俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨

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1章 魔法少女とは出逢わない

1章38 THE DARK IN THE WALL ⑥

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 みらいさんによるスマホチェックが続いており、これは先日強引なやり方で彼氏でもない男子のスマホチェックをした報いなのではと、希咲は心中で涙を流す。


「そんなイケイケな七海ちゃんのスマホですが元カレとのやり取りが全く残ってません。これはどうしたことでしょう」

「え? あ、えっと……、ブロック……っ! ブロックしたの!」

「へぇー。七海ちゃんは別れると即ブロックする女なんですね」

「ぅぐ……っ! み、未練……? 未練を残さないようにバッサリと……っ! やさしさで……っ!」

「へー、そーなんですかー」

「てか、もういいでしょ! あんたが喜ぶようなもんは何もないから!」

「……とか言いつつ、おっとぉ? こ、これは――っ⁉」

「――えっ⁉」


 疚しいものが何もないから今こうして嘘を重ねてドツボにハマっているのに、大げさな望莱みらいのリアクションに七海ちゃんはつい不安になってしまう。

「な、なんかヤバイもんあったっけ……?」とそろぉーっとスマホを覗き込む。


「ヘンなアカウントとやりとりしてる形跡を発見しました!」

「ん? ヘンなアカ……?」

「なんかめっちゃ捨て垢っぽいやつです! おじさんがチン凸するために使ってるアカウントみたいなやつ!」

「は? なにそれ?」

「ほら、これです。このパスワードみたいな怪しいアカウントです」


 望莱が指差す名前を見てみると、それはここ数日で見慣れ始めたアカウントだった。


「あぁ、コイツか」

「パパ活ですか⁉ 秘密の待ち合わせの連絡用ですか⁉」

「そんなんじゃないわよ」

「じゃあやっぱりチン凸ですね! うおぉぉーーっ! チ〇コはどこだー! さがせーっ!」

「あ、こらっ! 乱暴に触るな! そんなのないからっ!」


 凄い勢いでスマホの画面を縦スクロールさせる望莱を止める。


「あんた何いきなり興奮してるわけ?」

「え? だってチ〇コですよチ〇コっ。女の子はみんなチ〇コが大好きじゃないですか」

「好きじゃねーよ!」

「えー? でも七海ちゃんはいっぱいチン凸されてそうですよね? たまに自撮りあげるとすごい勢いで男が群がってくるじゃないですか」

「キモい言い方すんな。てゆーか、そのチン凸ってなによ?」

「チン凸はチン凸ですよ。DMとかで知らないおじさんとかエロガキのチ〇コの写真が送られてくるやつです」

「チッ――⁉」


 知らぬこととはいえ、自分が男性器を表す言葉を口にしていたことに七海ちゃんはびっくりする。


「そんなもん送られてきてないっつーの!」

「えー? 高2なのにー?」

「高2はカンケーないでしょ! そもそもフォローしてないとDM送れないようにしてるし!」

「つまんなーい」

「ガッカリするな! なんでそんなに見たいのよ。てゆーか、ヘンな言葉言わせんな!」

「えー? チ〇コくらい普通じゃないですかー? 七海ちゃんくらいになったらいっぱいチ〇コ見たことありますよね?」

「あるわけないでしょ! そんなもん見たくないし!」

「へぇー」


 男性経験は4人あるが男性器は見たことがないと主張するお姉ちゃんにみらいさんはニマニマとイヤらしい笑みを浮かべる。


「な、なによ……、その顔っ!」

「えー? だってー、七海ちゃんはHしたことあるって言ってたのにヘンだなーって……」

「あっ――⁉ ち、ちがうのっ!」

「違うんですか?」

「そ、そうよっ! え、えっと……、写真っ! 写真ではないって意味っ!」

「そうなんですか? じゃあ、生チ〇コは見たことがあるんですね?」

「あ、当たり前でしょっ」

「いつですか?」

「えっ⁉」

「一番最近見たのはいつですか?」

「え、えっと……、いつって……」


 七海ちゃんはお目めをキョロキョロさせてオロオロとする。


「ちなみに、ちっちゃい頃の弟くんたちはノーカンですよ」

「わ、わかってるわよ……!」

「ホントにあるんですかー?」

「うっ……、そ、それは……」

「えー? まさかチ〇コ見たことないんですかー? 高2なのに? そんなのダサすぎませんー?」

「あっ、あるもんっ!」

「じゃあ、いつですか?」

「え、えと……、だから……」


 七海ちゃんはキョドキョドしながら、ないとわかっている記憶を一生懸命探す。


 絶対絶命かと思われたその時、先程のようにモヤモヤーっとあるはずのない記憶がイメージに浮かぶ。



――学園の廊下。

 そこに自分はペタンとお尻をつけて座っている。

 目の前には男の下半身。

 目線の高さにあるのは腰あたり。

 カチャカチャと音を鳴らし乱雑な仕草で男の手がベルトを外す。

 どうしてこんなところでと固まっている内に、ジッとジッパーの擦れる音が鳴る。

 すっかり混乱してしまった自分は「止めなきゃ」と何故か考えてしまって。

 身を乗り出して、手を伸ばして、でもそんな自分に構わずに彼の手はズボンもパンツも一緒くたにズルっと下げた。

 顏から数十㎝も離れていないところでボロンっと知らないモノがまろびでて――


「――いにゃあぁぁぁーーーっ⁉ しねぇぇぇーーーっ‼‼」

「わっ――⁉」


 またも突然大絶叫した希咲に驚いて、こちらも先程の焼き増しのように運動神経クソザコの望莱がコロンと転がる。


「どうしたんですか七海ちゃん。はしたないですよ?」

「なななななんでもないのっ!」

「なんでもない人がいきなり『いにゃーしねー』なんて叫ばないですよ」

「だいじょうぶだからっ! セーフだったの!」

「そうですか。セーフだったんですね。よかったです」

「そうなの! 見てないから見たことにならないしセーフなのっ!」

「なるほど。よくわかりました。つまり、七海ちゃんはおち〇ちんを見たことがないと」

「ないもんっ! だってセーフだったから……っ!」

「たしかに。だってセーフですもんね」


 真っ赤になった顔を手に持ってくしゃくしゃにしたサイドテールで隠す彼女の涙ぐんだ目を見ながらみらいさんは「うんうん」と適当に肯定をしてやる。

 希咲 七海は4人の男性経験があるが男性器は目視したことがない、別れた男は根こそぎブロックするモテモテのギャル系JK(高2)であるという結論に落ち着きそうだ。


 ニコニコしながら適当な相槌をうつ望莱へ言い訳のようなものを捲し立てる希咲はふと何かに気付き目線を下げる。


 今自分自身の手で顔に巻き付けている髪の毛。


 その感触に紐づいた、先程の記憶のイメージのさらに続きがもやもやーっと頭の中に浮かぶ。


――バカ男が公共の場で突然脱衣をして。

 彼氏じゃないから自分が見ちゃいけないモノなので、慌ててそれを視界から消そうと勢いよく顔を下に向けて。

 そのせいで頭の左側で括っていたサイドテールがぶぉんっと回って、ナニかをペチっとして。

 そうしたらアイツが「いてっ――何すんだ希咲」と言って――


「ぎゃあぁぁぁーーーっ! しねぇぇーーーっ!」

「んもぅ、うるさいですよ七海ちゃん」


 再びの絶叫だが、みらいさんは既に「うんうん」肯定することに飽きていて、希咲のスマホを弄りながら興味なさそうに注意する。


「お……、おふろっ……!」

「え? なんですって?」

「おふろっ! 掃除してくる……」

「なんですか? 突然。今は七海ちゃんのスマホチェックの時間ですよ」

「ダメなの! お風呂入んなきゃいけなくなっちゃったの!」

「何を言ってるんですか。そんないきなりお風呂に入らなきゃいけなくなることなんてあるわけないでしょう?」

「あんただってさっき言ってたじゃんっ!」

「私はもう大丈夫です。乾きましたから」

「は? え? かわく……?」

「七海ちゃんは乾いてないんですかー?」

「そんなこと聞かれても、いみわか――」


 何を訊かれているのかわからずに首を傾げようとして、希咲はまたも記憶の中の『なかったことシリーズ』の一つが脳裡に浮かぶ。


「――か、乾いてたっ! もう乾いてたからっ!」

「なんだー。乾いてるんですかー」

「そうっ! だからセーフだったの! だからノーカンなの!」

「ノーカンなのはセーフなんですね。納得です」


 間接べろちゅーなどなかったのだと希咲は必死に主張するが、詳しい事情を知らない望莱には当然伝わらず、彼女も適当に応対しながら希咲が落ち着くのを待つ。


「そんなことより。ザっと見ましたけど、ないですね。このおじさんのち〇ちん写メ」

「だからないって言ってんじゃん。つか、おじさんじゃないし」

「あら。知ってる方なんですね……、って、それもそうか。やりとり見る限りそんな感じですね。どちらかというと、粘着してるのは七海ちゃんの方に見えます」

「なんでよっ! 誰があんなヤツに粘着するか!」

「あんなヤツ……、あ、もしかしてこの人ってあの先輩ですか?」

「……どの先輩よ」

「ほら、こないだ七海ちゃんと正門前でえっちしてた先輩です」

「してねーよ! ひっぱたくわよっ」

「やーん、こわいですー」


 とんでもなく不名誉なことを言われ希咲は眉を吊り上げる。プリプリ怒るその姿はすっかりといつもの調子だ。


「……弥堂よ。ビトー!」

「あぁ、そうでした。弥堂先輩ですね」

「なんで覚えてないのよ。あんなに親し気に絡んでいったくせに」

「いえ。ああいう風に男の子に接すると結構好きになってもらえるので」

「アイツを好きにさせてどーすんのよ」

「特に理由はないんですけど、何やら七海ちゃんと仲良さげな見慣れない男のひとを、わたしに惚れさせたら面白いことになるかなって」

「あんたヤバすぎ……」


 まったく悪びれもせずにニコやかに言う望莱に希咲はげんなりとする。彼女はこれで悪気はなく、それでいてマジで言っているのでタチが悪い。


「まぁ、結果的に全然ダメでしたけど。逆にあそこまでカケラも興味を持たれないことが新鮮でした」

「……アイツにちょっかいかけないでよね」

「おや。もしかして狙ってました? 5本目のマイチ〇コとして」

「狙ってねーよ! てゆーか、あんたさっきから言い過ぎっ!」

「言い過ぎ? なにがですか?」

「だから……、その……」

「大丈夫です。ここには女の子しかいません。思い切って言っちゃいましょう」

「わかってんじゃねーか、このやろー。絶対言わないからっ……!」

「はい。もちろんわかってますよ。水無瀬先輩ですよね?」

「話を混ぜるな……、そうだけど……っ!」


 彼女には話をなんでもかんでも自分が面白おかしく感じるように引っ掻き回すきらいがあり、それに長年引っ張り回されている希咲は疲れを感じている。


「とにかく……っ! 愛苗のこともそうだけど、それがなくてもあんたとアイツの組み合わせとかマジ最悪だから、絶対に絡まないでよ!」

「えー? ひどいですー」

「うっさい。いいから言うことききなさいっ」

「はーい」


 軽い返事を返しながら望莱は希咲と弥堂のやりとりを見ていく。


「なんか、七海ちゃんずっと怒ってますね。これ」

「……しょうがないじゃん。あいつムカつくんだもん。てか、あんま細かく見るな」

「いーじゃないですかー」

「よくないわよ。たしかにムカつくヤツだけど、知らないとこでメッセのやりとり見られるのは可哀想でしょ。……あっ、見られて困ることがあるって意味じゃないからね!」

「ちょっとだけ。さきっちょだけですから」

「いみわかんない。……アイツ、多分すっごい人間嫌いだから、こういうこと絶対イヤがると思うの」

「なんですか。その理解のある感じ。『あたしだけはわかってる』みが溢れてます」

「チャカすな!」

「ぶー。七海ちゃんはわたしよりもこの男が大事なんですね――って、なんじゃこりゃあぁぁーーーっ!」

「わっ――⁉ な、なにっ……⁉」


 のらりくらりと冗談染みたことを口にしていた望莱が突然眉を吊り上げてガバっと身体を起こす。


「なんですかぁーーっ⁉ このスタンプはぁーーっ⁉」

「スタンプ……?」


 小首を傾げて望莱の指差す箇所を見ると、それは弥堂が唯一使用するスタンプがあった。

 七海ちゃんはちょっとムカっときた。


「……それはアイツが送ってきたスタンプよ。なんかムカつくのよね」

「ふぉぉぉぉっ! 第三者のわたしでも見てるだけでムカついてきますっ! これはアレですね! 噂の『他人を激怒させるスタンプ』です!」

「は? なにそれ?」

「送り付けた相手がこれを見ただけで怒り狂うと評判のスタンプです!」

「え? 有名なの? 初めて聞いたんだけど……」

「ちなみに7800円で販売されてます」

「バカじゃないのっ⁉」


 あまりにぶっ飛んだ値段設定に七海ちゃんはびっくり仰天し、大至急お風呂で洗いたいとさっきまで思っていたサイドテールをぴゃーっと跳ね上げた。


「は? 7……、えっ……? ななせん……っ⁉」

「ちっくしょぉーっ! やっぱりわたしも買っとけばよかった! こいつはキクぜぇ……!」

「やめなさいよ、ばかっ! こんなもんにそんな大金、いみわかんないっ!」


 超庶民派ギャルである七海ちゃんは顔を青褪めてプルプル震える。


「この男……っ! 覚悟を感じます……っ! 七海ちゃんを怒らせるためには手段を選ばないと……! 自らが痛手を負うことさえ厭わない……っ! 圧倒的覚悟……っ!」

「大袈裟な物言いすんな! ホメてるみたいじゃない。ただ頭おかしいだけでしょ」

「いいえ……! 正直わたしはあの先輩を侮ってました。本音を言えば悔しいです。わたしがそのスタンプを七海ちゃんに送る最初の人間になりたかった……っ!」

「ふざけんなっ! 結局あたしがムカつかされんじゃん! あんた絶対買うんじゃないわよっ!」

「でも悔しいんですっ!」

「うっさい!」


 パフっと拳をベッドに叩きつけて憤る望莱に希咲もガーッと憤った。


「そんなことより反撃です! こいつぁ許せねぇですよっ!」

「え? あ……、ぅうん……」

「むっ……⁉」


 義憤を燃やし望莱は立ち上がろうとするが、希咲の歯切れが急に悪くなりそれを見咎める。


「どうしたんです? 急に。七海ちゃんはこんな侮辱を受けて泣き寝入りするんですかっ?」

「うーーん……、そういうわけじゃ、ないんだけどぉ……」

「……というか、最初の方はけっこうやり返してますね……、けっこうっていうか、うわっ、これは地獄の連レス。きついです」

「きついってゆーな! だってムカついたんだもん!」

「でも昨日はやり返してないですね。こんなことされたのに、誕おめしてあげるなんて優しすぎます。まさかこの1日の間に抱かれたんですか⁉」

「んなわけねーだろ! あんたと一緒にこの島にいただろーがっ!」

「じゃあ、ここに居なかったら抱かれていたということですか⁉」

「そんなこと言ってないでしょっ!」

「だったら何だって言うんですかぁーーっ!」

「なんであんたがキレてんのよっ⁉ あたしが怒ってんでしょ!」


 年下のくせにパワハラをかましてくる望莱に怒鳴り返してから、希咲は俄かにお口をもにょもにょさせる。

 なにか言いづらそうにお目めをキョロキョロさせながら、ふとももをモジモジさせる仕草に萌えてみらいさんはニッコリした。


「……その、なんていうか……」

「はい」

「……コイツね。相手が女子とかってことじゃなくってね、たぶん、こうやってフツーにメッセするひと誰もいないっぽくって……」

「同情してモテ女子である七海ちゃんが接客してやったと?」

「ヤな言い方すんなっ! そうじゃなくって、同情……もあるのかもしんないけど……」

「けどけど?」

「……たぶんさ、アイツってばスタンプとか使ったことないっぽくって……」

「はい?」

「初めてスタンプ使ってみて、楽しくなっちゃってさ……、だからスタンプしたくて、でも他にメッセしてくれる人いないし……。そんで、あたしにこういうことしてくんのかなーとかって考えちゃって……」

「はぁ……」

「……ちょっとカワイイかも……、って思っちゃって……」

「…………」


 望莱は、男のことをカワイイとか言い出す女はダメ男に引っ掛かり、そしてそのダメ男をさらにダメにするタイプのダメ女であると考えている。

 自分の幼馴染のお姉ちゃんが順調にそんなダメ女に育っていっていることを感じ取り、みらいさんはお胸がキュンキュンしてニッコリと笑顔になった。

 あと、このように終始口喧嘩をし続けるようなやりとりは決して普通のメッセージ交換ではないとも考えているが、このままの方が面白そうなのでそれは一旦置いておいた。


「なっ、なによその顔っ……⁉ ちょっとだから! ちょっとだけだから……っ!」

「はいはい。ちょっとだけだからセーフですよね」

「そうよっ! セーフよっ!」

「七海ちゃんの言うとおりだと思います。男の子のイタズラがカワイイなーって思ったから許してあげちゃっただけですもんね?」

「ん? んん……? なんかニュアンスがおかしいような……」

「そうですか? さっきそう言ってたのに……」

「んー……、でも、そうね。ちょっとムカつくけど、他にこういうの出来る人いないだろうからカワイソウだし、ちょっとだけなら好きにさせてあげてもいいかなって……」

「んもぅ、七海ちゃんはえっちすぎます」

「なんでよっ! そんな話してなかったでしょ!」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。是非そのままの方向性で……、あらっ?」

「ん? どした?」


 ニマニマしながら希咲を唆そうとしていた望莱が急に真顔になり、スマホに視線を集中させた。
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