とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮

文字の大きさ
512 / 564

第511話 一心同体

しおりを挟む
「バベッチ? 私はアリスよ。誰と勘違いしているのガウェン」
「白を切るな、バベッチ。さっさとアリスに身体を返して消えろ」

 アリスは肩をすくめ軽く顔を横に振る。
 二人のやりとりを結界を挟んで目の前で見ていたトウマたちは混乱し出す。

「何が、どうなってるんだよ。誰か説明してくれよ」
「えーとクリスがルーク刺して、クリスがクリスじゃなくてアリス? って奴で、今は何でかガウェンが結界内にいて……あー理解が追い付かん!」
「ライラック、リーガちょっと静かにしてくれ!」

 アルジュが二人に対し声を上げるも、困惑した表情をしていた。

「どうしてガウェンの奴は、結界内に入れてるんだ?」
「俺に訊かれても分からないよニック」
「二人共そんな事より、ルークの心配をすべきなんじゃないの? ずっと倒れるんだよ」

 ピースの言葉にフェルトは「そうだけど、中に入れない以上何も出来ない」と返す。
 そこでトウマが結界に近付き中にいるガウェンに声を掛けた。

「ガウェン! お前が何で中に入れたかは知らないけど、今はルークを助けてやってくれ!」

 ガウェンとアリスはトウマの声に反応し顔を向けると先にアリスが口を開く。

「トウマ心配しなくて大丈夫だよ。ルークは身体が動かなくて、ああやってうずくまってるだけだから」
「っ……ガウェン頼む!」

 トウマはアリスの方をチラッと見てすぐにガウェンの方へと視線を移す。
 だがガウェンは焦る事もせず、何故かトウマの言葉も聞かずにその場に留まっていた。

「何突っ立てるんだよガウェン! 結界内を通れるならルークをこっち側に運んでくれよ!」
「……」
「黙ってこっち見てないで動いてくれよ! 頼む!」

 必死なトウマにガウェンは何故か小さくため息をついた。

「トウマ、あいつの事は心配しなくていい。というより、心配する必要もない」
「は? 何言ってるんだよお前」
「それはな――」

 そこでガウェンの声が急に変わり始めると、雲が晴れて行くように姿も変わった。
 そこに姿を現した人物に、アリスも含め皆が目を疑った。

「――俺が本物のルークだからだよ」
「ル、ルーク!? え? え、え!? 二人? ルークが二人?」
「どういう事だ?」
「バベッチ、あんななら分かるだろ? こんな事が出来る人物をよ」

 直後アリスは倒れうずくまっているルークの方へと顔を向けると、ゆっくりと動けないはずのもう一人のルークが立ち上がっていた。

「まさか……」
「話が違いますよ。こんな事態にしない為に貴方に協力していたのにどういう事ですか?」

 ルークの言葉に刺された箇所を抑えて立ち上がったルークが答えながら近付いて行く。

「これは私のミスよ。アリスには本当に申し訳ない事をした。でも、彼にはここで必ず引導を渡すわ」

 すると近付いて来るルークの姿が変わり始め、刺されていた箇所からの出血も止まり抑えていた手も放す。
 そして藍色の瞳で魔女といわれるような紺色の服装を身に纏ったリリエルが姿を現す。

「リリエル……先生……」
「アリス、いえバベッチ。今は魂という概念なのかしら? あの日、アリスに対して貴方の魂の一部をアリスに埋め込んでそれが成功したのよね。だけど、完全に乗っ取れてないアリスは未だ内側で眠っているのかしら?」
「っ……」

 リリエルの登場でアリスの表情が険しくなる。
 黙ったままでいるとリリエルがルークの真横で足を止め、結界の外の方に顔を向けた。

「モーガン居るわよね? 今のアリスを貴方の目で見て、状態を教えなさい」
「あまり大声で呼ばないで下さいよ師匠」
「見える所にいない貴方が悪いわ」

 モーガンは人をかき分けトウマたちの近くに現れると、右手で人差し指と親指で丸を作り、右目を当ててアリスを見つめた。

「……中心に以前まで見られていたクリスのピンク色の魔力は見られません。話した通り、青く黒ずんだ魔力が今は全体を覆っています」
「モーガン……」
「ありがとうモーガン。さてと、これで私の中では貴方がバベッチだと確信しているのだけど、まだ認めないかい?」

 アリスは暫く黙った後、深くため息をついた。

「いつから……何処から見ていたんですか、リリエル先生」
「最初からよ。貴方がこの学院に侵入しようと他生徒に姿を変え始めた時から、ずっと」
「はははは! 気付かなかったな、流石は魔女ですね。でも、何で今頃出て来るんですか? もう俺の計画は果たされましたよ、止めるならもっと前に出て来るべきでしたよリリエル先生! 今更遅いですよ。何も変えられませんよ、貴方でも」

 直後リリエルが指を鳴らすと、結界が濁り外から内部が全く見えない状態に変わり声すら聞こえなくなる。

「他の生徒に聞かせないようにしたんですか? まあもう言いたい事は言い切ったので、いいですけど」
「一応訊くけど、貴方はアリスの身体を乗っ取れば目的は達成したはずじゃないの? どうしてルークを狙ったの?」

 リリエルの問いかけにアリスは小さく笑ってから答え始める。

「足りないと思ったんですよ。アリスの身体を手に入れるだけじゃ、リーリアを手に入れらない。俺だけを見てくれないと。じゃどうすれば見てくれる、愛してくれるかと考えた時に出たのが答えですよ」
「……周囲から切り離し孤独にさせる。それで振り向いてもらおうってか」
「そう! そうだよルーク! 信じられるのは家族だけ、愛せるのも家族のみ。そうなればもう俺のものだろ? あー楽しみだ~リーリアが俺を抱きしめてくれるんだ」
「もういい! アリスの声でそんな事しゃべるな!」

 怒るルークにアリスは薄ら笑いを浮かべる中、リリエルは呑気にも腕の筋肉を伸ばすストレッチをしていた。

「何呑気な事してるんですか、リリエルさん! 早くアリスを助けてくださいよ!」
「そう焦らない」
「何をしようと無駄さ。今の俺はただの憑依じゃない、アリスの魂に俺がいるんだよ。もうこうなれば、誰にもどうにもできないさ」

 そしてリリエルのストレッチが終わるとアリスの方から何故かルークの方へと身体の向きを変える。

「何してるんですか? こっちじゃなくて、あっちでしょ」
「いえ、こっちで合ってるわ。だって私だけじゃ解決出来ないから」
「はあ?」
「だから最初に話した通り、貴方に協力してもらうから」

 と口にしたリリエルは、ルークの肩に手を置いた直後瞬きする間にルークとアリスの目の前から消える。

「なっ!? 何処にい――っ! ……上手くいったみたいね。おい、何だよこれ! てかどっから声が聞こえてるんだよこれ」

 ルークが突然自分と会話をし出し、アリスは首を傾げる。

「何処って貴方自身からに決まってるでよ。はあ? 意味が分からないが。だから協力してもらうって言ったでしょ。アリスからバベッチを切り離す為には、貴方の身体に私が入って協力しないと無理なのよ。要はいま私と貴方は一心同体ってわけ」

 リリエルからの言葉にルークは大きな驚きの声を上げるのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

男女比8対1の異世界に転移しました、防御力はレベル1です

オレンジ方解石
恋愛
 結婚式の最中に、夫に他の女と逃げられた花嫁、水瀬透子。  離婚届けを出す直前に事故で瀕死となった彼女は、異世界の女神から『妾と取り引きするなら、助けてやろう』と持ちかけられる。  異世界の《世界樹》の《種》を宿す《仮枝》となった透子は、女神の世界に連れて行かれ、二年を過ごすこととなった。  そこは男女比が8対1という偏った世界であり、女性が《四気神》と呼ばれる守護者に守られる世界。  女神とはぐれた透子は、そこで美形の青年、紅霞に助けられるが……。 ※追記の追記を少し直しました。

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

処理中です...