とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

文字の大きさ
126 / 564

第125話 2人のオービン

しおりを挟む
 フェルトの横に立つオービンがルークたちへと話し掛け始めた。

「ルーク、トウマ君、ヒビキ。フェルト君が言っている事は本当だよ。フェルト君は、たまたまここに潜入していて、俺を助け出してくれたんだ」
「どいう事なんだ? もー全く話しについて行けなくなって来た」
「ヒビキがそう言うのも無理ないな。今ヒビキの前にいる俺は、フェルト君が言う通り偽物なんだ。ここの組織のある人物が、俺になり変わって王国を陥れようとしていたんだ」
「!?」

 その言葉を聞き、ルークとトウマが振り返り拘束されているオービンの方を見る。
 オービンは必死に反論しているが、黒いローブを来た奴らによって声を音によって相殺させられており、口だけがただ動いていると言う状態であった。

「このオービン先輩が偽物……」
「兄貴……」

 そこにフェルトが追い打ちを掛ける様に話し出す。

「現に、そこの偽物のオービンは拘束されているだろ。一度捕らえたが逃げ出したんだよ。今じゃ、なり変わった魔法が弱まって声すら出ずに、反論すら出来ない状態だ」
「(違う! そいつが言っている事は嘘なんだ! ……ぐっ、声が出ない以上伝えられないか……どうすればいい)」
「皆直ぐにその偽物から離れるんだ。いつ襲い出すか分からないからね」

 フェルトの傍にいるオービンがルークたちに注意を促しつつ、フェルトたちはルークたちに少しづつ寄り始める。

「こっちが偽物で、あっちが本物? あ~タツミ先生の時みたいじゃねぇか! どうなってんだよ!」
「迷う事はないぞトウマ。俺もいて、オービン先輩もこっちにいるんだ。近くにいる奴が偽物に決まってるだろ」
「フェルト……」

 トウマの心がフェルトの言葉に傾きかけた時、ルークがフェルトに向かって問いかけた。

「フェルト、俺はお前がここに居る事が信じられないし、そっちの兄貴の方が本物と言う理由も信じられない。お前はどうやって傍の兄貴を本物だと見極めた?」
「理由は言ったろ、任務で潜入していたからここに居るんだよ。本物かどうかなんて簡単さ、そこの偽物が俺の目の前でオービン先輩に変わったからだよ」
「それで一度捕まえたと?」
「そうだ。怪しむのも信じられないのも分かるが、俺の事を信じてくれルーク」

 フェルトの言葉にルークは暫く黙った後、もう1つ問いかけた。

「じゃ何故、最初に会った時にそれを言わない?」
「っ……」

 とフェルトが言葉に詰まっていると、傍にいるオービンが代わりに答えた。

「それはその場で話すよりも、確保を優先した方が良いと判断したからだよ。話している内に逃げられるだろ、こんなややこしい話しをしていたら」

 その答えにルークは「確かにな」と呟きそのまま、拘束されている方のオービンの方を向いた。

「(どうする? どうすればこの状況を打破出来る? 声を出すようにする? いや、それだけじゃ難しい……)」
「おいオービン。さっきから何で魔法を使わないんだ?」

 突然ヒビキが口を開き問いかけると、2人のオービンがヒビキの方を向く。
 ヒビキは「奥の方だよ」と付け加えた。

「お前は拘束されてないよな? だったらさっさと力を使えばこんな事になってねぇよな? てかそもそも、お前が誘拐される事自体がおかしいだろ? 何で誘拐されてんだお前?」
「それは……病気のせいなんだ」
「病気?」

 フェルトの傍にいるオービンは、ヒビキに対して自身が抱えている病の事を明かした。
 その上で魔力がまだ戻ったばかりの所を狙われて誘拐されたと話し、これ以上悪化さない為に極力魔法や魔力の使用を控えていると伝える。

「へぇ~だから使わないと……嘘付くんじゃねぇよ、オービン。いいか、お前って奴はなくそが付くほど真面目でお手本みたいな奴だ。それに誰にも弱みを見せない奴で、どんな状況でも自分より他人を心配する奴だ。自分は第一王子だからとか、寮長だからと言わんばかりにな。ましてやこの状況で、病だからと言って無理をしないはずがないんだよ、あのオービンが」
「っ!」
「とは言っても、お前が偽物とも本物とも言えないのに変わりはない。だから一番手っ取り早いのが、当人同士で戦わせる事だな」
「オービン先輩同士で」
「戦わせる?」

 ルークとトウマが口を開くと、フェルトが割って入って来た。

「そんな必要はありませんよ、ヒビキ先輩! こっちにはそいつが偽物だと分かっているのですから!」
「お前らが分かっても、俺たちは知らないしどっちがどっちだか見分けがつかないんだ。そいつが本物なら戦っても問題ないだろ。それとも、はっきりさせたくないのか?」
「そ、そんな事はないですが……無駄に時間を使う必要はないと言うだけです」
「俺たちにとっては無駄じゃないぞ。そうだろ、ルーク、トウマ」

 ヒビキの問いかけにルークは頷き、遅れてトウマも2度頷く。

「(ヒビキ、やっぱりお前は凄い奴だな!)」

 フェルトは少し顔を歪めていると、隣にいたオービンが軽く肩を叩き前に出た。

「ヒビキがそこまで言うならやろうじゃないか。まぁ、結果は分かっているけどね」

 そう言って、フェルトの隣にいたオービンが拘束されているオービンに近付いて行く。
 その時だった、側面の壁の一ヵ所が突然崩れ大きな穴が開いた。
 壁が崩れた音にその場の全員が反応し、その方向を向くと奥から複数の足音が聞こえて来た。

「何だ? 崩れたのか?」
「いや、誰か来るぞ……」

 トウマとルークが呟いた直後、崩れた箇所の穴の奥から現れたのは王国軍の服装をした人物であった。

「広い空間に出ました。ん? 正面に複数の人影を確認。何やら対立している様な雰囲気です」
「対立? 内部で仲間割れでもしたか?」
「そんな訳ないだろう、カビル」
「何だとエス? 可能性としてはゼロじゃないだろうが」

 一番目に現れた王国軍兵士の後ろから、同じく王国軍の服を身に纏った王国兵が2人現れる。
 それは王国軍でサストが隊長を務める部隊の中隊長である、カビルとエスであった。
 その後ろから2名の王国兵が奥から現れる。

「(あれは王国軍。もう来ていたのか)」
「確かあの服装は王国軍……やっぱりあの時の衝撃音は王国軍がやったものだったか」
「王国軍が来たのか!?」
「どこの部隊だ?」

 ルークたち4人はそれぞれに思うことを口にしているが、一方でフェルトは顔を大きく歪めていた。

「(ちっ! 別同隊が居たのか、面倒な事になったな……だが、まだ問題ない。向うも、俺たちの事を分かっていないだろう。ひとまずこの空間に使用した魔法を解除させるか)」

 するとフェルトは小さな音で近くにいた黒いローブを来た奴に合図を出し、ルークたちが先に掛かっていた魔法を解除させて先手を取る様に王国軍へと話し掛けた。

「あっ! 来てくれたんですね! た、大変なんです! オービン先輩が2人いて、どっちが本物か見分ける為に戦う所だったんです!」
「オービンだと? おい、あそこにいる奴今第一王子の名前を言わなかったか?」
「いいましたね。確かに、目の前に第一王子の姿を目視できます。しかも2人も」

 さすがにこの状況に、カビルとエスの班全員驚いていたがすぐにカビルが指示を出した。

「ひとまずこの場にいる全員を確保する。全員その場を動くな!」
「「!?」」

 ルークたちを含め、フェルトもその発言に驚きを隠せずにいると王国兵たちが動き出す。
 するとフェルトが黒いローブを来た奴らと拘束されていないオービンに対して、小さな音で何かを合図を出した。
 直後、拘束されていないオービン以外のフェルトと黒いローブを来た奴らが来た道を戻る為に、走り出す。
 それを見逃さずにエスが指示を出した。

「一人たりとも逃がすな!」

 その指示に2人の王国兵は2人の黒いローブを来た奴らを追い、カビルともう1人の王国兵がフェルトたちの方を追い始める。
 王国兵が逃げる黒いローブを来た奴らの足元目掛けて、動きを止める雷系の魔法を瞬時に放つも黒いローブを来た奴の1人が懐から1枚のシートを取り出し広げると、そこに魔法は吸収されてしまう。
 直後もう1人の黒いローブを来た奴が魔道具と思われる球体を3つ投げつけると、そこから黒い煙幕が飛び出て来て見失ってしまう。

 もう一方のフェルトたちの方は、カビルが快速を飛ばし一番後ろの黒いローブを来た奴に手を伸ばす。
 しかしそいつはカビルの存在に気付き、片手を出して魔法を放とうとするもカビルはそれに直ぐに反応し手で捕らえる事を辞め、足元へのタックルへと変え突っ込み1人の黒いローブを来た奴を押し倒す。
 そして後方から来た王国兵にそいつを任し、もう1人の黒いローブを来た奴を狙い腰に付けていた短棒をワンタッチで槍状の棒へと変化させる。
 そのまま魔力を籠めてから、相手に向けて投げつける。
 狙われた黒いローブを来た奴はかわすも、カビルは魔力制御を使い込めた魔力を引き寄せ始め当てようとするも、フェルトの魔力創造により地面から壁を造られ弾かれてしまう。
 そのままフェルトともう1人の黒いローブを来た奴はその場から逃げてしまう。

「ちっ、逃げられたか。だが、1人は確保した。エス! そっちは問題ないか?」
「ひとまずこちらは反撃なく確保した」

 カビルの問いかけにエスはそう言って返すも、軽くため息をついた。

「さて、これはどうしたものかな……」

 エスは目の前にいるルークたちよりも、オービンが2人いる事に頭を悩ましていたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

処理中です...