リエノリア-RienoliA- ~俺達の考えた物語の世界に転移してしまった件~

智恵 理陀

文字の大きさ
24 / 24

第二十四話.その先へ。

しおりを挟む
「あは、はぁ……」
「ラトタタ!」

 辛うじて暗器を盾にして直撃は防いだものの動ける体力はないようだ。
 木に凭れて座り、吐血もしていた。
 思ったよりも……重傷だ。

「だ、大丈夫?」
「敵の心配を、するぅ?」
「敵であっても君は、俺の作った登場人物だし」
「ボツにした、って付け加えてもらっても、いいかしらぁ」
「ご、ごめん……」

 暗器も大体が壊れてしまっている。
 戦える余力も武器もないならば無力も同然、このまま拘束といきたいがまだ何かあるのではという警戒心が彼女との距離を詰めさせてくれなかった。

「どうするぅ……? ボツにして一度殺した私を、今度はこの世界でもう一度、殺す?」
「それは、しない。したくないよ」
「……そう、意気地なしねえ。嗚呼……本当に憎いわぁ。ご都合主義に主人公補正というものかしらぁ、この差はぁ」
「かもしれないね」
「でも、これで終わりじゃないわぁ」

 何かまだ策があるのか?
 彼女の目も、諦めは宿っておれず、にやりと口角を吊り上げた。
 マッチに火をつけて、俺の足元へと投げ込む――俺がここへ歩み寄ると見越して爆弾を隠していた? それは……まずい!

「吹き飛ぶ様を見せてもらうわぁ!」
「てぇぇいっ」

 するとそこへ――予期せぬ人物の声が響く。
 俺の前へと立ちはだかる、その人物は――

「茜さん!?」

 同時に、爆発。
 視界が揺らぎ、耳鳴りが聞こえるが……無事だ、不思議と五体満足でいられる。
 いや、それよりだ。

「茜さん、大丈夫!?」
「アリアの防衛魔法、すごいわ」

 誇らしげに親指を立てて彼女は振り返る。
 なるほど、自ら前に立つことで防衛魔法を発揮させて爆発を防いだのか。
 こうなる事をまるで予測していたかのようだ。

「ああ、もう……いたのを忘れてたわぁ」
「こんな事もあろうかと、準備はできていた。すごいでしょ」
「あはぁ……イラつくイラつく、うまくいかなくて、本当にイラつくわぁ……!」

 頭を掻き毟り、彼女はゆっくりと立ち上がる。
 まだふらついていて思うようには動けまい、しかしこちらとしては警戒せざるを得ない。

「原稿……原稿はどこぉ……?」
「原稿、そう、そうだ。あの原稿や挿絵は君が寄越してきたのか?」
「違うわよぉ、私にもいくつか原稿は届いたわぁ。先の展開が書かれている原稿、あはぁ……貴方の力かと思ったけど、違うようねぇ」
「じゃあ誰が?」
「さぁねぇ、知っていても当然教えないわよぉこのクソ作り手がぁ」

 彼女はふらついた足取りで後退する。
 地面に落ちていた針を取り、俺達にはまだ戦意は見せるものの、今であれば容易く拘束できるであろう。

「そうか。他にも聞きたい事があるんだけど、じっくり話そうよ。拘束はするけどね」
「お断りいたしますわぁ、今日はこの辺で帰らせてもらうわよぉ」
「それは――」

 させない、と言おうとするも彼女は割り込んで叫ぶ。

「デュピオリアァァア!」

 地面が揺れる。
 デュピオリアがこっちに来るのか? また地面を吹き飛ばされたりでもしたらたまらない、少し彼女と距離を取って様子を見るか。

「次はぁ……もっと準備してからやるとするわぁ、帝国軍も寄せ集めばかりで勝つには至らないでしょうし」

 デュピオリアの影が俺達を包み込み、風と共にラトタタは目の前から姿を消した。
 跳躍していたデュピオリアに回収してもらったようだ。
 目くらましを兼ねてか周辺の木々を撒き散らしていく最後の攻撃――は、

「ご無事ですか!?」

 アリアの爆炎魔法によって跳ね返される、デュピオリアを追いかけてきたのだろう。
 丁度よかったよ、おかげで降ってくる木々を粉砕する必要はなくなった。

「こっちは大丈夫だ、君は?」
「私も無事です、お気遣いありがとうございます」
「……彼女、逃げちゃったね」

 既に彼女は遥か遠くへ。
 デュピオリアの移動速度は中々のものだな、これじゃあ追いつくのは難しい。

「仕方がないよ、無理に追いかけるのもやめておこう。それよりツェリヒさん達はどうなったかな!?」
「転移いたしましょう!」
「頼む!」

 こういう時もやはり転移魔法は便利だね。
 転移して崖上まで移動する、ラトタタを追い返したとはいえまだここの状況がどうなっているかが定かではないために気は抜けない―ーが。

「ふんっ、帝国の奴らめ。あたし達を舐めんなよなあ!」
「スウたん!」

 おやおや。
 彼女が活躍する場面かな?
 触れた岩石を自在に飛ばし、帝国軍の兵士達はされるがままに攻撃を受けていた。
 シュンゼルさんとツェリヒさんも敵陣で猛威を振るっている。
 執拗に盾を狙って耐久度を下げてスウたんの飛礫攻撃で盾を破壊し身体へダメージを与える、と。
 近距離と遠距離攻撃の連携がうまくいっている。

「ほらほら、ロルス人とちゃんと協力して陣形保ってねえ~。今更ロルス人と仲良くできないなんて言えないよねえ、共闘したら友達も一緒だよ~」

 ツェリヒさんも指揮をしてくれている。
 ラトタタが強引に引き連れてきたせいか、帝国軍はまともな指揮官すらおらず陣形も保てず崩れているようだ。
 このまま引き返すしか手段はあるまい。
「ほーら、かの有名な刺青の者もやってきたよ! 君達どうするよ、このまま我々とやりあうかい? ロルス人の援軍もあるんだよー、オルランテからも援軍呼び出せるよー!」
 口から出任せを言うツェリヒさんだが、ここでは効果は絶大だ。
 敵地に乗り込んで情報を全て掴んでいるとは思えない。
 彼らはツェリヒさんの言葉を鵜呑みにして、続々と退いていた。

「へっ、帝国も大した事ねえなあ」
「本隊じゃあなかったしまだ油断はできないねえ、オルランテにも報告して守りを固めようかぁ。しっかし世界獣っぽいのもいたけど……そいつぁ悠斗君達が?」
「ええ、こっちは片付きました」
「一件落着ね」

 茜さんは扇子を開いて締めた。
 最後以外特に何もしてなかったけど、どこか自分も大いに貢献したかのような、満足げな表情。
 それからはシュンゼルさんも俺達への警戒心が解けたのか、ロルス国へとすんなり案内してくれた。
 暫くはロルス国で過ごす事になるだろう。
 部隊の援軍も来ればロルス国は安全だ。
 後は……茜さんに頼んでロルスとオルランテ、両国の和解をしてもらいたいところ。
 オルランテはこれ以上の強引な領土拡大の停止、ペテルエル山に手出しはしない約束と、弱っているロルスの援助を――ロルスはオルランテへの攻撃停止と、帝国側との取引停止をってとこだな。
 だが後者は言うまでもなく帝国との取引はもうしないだろう。
 帝国側の思惑も見れたのだ、そして目的のためならばなんでも利用しようとするような国であると分かったのだから尚更である。



 あれから数日。
 オルランテとは違ってロルスは自然が溢れていて心地がいい。
 景色の良い部屋でゆっくりと過ごしていられている。

「暫くはここに留まって両国の橋渡しになればいいのね?」
「そうそう。茜さん、頼んだよ」
「任せて。設定も大体覚えたわ」

 ここ数日は俺の覚えている設定を彼女に教え込んでは、どう立ち振る舞えばいいのかなどは伝授した。
 オルランテからも使いがやってきては何度か互いに連絡をし合う日々が続いた。
 こっちには王女がいるのも影響が大きい、元老院も強引な手段は使えまい。
 お互いすぐに仲良くとはいかないものの両国が一度見直し改める最初の機会となる。

「両国の領土を巡る争いも終息に向かう、ロルス国王もオルランテから支給された薬で回復するし両国が協力し合えれば帝国も手を出しづらくなるね」
「次なる展開は人獣編?」
「そうなるかな、人獣族の動き次第だけど……世界獣編に入る前に世界獣出てきたのもあるからラトタタがまた変にかき回してくるかも」
「これで完結という事で元の世界に戻れたりはしないのかしら」
「どうだろうねえ……」

 完結の基準が俺達には分からないしね。
 そもそも戻れる方法も、条件も知らないのだからこればかりはもう祈るしかない。

「ま、この世界も悪くはないからまだゆっくりしていってもいいかも。頼りになる刺青の男と、最強の魔法士がいるから安全だし」
「それはどうも、しかし最強の魔法士さんはあれから引っ張りだこだなあ」

 小型とはいえ世界獣を追い返したアリア。
 ツェリヒさんの勧誘から始まり、魔法士達が教えを乞いにやってきたりして俺より彼女のほうが忙しい日々を送ってしまっている。

「悠斗より目立ってる、本当はあの子が主人公なのでは?」
「脇役キャラが主人公だった件、なんていう感じで一冊書くか」
「この物語より面白いかも」
「それはそれでショックだよ」
 茜さんはベッドでごろごろするのも飽きてきたのか、起き上がるや、
「ちょっと外、出よ?」
「外? いいよ」

 暇になる時間は増えた。
 アリアかスウたんにでも絡みに行くつもりかな。

「あ、シュンゼルさん」
「うむ」

 相変わらず寡黙的。
 割りと近くによくいるのは警護してくれているからだ。

「元気?」
「元気だ、王女様」
「私も元気」
「そうか」

 君達はあまり表情が変わらない者同士で何か通じ合うものがあるのかな。

「今日は天候はいいが、魔物も昼間から活発だ。あまり遠くには行くな」
「うん、塔で景色でも眺めるわ」

 ロルス国での俺達の行動はそんなに制限はされていない。
 まだまだ国民や兵士達からの警戒心は高いものの、王女である茜さんがこの国を堪能している姿がそれを和らいでいってくれているようにも見える。
 だからこそ、自由に行動させているのかもしれない。

「またね」
「ああ」

 山の中腹に築かれたこの国は防壁や塔がいくつも作られている。
 魔物の脅威から守るための防壁と、監視塔の役割をしている塔は重要な建築物だ。
 塔と塔は橋で結ばれており、それがいくつもあって波紋状に広がっているために遠くからみればロルス国が一つの巨大な塔にも見えなくもない。
 塔から見える景色はというと――

「絶景というのはこういうのを言うのかしら」

 穏やかに流れる雲を優しく切り裂く山々は幻想的で、魔物か獣か定かではないが鳥類がその山々を縫うように飛行している。
 視線を別のほうへと移せばオルランテに、広大な海も見える。
 ファンタジーな世界に来ている。ああ、とてもそれを実感できる。

「この景色に見えるもの全てが、俺達の想像から生まれたものなんだよね」
「想像力ってすごいね」
「まったくだ、でもまさかその想像の中に俺達が来ちゃったもんだからこれまた驚きだよね」
「草通り越して森」
「ネットスラングやめて」

 二人で話している時は王女らしさの欠片もない。
 加えて悪役令嬢であるユフィらしさもなく。

「原稿、ラトタタによるものじゃなかったのよね?」
「そうだよ、また別な人がいるようだ、誰かは分からないけど」
「神様、だったりして」
「物語ではよくある要素だね」
「この世界に神様は?」
「いるよ、創造神たるものはいないけど、それぞれ強大な力を持った天精霊種の最上位に属するのが神って呼ばれてる。会いにいってみる?」
「行ってみよう、やってみようー」

 好奇心は旺盛のようで。
 元の世界にはまだ戻れないものの、これからまた様々な物語や展開が待ち受けているだろう。

「俺達の戦いはこれからだー」
「打ち切り感出すのやめて」

 いやしかし。
 まさに俺達の戦いはこれからなのかもしれない。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...