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第441話 思わぬ収穫

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「それでヒビキ先輩は、そのまま教員たちに連れていかれたのか?」
「うん、そうみたい。特に嫌がる事無く、素直に付いて行ったんだってさ」

 私はシンから早朝の出来事を教えてもらっていた。
 何故教えてもらっていたかというと、久しぶりに学院に戻って来たのでこれまで鍛錬を出来ていなかったので、現状の確認などを早朝から場所を借りて一人で確認していたのだ。
 その間に寮でヒビキの一件があったらしく、私はシンからその時の事を聞いていたのである。

「僕も直接見てた訳じゃないんだけど、授業に向かう後輩たちがそれを見ていたらしくそこから聞いた話なんだ」
「そっか」

 それからシンは思い出したかのように、後輩たちが口にしていた事を教えてくれた。
 その内容は、ヒビキは病院にそのまま連れ戻されたのではなく学院長室へと教員と向かっていったというものだった。
 理由は分からないが、事情聴取的な事をする為ではないかと私はその話を聞いて思った。
 シンはヒビキに関しての話はそれで終わりと口にし、私はわざわざ教えてくれた事を感謝した。
 その後シンは私と入れ替わる様に部屋から出て行った。
 今日は学院長からの説明が行われる時間までは大図書館で本を探すらしく、既に朝食を済ませたらしく部屋を後にした。
 私はシンを見送り、部屋で一人となった所で椅子に座る。

「さてと、私は時間までどうするかな」

 今日は昨日言われていた、学院長から王都襲撃に関しての説明が第2学年全体に向けて行わる日である。
 時間は昼前から約一時間程とされており、それまでは自由に過ごしてよいと事前に伝えられている。
 ちなみに、私たちは今日一日は休息日となっており、明日から再び通常の授業が始まる予定となっているが、後輩たちは既に通常通り今日も授業を行っている。
 王都も既に復興が進んでおり、学院の被害も大きくなかった事から授業も通常通り行っているらしい。

「まあ3月には最終期末試験があるし、授業を止めていても仕方ないよね。……そうか、もう3月か。ここにいられるのも、後少しか」

 私はふと自分が決めた事を思い出し、タイムリミットが迫っている事を改めて実感する。
 未だにこれからどうしたいのかを決められずにいるが、以前エメルと話した時に感じた初めてちょっと形が見えた時の事を思い出す。
 確か、頻繁じゃなくてもいいから、外に出て実際に自分の目で見て知識を得たり、話を聞いたり出来てかつ、研究や調査的な事が出来たら面白いだろうなと思ったんだよね。
 時間が空いてから思い返しても、そんな様な事がやってみたいとは思うな。
 研究員とはちょっと違うよね。
 外に出てるイメージないし、自分で研究を決めてそれについて極める感じだし。
 でも前に地形調査や植物調査などで外に行く研究員もいるって聞いた事があるな。
 今のイメージだとそれが近いかもしれない……でも別に地形とか植物とかそういう特定な物に興味がある訳じゃないんだよね。
 私は腕を組みながら、一人頭の中でごちゃごちゃと考え始める。
 その後とりあえず頭で考えるのではなく、一度ノートにでも書き出して整理してみようと思いひとまずノートに考えた事を書き出した。
 今あるやってみたい事を中心に、それが叶えられる事などを派生させたものを作り私はそれを見て「うーん」と眉をひそめる。

「……うん、とりあえず出しただけで、よく分からなくなったな」

 現状で思い付く様なやりたい事から結びつく仕事を書き出したが、どれもしっくりこなかったのだ。
 私はそのまま頭を悩ましていると、ふと時計が目に入りお腹が鳴る。

「そうだった、まだ朝食しっかりと食べてなかった。とりあえず食べにいこっと」

 椅子から立ち上がり開いたノートを一度閉じて、私は朝食をとるために部屋を後にした。
 その後朝食を終えてから、私は部屋に一度戻ったが天気も良かったので少し学院内を散歩しようと思い寮を出た。
 寮から学院に向けて歩きながら、先程まで考えていた事を再び考えだす。
 別にいい案が思いつく事なくただ何となく歩いていると、共有スペースに辿り着いていた。
 共有スペースには私以外にも生徒がおり、男女で話している人もちらほらといるんだった。
 私は少し休憩しようと、近くに座りふと横を向くとそこには知っている人物が座っていて思わず「あっ」と声が出る。
 相手も私の事を見て同じ様に「あっ」と声を出すのだった。

「変な偶然もあるもんね。修学旅行のニンレスの時ぶり?」

 そう先に問いかけて来たのは、シルマであった。

「そ、そうだな。久しぶりだな」
「ん? 何かぎこちないわね。まあいいけど、あんたはこんな所なにしてるの?」
「え、あーちょっと考え事してて、その気分転換に散歩してたらここに」

 シルマは私の返答に「何それ」と少し呆れていた。
 ですよね、そう思うのも分かります。
 私はシルマの態度に納得しており、自分でも特に理由もなく散歩してここに来て座ってるのが変だなと自覚していた。

「とは言ったものの、あたいも似た様な感じだから変に言えないけどさ」
「そうなのか?」
「ほら今日って学院長から話があるじゃない。それまでなんか何もやる気しなくて、部屋にいてもモランはいないし、一人でいてもつまらないからこうして外に来たんだけど何かねー」

 シルマは少し気が抜けた雰囲気で私に教えてくれた。
 てっきり私はモランとか誰かと待ち合わせでもしているのかと思っていた。
 それもシルマに確認したが、誰とも待ち合わせもしていないと答えてきて、とりあえず私みたいにここにいるという事だと理解した。

「そうだ。ここで遭ったのも何かの縁だし、集合時間まで何か話してよクリス」
「急な無茶ぶりを」
「男なら女性の無茶ぶりくらい答えなさいよ。モテないわよ」

 私も本当は女なのだけど、それを言っては元も子もないのでそんな事は口にせず話題を考え始める。
 修学旅行の話しがすぐに思い浮かんだが、互いに同じ様な事を体験しているだろうしそんなに盛り上がらないと思いその話題は止める。
 その次に思い付いたのが、自分の将来についての悩みであった。
 いやいや、そんなの話題にしてどうするのよ……いや、私じゃなくてシルマのそういう話でも聞いてちょっと参考とかにしてみようかな。
 そう考え私はシルマに対し将来についての話題を振り始める。

「将来? 凄い話題を投げて来るね。てっきり修学旅行とかありきたりの話しだろうと、構えていたけどビックリよ」
「それも確かに考えたんだけど、わざわざその話をしてもと思ってさ」
「ふーん、意外と考えてるじゃん。将来かーそうねーあたいは、まだ決まってないかな」
「そうなんだ」
「具体的に決まっている方が珍しい気が、あたいはするけどね。先輩たちも最高学年になって決めたとか聞くし、よく先輩からは今は準備期間だから視野を広げるといいって聞いたな」
「準備期間?」

 シルマは私の問いかけに先輩から聞いた話を、そのまま教えてくれた。
 将来やりたい事って今の自分が知っている事とか興味がある事から決めていくものが多い。
 だから、現状で決められるのならそれに向かって突き進めばいい。
 だけども、まだ決めかねているとかなら自分の見ている視界を広げてみるべきだ。
 本でも誰かの話しでも何でもいいから、知らなかった事を自分の中に入れたり、知っている事でも改めて調べたり聞いたりする事で、見えていた視界が広がり新しい道が見えて来る。
 すると自然と進んでみたい道も決まったり、もっと知りたいと思えたりするし、中には何もない所に自分で新しい道を作ってしまおうと思うこともある。
 現状で立ち止まっているのなら、そこから出来る事を探す為に周囲を見渡す事を教えられたとシルマは語った。
 自分の視野を広げる準備期間か……確かにまだ知らない事も多いし、勝手にイメージしているだけで知っている事は少ない事とかある。
 現状で絞り出すんじゃなくて、引き出しを増やす感じかな? なるほどね。

「それであたいは、今日までとりあえず興味ある事に手を出したりして来たんだよ。最近はアクセサリーのデザイン考えるのが好きかな」
「へー何か面白そうだね」
「こういうのとか、あんな形したアクセサリー欲しいなって考えて絵を描いたりするだけだけどね。でもその影響か、デザイン関係の仕事とか調べたりしたよ」
「じゃシルマは将来そういう仕事をするのか?」

 しかしシルマは首を縦には振らなかった。

「微妙かな。好き勝手に自由にやれる趣味だから好きな気もするし、仕事にするにしてもイメージつかないし。調べても職人的な関連ばかりだから、ちょっとね」
「そうなのか」
「他にもお菓子作りとか、商人的なやつとか調べたりしたけどしっくり来てない感じ。まあでも、そういう方向性じゃないって分かっただけでも、よかったかなって思ってる。先輩の言ってた視野を広げた結果かな」

 なるほど、そういう考え方もあるのね。
 そう私は自分についても参考に出来そうだなと頷いていると、学院中にアナウンスが入る。
 アナウンス内容は第2学年に向けたもので、集合時間の三十分前になったというものであった。

「もうそんな時間か。うーん、なんかあんたと話してたら意外と時間過ぎててビックリ」

 シルマはそう言って背伸びし終えると立ち上がる。

「クリスも将来悩んでるなら、準備期間だと思って視野でも広げて見たら? じゃあたいは一度部屋に戻るから、またね」
「ああ。悪いな、こんな話に付き合ってもらって」
「いい、いい。あたいが振った事だし」

 そう軽く手を振ってシルマは立ち去って行った。
 軽い気持ちで話したけど、思った以上の収穫があったな。
 私が満足していると周囲の皆もアナウンスを聞き、移動し始めた。
 それを見て私は寮に戻るよりも集合場所に少し時間は早いが向かった方が近いと思い、集合場所へ向けて立ち上がり歩き始めた。
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