とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第132話 救いのない選択肢

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「やっと追いついたぞ、クリス」

 そう言ったルークは少し息を切らしつつ、トウマも同じ様に少し息を切らしていた。
 ロバートはルークたちの方を見て私の方を再度見て何かに気付く。

「……服が同じと言う事は、お前ら同じ学院生か。私はお前らに構っている暇はないんだ。さっさと帰りたまえ」
「帰って欲しいならクリスを返せ」
「もう一度だけ言おう、さっさと帰れガキ」

 ロバートの鋭く睨む視線にルークはひるまずに目を逸らさなかった。

「あんたが誰だか知らないが、俺たちの親友を返してくれないのなら力ずくで返してもらうぞ」
「はぁ~これだからガキの相手は嫌なんだ……」

 ロバートはルークたちから視線を外しため息を漏らす。
 直後ルークがトウマに目配せすると、トウマも軽く頷きルークが片手を勢いよく上へと上げる。
 すると、私の拘束具と地面の器具がくっ付いている箇所が最小限にくり抜かれる様に盛り上がる。
 ルークはそのまま『ガスト』の魔法を唱え、私だけを真横の壁へと吹き飛ばす。

「トウマ!」
「任せろ!」

 ルークの呼びかけられる直前から、既にトウマは動き始めており私が飛ばされた方へと向かっていた。
 そしてルークはそのままロバートへと両手を向け、『ブリザード』『サンダー』『フレイム』の魔法融合を行い同時に魔力分類の創造・技量・質量を使用し瞬時に小型のドラゴンを造り出し、ロバートへと放つ。
 しかしロバートは逃げる事なく、両手を後ろで組んだままその場で瞬時に一回周り向かって来る小型ドラゴン魔法を、右後ろ蹴りで方向を変えてしまう。
 そのままロバートは、目にも止まらぬ速さで吹き飛ばされた私に追いつき、左手で拘束具を握り自分の方へと寄せる。
 そこにトウマが飛び込んでくるように現れ、ロバートの目の前に出て行く事になってしまった直後、トウマを串刺す様にロバートは右足をトウマの腹部へとねじ込み壁へと押し付けた。
 その光景を見たルークは手出しする事が出来ずに、動きが止まってしまう。

「以前の君なら、こんな状況でも迷わず攻撃をしていたんじゃないのか?」
「っ!?」
「何、驚くことじゃない。ただ事実を言っただけだろ」

 するとロバートは左手で握っていた拘束具に繋がれた私を、ルーク目掛けて投げつけた。
 そして右足で抑えつけていたトウマを、そのまま後ろへと足を引く様にして吹き飛ばしルークの方を向き、少しずれた眼鏡を片手で一度元の位置へと戻す。
 投げ飛ばされた私はルークが正面から受け止めていた。
 だがそこへロバートが近付き、再び私の拘束具を右手で勢いよく引っ張られてしまい、ルークから引きはがされる。
 それにルークも体勢を崩し前のめりになると、そこに入れ替わる様にロバートが現れ膝蹴りをルークへと叩き込み、少し浮いたルークをロバートは蹴り飛ばす。
 一瞬のうちに攻撃をし助け出そうとしていた2人が、地面に倒れて込んでしまうと言う状況になってしまう。
 無理だよ……絶対に勝ってこない相手よ、こんな奴に……このままじゃ2人共が……
 そう思った私は倒れている2人に声を掛けた。

「逃げろルーク! トウマ! このままじゃ死ぬぞ! こんな奴に挑んで無駄死になんかするな!」
「だ、そうだ2人共。こいつの言う通り、さっさと引け」

 ロバートは2人を見下す様に冷たい視線を向けていると、ルークがむせつつゆっくりと立ち上がる。

「別に戦いに来たわけじゃない……俺はお前を取り戻しに来たんだ! このまま、おめおめと帰る訳には行かないんだよ!」
「そうだな……親友が危険だと分かっていて置いて行けるかよ! そんなに俺は薄情じゃないぞ、クリス!」

 ルークの言葉にトウマも続く様に立ち上がりながら言い放った。
 だが2人共肩で息をしており、苦しそうな表情をしていた。

「そんなに生き急ぎたいか。だが私が手を下すのも面倒だ。昔ある時に試した事をしようか」

 そう言うとロバートは片足を軽く上げ、勢いよく地面に押し付けるとトウマとルークの背後に壁が盛り上がりそこからゴーレムの手が四肢を掴み、壁に貼り付け状態にされてしまう。
 ロバートはそのままトウマの方へと近付いて行き、トウマの真横にもう1つ同じ壁を造り出す。
 そしてそこに私を押し付けると、私も壁に貼り付け状態にされてしまい、そのままルークの方へと壁の向きが変わりルークと対面する形に変わる。
 直後、私とトウマは目と耳を塞がれてしまう。
 ロバートはその間にルークの元へと近付き、真横に立ち片手をルークに当てた。

「さぁ、お前が殺したい方を決めろ」
「はぁ? 何言ってんだてめぇ、やるわけないだろうが!」
「いや、お前は強制的にやらざるおえない」

 そう言った後、ルークの両手が強引に前へと突き出され、トウマの方に向きを固定される。
 ルークはどうにか動かすと、真横にだけずらせる事が出来て私の方へと両手が向くのみだった。
 そして再び動かそうとすると、またトウマの方へと向くのだった。

「っ!」
「分かったろ。お前はどちらかを選んで殺すんだ、さっき私に放ったあの魔法でな」
「それこそ……っ!?」

 するとルークの手から魔法があふれ出す。
 自分でも意識して出している訳ではなかった為、どうしてそんな事が起きているのか分からず動揺する。
 そこでルークは手を当てているロバートの事に気付き目線を向ける。

「お前! 何をしたんだ!」
「何って、お前に魔力を与えているんだよ。ん? あ~溢れ出る魔法は俺が魔力操作でそうさせているのだよ。お前を選ぶだけに集中させるためにな」
「なっ!」

 ロバートは笑いもせずにただ淡々とルークに言った後、ルークの選択を見守る様にただ見つめているだけであった。
 そしてルークの両手には徐々に魔法が発動し始め大きくなり始める。

「(ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな! どっちかを殺せだと? んなこと出来る訳ないだろうが! くそーどうにか、どうにかならないのかよこれは!)」

 ルークはその場であがきつつ、使える魔法や魔力を片っ端から使おうとするも全て途中でキャンセルさせる様な感覚に陥ってしまい、何も出来ずにいた。
 動かせるのはただ両手の移動のみで、それをトウマに向けるかクリスに向けるかのみであった。
 刻一刻と時間は過ぎて行き、魔法もほぼ発動状態になり今にも放たれる寸前と言う所になる。
 そして、残酷な決断を下さなければいけない時間はやって来る。

「さぁ、決めたかどちらを殺すかを?」
「んなの! 出来る訳ねぇだろうが!」

 この時トウマはちょうど、クリスとトウマの間の隙間にて手が向くときに合わせようと何度か行ったり来たりを繰り返してタイミングを計っていた。
 だが、そんな事は針の糸に通すよりも難しい事であり出来る可能性はゼロであった。
 それでもルークは、その奇跡にすがるしか方法がなかった。
 直後何とかせき止めていた魔力が一気にあふれ出し始め、両手から魔法が放たれ出す。
 その瞬間だった。

「ルーク!」
「っ!」

 ルークはその瞬間に呼ばれた方に両手を向けてしまい、その方向へと魔法が放たれてしまう。
 それはトウマの方向であった。
 条件反射的に反応してしまいルークは声を出す間もなく、一直線にトウマへと魔法が放たれ「ダメだ……止めろ……止めてくれ!」とルークは思っていた。
 そして魔法がトウマを貫こうとした直前、奥の通路から1つの強力な魔力の塊が弾丸の様に飛んで来て、ルークが放った魔法を弾き飛ばした。

「!?」

 まさかの出来事にルークだけでなく、ロバートも驚いていると通路の方からそれを放った人物が現れた。
 そしてロバートが「お前は?」と訊ねると、その人物は足を止め名乗った。

「アバン・フォークロス」
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