リエノリア-RienoliA- ~俺達の考えた物語の世界に転移してしまった件~

智恵 理陀

文字の大きさ
23 / 24

第二十三話.英雄の声

しおりを挟む
「デュピオリラ、あの子狙ってあの子っ」

 ラトタタの指差す方向にはアリア。
 状況的には茜さんを狙われるのがこちらとしては不利になるのだが、彼女はあくまでも俺のお気に入りの登場人物を殺すのが目的で茜さんは眼中にはないようだ。
 おかげで茜さんはそれなりにすばやく木陰木陰へと移動して距離を取る事ができていた。
 俺は刺青の力を使い――駆ける。
 それに加えてアリアの補助魔法によって速度上昇もついている、デュピオリアが攻撃するよりも早くアリアの前へと移動し、俺はその拳に拳をぶつけた。
 過去の英雄の中には世界獣との戦闘経験がある者もいる、巨体に対しての戦闘知識を活用させてもらっている。
 体重移動は巨体にとって大きな影響を及ぼす、そのため攻撃に入る直前であったデュピオリアの上体は大きく揺れて不安定となった。

「攻撃魔法を頼む!」
「お任せを! 爆炎魔法を放ちます!」

 魔方陣が展開される。
 狙うならば――

「頭を狙って!」
「はい!」

 頭部へと爆炎魔法が放たれる。
 アリアの魔力量ならばその威力も高くなる、不安定ながら防がなければならない縛炎――世界獣は防御するもそのまま体が反り返った。

「あわ、わわぁ~!」

 そのまま頭にしがみついていたら世界獣に潰されてしまう。
 ラトタタは一度世界獣の頭上から離れて近くの木へ移った。

「追撃してくれ、俺はラトタタを!」
「防御力上昇、継続治癒をかけておきます!」
「助かるよ!」

 片手で付与魔法を発動しながら空いた手で縛炎魔法を放ってやがる。
 特に無理をしている素振りもなくだ。
 世界獣と十分にやりあえている、それどころか圧してるかもしれない。

「予想外な強さねえ、ああ~ぐっちゃぐちゃにしたい」
「そんな野蛮な言葉を口にするなよ……」
「綺麗な言葉で飾ればいいとでも? 違うでしょう?」

 それもそうだけど。
 彼女は木の枝に器用に座ってアリア達の戦闘を見つめていた。
 帝国軍がどうなっているのかも興味はなさそうだ。

「はぁ……貴方は私の作り手ではあるけど、最高の作り手ではなかったのが残念よ。というかこの物語も駄作よね、クソみたいな作り手よねえ」
「うっ……そ、そう言われると傷つくなあ……」
「そんな作り手様が私達を作り、お気に入りの登場人物以外はどうでもいいと自分勝手なんだもの。嫌がらせしたくなっちゃうわぁ」
「話し合いは……」
「できると思う~?」
「いや、できないよね」

 彼女はふわりと地面へ着地する。
 アリアの元へ向かうのであろう、俺には視線もくれない。

「行かせないよ」
「あはぁ……貴方は物語の最後を飾らないといけないのよぉ?」
「結末は俺が決めるよ、ラトタタ」
「困った作り手様ねぇ。仕方ない、四肢をもぎ取ってあの女をぶち殺す様子を眺めさせてあげるわぁ!」

 ようやく俺に視線を向けたと思いきや早速ナイフを振りかざしてくる。
 彼女の攻撃自体、避けるのは容易いが――

「くっ、は、速い!」
「でしょう?」

 思ったよりも、戦闘能力が高くないか?
 こんなに動ける登場人物には設定してないんだが。
 しかも、持っているのはナイフだけではない。

「ほら、ほぉら!」

 鋸に槌と、拷問器具を意識させるものが懐から続々と出てはそれらが頬を掠める。
 ジャラリと鎖の音がするかと思いきや、彼女はいつの間にか投げていた鎖を近くの木を支点にして死角からの攻撃も放たれていた。
 先端には分銅――暗器も持っていたか。
 辛うじて防御したもののこれは……キツい。

「うぐぅ……!」
「あはぁ。そう、それそれ、その苦痛に歪める表情、いいわあ!」

 骨に響く、重い攻撃だ。
 アリアの付与魔法がなければ腕は確実に折れていたであろう。

「動けなくしてぇ、貴方の目の前でアリアの解体ショーをするの、きっと楽しいわよぉ」
「させない、それだけはさせないよ!」

 女性に拳を振るうのは少々抵抗があるものの、そんな事言っていられる状況ではない。
 彼女は懐から更に武器を出してくる。

「今度は針か!」
「色々取り揃えたのよぉ!」

 少し大きめのコートを着ていたのは気になったが、どうやら様々な武器が収められているようだ。
 刺青の力に頼るだけでは足元を掬われる、それに思った以上の彼女の身体能力は中々隙を与えてくれない。
 ストームを使うや木陰へと瞬時に移動して避け、死角から針を投げてくる。
 掴むのは容易い、だが長期戦にはしたくないな。
 ツェリヒさん達もどうなっているか分からないしアリアのほうも、対抗できているとはいえ心配だ。
 帝国軍が俺達のほうにやってきて茜さんを襲う可能性もある。
 奴らもデュピオリアがついているとあれば士気も上がっているはずだ、頼りになるロルス人の地の利を活かしてもらえれば……それでも、どう転がるやら。

「みんなが心配~?」

 そんな俺の思考を読み取っては、悪戯に針をいくつも飛ばしてくる。
 針を避けた先は――

「くっ!」

 鎖分銅が頬を掠めてくる。
 森の中での戦闘は彼女のほうが有利だ。
 ではどうする? 広い場所といえばアリアがいたあたり、行くわけにはいくまい。

「そこそこ、そのあたりよぉ」
「んなっ!?」

 次はどう仕掛けてくるかと思いきや、怒声と共に上から降ってきたのはギガルガントスの群れだった。
 俺と戦いつつ、ギガルガントスをけしかけて誘導していたのかこいつ……。
 しかもいくつか負傷してやがる、軽傷で済ませてギガルガントスを興奮状態にさせているな。
 群れの数は八体、それに加えてラトタタを相手にしなきゃならないとなれば……不安だねえこれ。
 すぐにストームを使い、先行してきた四体を吹き飛ばす。
 各個撃破に回りたいが――ラトタタが今の攻撃と同時に物陰へ隠れてしまった。
 攻撃を誘って身を隠す機会を窺っていたようだ。
 ギガルガントスはこっちの事情も汲んでくれるわけもなく、容赦なく飛び込んでくる。
 一体ずつ、ああ、向かってくる奴だけ倒しつつ距離を取る。

「あぶなっ!」

 少しでも無理に踏み込もうとすれば鎖分銅と針、ナイフも飛んでくる。
 どこからともなく笑い声が聞こえてくる。
 必死に避ける俺を見て楽しんでやがるなあいつ……。

「悪趣味だぞこの野郎……」

 ギガルガントスとの戦闘を嫌って後退すればアリアの元へと近づいてしまう、ラトタタの狙いの一つだろう。
 後退は最小限で、木々の間に入る。
 ギガルガントスがその間に入ってきたところを狙って一撃――後続は倒れたやつが邪魔ですぐ来れず、倒した魔物を障害物として利用する。
 刺青の力が教えてくれる、本当にこの力はすごい。

「かしこいですわあ! 刺青の者、流石ですねえ!」

 鎖分銅が飛んでくるが、その支点がどこかを見定めればラトタタの位置も分かる。
 迂回しつつ、ギガルガントスを再び五体目、六体目と処理していき彼女のいるであろう位置まで距離を詰めていった。
 ある程度近づいたと感じたら――放てばいい。

「ストーム!」
「うぎゃ!」
「当たったか!」

 声は聞こえた。
 手ごたえもあった。
 しかしまだ姿は捉えられない。
 他の技が必要だ、刺青の力なら俺の想像するその力は――ある。
 体力の消耗が激しいために何度も使えるってわけじゃない。
 空振りは出来ないから、慎重に立ち回らなくては。

「俺なら……」

 物語を作る上で、俺ならこの後のタオカカの展開はどう書く?
 彼女は攻撃を受け、ギガルガントスも残り少ない――彼女とて長期戦は望まないはずだ、世界獣も回収してアリアを襲わなくてはならない。
 俺と戦う素振りを見せつつも、本命のアリアを殺すために動く――攻撃を受けて焦りが生じている今ならば、そんな展開になるかも。
 ギガルガントスはもう残り少ない、ここは一気にストームで動けなくした。
 こいつらに時間を割いている間が、やはり彼女の望む機会。

「ラトタタ!」

 声のしたほうへと行ってみるも、地面にはいくつか武器が落ちている程度。
 焦りが見られるな。
 彼女の心境を書くなら、今は……アリアを殺しにいって俺を精神的に追い込もうといった魂胆で頭がいっぱいのはず。

「落ち着け、集中しろ」

 森の中は方向が曖昧になる、ラトタタによっておそらく誘導されて俺の後方はアリアのいた場所とは少しずれているだろう。
 その方向も考えて、ラトタタがどういった移動をするか。

『そうだ、静かに、ゆっくりと呼吸して耳を澄ませ』
「んん!? この声は! 刺青の力の中に宿る英雄のタウェリテ・ガルファントさん!?」
『私の名を知っているのか、坊主』

 姿は無い、刺青の力から直接伝わるものだ。
 ユーリも英雄の声を聞くまでには少々時間を要したものだが、こっちは刺青の力の使い方は大体分かってる。
 おそらくそのおかげでもう英雄の声が聞けるのだ。

「ええ、そりゃあもう! 今からやる大技のコツでも教えにやってきたって感じですか!?」
『……そうだが。物分りがよすぎてお前、少し怖いな。今までの継承者は大体戸惑うのに』
「まあまあ! じゃあ早速お願いします! 敵はラトタタっていう少女一人で仲間のもとに向かってるんですよね! 彼女に一閃を食らわせたいんですけど!」
『では最初に言った通りにしろ』
「はい! ご教授お願いします!」

 うわー、タウェリテさんの声は俺好み。
 女性の中でもこう、凛として少し男らしさもあるような口調がよく似合う、俺の想像した通りの声だ――って喜んでる場合じゃなくて。

『刺青の力を発動していれば敵と認識した者の位置も把握できるだろう、感じ取るのだ』
「感じ取ります!」
『どうだ、いるか?』

 右手を突き出して周囲に向けてみる。
 ――いた、走っているのが分かる。

「いました!」
『そこに丁度いいのがある、そのナイフを手に取れ。媒体として使う』
「取りました!」
『雑音は耳に入れるな、雑念は払え。ナイフの先端に拳から力を移動させる感覚を得るんだ』

 言われたとおりにやってみる。
 自分でもやり方は分かるのだが、説明を聞いていると意識しやすい。

『後は、薙ぐ。それだけよ、さあやりな』
「はい!」

 ラトタタの方向へ。
 刺青の力を集中させて――薙ぐ。
 敵を確実に捉え、その方向へ神速の如く閃撃を放つ、その名も閃神撃。

「――っぁあ!」

 彼女の声が聞こえた。
 閃神撃が当たったか。
 この力は強力だ、一応抑えはした。
 ああ、抑えはしたのだが……目の前には焼け焦げて抉れた大地によって道ができてしまっている。

「はぁ、はぁ……! 抑えたのにこれほど、疲労感が、出るかぁ……」
『自身の身体能力をもう少し鍛えるんだね』
「そう、しますよ、タウェリテさん」

 後方も、閃神撃を放った時の衝撃で吹き飛んでしまっている。
 軽く自然破壊をしてしまったな。

『すぐに使いこなして威力も調整できるとはね。面白い男だ、また何かあれば、私は出よう』
「またお話しましょう! ではでは!」

 英雄とのお話はなんか電話しているような感覚だな。
 一先ずタウェリテさんのおかげで閃神撃もうまくいった、ラトタタがどうなったのか確認するとしよう。
 しかしこんなナイフを媒体にして、力も抑えてこの威力……剣であればどれほどの威力を発揮していたのやら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...