とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

文字の大きさ
142 / 564

第141話 物選びのセンス

しおりを挟む
「エメル寮長」
「ん、あ~確かクリスだったか?」

 私の言葉で私の存在に気付いたエメルが顔を向けて来た。
 そして私たちの目の前で言い合いを未だに繰り広げているのは、エメル寮副寮長のスニークと第2学年の次期寮長候補であるスバンであった。
 私はエメルにあの2人の事を訊ねると、エメルは再びため息を漏らした。

「あの2人、さっきからあぁなんだよ。少し目を離しておけば収まるかと思ったが全くだな」
「以前スバンからスニーク副寮長とは、ほとんど口を利かない中だと聞いていたんですが」
「人ってのはキッカケがあれば変わるもんだ」
「はぁ……」

 どうして2人があんな状態になったのかを、エメルはそのまま教えてくれた。
 元はエメルとスニークで購買部へと向かっていたが、エメルが途中で教員に呼ばれてしまい先にスニークだけで行っている様に言ったのだ。
 そしてエメルが遅れて購買部に到着すると、そこでは既に目の前の光景が出来上がっていたらしい。
 エメルの予想ではあるが、たまたま購買部でスバンと遭遇してスニークがエメルに似合う物を見つけて買おうとした所で、スバンが口を挟んだのではないかと語った。
 2人の言い合いからもその様な会話が聞こえているので、あながちエメルの予想は外れていないのだと私は思った。
 その場で一度エメルは介入すると面倒事になると思い、時間を置けば解決しているだろうと購買部を離れて帰って来た所であったのだ。

「まぁ、結果は変わらずだったわけだ」
「なるほど。そもそもなんですが、何をスニーク副寮長と買いに来たんですか?」
「いや、たまたま購買部の近くを通るから寄ってみるかと聞いただけだ。特に何かを買う予定はなかったよ」
「そ、そうなんですか……」

 何て言うか、やっぱりよく分からない人だなエメル寮長は……
 私は大運動会の時から、エメルに対して他人にあまり心を開くタイプの人ではないと言うイメージを持っていた。
 ただ、エメルはかなりの綺麗好きで汚い物が嫌いと言うのは分かっていた。
 トウマから聞いた話では、過去寮長になる前は孤立しておりあまり話す様な人も周りに居なかったと聞いた。
 また、寮長の中で一番一般人に近いと言う表現をされており、その理由は物凄い特質した力を持つ人ではないからだと言われた。
 私は大運動会で直接戦ったからか、何となくその事が分かった。
 オービンの様に様々な魔法を使う訳でも、ダイモンやイルダの様に体術に魔力を乗せたりする訳でもない、エメルはただ知識に知識を学び続け誰しもが到達できる力を手に入れたのだと感じた。
 学院生なら大抵の人物が身に付けている魔力を、ただ自分の手足の様に操るだけであったからだ。
 とは言っても、それは簡単な事ではない毎日ひたすらに魔力を感じ操れるように鍛錬しなければエメルの様には使えない。
 しかしやればいずれ出来ると言うのがエメルの使っている力であると私は考えていた。

「何だジロジロと見て」
「い、いえ。ただ大運動会で見せたエメル寮長の力は凄いなと思い出していたんです」
「力ね……別に僕のは凄くも何ともないよ。凄いって言うのは、他の寮長や副寮長たちさ。もちろん、僕よりスニークの方が凄いとも言える」
「そんな事ないですよ、あの魔力の使い方は誰もがマネできるものじゃないです」
「そうか、君とは直接戦ったから分かるんだったね。なら、分かるだろ所詮魔力操作での力に過ぎない。一般人が一般人として辿り着け、身に付けられる力に過ぎないんだよ」
「そんな事は……」

 私はそこから返す言葉か見つからず黙ってしまった。
 エメルはそこから独り言の様に話し出した。
 凄い奴と言うのは、そいつにしか出来ないユニークな力を持っているまた、使える人の事を凄い奴と言う。
 エメルは自分の事は凄い奴とは言わず、一般人と呼んでおり凄い奴とは違う存在と分ける為であると語る。
 凄い奴に一般人が追い付くことはあるが、それは物凄い努力や奇跡が起きた時だけで常時並走出来る訳ではないし、逆に凄い奴が失速してくる事もあると言うが、それはどちらにせよあまりない事だとエメルは話す。

 どの世界にもどの場所にも、凄い奴と言うのは必ずいると語りそいつに追いつくために一般人が努力するのはよくある風景だし、悪いわけでもない。
 ただ全員がそうではない、自分のペースで走る奴もいれば適当に走る奴もいる。
 エメルは自分もその1人の一般人であり、自分のペースで走っていたら偶然知識が結びつき、前を走る凄い奴に手を引かれて、現状凄い奴たちと並走する事になってしまったと語る。
 世の中は不平等だし、そんなのが当たり前だ。
 物凄い努力している奴が報われないし、適当にやっていた奴が報われる世の中だ。
 その起こった事に何を言っても無駄だし、それが結果なのだから受け入れるしかないのが現実なのだ。
 だったら、自分のペースで後悔なく歩み続けるのが一番だとエメルは言う。

「僕は今の地位も受け入れているし、自分がどう言う奴かも分かっている。その上で僕は、自分のペースで今も走り続けているんだよ、誰かに追いつこうとしている訳でもたらたらと歩いている訳でもなくただ、後悔しない為にその時に合わせたペースで走っているんだ」
「……はぁ」
「ははは。少し自己満足で話し過ぎたな。今のは頭に入れなくても良い事だから、理解しなくていいよ。僕なりの考え方というだけさ」

 そう軽く笑った後エメルは、言い合いをしているスニークとスバンに声を掛けた。

「おいお前たち! いつまで言い合いをしてるんだ、邪魔だろ」
「寮長!」
「エメル寮長!」

 エメルの言葉にスニークとスバンが言い合いを止め、同時に振り返り驚いた声を出す。

「スニーク、何してるんだお前は」
「いえ、購買部で寮長に似合う物を見つけたんですが、こいつが割り込んで来て」
「エメル寮長。私はスニーク副寮長のセンスを疑っているんですよ。絶対に合わないと思ったので、止めていたんです」
「また言うか、貴様!」
「さすがにこれは言わせてもらいますよ! スニーク副寮長!」

 再び言い合いが始まりだした所でエメルが止め、その原因になっている物を見せろとスニークに伝える。
 するとスニークはスバンに何故か、勝ち誇った顔を見せて自分が選んだ物をエメルに見せた。

「どうですか寮長! 当方が選んだこの一品、寮長にぴったりだと思います」

 自信満々に言い切るスニークに、エメルはじっとその物を見つめていた。
 私も少し気になり近付き、後ろから覗き込んだ。
 そこにあったのは、禍々しい色をし何か叫び声を発している様に見える人顔にも見えるデザインのブレスレットであった。

「うわ……」

 私はそれを見て言葉が漏れてしまうと、スニークに物凄く睨まれる。
 直ぐに両手で口を塞ぐが、スバンが「そう言う反応するだろ」と同じ気持ちの言葉を掛けて来た。
 そしてその後にエメルがスニークに向かって口を開く。

「なしで」

 その言葉にスニークは何とも言えない顔をし、物凄く落ち込んだ態度を見せる。
 エメルの答えにスバンも安堵の表情を見せた。
 その後、エメルはスニークと共に購買部を後にし、その後軽くスバンと雑談をした後スバンも目的の物を購入し購買部を出て行った。
 私も外出権をポイントで購入し学院の門へと向かった。

 後々スバンから聞いた話ではあるが、スニークは他人への贈り物のセンスが絶望的に悪いという事を聞き、あれを選んだ事に私は納得した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

男女比8対1の異世界に転移しました、防御力はレベル1です

オレンジ方解石
恋愛
 結婚式の最中に、夫に他の女と逃げられた花嫁、水瀬透子。  離婚届けを出す直前に事故で瀕死となった彼女は、異世界の女神から『妾と取り引きするなら、助けてやろう』と持ちかけられる。  異世界の《世界樹》の《種》を宿す《仮枝》となった透子は、女神の世界に連れて行かれ、二年を過ごすこととなった。  そこは男女比が8対1という偏った世界であり、女性が《四気神》と呼ばれる守護者に守られる世界。  女神とはぐれた透子は、そこで美形の青年、紅霞に助けられるが……。 ※追記の追記を少し直しました。

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...