがこっちに来るのか? また地面を吹き飛ばされたりでもしたらたまらない、少し彼女と距離を取って様子を見るか。
「次はぁ……もっと準備してからやるとするわぁ、帝国軍も寄せ集めばかりで勝つには至らないでしょうし」
デュピオリアの影が俺達を包み込み、風と共にラトタタは目の前から姿を消した。
跳躍していたデュピオリアに回収してもらったようだ。
目くらましを兼ねてか周辺の木々を撒き散らしていく最後の攻撃――は、
「ご無事ですか!?」
アリアの爆炎魔法によって跳ね返される、デュピオリアを追いかけてきたのだろう。
丁度よかったよ、おかげで降ってくる木々を粉砕する必要はなくなった。
「こっちは大丈夫だ、君は?」
「私も無事です、お気遣いありがとうございます」
「……彼女、逃げちゃったね」
既に彼女は遥か遠くへ。
デュピオリアの移動速度は中々のものだな、これじゃあ追いつくのは難しい。
「仕方がないよ、無理に追いかけるのもやめておこう。それよりツェリヒさん達はどうなったかな!?」
「転移いたしましょう!」
「頼む!」
こういう時もやはり転移魔法は便利だね。
転移して崖上まで移動する、ラトタタを追い返したとはいえまだここの状況がどうなっているかが定かではないために気は抜けない―ーが。
「ふんっ、帝国の奴らめ。あたし達を舐めんなよなあ!」
「スウたん!」
おやおや。
彼女が活躍する場面かな?
触れた岩石を自在に飛ばし、帝国軍の兵士達はされるがままに攻撃を受けていた。
シュンゼルさんとツェリヒさんも敵陣で猛威を振るっている。
執拗に盾を狙って耐久度を下げてスウたんの飛礫攻撃で盾を破壊し身体へダメージを与える、と。
近距離と遠距離攻撃の連携がうまくいっている。
「ほらほら、ロルス人とちゃんと協力して陣形保ってねえ~。今更ロルス人と仲良くできないなんて言えないよねえ、共闘したら友達も一緒だよ~」
ツェリヒさんも指揮をしてくれている。
ラトタタが強引に引き連れてきたせいか、帝国軍はまともな指揮官すらおらず陣形も保てず崩れているようだ。
このまま引き返すしか手段はあるまい。
「ほーら、かの有名な刺青の者もやってきたよ! 君達どうするよ、このまま我々とやりあうかい? ロルス人の援軍もあるんだよー、オルランテからも援軍呼び出せるよー!」
口から出任せを言うツェリヒさんだが、ここでは効果は絶大だ。
敵地に乗り込んで情報を全て掴んでいるとは思えない。
彼らはツェリヒさんの言葉を鵜呑みにして、続々と退いていた。
「へっ、帝国も大した事ねえなあ」
「本隊じゃあなかったしまだ油断はできないねえ、オルランテにも報告して守りを固めようかぁ。しっかし世界獣っぽいのもいたけど……そいつぁ悠斗君達が?」
「ええ、こっちは片付きました」
「一件落着ね」
茜さんは扇子を開いて締めた。
最後以外特に何もしてなかったけど、どこか自分も大いに貢献したかのような、満足げな表情。
それからはシュンゼルさんも俺達への警戒心が解けたのか、ロルス国へとすんなり案内してくれた。
暫くはロルス国で過ごす事になるだろう。
部隊の援軍も来ればロルス国は安全だ。
後は……茜さんに頼んでロルスとオルランテ、両国の和解をしてもらいたいところ。
オルランテはこれ以上の強引な領土拡大の停止、ペテルエル山に手出しはしない約束と、弱っているロルスの援助を――ロルスはオルランテへの攻撃停止と、帝国側との取引停止をってとこだな。
だが後者は言うまでもなく帝国との取引はもうしないだろう。
帝国側の思惑も見れたのだ、そして目的のためならばなんでも利用しようとするような国であると分かったのだから尚更である。
あれから数日。
オルランテとは違ってロルスは自然が溢れていて心地がいい。
景色の良い部屋でゆっくりと過ごしていられている。
「暫くはここに留まって両国の橋渡しになればいいのね?」
「そうそう。茜さん、頼んだよ」
「任せて。設定も大体覚えたわ」
ここ数日は俺の覚えている設定を彼女に教え込んでは、どう立ち振る舞えばいいのかなどは伝授した。
オルランテからも使いがやってきては何度か互いに連絡をし合う日々が続いた。
こっちには王女がいるのも影響が大きい、元老院も強引な手段は使えまい。
お互いすぐに仲良くとはいかないものの両国が一度見直し改める最初の機会となる。
「両国の領土を巡る争いも終息に向かう、ロルス国王もオルランテから支給された薬で回復するし両国が協力し合えれば帝国も手を出しづらくなるね」
「次なる展開は人獣編?」
「そうなるかな、人獣族の動き次第だけど……世界獣編に入る前に世界獣出てきたのもあるからラトタタがまた変にかき回してくるかも」
「これで完結という事で元の世界に戻れたりはしないのかしら」
「どうだろうねえ……」
完結の基準が俺達には分からないしね。
そもそも戻れる方法も、条件も知らないのだからこればかりはもう祈るしかない。
「ま、この世界も悪くはないからまだゆっくりしていってもいいかも。頼りになる刺青の男と、最強の魔法士がいるから安全だし」
「それはどうも、しかし最強の魔法士さんはあれから引っ張りだこだなあ」
小型とはいえ世界獣を追い返したアリア。
ツェリヒさんの勧誘から始まり、魔法士達が教えを乞いにやってきたりして俺より彼女のほうが忙しい日々を送ってしまっている。
「悠斗より目立ってる、本当はあの子が主人公なのでは?」
「脇役キャラが主人公だった件、なんていう感じで一冊書くか」
「この物語より面白いかも」
「それはそれでショックだよ」
茜さんはベッドでごろごろするのも飽きてきたのか、起き上がるや、
「ちょっと外、出よ?」
「外? いいよ」
暇になる時間は増えた。
アリアかスウたんにでも絡みに行くつもりかな。
「あ、シュンゼルさん」
「うむ」
相変わらず寡黙的。
割りと近くによくいるのは警護してくれているからだ。
「元気?」
「元気だ、王女様」
「私も元気」
「そうか」
君達はあまり表情が変わらない者同士で何か通じ合うものがあるのかな。
「今日は天候はいいが、魔物も昼間から活発だ。あまり遠くには行くな」
「うん、塔で景色でも眺めるわ」
ロルス国での俺達の行動はそんなに制限はされていない。
まだまだ国民や兵士達からの警戒心は高いものの、王女である茜さんがこの国を堪能している姿がそれを和らいでいってくれているようにも見える。
だからこそ、自由に行動させているのかもしれない。
「またね」
「ああ」
山の中腹に築かれたこの国は防壁や塔がいくつも作られている。
魔物の脅威から守るための防壁と、監視塔の役割をしている塔は重要な建築物だ。
塔と塔は橋で結ばれており、それがいくつもあって波紋状に広がっているために遠くからみればロルス国が一つの巨大な塔にも見えなくもない。
塔から見える景色はというと――
「絶景というのはこういうのを言うのかしら」
穏やかに流れる雲を優しく切り裂く山々は幻想的で、魔物か獣か定かではないが鳥類がその山々を縫うように飛行している。
視線を別のほうへと移せばオルランテに、広大な海も見える。
ファンタジーな世界に来ている。ああ、とてもそれを実感できる。
「この景色に見えるもの全てが、俺達の想像から生まれたものなんだよね」
「想像力ってすごいね」
「まったくだ、でもまさかその想像の中に俺達が来ちゃったもんだからこれまた驚きだよね」
「草通り越して森」
「ネットスラングやめて」
二人で話している時は王女らしさの欠片もない。
加えて悪役令嬢であるユフィらしさもなく。
「原稿、ラトタタによるものじゃなかったのよね?」
「そうだよ、また別な人がいるようだ、誰かは分からないけど」
「神様、だったりして」
「物語ではよくある要素だね」
「この世界に神様は?」
「いるよ、創造神たるものはいないけど、それぞれ強大な力を持った天精霊種の最上位に属するのが神って呼ばれてる。会いにいってみる?」
「行ってみよう、やってみようー」
好奇心は旺盛のようで。
元の世界にはまだ戻れないものの、これからまた様々な物語や展開が待ち受けているだろう。
「俺達の戦いはこれからだー」
「打ち切り感出すのやめて」
いやしかし。
まさに俺達の戦いはこれからなのかもしれない。
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