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第222話 分かる人には分かる

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 私はトウマたちが完全に出て行った後、その場に力が抜けた様に座り込んでしまった。

「ふー……焦った~……トウマにバレたかと思った……」
「貴方を覗き込んでいた彼は、疑ってる様な感じでしたがどうにかなりましたね。一応確認ですが、この結果でいいんですよね?」
「はい、一応はこれでいいです。後、知らないふりをしてくれてありがとうございます」

 私はフェンに対してお礼を言うが、フェンはその場で首を傾げた。

「知らないふりと言うのは?」
「ですから、俺の名前を知っていながら知らないと言った事ですよ」
「その事ですか。確かに先程名前を訊きましたが、私人の名前をずっと覚えてられないので、既に貴方の名前も忘れてしまいましたので、あぁ言っただけです」

 えー……そうだったの? 何だ、本当に忘れてしまったからトウマからの問いかけに知らないと言っただけだったのね。
 まぁでも、それのお陰で何とか切り抜けられたから、結果オーライかな。
 私は立ち上がり借りた服や髪留めなどを返そうとしたが、フェンが先に片手を突き出して来た。

「返して頂かなくて結構です。今の貴方の状態は、最低でも夕刻まで続くので正体がバレたくないと言うのであればそれが必要だと思いますので」
「あっ……そうだった、これで終わりじゃなかった……」

 私はふと忘れていた事を思い出して、肩を落とした。
 どうしたものか……このままここに居続けると言う選択肢もあるけど、それはこのフェンさんと一緒に居ると言う訳で、また変な魔道具の実験台にされかねないのでなしだな。
 となると、このままこの服装で外に出てこの異常状態が解けるのをどっかで隠れつつ待つという事になるな。
 でも、学院祭の中この格好で歩けば目立つし、絶対に知り合いにも会うし声を掛けられる気はしている。

 だって、一応は変装しているけど、よく見ると元の私に顔が似てるし、現にトウマも怪しんでいたからバレないという保証はないんだよね……
 はぁ~誰かに事情を話して匿って貰うか、ボディガードの様に引っ付いてもらえたら楽なんだけどな~
 その時私の頭には、何故がルークの顔が浮かんだ。
 いやいや、ないでしょ! 何であいつが出て来るんだよ! あいつにバレること自体馬鹿にされるし、危険に陥れて来て、それを楽しみそうな奴だぞ! しっかりしろ私! 思い浮かべるなら、レオンとかオービンさんとかだろ。
 一瞬だけトウマの顔もよぎったが、トウマは皆に囲まれたりする事があったりするので、この状況では危険度が増すと思い勝手に候補から外した。
 すまん、トウマ。
 私は心の中でトウマに謝った。

「それで、これからどうしますか? 私の元に居てもいいですが、その代り魔道具の――」
「いや、それは読めていたので遠慮します」
「そうですか。残念」

 まさか本当に思っていた事を言うとは思わなかったよ、フェンさん……

「一応その服や装飾品はお貸しますので、ご自由に行動して下さって構いませんよ。最終的には捨ててしまっても構いません」
「いやいや、さすがにそんな失礼なこと出来ないですって! そんな事するなら、この場で返しますよ」
「白衣も古い物ですし、そちらの服も古着で買った物ですが全く着ないので、そのまま差し上げても問題ありません」
「えー……まさか、いつも白衣のその服装なんですか?」
「そうですね。一番着心地がいいですし、汚れても問題ないので結局ここにいきつくのですよ」

 フェンは両手を白衣のポケットにつっこみながら笑って話した。
 そしてフェンは、そのまま私に背を向けて歩き始める。

「それでは私は次の実験し……いや、魔道具に興味を持っていそうな人を見つけにいくので失礼します」
「あっ、ちょっと!」

 私がフェンを呼び止めようと声を掛けた時には、フェンは既に個別体験コーナーの一角から出て行ってしまい、私は1人残されてしまう。
 ひとまず私はこの後どうするかを腕を組んで暫く考えた後、髪留めを外しロングヘアーまで伸びてしまった姿を鏡で見つめた。
 黒髪のロングも意外と悪くないわね。
 私はてぐしする様に自分の髪を触った。
 その後、髪をまとめて下目の方で髪留めで止めて、先程と髪型を変えた。

 ひとまずは、この服も借りて学院内をなるべく目立たない様に歩くか。
 まぁ、服も学院生服じゃないし一般の人と思われるだろ……たぶん。
 私は少し不安を感じつつも、そのままフェンが出て行った後を追って個別体験コーナーから出た。
 出た瞬間、周囲からはそこまで変な目線で見られる事はなかったので、私も動じる事無くそのまま出口へと向かった。
 教室を出ると、入口の方にトウマたちの姿があったので私は急ぎ足で反対方向へと逃げる様に歩き出した。
 そのまま急ぎ足で近くの角を曲がった時に、タイミング悪く誰かにぶつかってしまう。
 私はそのまま後ろに倒れそうになるが、ぶつかった相手が私の手を掴んで引き寄せてくれた。

「大丈夫ですか? すいません、人が来ることを考えていなかったです」

 ぶつかったのは、私の方が悪いのにそう声を掛けて来てくれた男性は優しい人だなと思いつつ、私も謝ろうと声を出して顔を見上げた。
 一応今はクリスでもアリスでもないが、姿は女性であるのでアリスに近い声で話した。

「いえ、私の方も急いで曲がったので、すいませんでし――えっ」

 その時私は、ぶつかった相手の顔を見て固まってしまった。
 な、なな、何でこんな時に……
 この時偶然にも私がぶつかった相手が、レオンであったのだ。
 だが、レオンは私の事には気付いていない雰囲気であったので、私はそのままさっとお礼を言って立ち去ろうとした。

「助けてくれて、ありがとうございました。それでは、私はこれで」

 そう言って強引に私は、この場から去る選択をして、レオンの横を通り抜けようとしたがレオンが声を掛けて来た。

「あの」

 私はそのまま立ち去る事も出来たが、どうしてか足を止めてしまった。
 そしてレオンは私の横に立って、少し顔を覗き込んで来て小さく呟いた。

「……もしかして、クリスか?」
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