とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

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第187話 女の戦い

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 開始の合図の直後、エリスとマーガレットは同時に魔法を唱えだす。
 エリスは得意の風魔法である『ストーム』と放つと、マーガレットは『スオン』と唱え茨が勢いよく放たれる。
 両者の魔法は激突すると、互いに弾け消えた。
 その後互いに距離を詰める事無く、自身の得意な魔法を位置を変えながら放ち合い続けるも、必ずどこからで相殺され相手へと直撃する事はなかった。
 暫くすると魔法の打ち合いが一度止まる。

「流石はエリス。そうでなくては、歯ごたえがありませんわ」
「本当に貴方との相性は悪いわね。その茨、何度見ても嫌なものね」
「それは褒め言葉として受け取りますわ!」

 マーガレットは『スオン』を連続で繰り出しつつ、それに対して『ブリザード』と『サンダー』を付与してエリスに放つ。
 それに対してエリスは、今までと違い魔法ではなく両手を地面につけ魔力創造を使用する。
 そのまま地面を向かって来る茨に対して波の様にして迎え撃ち破壊すると、そのままマーガレットへの攻撃へと転じさせ壁を押し付ける様に向かわせる。

「『ソーン』!」

 マーガレットは迫って来る壁に対して、焦ることなく魔法を唱えると地面から棘が数本壁に向かって飛び出し、向かって来る壁を突き刺して止めた。
 そして『バースト』で壁を破壊したマーガレットは『フレイム』をエリスに放つ。
 だがエリスはその攻撃に対して魔法で対抗する事はせず、真横へと飛んで避けるとそのまま直ぐに起き上がりマーガレットではなく、避けた方へとそのまま走り出す。
 すると数メートル走った所で急ブレーキをし、マーガレットの方を体を滑らせつつ見つめ口を開く。

「『ガトリングガスト』」

 直後、先程エリスが走って通った道に『ガスト』の魔法が一斉に発動し、マーガレットに向けて放たれる。

「(避けた先で、魔法の発動させる様に準備して時間差で発動させるとは……ですが、貴方がただ避けるだけの行動はしないと分かっていますのよ!)」

 マーガレットはすぐさま向かって来る無数の『ガスト』に対し、魔力創造で壁を創り出しそこから『ソーン』を放ち、更に『スオン』で茨で創り出した壁を補強する様に壁の範囲を広げた。
 しかしそれを見たエリスは『ストームロード』の魔法を放つ。
 エリスの『ガトリングガスト』を後押しする様に、強烈な暴風が吹きそのままマーガレットの防御状態を一気に破壊する。

「っ! ちょっと! それ私の魔法のパクリ! 『スオンロード』!」

 マーガレットが対抗しそう唱えると、茨が渦の様にエリスに向かって行く。
 それによってエリスの放った魔法はかき消されしまうと、エリスは飛び上がり『ストーム』で宙へと回避した。

「エリス! 貴方さっきの魔法、私の魔法のパクリでしょう!」
「さぁ? 何の事を言っているのやら、私には分からないな」

 エリスはその後綺麗に着地し、とぼけ顔をしていた。
 その顔を見たマーガレットは絶対に分かった上でやっていると確信をしていた。
 するとエリスは軽くため息をつくと、先程までの顔つきとは変わり真剣な表情を見せる。

「もう準備運動はいいだろう、マーガレット。さっさと勝負をつけようか」

 エリスがそう言い終わると、周囲の空気が突然エリスへと吹き始める。
 そしてそのまま風を集め続けると、エリスの背後に巨大な風の魔人が創り上げられる。
 マーガレットや観客たちは、そんな魔法は見たことがなく目を見開いていた。

 エリス・クリセントは、今では王都メルト魔法学院内で『女帝』と呼ばれているが過去には、二代目月の魔女と一度言い渡される程の実力者である。
 二代目月の魔女と言い渡されるも、自分からそれを辞退しているが実力は今の二代目月の魔女と呼ばれるジュリルよりも上ではないかと噂されている。
 基本的には風の魔法を得意としており、魔法も多彩に使え、また魔力に関しては魔力創造と魔力制御を一番得意としている。
 その為、王都メルト魔法学院内ではエリスはオービンに唯一並び立てる女性と言われていたりする。
 しかし当人はそんな事など気にしておらず、好きに最後の学院生生活を楽しんでいるのであった。
 そんな中、風の魔人にマーガレットは圧倒されていた。

「(な、何なのあれは? あんなもの見たことがないですわ……)」

 暫く驚いていたマーガレットであったが、直ぐに意識を切り替え、このまま好き勝手エリスにさせていたら良くないと直感的に思い『スオン』を放つ。
 だが、マーガレットの放った魔法はエリスに届く事なく直前で向きを風で変えられてしまう。

「(あの風の魔人が、エリスの周囲を守る様な風を操っているのね。このまま遠距離攻撃はダメね。と言って接近戦に持ち込んでも、私が優勢になる事はないわ。だから、先に倒すべきはあの風の魔人ね)」

 マーガレットはすぐさま状況を分析し、標的をエリスから風の魔人へと切り替える。
 直後、すぐさま魔力創造で周囲に壁を創り出し、それを土台に『ソーン』を唱え、更に『スオン』で『ソーン』に巻き付け強化し、一気に風の魔人に向け放とうとした次の瞬間だった。
 突然息が苦しくなり、魔法を放つことが出来なくなる。

「あっはぁ……はぁ……な、何で急に息苦しくなっているの? はぁ……はぁ……」

 マーガレットは突然山へと場所を移された様に、空気が薄くなり息苦しい状態に陥る。
 何とか息を整えようとするも、空気が薄いのか全く整う事がなかった。

「どんなに息を整えようとしても無駄よ、マーガレット」
「はぁ……ど言う事ですの? はぁ……エリス……」

 エリスは全く息を乱す事もなく、観客たちも全く同じように普通に呼吸が出来ていた事をマーガレットは確認し、自分だけの状況だと理解した。

「それは威力を弱めてるけど、私の魔法よ。本来なら息をすること自体が出来ない」
「(これで、威力を弱めてる魔法?)」
「背後の魔人を通じて『風停』と言う魔法を使っているのよ」

 エリスが創り出した風の魔人は、周囲の風を集め、それを魔力創造と魔力制御によって創り出した存在であり、創り出しただけでは何の効果はない。
 これは大きな魔力措置的な存在であり、風の魔人を通じて周囲の風を自在に操る事が出来るのである。
 エリスはそうやって、マーガレットからの攻撃も防ぎ『風停』と言う魔法を使っていたのだ。
 そして『風停』とは対象の一定範囲の風を停め、体に取り込む酸素などと言った全ての物が動きを停める為、マーガレットが息苦しそうにしているのである。
 酸素と言った空気に関する物はその場には存在しているが、動き自体を停めている為自らが動かない限り摂取出来ない物だが、現在は威力自体を弱めている為少し別の現象が発生しているのである。
 さすがに元の威力で使ってしまうと、人を殺めるレベルになり規定違反になる為、エリスもそこまでの事をしようとは思っていないので威力を最低限まで弱めて使用しているのであった。

「もう貴方に勝ち目はないわ、マーガレット。降参しなさい」

 次第にマーガレットの顔色が悪くなり始めるが、マーガレットは降参する気配は見せず、未だに目に闘志が宿っていた。

「(ここまでされて、まだ降参しないとわね。もしかしたらと思っていたけど、貴方はやっぱり諦めが悪いのね)」
「降参なんてするもんですか……はぁ……学院の代表が降参なんてしないわ……どんな結果だろうと最後まで戦いますわ……それに、まだ私にも貴方に見せていない力もありますのよ!」

 するとマーガレットは自身の口元を両手塞ぐと、両手に魔力を集めだし魔力のマスクを創り出し、そのまま両手を大きく真横に振り抜いた。

「っ! 嘘……」

 直後、エリスは先程までマーガレットの一帯を『空停』としていたが、それが一時的な範囲が解かれている事に気付く。
 更には、エリスがこれまで魔法で破壊して来たマーガレットの魔法『スオン』の一部が蘇ったかの様にその場に現れる。

「これが、私が貴方に見せてこなかった力。魔力治癒よ」
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