異世界の治療士達

智恵 理陀

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第四章

karte.033 変動

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 中々寝付けず、浅い眠りが目立つ夜だった。
 敵に襲われるかもしれない、もしかしたらと脳内でふつふつと沸いてくる度に眠りから遠ざかるの繰り返しで。

「はあ……」

 若干の寝不足。
 ルォウからの連絡があったら共に行動しよう、来なかったら来なかったで仮眠を取るのもありかな。
 それまでは……と俺はレイコの部屋へと足を運んだ。エルスは外出しているようで、今日は静寂が館を包み込んでいた。
 騒がしい奴がいないと館の雰囲気も別物だ。
 レイコの部屋に入り、室内を少し見回した。
 あまり片付けは出来ていない、薬を渡すのを忘れてしまっていた。
 まあ、あちらには薬など腐るほどあるだろうから持って行く必要はないだろうが、一応持っていくか。
 ここに置いてても腐るだけだ。
 ある程度片付けをして、ベッドの中に何かあるのを見つけた。

「……これは」

 本だ――ああ、見覚えがある。
 基本魔法の書かれた本――修練所で購入した中の一冊だ。
 あいつ……風邪を引いてる間もこれを読んで勉強していたんだな。
 俺が毎回部屋に入る時はぐったりしてやがったのに。
 こいつも持っていってやろう。

「ライザックさん、ルォウは来た?」

 広間では煙草を吸いながら、緊張感を帯びたライザックさんがいた。
 彼の視線が動くその方向を見やると、ルォウは六つの腕を振って存在を主張した。
 ルォウとライザックさんが同じ空間に二人きりでいたのは珍しい、何を話していたのか気になるな。
 ペルセルさんの話を聞いたら特に。

「昨日はよく眠れた?」
「その質問の答えは顔に書いてあるからよく見るといいぜ」
「ん、んー。眠れなかったようねえ」

 ルォウはよく眠れたのかね。
 顔からは寝不足は感じられない、ライザックさんと一緒の空間にいられて幸せそうにも見える。

「ルヴィン、これを見ろ」
「これは……依頼書?」
「そうだ、それも大物のな。昨日に各区でそれぞれ急募の依頼が一件ずつ入っていたようだ。白金級が必須のような依頼がな」

 急募となれば早々に出向かなくちゃならない。
 しかもそれで依頼をこなせば評価も普通のものより高い。

「各区の上位連中は慌しくなってるさね、もう出発した治療士もいるし」
「ジアフは?」
「反応なし、ジアフの館にもいなかったしジアフ派の治療士達も探してるようだけど、きっと見つからないでしょうね」
「今この都市は……上位の治療士が手薄か」
「そういう事だ」

 敵はもう動いていると思っていいのだろうか。
 レイコを昨日中にギルドへ預けておいて正解だったかもしれない。しかしギルド本部も安全かどうかは……分からないのだが。ここよりはマシか。

「今日はギルド本部長代理も来ていて街全体が慌しい、俺は単独で街を回ってみるとする」
「あたし達と一緒に行動しないのぅ?」
「単独のほうが俺には合っている。お前達はどうする?」

 なんだか残念そうなルォウだが、すぐに気を取り直して、

「ジアフ探しするさね。ギルド本部に寄ってみようとあたしは思ってるけど、ルヴィンは?」
「俺も同意見だ」
「じゃあ早速行動しましょうかね、後はこれを渡しとくわ」
「これは?」
「魔力式小型無線機よ、便利でしょ?」

 欲しいと思っていた無線機。
 もしかしてくれるのか? なんて思うものの、

「貸すだけだからね」

 期待の眼差しに対して先制を打たれた。
 この期待の眼差しがライザックさんやレイコだったら、どのような判断をしていたのだろうか。

「何かあったら連絡して」

 ライザックさんに手渡すルォウ。
 言葉には別の意味もありそうに聞こえてくる。

「助かる。ルォウ、ありがとう」

 ルォウの六つの腕が、一瞬ピタッと止まった。
 少しの間を開けて、またいつも通りのわしゃわしゃといった動きになるが普段よりも少し速いような。

「い、行きましょうかっ」
「顔赤くない?」
「赤くないさね!」

 足早に外に出るルォウ。
 見てて楽しい、俺の知っているルォウという人物のメッキが剥がれるのを目の当たりにするようで。

「ジアフは中央区か、ギルド本部にいるかしらね」

 本来ならば彼のような有名人は歩いているだけでどこどこにいたなどという話が通行人から流れてくるのだが、そういったのも無いとなれば身を隠しているのであろうが……それも聞けないとなれば、この広いセルヴェハルの中から彼を見つけ出すのは困難だ。
 あっちからいつものようにやってきてくれれば苦労しないんだがなあ。
 ライザックさんは南区の方向へと足を運んでいった。
 各区を回ってみるつもりなのかもしれない。

「帝国が攻めてきやしないだろうな」
「ジアフと帝国がどれほど繋がっているのか分からない以上、可能性は無きにしもあらずってとこね」

 もしかしたら戦争になるかもしれない。
 戦争――そんな二文字など今では程遠いものになった世の中だが、それは無くなったわけではないのだ。

「とりあえずギルド本部に行きましょうか、レイコちゃんが休めてるかも確認したいし」
「レイコに会いたいだけじゃ?」
「そんなことないわよう」

 どうだか。
 しかし俺達が闇雲にジアフを探すよりもギルド本部周辺にいたほうが何か掴めるかもしれないってのはある。
 この都市に何かあれば真っ先に動くのはギルド本部だ、中央区内にいれば情報をすぐに把握しやすい。

「思えば……ギルド本部長代理も来てるし、レイコもギルド本部にいるんだよな……」
「匂うさねえ」
「なあ、俺達がレイコをギルド本部に入院させたのももしかしたらジアフの企みの一つだったんじゃ?」
「警備が厳重になる日にあそこで何かするとも思えないけど、何か計画に合わせられたような気もしてきたわね」

 ギルド本部に到着するや、見るからに警備がいつもよりも多く、厳重さが窺えた。
 中に入っていいものかと躊躇させるほどだ。

「入っていいのよね?」
「俺に聞かれても困る」

 恐る恐るながら、入り口へ近づき――警備の目が俺達に向けられる。

「レイコの見舞いに来たとか言えば大丈夫かしら?」
「問い詰められる前提で行くより中に入ってみないか?」
「それもそうさね」

 視線が痛いものの、意外とすんなり中には入らせてくれた。
 ただ、中に入るやいきなり別の警備がやってきて持ち物検査をされたが。

「本日はどのようなご用件で?」
「昨日搬送されたレイコちゃんのお見舞いさね」
「レイコ様、ですか?」

 職員は手元の書類やモニタを交互に見るも、

「搬送の記録はございません、ルヴィン様のご自宅で療養中のはずですが……」
「なんだって……? 昨日フリュウゲさんが来てちゃんとレイコを預けたぞ?」
「何かの間違いでは? フリュウゲ・ミスラは三日前から長期休暇に入っておりますよ」

 ……まさか。
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