とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第175話 プレゼントの真実

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 俺のオヤジはギルアバンス家と言う大貴族家の当主であり、母さんはその家でメイドとして働いていた。
 そんな中でオヤジは母さんに恋をしてしまい愛人関係になってしまう。
 要は不倫だな。
 だが母さんは直ぐにメイドを辞め、庶民へと戻っていた。
 そんな関係がバレたら自分にどんな事が起こるか分からないと思い、オヤジから身を引いたのだ。

 しかしオヤジは母さんを探し続け、見つけ出した。
 その時のオヤジは貴族とは思えないほど服は汚く、髪もぼさぼさだったらしい。
 母さんはそこまでして探してくれたオヤジを引き離す事は出来ずに、庶民と貴族の身分違いの関係が続き、オヤジは身を隠している母さんの元へと足を運び愛を紡ぎ続けた。
 そして、俺が生まれ身を隠しつつも2人は幸せの日々を過ごしていたが、そんな幸せは直ぐに終わりを迎えた。

 俺が生まれて直ぐにオヤジの家の執事たちが家に押し入って来て、母さんのとの関係を目撃し、母さんは俺を連れてオヤジの家へと連れ戻されたのだ。
 それからはだいたい想像がつくだろう、母さんはオヤジの正妻やメイドに執事たちから陰湿ないじめや罵詈雑言を言われ続けた。
 どうして母さんがオヤジのギルアバンス家へと連れて行かれたのかと言うと、どんな関係性であろうとギルアバンス家現当主の長男である事には変わりない為、その処遇を決める為だけに母さんは連れてこられていた。
 その頃当のオヤジはと言うと、母さんとは一度も顔を合わせず何やら仕事をしていたらしい。
 そんなオヤジからの助けもない状態で母さんは、全てに耐え続け俺を1人で守り続けていた。
 そして、数か月後に正妻がオヤジの子供を産んだ。
 そう、ラーウェンが生まれたのだ。
 その後、俺と母さんの処遇は母さんは俺が5歳になるまで育てた後、ギルアバンス家から退去し、俺はギルアバンス家の長男として育てられる事が決まった。
 初めは母さんもその決定には従えないと反論をしていたが、それならば殺すまでと言われてしまい、渋々母さんも従う事にしたのだった。

 それから3年の月日が経った。
 3年間母さんは、正妻がいる家で共に同じ夫の子供を育てると言う異様な環境で、仲間いない、オヤジも助けてくれない状況で俺を育てていた。
 そんなある日だった、突然オヤジが母さんの元を訪れて俺を引き連れてギルアバンス家を抜け出したのだ。
 オヤジはただ信じて欲しいとだけ言って、母さんと俺を連れてギルアバンス家の手が届かない離れの街へと逃げて行ったのだ。
 そこで母さんとオヤジ、そして俺の3人で再び暮らし出したが初めはどこかぎこちない感じで過ごしていた。
 それも訳ない、なんせ母さんはオヤジに数年も助けてもらえず、急に手を取られて逃げて来て一緒に過ごしているのだから。
 母さん自身もあの家にずっといる気はなく、独自で逃げ出す準備はしていたがその前にオヤジと外に出れたので良いとしていたが、オヤジとは一緒になる気はもうなかった。
 しかしオヤジは、そんな母さんの思いは知らずに身分を隠し庶民として汗水流し働き、賃金を稼ぎ母さんと俺を養って生き続けた。

 何故そんな事をしたのか、どうしてここまでするかも理由は一切オヤジは語らなかったが、ただオヤジは「もう何もしてやれないかもしれないから」とだけ語った。
 それからは、オヤジと母さんで暮らし続け徐々に母さんの気持ちも変わり始め、この人ならもう一度やり直してもいいかと思い、家族として歩み出したのだ。
 そして俺が5歳の誕生日の日、オヤジから眼鏡をプレゼントをされた。
 俺は視力が弱く文字や遠くのものがぼやけて見えていたので、それを補助してくれる眼鏡をオヤジはプレゼントしてくれた。
 その日から眼鏡を掛け続け俺の世界は大きく変わっていった。

 だがある日、家に大勢の役人たちが押し寄せて来てオヤジを連れて行った。
 その時に俺と母さんは、オヤジが大罪を犯したと教えられその内容は、疑似的に特殊体質を得られる魔道具を製造していた事であった。
 簡単に言えば人体実験に関与していたという事だ。
 その噂は一気に周囲に広がり、俺と母さんを見る周囲目が冷たくなり、あのギルアバンス家で過ごしていた時の状況に近くなりつつあった中、更に追い打ちを掛ける様にオヤジの素性がバレ、母さんがオヤジを誘惑したなどあることない事の噂が街中に広まっていた。
 それから俺と母さんは街で腫物扱いの日々が続き、新聞でオヤジが釈放された事を知ったが、連れて行かれたオヤジはその後戻ってくる事はなかった。
 その後母さんは俺を連れて、噂が届かない別の地へと移り住む決意をし何日もかけて真反対の土地へと移動し、そこでひっそりと俺と2人暮らしを始めたのだ。

 母さんは独り身で俺を育てる為に働き、俺は視力が良くなったのでオヤジから貰った眼鏡を捨て母さんを楽にする為に、頑張って勉強し王都メルト魔法学院の初等部に合格したのだ。
 それから、初等部の学院生として暮らしているある日、突然オヤジが俺を訊ねて来た。
 俺はもう母さんや俺に関わるなと言う為だけに顔を見せに言った。

「今更会いに来て何の用だよ。もう今後、俺や母さんに関わるんじゃねぇ!」

 するとオヤジは俺の言葉に驚いたのか、俺の顔を見て何故か驚いていた。

「お、お前、眼鏡はどうした?」
「眼鏡? そんなもんもう捨てたよ。視力も治ったし、お前との関わりがある物をいつまでも持ってると母さんも嫌な事を思い出すと思ったからな」
「……視力が治った? それで体に異常はないのか? 他に悪い所が出来たとかもないのか?」

 急にオヤジは俺の方へと迫って来て両肩を掴んで来た。
 俺は直ぐにオヤジを払い、何の異常もない事を伝え、急に迫って来たオヤジが気色悪いと思い最後に「もう今後俺たちに関わるな!」とだけ言い切って立ち去った。
 その後オヤジは、うっすら笑いを浮かべて不敵に笑っていた。
 それから1年後俺は、両目の異様な力に偶然と気付いた。
 瞳が碧く変わりどんなものも弾くことが出来るシールドを張る事が出来る力であった。
 直ぐに俺はオヤジのあの時の言葉を思い出し、何かを知っていると思いギルアバンス家へと乗り込みに行った。
 そこでオヤジに掴みかかり全てを吐かせた。

 結論から言えば、オヤジは俺を人体実験にしていたのだ。
 あの時プレゼントされた眼鏡には、両目に特定の力を秘めさせる術式が刻まれており、それを自然と見続ける事で瞳に焼き付けられ疑似的に特殊体質持ちへとされていたのだ。
 特に体へ異変が起きていない事から実験は成功したとオヤジは喜んでいたが、俺は完全にこのオヤジは人としてやってはいけない事をした人なのだと改めて理解した。
 だから俺は、完全にギルアバンス家とは血縁関係を断ち切る事を宣言した。
 そのまま俺はギルアバンス家を後にしようとしたが、無理に押し入って来た事で周りには警備の者たちに囲まれていたが、そこにオヤジの正妻とラーウェンが現れたのだ。

「まぁ、本当にあの娘の子供が1人で乗り込んで来たのね。それにしても、何て醜い子供なのかしら。うちのラーウェンよりも劣っているじゃないの」
「母様そんな事を言っては、兄さんが可愛そうですよ。あれでも、一応我がギルアバンス家の長男なんですから」
「あら~何てラーウェンは優しい子なのですか。どうしてこの子が次期ギルアバンス家当主ではなく、あの子供が長男なの」
「そりゃ良かった。俺は今さっきあのオヤジとの縁を切って来たから、お前が次期当主だよ」
「まぁ! なんて事! それはそれは喜ばしい事ですわ。ギルアバンス家次期当主が庶民の血が混じった子などあり得ないと思っていたのですよ。貴方は何て親孝行が出来る子なんでしょうね」

 正妻は急に掌を返したように俺に笑顔を振りまきだした。
 その態度に俺は気持ち悪くなり、このギルアバンス家にいる事自体が気分が悪くなりすぐさまに立ち去ろうと歩き始めたが、途中でラーウェンに腕を掴まれた。

「何だよ」
「兄さん、縁を切るならその前にどちらが有能であるか力試しをしましょう。母様も、どちらが上か知りたいですよね」
「そうね。そんな子供でも一応はギルアバンス家の血が通っていますし、ラーウェンよりも劣ると思いますが確認しておくべきね」

 そのまま俺の言葉など聞きもせずにラーウェンとの対決をするはめになり、俺はそこで一方的にラーウェンにぼこぼこにされたのだ。
 俺は勉強も普通だし、異常な魔力も凄い魔法も使えないただの一般人であるのに、ただギルアバンス家の血があるからとあいつらはなりそこないの俺を、有能で未来あるラーウェンに叩き潰させる事で自分たちの凄さを改めて認識し楽しんでいた。
 その後ボロボロになった俺はギルアバンス家から放り投げだされた。
 そのまま俺は家へと帰りながら、これであのギルアバンス家から手を引くことが出来たと思っていたが、それからも彼らからの小さな嫌がらせは続いたが俺は避けて逃げて関わらない様にし続けた。
 すると、突然ピタリと嫌がらせはなくなったのだ。
 それと同時に俺はオヤジに刻まれた疑似的な特殊体質を密かに制御できるようにし、無意識に出ない様に自分で封じ込めた。
 そして俺は、過去の事を全て隠し、何にも特質した力もない普通の一般人として王都メルト魔法学院の初等部を卒業し高等部へと進学したのだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あっぶね!」

 トウマはラーウェンの魔力の剣をかわして何とか距離を取ろうとしていたが、直ぐに距離を詰められていた。
 既にトウマは顔や体に魔力の剣でつけられた傷が多くあった。

「兄さんはあの頃から変わらず、本当にただの一般人だね。ただ逃げて避けて何の手だてもなく俺の力の前にひれ伏せるだけ。それが分かっているのに俺に戦いを挑むとか、余程の被虐体質なんだね!」
「(んなわけねぇだろうが! 誰が好んで痛みを受けるかよ……くそっ! 魔法も斬られるし、体力的にもラーウェンの方が上なのは分かってるが、ここまで何も出来ないとはな)」

 先程からトウマは一方的にラーウェンの攻撃を受けており、反撃するも直ぐに無効化されて手も足も出ない状況であった。
 そんな中ラーウェンはもう一本魔力の剣を生成し、二刀流でトウマに迫り始めた。
 するとトウマは、迫って来るラーウェンに向けて『バースト』の魔法を放つも、ラーウェンはそれを魔力の剣で斬り裂く。
 だが、直後もう一発『バースト』が放たれておりラーウェンは咄嗟に二本の魔力の剣で防ぐと、周囲が爆発の衝撃で煙に包まれる。

「(目くらまし? 絞り出した攻撃がそれか……)」

 次の瞬間ラーウェンは、背後からの視線を感じすぐさま振り返り両手に握る二刀を振り抜くと、その勢いで周囲の煙も一層される。
 しかしラーウェンの視線の先にあったのは、地面から作られた不格好な土人形であった。

「っ!?」

 ラーウェンはすぐさま背後を振り向くと、そこにはトウマが歯を食いしばって右拳を振り抜いて来ていた。
 そのままトウマの拳はラーウェンの頬に直撃し、殴り飛ばした。

「はぁー……はぁー……幼稚な遊びも意外と役に立つもんだな。さて、こっからどうしたもんかな」
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